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ホロライブ 2022.07.22

「hololive ERROR」企画担当が裏側を語る 視聴者を巻き込んだホラーコンテンツはいかにして生まれたか?

2021年11月、女性VTuberグループホロライブが新企画として始動した「hololive ERROR」。グループ初のホラーコンテンツ企画として発表され、360度動画、リアル謎解きイベント、マンガ動画と、さまざまな媒体で物語が断片的に公開されていきました。

7月18日(月)にはすべての完結編となるPCゲームが公開。約1年となる大型企画が遂に幕を閉じたことになります。今回は、そんな「hololive ERROR」のプロジェクト全体を指揮した総合Dと、ゲーム開発全体を統括したゲーム担当Dの2名に、これまでの歩みと企画の裏側についてインタビューしました。

制服衣装から始まった学園ホラーのアイデア

――この「hololive ERROR」という企画自体がどのように立ち上がったのか、経緯をお聞かせください。

総合D:
そもそも「2021年の夏季にホロライブのイベント企画を実施したい」といった意見から企画が立ち上がったのが最初でした。リアルイベントなどで多方面で展開できるテーマが必要と考えていまして、諸々の条件を踏まえて思案した結果「ホラーってどうだろう」というところに行き着きました。

それまでのホロライブのコンテンツは、“かわいい”や“コメディ”といった明るい感じのものがほとんどだったので、逆にシリアスな、真逆の企画をお客様に提供することで話題性をとれないかなと。

また今回の企画では、ホロライブ所属タレント達の新しい側面を視聴者の方々に見せたいという狙いもありました。タレントを声優として起用し「日常の配信とは違うキャラクターとしての側面を演じて、新しい見せ方を届けたい」と考えていました。

――今企画は「青上高校」という架空の学園を舞台に、生徒たちが不可思議な事件に巻き込まれるのが大枠の企画となっていますが、このアイデア自体はどなたの発案なのでしょうか?

総合D:
当初のアイデアは私の発案でした。私の大枠の企画をもとにして、より詳細なシナリオを担当ライターが執筆するといった形で、物語の大筋を整えました。

そもそも企画以前にホロライブ所属タレント向けの制服衣装を制作するといった流れがあり、「せっかく制服を作るのなら、今回のホラー企画で利用できませんか?」といった話がありました。その結果、所属タレント達が制服姿で出演するなら「学園ホラー」モノが良いだろうと。

――制服衣装をきっかけにホラージャンルの方向性が決まったわけですね。

総合D:
そうですね。ゲーム担当側のディレクターと企画を固めるにあたり、スプラッター表現が強い洋画のような雰囲気ではなく、精神的にジワジワくるような日本のサイコホラー的なものにしたいと考えていましたね。

VTuberという存在をホラーで表現しようとした際に「普段のキャラクターとは違った全く別の側面を楽しんでもらう」といったことを考えていたので、そういった「VTuberの多面性の怖さ」を押し出すような内容となっています。

また海外のホロライブファンにも受け入れてもらいやすい作品にしたいという想いも、当初からありました。「ジャパニーズホラー×VTuber」というスタイルにしたことで、海外の方にも楽しめるテイストになっているのではないかと思います。

――ホラー要素だけでなく、視聴者側が物語の謎を考察していくといった要素も非常に強く感じました。

総合D:
リアルとオンラインの脱出ゲーム展開を予定していたので、物語全体にミステリー色も必要だと考えていたからです。いわゆる純粋なホラー作品とは違って、ストーリー性を持たせた内容にしたいと思っていました。

ただストーリー構成という意味では、本当に難航しました……(笑)。そもそもホロライブ所属タレントが、シリアスなホラー作品に出演するのが初めてなので、「登場人物の死」といった要素を入れて、ファンの方が受け入れてくれるのか……どこまで攻めてよいかのラインを引くのが非常に難しかったです。なので約1年の間、企画を動かしながら手探りで決めていくかたちになりました。

リアルイベントの手応えとコンテンツの変遷

――今企画では特設サイトをはじめとして、リアルでの探索イベント、マンガ動画の連載、PCゲームの配布と、さまざまなメディアで展開されていたのが大きな特徴でした。こういった大規模なプロジェクトとなったのは、どのような理由からでしょうか?

