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VTuber 2023.05.12

今のVTuberについて最低限知るために必要な12のキーワード【2023年版】

2023年もVTuber文化は世間の注目を集め続けており、大手メディアで取り上げられることが一般化しつつある。その一方で、あまりに裾野(すその)が広がった結果として「各事務所の細かな動向は把握できても、全体のトレンドを把握できない」といった声も少なくない。

文化全体が巨大化したために、総覧的に捉えることは非常に難しいが、今記事では、MoguLive編集部が過去に取材や記事化した情報を元に、2023年時点での気になる動向を12のキーワードにまとめる。個々のキーワードは掘り下げるほどに別途特集にできるほどのボリュームであるため、「最低限」に留めたことをご容赦いただきたい。

目次

・にじさんじとホロライブ
・事務所の新設と再編
・メタバース
・国際化
・個人VTuber
・音楽
・企業プロモーション
・切り抜き動画
・ショート動画
・mocopi
・プロゲーマーとストリーマー
・AI

にじさんじとホロライブ

2022年4月、「にじさんじ」グループを運営するANYCOLOR株式会社が上場を発表。その翌年3月には、「ホロライブ」を運営するカバー株式会社が、にじさんじに継ぐ形で上場を果たした(ともに東証グロース市場)。VTuber事務所の運営を中心事業に据えた企業2社が上場を果たしたことは、ビジネス関係者のみならず、多くのVTuberファン、ネットユーザーにインパクトを与える出来事だった。

現在「にじさんじ」と「ホロライブ」はVTuberの二大巨頭的な立ち位置で語られることが多い。両社の大きな違いは、VTuberのプロデュース方針だ。VTuber主導企画と企業主導企画のどちらに力を入れているかに、2社の個性が出ている。

所属人数200名以上のにじさんじでは、個々のVTuberのセルフプロデュースが発揮されている場面が多く、基本的にはそれぞれの自発的な個性の発揮が人気につながっていると言えそうだ。

また公式主導の「ろふまお」や「Nornis」などのユニットが結成されていることもあり、事務所内のVTuberの組み合わせで生まれる化学反応に関心を持つユーザーも多い印象である。「にじさんじのB級バラエティ」「ゲームる?ゲームる!」など、公式主導のバラエティ番組企画も好評で、個々のVTuberをマルチタレントのように捉えるファンも少なくない。

一方、所属タレント54名のホロライブは、メタバース用途で開発中のサンドボックスゲーム「ホロアース」にVTuberが登場する機会を設けたり、ホラー企画「ホロライブERROR」に“役者”としてVTuberを出演させたりと、大型コンテンツと連動してのプロデュースに注力している向きがある。また「ホロライブサマー」で水着、「ホロライブERROR」で学生服などが共通衣装として披露されたように、主要メンバーに共通のアイテムがあり、グループ全体の統一感が強調されている。

ホロライブをアイドルグループと捉えて、個々のVTuberの配信を応援しながら視聴するファンも多い。また国内外のクリエイターによる二次創作も盛んで、「Holocure」「Idol Showdown」などの同人ゲームが大きな話題を呼んだ。こうしたクリエイターによる盛り上げの波及効果も大きい。

また、にじさんじ側は男女混合を基本としているが、ホロライブでは男性グループを別途「ホロスターズ」として独立運営させている。

ちなみに、ANYCOLOR株式会社とカバー株式会社は、誹謗中傷対策強化で共同声明を発表し、司法・警察との連携体制を2社で構築している。タレントへの誹謗中傷やストーカー行為はVTuber文化全体の問題とされる。2社の動きを押さえておくことは、VTuber文化全体の問題を捉える上でも重要だと言える。

事務所の新設と再編

にじさんじやホロライブの拡大に呼応する流れか、今年春からVTuber事務所の新設や再編が相次いでいる。なかでも動向が注目されたのは「あにまーれ」や「ハニーストラップ」などを運営していた774inc.だろう。3月19日にグループ・ソロタレントの統合を発表し、全所属VTuberを「ななしいんく」所属という形式に変更。大型のライブ告知や新人デビューなどを矢継ぎ早に告知した。昨年11月、MoguLiveで運営関係者にインタビューした際に「『774inc.』をひとつのブランドとして知ってもらえるようにしていきたい」とのコメントが事業担当者からもあり、上記の統合はそのための施策であると予想できる。

