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にじさんじ 2023.05.09

にじさんじ統括プロデューサーインタビュー 5周年を迎え、次の展望は?

ANYCOLOR株式会社の運営するVTuberグループ「にじさんじ」の躍進が続いてる。2022年に開催された「にじさんじフェス2022」や「にじさんじユニット歌謡祭2022」など、大型イベントが好調な上、国内外で活躍する所属タレントがめざましい活躍をしていることから、VTuberのコアファンだけでなく一般ユーザー層にも「にじさんじ」というブランドは広く知られる存在となっている。

今年2月にはついに5周年を迎え、次回の「にじフェス2023」の開催や英語圏ライバーの3D化発表、5周年を記念した全国ポスター設置など、様々な施策が打ち出された。はたして、にじさんじは2023年にどのような動きを見せてくれるのか。

今回は、VTuber事業統括プロデューサーの鈴木氏に、2022年下半期から現在に至るまでのにじさんじの動向やイベントの振り返り、そして5周年を迎えたことでの変化、今年の方針などについてお話をうかがった。

※本記事は、2023年2月に取材されたものです。

一緒に楽しめる「場」を提供したかった

――2022年10月に開催された「にじさんじフェス2022」を振り返っての感想を、まずはいただきたく思います。

鈴木:
本当に盛り上がってよかったと素直に思います。

というのも、大きなイベントの開催直前は厳しいご意見を頂戴することが多いのですが、今回のフェスは特にそれが顕著だったんですね。チケット当落の段階で、かなり強めの言葉も現場の社員にも届いてしまっていたので、その空気に飲まれないようにするのが大変でした。我々としては「絶対に楽しんでもらえる」と確信を持って取り組んでいましたが、それでも当日、実際に盛り上がっている会場の様子を見たときにようやく心から安堵しました。

もちろん、フードが3時間待ちになってしまったことなど、反省点も少なくありません。ですが全体を通して振り返ってみると、少なくとも現地を訪れてくださった方々からは概ね評価していただけたと思っています。

――「現場」の話がありましたが、フェスの裏側を映したドキュメンタリームービーが2023年1月に公開され、ファンのあいだで話題を呼んでいました。あの映像はどのような意図で制作されたのでしょうか。

鈴木:
理由のひとつとしては、まさに「“裏側”を見てもらいたかった」というのがあります。大勢のカメラクルーを動員して、施工含めて5日間、ずっと張り付いて撮影してもらいました。

これは世の中的な風潮としてもそう感じているのですが、「(いわゆる)『事務所』や『運営』として働いている人たちが、人間として見られていないな」と思うことがありまして……。

「現場には生きた人間がいる」ということ、そして、そこで働くことに楽しさや喜び、希望があることを、世の中に示さないといけない。そうしなければ、5年先の未来を見据えたときに、新しくこの業界に入ってくる人がいなくなってしまうのではないか――。そのような思いがあり、ドキュメンタリームービーを作りました。「サンドバックになるのは、やっぱりしんどいよな」っていう(苦笑)。この業界で働きたいと思ってくれる人がいなくなってしまえば、VTuberという文化を支えることはできなくなってしまいます。その意味では、今こそやるべきタイミングだと思い、このムービーを公開することにしました。

――実際、裏方の仕事は外からはなかなか想像できませんし、コメント欄、SNSでは「こういう仕事をしてみたい」という声も見受けられたので、有意義な施策だったと思います。

鈴木:
普段の我々は、ライバーとお客さんのコミュニケーションを邪魔しないように、会社からの情報発信をできる限りSNS等ではしないようにしています。そのため、Twitterで頂戴する個々のご意見に対して「それの裏側はこうなっているんです」と直接は言えません。一方で我々はエンタメ企業ですので、もし何かを発信するのであれば、その方法もやはり「エンターテイメント」にする必要があるなと思い、そこで「ドキュメンタリー」という形になった、という側面もあります。

――にじさんじフェスには私も取材で2日間行かせていただきましたが、お客さんの年齢層がとても若く、特に女性層が多かったことも印象的でした。ドキュメンタリーの映像の中でも「文化祭を体験できなかった10代」への意識が語られていましたが、それらの客層が実際に足を運んだのではないかと。