総合D:
当初はそこまで大規模な企画を構想していたわけでは無いのですが、まずは「脱出ゲームをやりたい」といった話が社内で持ち上がりまして、そこでhololive ERRORの企画を使って構想してみようといったところからスタートしました。その後「せっかくのホラー作品だから」という思いからPCゲームの制作も決まったという流れです。


(「青上高校からの脱出」2021年11月19日、20日に千代田区「3331 Arts Chiyoda」で開催されたリアル謎解きイベント。学校の校舎のような舞台を回りながら謎を解く内容となっていた)

(21日に開催されたオンライン版の謎解きイベントには、ホロライブ所属VTuberが出演した)

本来は去年の夏の時点で、ホラー企画自体が終了する予定でしたが、諸々の事情から計画自体が変更となり、2022年の夏までに完結するプロジェクトとして進行することになりました。そこで「ホラーゲームでの物語完結」を目指すかたちでプロジェクトスケジュールを構成して、それまでファンの方のモチベーションをキープしていただくために、マンガ動画の連載をはじめたという背景があります。

(ホロライブ公式チャンネルで連載されたマンガ動画シリーズ。青上高校に通う女生徒たちの日常が描かれるが、回を重ねるごとに不思議な現象が起きていき……)

――途中から単発の夏企画から長期的なプロジェクトへと変更されたわけですね。その結果、各媒体をチェックすることで学園の謎が少しずつ判明していく壮大なコンテンツに成長した印象があります。

総合D:
そうですね。発表媒体を増やしたことによって、ホロライブを全く知らない視聴者の方がどこかの導線で興味を持っていただけると良いと考えていました。先にお話したリアル謎解きイベントでも、普段のホロライブのイベントとはまた違ったユーザー層の方々が来場されていて、どちらかというと謎解きのファンの方が多くいらっしゃいました。これまでに無いファン層にリーチできたことは本当に良かったですね。

――企画運営側から見て、今回のプロジェクト全体に対して手応えは感じられましたか?

総合D:
そもそもホロライブでストーリーを進行するタイプのコンテンツというのが少なかったのですが、こういったスタイルのエンタメもちゃんと追って楽しんでいただけることが分かって、それが嬉しかったですね。マンガ動画の連載なども、特に海外のファンの方々が熱心に追ってくださっていた印象でした。

(マンガ動画同時視聴配信では、ユーザーから多くの考察コメントが投稿され、盛り上がっていた)

本格的なホラーゲームを制作するチャレンジ

――あらためて、ゲーム担当Dさんに7月18日に公開予定のホラーゲームについてお聞きします(※執筆時期はゲームリリース前)。2022年1月に発表された無料版時点で大きな反響がありましたが、当時の手応えはいかがでしたか?


(PCゲーム版「hololive ERROR」:主観視点で学園内を探索するゲームで、道中には学園の謎を解明するためのヒントが散りばめられている。またホロライブ所属VTuberも数多く出演)

ゲーム担当D:
無料版は少しカジュアルすぎたのではないかと不安になりながらリリースしたのですが、SNSの反応をみるかぎり、しっかりと怖がってくださったようで「あぁ良かった」と安心しました(笑)。ホラーゲームに慣れていない方でも新鮮に楽しんでもらえるものを提供できたのは何よりです。

その一方で悩みも出てきてしまっていたんですよね。というのも、有料の本編はもっと怖くしようとおもっていたのですが、プレイされた皆さんが怖がっている反応を見て「本当にホラーに振り切って良いのかな」と……。なので、嬉しい半分「どうしよう?」半分でした。そういった課題が見えてきたという意味でも、無料版をリリースしたのは「次にどんな手を打つのか」の試金石として良かったと思っています。

――基本的には断片的な情報を見つけながら探索していくっていうような形になっていましたが、こうしたゲームシステムは何を参考にされたのでしょうか?