また、グリー傘下の「REALITY」は、VTuber事業を展開する企業として「REALITY Studios株式会社」を設立。新グループとして「FIRST STAGE PRODUCTION」「すぺしゃりて」を発表した。MoguLiveが代表の杉山氏にインタビューした際は、特に海外分野でのVTuber事業に意欲を示しており、長期的な信頼を獲得していくことでシェア拡大を目指していくと語っている。スマホアプリ「REALITY」が特に海外ユーザーに好評を得ており、VTuber的な活用やメタバース交流などが積極的に行われているという。

VTuberグループ「ぶいすぽっ!」や「RIOT MUSIC」を運営する株式会社Brave groupも、規模拡大と再編を急いでいる印象だ。今年1月にVTuberグループ「あおぎり高校」が、株式会社viviONへと移籍。4月には新事務所「HareVare(ハレバレ)」を発表し、グループ全対象のオーディションを開催している。またBrave groupもREALITYと同じく、企業向けのメタバース開発に注力している企業である点も注目しておきたい。

他にも電脳少女シロの所属するVTuber事務所「.LIVE(どっとライブ)」がMBS傘下となったことや、バンダイナムコエンターテイメントが「アイドルマスター」の新プロジェクトとして「PROJECT IM@S vα-liv」を始動し、VTuber的なアプローチを展開するといった動きも起きている。2023年春季のこうした動向は、日本のVTuber文化に大きな変化を生み出しそうだ。

メタバース

2021年頃から注目を集めている「メタバース」。現在、主に「投機」テーマとしての熱量は下がりつつあるが他ユーザーとバーチャル空間でリアルタイムにコミュニケーションをとれる「プラットフォーム」への需要は年々高まっていると言える。それは、VTuberと決して関係のないことではない。事実、VRChatやclusterなどのメタバースプラットフォームに活動領域を拡大して活動するVTuberの数は増加している。「メタバース」文化圏と「VTuber」文化圏は近接領域にあると言えるだろう。

代表例としては、個人VTuberのぽんぽこ&ピーナッツくんのVRChatを活用したコンテンツ制作だろう。昨年放映された24時間番組「ぽんぽこ24」では、他ユーザーと集まって同時視聴できる専用ワールドをVRChat上にオープンしている。

また普段から、VR内のホラーワールドの体験レポ動画を投稿し続けており、以前からVRに対する関心が高かったと言える。MoguLive編集部がぽんぽこ氏に行ったインタビューでは「VRChatマジで楽しいです! VTuberが生きてますよね。ワールドを背景にして自分を撮影すると、本当にこの場所に来ているっていう感じが出てきて。」と、その魅力を語っている。

そして約1年もの制作期間を経て、ふたりが公開したのがVRChat遊園地「ぽこピーランド」だった。ふたりの動画ネタがふんだんに盛り込まれた遊園地ワールドは瞬く間に人気を集め、VRユーザーはもちろん、VTuberも多く訪れ、レポート動画を投稿するといったムーブメントになっている。

こうした動きはぽんぽこ&ピーナッツくんだけではない。おめがシスターズウィンターズトライアンブリゾンヨンジュなどVRChatでのレポ動画などを投稿しているグループが相次いで登場し続けている。クリエイター方面ではYSSやAMOKA、キヌなどがVRChatを中心に活動を展開中。VTuberファンとVRユーザー双方から注目される結果となり、今年3月に行われた「SANRIO Virtual Festival 2023」にも出演している。

VTuberのメタバース活用のメリットについてまとめると、以下のような項目が考えられる。

・現実世界の条件に縛られることなく、自由な動画撮影が実現可能であること
・他VTuberとの突発的なコラボが容易であること
・個性的なワールドを体験レポすることにより“撮れ高”があること
・3Dモデルによって身体の動きをユーザーに見せやすいこと
・視聴者と近距離でコミュニケーションできること