鈴木:
券売データを分析すると、どこかに偏っているというわけでもなかったりするんです。年齢の側面では、若いファンの方々が多くいらっしゃることはYouTubeのアナリティクスを見てわかっていたことではありますが、ファンのみなさんの姿を実際に会場で目の当たりにできたのは嬉しかったですね。

「文化祭」をコンセプトに開催したのも、若いファンのみなさんに応援していただいているエンタメ企業として、それが我々の、ある種の使命なのではないかと考えているからです。コロナ禍という辛かった経験や喪失感を埋めるための、友達と一緒に楽しめる「場」を提供すること。それが、若い世代に対して我々ができることなんじゃないか、という思いがあって「文化祭」の形にしました。もちろん、学生に限らず、多くの方に楽しんでいただけるといいなという想いを込めていますが。社会人でも多くの方は、若い頃に文化祭というものを通ってきていると思います。仕事で大変な方々も、フェスの期間だけは童心に帰って楽しんでいただきたい、という意味で全年齢どこにでも受け入れてもらえるコンセプトが「文化祭」だったなと。

とにかく、若いファンが多いのは重々承知していたので、「彼ら彼女らが体験できなかったことを体験できる場を用意する」ということは意識していました。クラスTシャツとかもそうですね。入場券もなるべく安くして、雑な表現ですけど「卒業旅行で行くディズニーランド」のような感覚で来てほしかったんです。

ちなみに、入場券は1日あたり約2万枚販売しました。チケットにもいくつか種類があったので、前夜祭も合わせた延べ人数で言うと……現地での総動員数は約5万人ほどになるでしょうか。ただ、チケットを1人2枚まで買えるようにした結果、企画部分の申し込みなどの整理が複雑になってしまったという問題がありました。なので、次回はもっと整理された状態で券売ができるよう調整しています。

――会場の雰囲気も出し物も、全体的に本物の「文化祭」のような雰囲気でしたね。現場での体感として、現地にいる人たちの満足度も本当に高かったと感じています。

鈴木:
仰るとおりで、そこは我々も感じ取っていた部分です。こういう大規模イベントで満足度の高いものを作ろうとすると、ライバーとお客さんが「一対一」や「一対少数」でふれあう企画も必要になります。少人数を相手にすれば、それだけ満足度は上がる傾向にありますので。

実際に一対一でトークできる「視聴覚室」などの企画も準備したのですが、ただ、当然ながら参加できる人数は限られます。すると、その企画に参加できなかった人の満足度は下がってしまう……格差ができてしまうわけですよね。前述したイベント前のネガティブなご意見も多くはここに集約されていたかなと感じています。格差やそれに付随する不満を生まないためには「全員の満足度を下げる」という案もあります。でも「満足度の低いところに合わせる」のはエンタメでやることではないなと思いまして。

なので、どうしても格差は生まれてしまうのですが、「みんなが平等に不満足になるよりは、少人数が対象にはなるものの、満足度の高い企画もちゃんとやる」と考えて実施しました。もちろん、それをなるべく「一対多数」にできるように、その他の企画ではYouTubeでの配信なども可能なかぎりはやっています。

それと、一対一の企画は「ライバーのためにやっている」という側面もあります。自分のファンと一対一で直接話せる企画って、ライバーからするとモチベーションを上げるとても良いきっかけになるんですよね。それは過去のイベントの経験からわかっていたので、少人数制にはなりますが、どうしてもやりたかったことのひとつではありました。

――にじさんじフェスに関して、ステージや技術面のお話もうかがえればと思います。

鈴木:
技術面では、ネット配信で導入した「ライバーカメラ」が挙げられるでしょうか。

そもそも、大人数が出演するイベントが多いのはにじさんじの強みでもありますが、「一人ひとりのライバーに注目できる機会が減ってしまう」という問題もありました。なので、自分が特に好きなライバーに注目したいファンの方がより満足できるような、プラスアルファのコンテンツを用意することは、いつかやりたいと思っていたんです。