ゲーム担当D:
構成的には「P.T.」というゲームをモチーフとしています(※一人称視点で同じ住居を何度もループする不思議な構成のホラーゲーム。ループを繰り返すうちに、住居でさまざまな異変が巻き起こる。後に小島秀夫氏が当時制作予定だったホラーゲーム「Silent Hills」の宣伝用ゲームであることが判明。現在はプレイ不可)。

決められたステージを何度かループしていくうちに新たな情報を見つけられたり、登場人物のセリフが変化したりといった点は「P.T.」を意識した部分ですね。

――たしかに無料版の時点で2周目以降のキャラクターのセリフが変化するといった要素があり、生配信で遊んでいたプレイヤーたちが驚いていましたね。

総合D:
元々、私が「(ゲームのイメージは)P.T.がいい」と言い続けていたんです。P.T.は国内外を問わず大きな話題となった伝説的な作品ですし、P.Tのような枠組みであれば「ホロライブIPや、ERRORのストーリー性そのものとも相性がとてもよく、面白いものができあがるのでは?」という気持ちがありました。







ゲーム担当D:
それから「ホラーゲームの中で敵役に対抗手段があるのって怖くないよね」という話もありましたね。どのようにジャパニーズホラーテイストで怖がってもらうのかを考えたときに「P.T.」の流れは良い参考になったのではないかと思います。

――現時点でのゲーム自体の出来の手応えはいかがでしょうか?

ゲーム担当D:
手応え50%、不安50%ではあるんですけども、体験版に比べてはかなり怖く、よりリッチに仕上げられたはずなので、VTuber、ホロライブなどの配信に知見がある方に限らず、一般のホラーゲームユーザーさんも全然楽しめるぐらいのクオリティには上げられたかなと思います。

今回、本編のクオリティ向上のため、ホラーゲームに精通している方にディレクションで参加していただいたのも大きいですね。ストーリーについても考察も捗る内容となっていて、手応え自体はあるかなと。

――ホロライブ所属タレントの方々の中にもホラー系コンテンツが好きな方は多く、ファンの中にも本作への潜在的な期待度は高いように思います。

ゲーム担当D:
それ故にドキドキしているんですよね(笑)。所属タレント達を含め、VTuberさんや配信者さんにプレイしていただき、ゲーム配信業界を盛り上げる一因になれたらいいなっていう面もあります。

――「ホロアース」という別途大きなプロジェクトを進行している企業が、もうひとつ新たなゲームを制作するという時点で驚くべきことだと思います。ゲーム制作自体のハードルをどのように受け止めていましたか?

ゲーム担当D:
企画当初はプレイ体験的に10分か15分で終わる短編ゲームを断続的に出していきながらストーリーを展開していく予定でしたが、そうすると時間もかかるし内容もうまく収められなかったんですね。なのでマンガ動画でストーリーを展開させつつ、ゲーム本編そのものはクオリティアップに注力するという体制をとっていきました。当初の想定とは違いましたが、その結果、ユーザーの方々の反応など得られるものが大きかったと思っています。

「ホロアース」に注力している横で「hololive ERROR」を出して大丈夫かと思われるかもしれませんが、これもひとつの大きなチャレンジと捉えていました。自社でできることの幅を広げるといった点でも良かったと捉えています。

――本編リリース以降も何か展開があるのでしょうか?

ゲーム担当D:
プロジェクトとしては7月で完結するのですが、今後もゲームに限らず様々な展開は続きますので、別プラットフォームでの展開含めいろいろと要素を追加できれば……と思っていますが、一旦は7月のリリースに集中しています。

ホロライブVTuber×運営から生まれるシナジー

――今回ホロライブ所属タレントの方にとっても、本人をイメージしたキャラクターの声優を演じるのは大きな挑戦だった印象です。打診当初のタレントの方の反応はいかがでしたか?