一方で、決して安価ではない機材の導入コストや、VR酔いなどの心配で導入をためらう声も少なくない。

ただし、こうした課題は今後VR機器の進化、普及によって解消しうるものと考えられる。現状でもVRChatやclusterはVRヘッドセットを使わず、PCからも利用できることを注記しておく。

国際化


(画像はYouTubeより引用)

VTuber文化の広がりは国内に限ったことではない。むしろ海外での急速な需要拡大の方が、文化全体を見るうえでは重要な出来事と言える。国際的な配信プラットフォームTwitchの運営はMoguLiveのメールインタビューにて、VTuberの数は(具体的な数は公開されていないが)増加していると明かし「VTuberは言語を問わず、世界中で広く親しまれていると感じています」とコメントしている。

もともと2017年にキズナアイが登場した時点から、海外視聴者が動画を翻訳して他ユーザーに普及する動きは見られていた。さらに、英語話者のVTuberが登場するにつれて、VTuber文化が海外に本格的に受け入れられていった印象だ。その代表例としてはホロライブ所属の桐生ココ(2021年6月卒業)の活躍が挙げられるだろう。

大手事務所の動きとしては、ホロライブは2020年に英語圏特化のVTuberグループ「ホロライブEN」を新設。それに続くかたちで、にじさんじ側も2021年に「にじさんじEN」を発表。ともに多くの海外ファンの獲得に成功している。また、海外発のVTuber事務所も頭角を現している。Twitchの創設メンバーJustin “theGunrun” Ignacio氏によって、2020年11月に設立されたVTuber事務所「VShojo」は、2022年7月にkson飴宮なずなが加入し、日本でも話題となった。

ひと口に英語圏と括っても、地域としてはアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなど非常に広大な地域を指すことになり、英語を習得しているユーザーであれば配信を楽しめる点で、まだまだ潜在的なシェアを掘り起こす余地はあると言える。なかには、英語学習を進めて、海外VTuberとの積極的な交流を目指そうとする国内VTuberの事例も見られている。

また英語圏以外にも、ポルトガル語圏や中国語圏、韓国語圏など、それぞれの言語圏で人気のあるVTuberがおり、例えば、中国語圏で人気の動画プラットフォーム「bilibili」内で独自の文化を形づくっているケースもある。

こうしたVTuber文化の海外浸透は、多種多様なコンテンツを生み出すという点でポジティブな面がある一方、歴史に対する認識や文化的価値観のズレから、VTuberが視聴者と衝突することも少なくない。

2023年初頭には、主に英語圏で、オープンワールドゲーム「ホグワーツレガシー」を「VTuberがゲーム実況して良いか」が大きな議論を呼んだ。その背景には、トランスジェンダーを巡る原作者の言動に対する反感などがある。

海外VTuberの動向は、国内以上に押さえるのが難しいところだが、後述するYouTubeの翻訳切り抜き動画、Twitterの配信実況ハッシュタグなどで比較的手軽に雰囲気を追うことができる。一部ではディスコ―ドサーバーで、他言語に翻訳したアーカイブを共有しあうコミュニティなども複数立ち上がっており、国境を越えて親しまれていることは確かであると言える。

個人VTuber


(画像はTwitterより引用)

VTuberは大まかに企業所属VTuberと個人活動のVTuberに分けられるが、近年は個人VTuberにスポットライトの当たる機会がとても多い印象だ。先述のぽんぽこ&ピーナッツくんの例で言えば、特別展示イベント「ぽこピー展」を全国の地方都市で展開するなど、もはや個人レベルとは思えない規模での企画を展開している。

また、2023年に入ってから大きな話題となったVTuberと言えば、宇推くりあを外すことはできない。「H3ロケット試験機1号機」の打ち上げ時のリアルタイム解説配信がネットで話題となり、ロケットに対しての専門的な知識と情熱が好評となった。