イベント自体はできるだけ安価で広く楽しんでいただけるようにしつつ、より深く味わいたい方には、それぞれコストを払っていただく。そうやって「選択」の幅を設けるような試みは、今後より増えていくのかなと思います。「全体を楽しみたい」かつ「特定の1人も深く応援したい」というお客さんからの需要は、とても増えている実感がありますね。「みんな好きだけど、その中でも、このライバーが特に好き」といったイメージです。

――にじさんじでは、YouTubeチャンネルの公式番組にも力を入れていますよね。そのような場で複数人のライバーが集まる機会が普段から設けられ、各自の経験が積まれていたことが、今回のような大きなイベントでも生きていると感じました。

鈴木:
仰るとおりで「1日だけ特別なことをやろう」としても無理だと思います。今までやってきたことの積み重ねが前提としてあって、イベントはその集大成にしかならない。昨年のにじさんじフェスは、それが明確に出たイベントだったように思います。

「にじさんじユニット歌謡祭2022」の超えるべきハードル

――年末には「にじさんじユニット歌謡祭2022」が3日間にわたって開催されました。ファンからは、これまでになかったようなライバーのコラボもあり、盛り上がっていましたが、運営側としての感触はいかがでしたか?

鈴木:
今回、大きなイベントとして開催を決めたのにはいくつかの理由があるのですが、そのひとつに「“LIGHT UP TONES”が好評だった」ことがあります。以前のインタビューでもお話したのですが、ARライブが好評で「またやってほしい」という声を本当に多く頂戴したんです。

「“LIGHT UP TONES”」は特に評判がよく「またやってほしい」という声をいただいているのですが、もう一回同じライブをしても仕方ないので、プラスアルファで付加価値を付けた上でお届けできればいいかなと思っています。
https://www.moguravr.com/nijisanji-interview-4/

鈴木:
ただ、同じように「“LIGHT UP TONES” 2」を立ち上げたとしても、あまり目新しさはありません。そこで「では、何がいいのか」と考えたときに、思い浮かんだのが歌謡祭でした。

すっかり年末の恒例企画となっていた歌謡祭ですが、続けていくなかで、「表現」としての幅を広げるのが難しくなりつつありました。加えて「配信企画」として開催するのにも運営上の限界が来ていました。参加者が年々増え続けていることに加え、工数の多さや社員の労働時間を考慮すると、本当にキツキツで、前年と同じものをやることすら無理になっていたんです。

であれば、企画として興行化してしまったほうが良いと考えました。そうすれば制作の一部を外注した上で作業を分担できますし、表現の幅も広げられます。もちろん、全編有料ではなく無料パートを準備するのは大前提でしたが、カバー曲が多いこともあり、調整は難航しました。「できるかぎり無料で配信しつつ、アーカイブも残せるようにする」という形で最大限に調整した結果が、そのうえで、これまでの文脈をリスペクトしつつ、同時に、お金をいただくからこそできる新しい表現に挑戦したのが、今回の歌謡祭です。

実際に取り入れた「表現」としてはARもそうですが、バラエティパート――「一芸パート」も見どころのひとつでしょうか。普段の配信でも実現は不可能ではありませんが、「せっかくの機会であれば、大きなイベントや企画の場で披露したい」という発想です。

特に3日目の最後、みんなで楽器を持ってメドレーをやる「にじさんじ吹奏楽部」というパートがあったのですが、楽器もしっかりと用意して――本人の持参もレンタルもいろいろありますが――ライバーたちが練習して、「ちゃんと演奏した」という内容になっています。これは「イベント」という体裁にして、多くの人に関わっていただいたからこそできたことであり、そういった「次」のチャレンジをしたかった、という気持ちがありました。

なので、「様々な工数を調整しつつ、お客様に満足してもらえる内容にするにはこれが最善の選択肢だった」というところですね。

――実際の手応えはいかがでしたか?