総:
「やりたい」とノリノリで言ってくださる方が多かったですね。タレントの中には声優的な活動に強い興味を持っている方もいらっしゃったので、今回の企画でその一部が実現できればいいなと思っていました。

――このプロジェクトにVTuberが参加するにあたって、どのようなところを特に気をつけたのでしょうか?

総合D:
陰湿な話も入ってくるホラー作品なので、VTuberさんたち本来のイメージを損なわないように調整するのにとても気をつけていました。そのあたりもかなり大変だったポイントでしたね。

――参加されていたVTuberの方は、迫真の演技をされている方も多かった印象です。

総合D:
普段の配信のキャラクターとは全く別のものでやっていただいたおかげで、ファンの方々にも「○○さんってこんなに演技うまかったんだ」「こんなふうに喋れるんだ」といった感想が寄せられていましたね。たとえば、星街すいせいさんやさくらみこさんの演技に対して「普段と違うけれど、この役に合っていますね」といったコメントもありました。

――そもそもVTuber所属事務所が自社制作のゲームに自社タレントを声優として出演させるといった例が非常に特殊だったと思います。

総合D:
そうですね。弊社はホロライブというグループをまとめてIP(※コンテンツの知的財産権)展開していこうという方針があり、タレント自身のプロデュース力と運営の力を二つ掛け合わせることで、他企業にはないシナジー(※相乗効果)を出せるのが特徴でもあります。特に私たちの部署では、タレント個人での活動とは別軸にグループIPの運用に力を入れていまして、今回の企画もその一環だったという背景があります。

――タレント事務所運営とコンテンツ制作を同時進行的に進める企業自体が珍しい存在ではないかと。

総合D:
そのあたりのコンセプトについては代表の谷郷の方が詳しいかもしれませんが、もともとカバー株式会社自体がシステムの開発から始まった企業なので、純粋にものづくりが好きなのではないかなと、一社員として思っています。

マンネリを打破して挑戦を続けたい

――「hololive ERROR」の長期間の運用を通して、カバー社全体的にも経験値を積んだ実感はありましたか?

総合D:
会社全体でひとつの企画を動かす取り組みはおそらくERRORが初めてで、本当に難航したところもありますが、課題や解決策なども見えてくるようになり、次の大きなプロジェクトに向けたノウハウが溜まったと思います。

ゲーム担当D:
そもそも「hololive ERROR」っていうプロジェクト自体が、新しいIPの創出っていう意味では大きなチャレンジでした。今後も何かゲームに限らず、ホロライブプロダクションから新しいIPを生み出していきたいですね。次はもっと短い期間で、もっと壮大なことができるのではと思います。

どのようにタレントさんや視聴者の方々に楽しんでもらいつつ、IP化できるのかを検討していきたいです。

――これまでのノウハウを活かした新コンテンツの登場が気になるところです。

総合D:
中身についてはお話できませんが、これからも新たな企画は立ち上がっていくと思います。それがホラーかどうかはまた別の話ではありますが、何かしらのコンテンツのリリースには今後も期待して貰っていいのかなと。

――ファン側からは「ホロアース」をはじめとして、カバー株式会社の制作するリッチなコンテンツに対する期待感は非常に高いと思います。

総合D:
弊社代表の谷郷が「お客様に喜んでもらえるものを作る、そのためにマンネリを打破して永遠に挑戦し続けろ」といったマインドの持ち主なので、会社全体で今後も良い意味で挑戦的なプロジェクトを打ち出していくと思います。ファンの方々には引き続き期待していただけたら幸いです。

――ありがとうございました。

ホロライブ公式サイトはこちら。
https://hololiveerror.hololivepro.com/
ゲーム本編のダウンロードはこちら。
https://shop.hololivepro.com/products/hololiveerror_game2022

聞き手&編集:ゆりいか
執筆:ノンジャンル人生


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