宇推くりあのように何かしらの専門性に特化したVTuberは少なくない。例えば、犯罪学に関する解説を行うVTuberかなえ先生や、バーチャルデータサイエンティストのアイシア=ソリッドなどがいる。特定のジャンルに興味のある視聴者から強く支持されている点が特徴だ。

また地元愛、地域愛に根ざした企画を生み出し、ファンを獲得している個人VTuberも見られる。2021年から「埼玉バーチャル観光大使」に任命されているVTuberの春日部つくしも、その代表例だ。去年7月には、越谷レイクタウンの大相模調節池を再現したVRChatワールドの特別イベントに出演するなどのコラボ事例もあった。

さらに、ASMRやボイス販売などの領域で有名になった個人VTuberも増えつつある。MoguLive主催「2023年期待したいVTuberベスト10発表!」で1位を獲得した沙汰ナキアはインタビューで、デビュー以前からファンを獲得するためのロードマップを計画するなどの戦略面について語っていた。

黎明期から個人VTuberとして活躍している代表例として、名取さなについても触れておかなくてはならない。詳細は省くが、名取さなが今年3月に実施した誕生日イベント「さなのばくたん。」は、この5年の総決算的なもので、彼女のこれまでの歩みを知っているファンほど、その内容の重みを実感させられた。これは、個人VTuberが約5年間のうちに達成した非常に大きな実績のひとつと言えるだろう。

音楽


(画像はYouTubeより引用)

VTuberと音楽は切り離して考えることが難しいほどに密接になっている。年間のバーチャル音楽ライブの数は、小規模なものも含めれば数知れず。毎日YouTubeでは何かしらの「歌ってみた」や楽曲が配信されていると言っても過言ではない。

今年に入ってからの話に限定すれば、ホロライブ所属VTuber星街すいせいの「THE FIRST TAKE」出演が話題となった。有名ミュージシャンたちによる一発収録が特徴となっているチャンネルに、VTuberとして初の出演。その歌唱はVTuberファン以外にも大きなインパクトを残す結果となった。

VTuberジャンル以外の視聴者へと大きく届く事例として分かりやすいのが「アニメテーマ曲採用」だろう。なかでも、バーチャルシンガー花譜の「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」(うる星やつらEDテーマ)は、曲自体がショート動画のBGMとして広く利用されたことが印象的だった。

他にも、にじさんじ所属VTuber樋口楓の楽曲「Bravery? Naturally?」は、TVアニメ「英雄教室」のオープニングテーマに。Neo-Porte所属のVTuber緋月ゆいは、アニメ「異世界のんびり農家」のエンディング曲「Feel the winds」を担当。また、キズナアイ(現在活動スリープ中)が作品テーマとなっているアニメ「絆のアリル」では、キズナアイ自身がテーマ曲を歌唱している。このように「アニメ×VTuber楽曲」という事例は増え続けており、もはや自然なものとなっている。

2021年時点で、樋口楓はMoguLiveインタビューで「VTuberがアニメのオープニングを歌って本当にいいのかな?」「VTuberファンは喜んでくださると思うんですけど、どうしても内輪ノリみたいになってしまうこともあるので」といった心情を吐露する場面があったが、2年が経過し、VTuber文化が急速に浸透したことで、前述のような空気が変わっていったと言えるかもしれない。

また、今年はコロナウイルスに対しての規制緩和が実施されることから、バーチャルだけでなくリアル会場での音楽ライブが夏以降に増加すると予想できる。

企業プロモーション


(画像はTwitterより引用)

VTuberが世に知られるにつれ、企業とコラボしたプロモーションについても、さまざまな事例が生まれつつある。

今年前半は、にじさんじ所属VTuber周央サンゴ志摩スペイン村の特別コラボが特に話題となった。もともと、生配信の中で周央サンゴが志摩スペイン村に対する熱意あるプレゼンテーションを行ったことが全てのきっかけだった。スペイン村公式が彼女を活動を認知し、そのまま広報大使に任命。近隣エリアを含めた大規模なコラボ企画を行ったことで、志摩スペイン村現地の入場者が驚異的に増加。一種の社会現象と化した。VTuber個人の想いが企業を動かし、結果的に売り上げを増加させるという観点でみると、理想的なPRになったと言える。