鈴木:
「苦労した分が返ってきた」という感覚です。正直に言えば、もう少し改善できる部分は数多くありました。とはいえ、さまざまな制約があった中で考えると、ベストを尽くせたように思います。

――実際、関連ワードがTwitterトレンドに数多く掲載され、満足度の高いイベントだったように思います。ただ、歌謡祭に限らず、恒例イベントの数々が良くも悪くもハードルが上がっていて、運営側の負担が非常に大きくなっている印象です。

鈴木:
仰るとおりです(笑)。その高くなったハードルをどうやって毎回乗り越えていくか。そこは本当に苦労していますが、その意味では、今回はなんとかハードルを超えることができたのかなと思います。現場でもいろいろなチャレンジと実験ができたので、トータルでは非常に満足のいくイベントとなりました。
また、今回は生放送ではなく事前収録形式だったので、「皆で一緒に喋りながら見られる」という意味では年末のテレビのような雰囲気もありましたね。

5周年を迎えたにじさんじが「超えていく」もの

――2023年は「にじさんじ」5周年ということで、47都道府県での駅広告掲出をはじめとした企画が行われました。5周年を迎えての心境と、今後の展望を教えて下さい。

鈴木:
まず「VTuberが5年続くと想定していた人がどれほどいたのか?」とは思います。「風が吹けば飛ぶようなコンテンツだ」と、この3、4年ずっと言われ続けてきたので、5周年を迎えられてよかったという安心感はやはりあります。

この5年のあいだに我々もいろいろなチャレンジをしてきましたが、改めて思うのが「足を止めてしまってはいけない」ということです。駅広告のなかに「超えていこう、エンタメの力で」というフレーズがありますが、これがまさに、5周年の今だからこそ掲げなければいけないスローガンだと感じているんです。

たとえば、わかりやすいところで言うと「2次元と3次元の境界を超える」。ライブなどでARを用いた表現を推し進めていることがまさにそうです。

超えるべきボーダーはそれだけにとどまりません。たとえば、47都道府県の駅での広告展開では「場所の境界を超えていく」ことを、そこからさらに発展して、「国境や言語を超えていく」ということを目指しています。現実とバーチャル、二次元と三次元、国境や言語――そのようなありとあらゆる境界を、我々が持つエンターテイメントの力で飛び越えていこう。このスローガンには、そういった意味が込められています。

ちなみに「超える」という言葉ですが、「ボーダー」を意味する場合は「越境」の「越」に本来はするべきかと思います。それをあえて「超」にしたのは、コロナをはじめとする昨今の社会的な困難と、それに伴って沈んでしまった気持ちを「克服していく」という意味があります。最初はひらがなにしようかとも思ったのですが、絵面が弱いので採用しませんでした(笑)。

――全国各地のにじさんじファンが駅のポスターを探し回って写真を撮っていましたね。各地のファンの投稿がTwitterで共有されることで、ある意味では「場所を超えたつながり」のようなものが再現されていたようにも感じます。

鈴木:
多くの方が物理的な距離を超えて交流するきっかけにもなっていたのなら嬉しく思います。全員が東京のイベントに行けるわけではありませんし、特に地方在住の場合、ハードルは高いですよね。そのような方々も含めて、できるだけ楽しんでもらえたらと考えて実施したので、喜んでいただけたなら幸いです。

――少し話がずれますが、今年の1月~3月にかけて開催されていた「ココス × にじさんじ」のコラボキャンペーンを見に行ったところ、中高生が大勢並ぶ光景がありました。その中には、Luxiemのグッズを買う姿も見られました。

鈴木:
私は直接店舗を伺えてないのですが、営業担当からも同様の話は聞いてまして、本当にありがたいなと思っています。会社としては売上を増やす必要も当然ありますが、それとは別に「たくさんのファンに楽しんでほしい」という強い気持ちがあります。

――にじさんじを親子で楽しんでいるという声も少なからず耳にしており、確実にファン層が広がっているのではないかと予想しています。

鈴木:
私が入社した2019年の夏から、ブランディングの指標として社内向けに掲げていたことのひとつに「お茶の間で嫌われないようにする」というものがあります。将来的に幅広いファン層を獲得していったときに、親や身内から怪訝な顔をされないような存在でありたかったんです。家族に反対されながら何かを応援するのは、本当に辛いことだと思いますから。