またTVでは、にじさんじ所属の壱百満天原サロメによるヨーグルト食品「ソフール」のナレーションCMが話題となった。YouTube広告などにVTuberが起用される事例も多くあり、生配信と企業案件を組み合わせた企画なども頻繁に実施されている。企業とVTuberが共同で商品を開発するという事例もあり、ホロライブ所属VTuberの雪花ラミィが、明利酒類株式会社と共同で、オリジナル日本酒「雪夜月」を発表するといったケースもあった。

地方自治体によるVTuberの広報利用も人気を集めている。特に有名なものは茨城県公認のVTuber茨ひより関連の取り組みだ。茨城県によれば、2019年には広告換算で約2億4,000万円相当の活動実績を残している。茨城県の特産物や観光名所を紹介したPR企画も好評で、県内外での認知度は高いと言える。

VTuberの企業コラボに関しては、そもそも、そのVTuberが商品に対して強い思い入れがあるかによって、効果の度合いが違ってくる。VTuberをインフルエンサーとして捉えた時に、どのようなプロモーションが適切なのかを、企業側は練る必要があると言えそうだ。

切り抜き動画


(画像はTwitterより引用)

VTuberの生配信、特にゲーム実況は長時間実施されるものが多く、その全てを追い続けることは中々難しい状況である。生配信の中の丁度おもしろかった部分だけをピックアップして、その部分をネタとして楽しみたいといった需要に応えているのが「切り抜き動画」だろう。

VTuberの切り抜き動画自体は、VTuber黎明期よりニコニコ動画に転載されるかたちなどで発生していたが、現在では、おもしろく編集する技術のある切り抜き制作者自体にスポットが当たっている。「切り抜き制作者のチャンネルを登録しておくことで、VTuberネタを追っている」というユーザーも少なくない。

また、VTuber事務所やVTuber本人が公認で切り抜き動画制作者を採用し、自身のチャンネルに切り抜いた動画を投稿するといったことも広く行われるようになっている。

ただし切り抜き動画の中には、VTuberの発言を悪意あるかたちで意図的に捻じ曲げて投稿するといった類のものや、明らかに著作権違反に抵触するネタを織り交ぜるといったものも少なくない。ホロライブでは「切り抜き動画」についての二次創作ガイドラインが明記されており、メンバーシップ限定動画や有料コンテンツなどに対しての原則切り抜き禁止などが説明されている。

また、こうした切り抜き動画の勢いを利用してクリエイティブな仕掛けを生み出した制作者もいる。「(実在しない)切り抜きチャンネル」というYouTubeアカウントは、実在しないVTuberの実在しないアーカイブを切り抜き動画として投稿しており、その内容には完全に架空の物語が織り交ぜられている。切り抜き動画自体が、ひとつの創作領域として発展しようとしていると考えてみると、興味深い現象と言える。

ショート動画


(画像はYouTubeより引用)

TikTokやYouTubeショートの流行以降、VTuber側でも積極的にショート動画を投稿する層が増えている。特に「歌ってみた」の一部分を切り抜いたものや、コメディチックな寸劇などが割合多い印象だ。

そのショート動画の中でも特に高い人気を誇っているのは「あおぎり高校」の「VTubeあるある」動画シリーズだろう。VTuberの裏側(?)の様子を面白おかしく紹介する内容が注目され、あおぎり高校自体の認知度を急速に高めた。株式会社矢野経済研究所の実施した「VTuberに関する消費者アンケート調査(2022年12月)」でも、あおぎり高校が上位に入っていることが、その証拠と言えるだろう。

また、TikTokでもVTuberはっか制作の早口言葉ショート動画「#君と私わたがしたわし」が、関連動画を含めて2億再生を突破するといった出来事があった。

また、TikTokのBGMをきっかけとして大ブームとなったVTuberの楽曲が登場した。ひとつは、ぼっちぼろまるの「おとせサンダー」。Billboard JAPANが発表した2022年の「年間TikTok Songs Chart」でも一位にランクインされた。