親子で一緒に応援してくれるようになれば、ビジネス目線でも大きなメリットがあります。それこそ「週末は家族でココスに行ってコラボメニューを頼もう」となるかもしれませんし、家族でイベントに参加する機会もあるかもしれません。

先ほどの「超えていく」というスローガンともつながりますが、そのような「世代に関係なく、大人と子供の壁を超えて話せるもの」は、今も我々が目指すところのひとつではあります。場所や年齢を問わず、誰もが親しめるエンタメになったのは、途中で思想を変えず、これまで一気通貫でやってきて得られた実績だと思います。

バラエティ系の公式番組に新展開

――バラエティ系の企画についてはいかがでしょうか? 多くの番組が長寿化しつつあり、最近では「ゲームる?ゲームる!」が公式番組としてリニューアルされました。バラエティ系の番組はますます充実しつつあるイメージがありますが、このあたりの施策についてお聞かせください。

鈴木:
全体としては、やはり増やしていくつもりではあります。もちろん、ずっと同じものを続けていると「飽き」がどうしても来てしまうので、マンネリ化を防ぐための施策は講じつつといったかたちです。

企業としては、ライバーが個人では実現できない/しづらいものを「番組」として作っていきたいので、今後も力を入れていきたいですね。ゲスト形式の番組を続けているのも、「にじさんじの公式チャンネルを見れば、新しいライバーを発見できる」という流れを作りたいから、という意図があります。

――先ほどの「お茶の間」の話ともつながりますが、それこそ「夕飯を食べながらテレビを見る」ような感覚で、にじさんじの公式番組を見ている人も多いような気がしています。

鈴木:
「テレビ番組のような感覚で毎週1回、習慣化して見ている」といったパターンの方も少なくないのかなと思っています。そういった意味では、「ゲームる?ゲームる!」や「にじさんじのB級バラエティ(仮)」もそうですが、「誰の目にもわかりやすい番組」の存在は重要だと考えています。普段のライブ配信はどうしても長尺になってしまって、分かる人でないと楽しみづらいと思うので。切り抜きともまた違う、わかりやすいコンテンツとしての「番組」は今後も続けていく必要があると思います。

――特にROF-MAOファンの感想を見ると、「ROF-MAOがきっかけでにじさんじ(VTuber)を知って、ほかのライバーも見るようになった」というコメントを多く目にします。

鈴木:
「Aim Higher」以降、1周年を過ぎたあたりから「ROF-MAOで初めてVTuberを見た」という人を顕著に見かけるようになりましたね。それもやはり、彼らがこれまで積み重ねてきたことの成果だと思います。

誰が見てもおもしろくて――初見の人でも楽しめるし、メンバーの昔からのファンもおもしろく思える――「年齢を問わず楽しめる」ことにこだわり続けてきました。ROF-MAOの躍進とファンの多さは、様々なデータを見ても実感しています。

――ちなみに番組系の企画に関して、今後の具体的な展開はありますか?

鈴木:
実にチャレンジングな話なのですが……これから1年間、毎月1本、新番組をやります(※4月に発表された『NIJIBAN』。毎週火曜日22時より公式チャンネルで放送開始)。

社内では通称「月イチ新番」と呼ばれているプロジェクトなのですが、たとえば「火曜日の夜10時の枠」を用意して、月ごとにその枠で放送される番組が変わっていく――そんなイメージです。「新番組を立ち上げて、4〜5週にわたって放送したら終了し、また次の新番組が始まる」というのを毎月放映する感じですね。

――すさまじい企画ですね。

鈴木:
先ほどお話した「マンネリ化を防ぐための施策」のひとつが、この企画です。ずっと同じ番組を見ていると、マンネリ感を感じてしまう部分は少なからずあるんですよ。そもそもシリーズものは、ナンバリングが大きくなるほど、入りづらいイメージもありますし。そういった意味では、「1ヶ月」という単位はちょうど良いと思います。

また、短いスパンで行う企画は社内的にもメリットがあります。番組制作のディレクターの育成につながるというのも、そのひとつです。実際にディレクターには企画コンペを行い、90ほど集まった案のなかから採用されたものを毎月実現していく予定です。

――「期間限定の番組」とのことですが、もしその1ヶ月間で好評を博するような番組が出てきた場合、レギュラー化などもあるのでしょうか?

鈴木:
もちろん選択肢としてはありえるかと思います。短い期間で回していくのは相当大変ではありますが、スタッフもライバーも経験を積める施策であり、会社にとっては間違いなくプラスになると思っています。

現時点でお見せできそうなものとしては――もしかしたら変更があるかもしれませんが――こちらの長尾とペトラのたいして変わらんという番組ですね(※2月取材時点での情報)。

「Nagao and Petora’s We are NIJISANJI」と書いてありますが、要するに「にじさんじとNIJISANJI ENというグループがそれぞれありますが、お互いの共通点や相違点を知り、大きな枠組みとして『にじさんじ』であることを実感してみよう」といったコンセプトの番組です。

――このコンセプトで長尾景さんがメインMCとして選出されていることに納得感があります。

https://www.moguravr.com/vtuber-nagao-kei/

鈴木:
長尾景さんは英語に関してはノンネイティブですが、昨年は英語を熱心に学習して、自分から海外のライバーたちと交流する姿勢が注目されていました。またペトラ・グリンさんの場合は逆に英語話者が日本語を学んでいるというケースですね。それぞれの言語を覚えようと努力している2人の目から、にじさんじとNIJISANJI ENはどのように見えるのか。2人を追いながら、「やっぱり『にじさんじ』はひとつ」と言ってもらえれば良いなと考えています。

今、始めようとしているプロジェクトにはこのような番組がほかにもあって、毎月新しいものが出てきます。――もちろん「ぶっ飛んでいる」企画もあるのですが、番組の幅はかなり広がるかなと思います。

YouTube上のコンテンツがすっかり飽和しきっている今、「我々も必死にならなければならない」という気持ちはあります。単発の特番や定番の番組だけを続けていくのではなくて、新しくブランドを作る――そんなマインドがますます大切になってくると思います。

2023年は足場を固めるフェーズ

――剣持刀也さんや星川サラさんなど、最近はソロでのライブ開催も増えています。ライバーさんの各々の努力の成果が出ていますが、会社としては今後も同様の展開とサポートを続けていくのでしょうか?

鈴木:
これからもサポートしていくことは変わりません。特に最近は、社内にスタッフが増えたことで、そういったイベントを個別にやりやすくなった、という側面もあります。今までは会社の規模やコストを考慮すると、「大きな会場で大人数を出演させる」のが限界だったのですが、最近は「ある程度の大きさの会場で1人をフィーチャーする」ようなイベントも開催できるようになりました。我々としてもひとつの進歩であると感じています。

ただ一方で、イベントにばかり注力するのではなく、今年は足場を固めるフェーズであるとも考えています。前回のインタビューでもお話した、「自重で潰れないようにしないといけない」という話ですね。

2022年現在、「にじさんじ」という存在は、間違いなく大きくなってきています。しかし、だからこそ、「自重で潰れる」ようなことは避けなければなりません。大きくなったからこそ、改めてもう一度、足元を見直さなきゃいけないフェーズになっています。社内体制やコンテンツひとつひとつについてなど、当たり前だと思っていたことから考える必要があり、大きな改革を進めています。
https://www.moguravr.com/nijisanji-producer-interview/

つまり「ベースになる部分をしっかり作っていかなければならない」という課題を明確に感じています。実際、組織体制に関しても、去年末に大きな変更を入れています。たとえば、海外事業部と国内の事業部を統合し、国内外の差を無くすといった取り組みですね。
こういった変更も、先ほどの「超えていく」という考えが反映されていると言えるかもしれません。もちろん、マネジメントに関しては、当然ながら言語ごとに分ける必要がありますので、今までは1つしかなかったマネジメントの部署を4つに増やすなどして対応しています。

そのような変更による成果は実際に出ていると感じていて、次にやるべきこととして考えているのが、技術面での土台の部分ですね。詳しくは話せませんが、今はそのような、新しい土台を作ることに専念する期間であると認識しています。