もうひとつは、ピーナッツくんが剣持刀也のためにクリスマスに発表した「刀ピークリスマスのテーマソング2022」。ショート動画でピーナッツくんの振付を真似したダンス動画が多く生み出され、ふたりの関係を知らない層にまで波及したことは記憶に新しい。

ショート動画自体を気軽に生成できるサービスも登場した。VARKの3Dモデルショート動画作成ソフト「VARK SHORTS」だ。PCとVRM形式の3Dモデルさえあれば、テンプレートを選ぶだけで、誰でも簡単にショート動画を作れるのが特徴で、これが結果的にVTuberの間でヒットし、非常に多くの動画が投稿されることになった。

こうしたショート動画は、内容のインパクトや面白さがダイレクトに伝わりやすく、個々のVTuberの文脈を知らなくても楽しめるという点が特徴的だ。こうしたショート動画のブームは、今後も継続していくと予想できる。

mocopi

2023年1月にソニーから発売されたモーションキャプチャーデバイスmocopi。6基の小型センサー(直径3.2cm、1基8g、総重量48g)を自分の身体に装着し、スマートフォン専用アプリケーションと組み合わせることで、自分の身体の動きと、バーチャルアバターの身体の動きを同期させられるデバイスである。

これまで、モーションキャプチャーと言えば、「VICON」のように大型の撮影スタジオで専用機器を装着して行うものや、VRヘッドセットとセットで装着することが前提の「VIVEトラッカー」などがあったが、それらと比較して安価で気軽に使用しやすい点が大きな特徴となっている。

このmocopiの恩恵を受けたVTuberは少なくない。カバー株式会社は「ホロライブプロダクション」の配信システムをmocopiに対応させたことを発表。所属VTuberが自宅で気軽に3D配信を行える環境を整備した。また、にじさんじVTuberの一部でもmocopiを導入する事例が起きている。

特に恩恵を受けたのは3Dをすでに所持していた個人VTuberだった。mocopiは室内だけでなく、屋外でも装着したまま使用できるため、スマートフォンとmocopiだけで撮影が完結するという強みがある。

今年4月には、AR背景機能が追加され、屋外での使用がより簡単になった。これにより、いわゆる「外ロケ」に活用する個人VTuberが数多く生まれ、現実の景色の中をバーチャルの姿で歩き回る映像を気楽に制作できるようになった。

また、先述したVRChatやclusterなどのメタバースにもmocopiを利用できるため、バーチャル空間での撮影にも活用されはじめていることも付記しておきたい。これにより、上記のVTuberのメタバース活用にも大きな影響を与えることは想像に難くない。

なお、mocopi以外にも「HaritoraX」などの簡易なトラッキングツールも発売されている。それぞれの機器によって、得意とすることが異なるため、購入する場合はそれぞれの性能比較をおすすめする。

プロゲーマーとストリーマー


(画像はYouTubeより引用)

VTuber文化が浸透するにつれて徐々に見られるようになったのが、活躍中のプロゲーマーや有名ストリーマーとの積極的なコラボだろう。特に、eスポーツイベントでよく活用される「Apex Legends」や「VALORANT」などをきっかけにしたコラボが目立っている。

中でも、渋谷ハル主催のゲーム大会「VTuber最協決定戦」の人気は高い。このイベントでは、プロゲーマーが「コーチ」としてVTuberに技術をレクチャーするという、いわゆる「練習期間」が設けられており、VTuberとプロゲーマーのやり取りが好評となっている。

またプロゲーミングチーム「Crazy Raccoon」が、渋谷ハル、まふまふ、そらるらと共同でVTuber事務所「Neo-Porte」を運営しており、活動領域の近さがうかがえる。さらに、川崎のeスポーツチーム「SCARZ」所属のrpr(※現在、チームを離脱)がVTuber姿を発表するといった出来事も起きており、アバターと実写画面のどちらもを使い分けながら活動するストリーマーも見られている。

近年で大きなインパクトを与えたイベントと言えば、サバイバルゲーム「RUST」の専用サーバーに多くのストリーマー、芸能人、VTuberが集合した「スト鯖RUST」だろう。にじさんじ、ぶいすぽっ!、NeoPorterなどのVTuberが多数参加したイベントで、ハプニング的な展開が多く、人気を集めている。これまで出会う機会のなかった人物が偶然ゲーム内で遭遇するという「突発コラボ」的な展開も注目を集める要因となっている。

こうしたジャンル外での交流機会は特にTwitchのストリーマー側で増え続けている。

AI


(紡ネン公式サイトより引用)

にわかにAI技術が目まぐるしく発展している昨今、その影響はVTuberにも波及している。最近ではAIとアバターを組み合わせて、VTuber的な会話やパフォーマンスを行う「AIVTuber」or「AITuber(アイチューバ―)」という存在が続々と現れている。

AI×VTuberの先駆的な例としては、株式会社Pictoria運営の紡ネンが挙げられる。視聴者から投稿された言葉を学習し、視聴者の書き込んだコメント次第でストーリーが変化するという斬新な企画が2021年時点ですでに行われていた。また同社は、VTuberとAIを同時にデビューさせるという「MOKUROKU」や、AI姉妹のキャスト「魔法少女アイマイン」などを展開。AIを活用したVTuber事業を拡大している。

また、バンダイナムコ主導のAIキャラクタープロジェクト「プレイBYライブ」も本格的なAIブーム以前から登場したもののひとつだ。そのシステムを活用した「ゴー・ラウンド・ゲーム(ごらんげ)」では、視聴者の存在を意識しながら麻雀などのゲームを攻略するというスタイルになっており、視聴者の意見を取り入れて攻略方針を柔軟に変えるといったことが可能になっている。2022年11月には、ガンダムメタバースのAIキャラクター「メロウ」が始動。ガンダムにまつわるクイズ動画などに出演している。

「ChatGPT」などのAIとアバターを組み合わせて、視聴者との会話を可能にするサービスなども徐々に増えつつある。今年の4月には、AIでバーチャルキャラクターとトークができるアプリ「おしゃべりAI(OshaberiAI)」が公開。AIチャットボットの「ChatGPT」と3Dモデルのファイルフォーマット「VRM」、音声合成ソフトウェア「VOICEVOX」を活用しており、本当にキャラクターとおしゃべりしているかのような体験が可能となっている。

VTuber自身がAIと会話をするという企画も最近のトピックのひとつだ。春日部つくしは、AI春日部つむぎと対話する生放送を実施。ニコニコ超会議では、茨ひよりが、AI化した茨ひよりと共演するといったイベントが開催された。

こうした取り組みが注目を集める一方で、AIを利用する上での問題点も可視化されつつある。今年1月に公開されたAI VTuber「Neuro-sama(ネゥローサマ)」は、学習した言葉のなかから差別的発言が出力されるという出来事が起き、チャンネルがBAN処分になる事態が起きた。こうしたAIの不適切な発言をどのように回避するかは、今後の技術的課題と言えるかもしれない。また、VTuberのデザインをAIで生成した場合に、その著作権のあり方などについても、今後議論に上る可能性がある。

他に「VTuber×AI」の今後の可能性として考えられるのは以下がある。

・VTuber本人が不在の際にAIがコミュニケーションを代替する
・引退後のVTuberの思想や行動様式を記録し、AIとして活動し続ける
・VTuberの企画アイデアやストーリーラインをすべてAIが考え、VTuberはそのアイデア通りに実行する
・VTuberのバーチャルライブの演出をAIがリアルタイムに構築する
・新3Dモデルや2Dデザインの候補をAIが提案する

こうした可能性に関しても、さまざまな議論ができそうだ。あるいは、誰も予想しなかった全く新しいVTuberの活用方法をAI自身が生み出してしまうかもしれないし、それはすでに見えないところで起こっているのかもしれない。


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