――海外事業に関しては、NIJISANJI ENのライブ「NIJISANJI EN AR LIVE “COLORS” PASTEL_STAGE & VIVID_STAGE」のサプライズ発表も話題になりました。残念ながらライブは中止になってしまいましたが、リベンジに期待しているファンも多いと思います。

鈴木:
そうなんですよね……。やるべきこととやらなければならないことを考慮したうえで、スケジュールが絶妙に噛み合わず、断念せざるを得ませんでした。

とはいえ、もちろんタダで転ぶつもりはありません。ENに限らず、海外周りに関してはまだまだ発表できないことも多いのですが、実際に各国のライバーたちと会って、話を聞いて、やりたいことを形にするための施策をいろいろ考えています。これまで以上に攻めの施策を打てるようになったので、どうかお待ちいただければと思います。

本人の熱意が良い結果を招いた「志摩スペイン村コラボ」

――ここからは何点か、個々のトピックについてうかがいたく思います。まず、新宿東口駅前広場のクロス新宿ビジョンを使って行われた、年末のNornisのライブについて。現地取材をさせていただきましたが、現場の熱気は相当なものでした。

鈴木:
良い取り組みだったと思います。現地で見ていただいた方もお気づきだったかと思いますが、あれは収録映像ではありません。あのときのライブ映像もどこかの機会で編集したものを公開できればと考えています(※2023年4月にアーカイブ公開)。今回のようなトリッキーな企画はこれからも挑戦したいところです。

――2023年に入ると、VTA(バーチャル・タレント・アカデミー)でも大きな動きがありました。今年の時点でVTAからは5名がデビューしましたが、同時にVTA自体に注目が集まっている印象もあり、熱心なファンも増えていますよね。

鈴木:
我々が想像していた以上に(VTAそのものに)ファンがついた、という印象です。VTAは非常に良い取り組みだと我々も認識していて、さらに拡大していくつもりです。近々ホームページをリニューアルするのですが、それに伴って、時期は前後するかもしれませんがさまざまな展開を予定しています。

また、VTAで提供する知識や体験などの機会に関しても、リソースを投下しながら今まで以上に注力していきます。協力を申し出てくださる外部の企業さんも多いので、そのお力も借りて、受けられる講義・講座の種類も増やしていきます。VTuberという業界がより長く続いていくことを願い、個人の活動では得られないような活動機会の提供をVTAを通して続けていきます。

――また、今年の大きな動きとしては、周央サンゴさんと志摩スペイン村のコラボイベントの話もお聞きしたいところです。

鈴木:
あのイベントに関しては本当に本人の愛がいろいろなところに伝わったことで実現した企画ですし、その熱意に答えるべく、弊社の営業担当もがんばってくれました。

多数のメディアでもポジティブな文脈で取り上げていただけて、本当にありがたいです。応援してくれるファンの方々の熱量もそうですし、なによりも周央サンゴさん自身が本当に好きなものを「好き」と言って、熱意を持って発信していたことが、良い結果に結びついた出来事だったと思います。

これは本当ににじさんじの初期の話になりますが「ライバー自身が好きなことを積極的に発信すべきか」で悩んだことがありました。というのも、ライバーが自分の好きな商品の話をすると、ファンの方がその対象の企業に問い合わせをしてしまって、トラブルに繋がるといったことが何度か起きたからです。

ファンの方々の愛は本当にありがたかったのですが、一方でいち企業からすると、問い合わせ窓口のパンクなど、実務上の障害につながってしまう、というのが実際にあった事案ですし、そこについて我々はただ頭を下げることしかできませんでした。それ故に「ライバーの発信よりも弊社営業側が努力すべき」という考えも正直ありました。

しかし、時を経て、世間からのVTuberに対する視線も変わり、今回の件のように、ポジティブな事例が生まれるようになりました。企業の方からも「VTuber」という存在をここ数年で認識していただけるようになり、世間からも受け入れてもらえるようになったのは、非常に良い流れだと感じています。

――先ほどの「世代を超えてつながる」というお話ともつながるのかもしれませんね。年齢に関係なくVTuberを見る人が増えて、その存在が世間にも認知されつつある。実際に「エンタメの力で世界を変えている」と捉えることもできますし、にじさんじが達成した大きな成果であるように感じます。

鈴木:
そうですね。「昔はNGだったことが、今ならOKになる」ことが本当に増えたので。今回の件で、以前とは世間からの見え方・受け入れられ方が本当に大きく変わっていることを実感できました。

今年のにじさんじフェスは「冬の文化祭」

――インタビューの最初に昨年のにじさんじフェス2022についてお話いただきましたが、「にじさんじフェス2023」の開催決定が先日発表されました。かなり早い段階での発表であるように感じられたのですが。

鈴木:
「背水の陣」ですよね。前回のフェスが盛り上がっていたのこともあり、「次」のハードルが上がってしまって……正直「どうしようかな」と(笑)。

それはさておき、なぜ早く発表したのかというと、開催時期が非常にスケジュール調整が大変な時期だったからということですね。早めに発表して、予定を押さえてもらう必要がある
だろうと。ぜひ皆さまにご参加いただければ有難いです。

――フェスの内容についてはどれほど決定しているのでしょうか?

鈴木:
もちろん企画を作っている最中ですが、すでに決まっていることもあります。まだ実験段階で言えないことも多いのですが、今も新しい試みや研究を走らせているので、何かしらの成果が出て、コンテンツに昇華できそうであれば、ブースとして作ることもあると思います。
イベントの運営部分に関しても、前回の経験と反省を踏まえつつ、みなさんがより楽しめるようなものを作ることを大前提に進めています。チケットの販売方法もわかりやすくする予定ですし、なるべく多くの人を呼べる形を作りつつ、でも「人が多すぎて何も遊べない」ことにはならぬよう対策を考えています。

テーマは前回と同様に「文化祭」なのですが、12月なので「冬の文化祭」ですね。「『にじさんじ』という学校でみんなで楽しもう」というコンセプトはそのままに「楽しい」と思っていただけるようなものを作っていきます。

また、昨年同様、オンライン配信でも参加できるものを作っていく予定です。現地参加が難しい、叶わなかった人にも楽しんでいただけるイベントにするべく取り組んでいます。詳細は続報をお待ちください。

「にじさんじ」という楽しい場所を守り続けていくために

――最後に5周年を迎えての抱負を、にじさんじファンの方々に向けてお願いします。

鈴木:
5周年を迎えるにあたって、「さらに先の10周年、20周年の節目を迎えたときにどうなっていたいか」を私自身、改めて考える機会がありました。エンターテイメントを事業としている我々は、おもしろいものを提供し続けなければならない。その上で、「にじさんじ」という「楽しい場所」を守り続けていかなければならない。そのようなことを、強く思いました。

今後出てくる施策もそうですし、過去に行われたものも当然そうですが、我々としては「にじさんじ」という存在を10年、20年と続けるために必要なことだと考えて取り組んでいます。場所としての「にじさんじ」を永続的なものにしていきたい、守っていきたいという想いを持ちつつ、事業展開や各企画を考えていますね。

――VTuber自体は10年、20年続いているものではない、非常に若い文化ですが、ANYCOLOR社は上場以降、「企業としてにじさんじを継続する」という点での信頼が高まっていると思います。

鈴木:
Moguliveさんのインタビューがあるたびに同じことを話してしまっている気がしますが、「文化を続けていく」ことは本当に大変だなと思っています。「どうやって維持していくか」を考えなくてはいけませんが、ただの「維持」はそのまま「停滞」に繋がることになります。現状維持ではなく「広げていく」ことを、長い目で見て考え続けるべきだと常々感じています。

――ありがとうございます。VTuber業界全体がそういった「長期的なプランを考え、そのための施策を試す」というフェーズに入りつつあるのかもしれませんね。そういった意味で、次にどのようなコンテンツが生まれてくるのかに今後も注目させていただきます。

©ANYCOLOR, Inc.
聞き手・編集:ゆりいか
執筆:けいろー


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