VTuber黎明期の2018年から始動し、現在では「あにまーれ」「ハニーストラップ」「シュガーリリック」など、合計5つのVTuberグループとソロタレントが所属する「774inc.」。所属VTuberの活躍はもちろんのこと、「あにまーれ学園祭」など、運営主導での大型配信企画やリアルイベントも実施されています。
そして、今年の12月には774inc.過去最大規模の音楽イベント「ななしふぇす2022″JUMP!”」が開催される予定です。774inc.は現在どのようなビジョンでVTuber事務所を運営しているのか、所属VTuberや「ななしふぇす」に対しての想いなどを、事業担当者とコンテンツ(ななしふぇすイベント制作)担当者に直接お聞きします。
(※本インタビューは10月24日に実施されました。)
ファンにとって一番良いものを模索するために
――2018年の「あにまーれ」発表から4年間が経ち、その間にグループ規模が拡大し、様々な事業を展開されている印象です。なぜ、VTuber事業に着手したのでしょうか?
事業担当:
きっかけは、2018年頃のVTuberグループ「にじさんじ」の盛り上がりからでした。もともと私がYouTube関連の事業に携わっていたこともあり、プラットフォームとして注目していましたが、当時はヒカキンさんなどのリアルなYouTuberがメインで、二次元コンテンツが少ないと感じていましたね。YouTubeで二次元キャラクターをメインとしたコンテンツを制作したいといった考えは以前から持っていたのですが、そこから「にじさんじ」というグループの活動を見て「これだ!」と。「VTuber」というスマートフォンひとつで多くの二次元コンテンツを提供できる仕組み自体に興味を持ちました。
――「あにまーれ」を始動した当初はどういった構想をお考えでしたか?
事業担当:
当時は周囲の状況を見ながらプロジェクトを進行していたので、大きな構想といったものはありませんでしたが、短期的な取り組みではなく、エンタメコンテンツとして、できるかぎり長く継続できるようなものにしたいと思っていました。インフルエンサーを主軸にした事業は短期的に終了してしまうイメージがありますが「勢い任せではない」「本物志向でいきたい」といったところは気にしていましたね。
――774inc.のVTuber事業全体は拡大しており、多くのファンも注目している状況ですが、現在の状況をどのようにお考えですか?
事業担当:
そうですね。現状にはまだまだ満足していないところではありますが、市場全体も成長傾向にあると思いますので、これまでの経験を踏まえて対応していきたいですね。
――現在の774inc.がVTuber事業を運営するうえで重要視しているコンセプトはどういったものでしょうか?
事業担当:
キャラクターIPを運用するという意識よりも、所属タレントの個性を活かしたコンテンツづくりを心がけるといったところを重視しています。
運営とタレントが一丸となってコンテンツ制作を重視するといったところも大きな特徴かなと思っています。そういった意味では、タレント側と運営側はコンテンツ制作をする上で対等な関係と言えるかもしれませんね。例えば、運営側からタレント側に対して「こういった施策を行うので協力してほしい」「こういった配信をしたらどうか」とはたらきかけることもありますし、逆にタレント側からの提案をコンテンツに反映させることもあります。
楽曲面でも同様で、先日の因幡はねるの新曲「独占予報」も、本人の意向をかなり多く取り入れたものでした。どちらか一方が主導権を握るのではなく、お互いに話し合って、ファンの方々にとって一番良いものを模索するといった姿勢は意識しているところかと思います。
コンテンツ担当:
たしかにその通りですね。最終的にはファンの方々に届けられる「中身」こそが大事だという想いはあります。なので、グッズも構想段階からタレント側と話し合うことも多いですし、プロモーション案件であっても、内容や条件自体を視聴者の方に合わせてフレキシブルに変更していくこともあります。そのあたりもコンテンツを重視しているが故といったところではありますね。
(周防パトラさんの得意とするASMRのコンテンツは、販売後24時間で1万本以上の売り上げ。「DLsite ASMR オブ・ザ・イヤー」を2年連続受賞している)
「774inc.」を手堅く地道に続けられている理由
――VTuber事業を4年間運営されて、特に大きな出来事や大きく体制の変わったエピソードなどはありますか?
コンテンツ担当:
どうでしょうね……。最初のお話にも繋がるかもしれませんが「ちゃんと長く続けていく」という方針のもと、手堅く地道にやってきているので、特に大きな変化といったものがありませんでしたね。何かひとつの企画が大バズを引き起こして、運営方針全体が変わったといったことは無く……。
事業担当:
逆に大きな炎上もありませんね。これまで平和に運営できています(笑)。たしかに大変なことはありますし、マネジメントに苦労することもありますが、目立つような大きな事故や事件は起きずに済んでいます。
――変化の著しいVTuber界隈で波風が立たずに続けられていること自体が珍しいとも思います。
コンテンツ担当:
おそらく、タレント側と運営側が同じ目線を共有して「ユーザーに喜んでもらうためのパートナーとして一緒に取り組みましょう」と、一丸になっていることが大きいと思います。
――直近の動きで気になっていたのは「あにまーれ」所属だった宗谷いちかさんが単独タレントとして活動を開始したことでした。配属転換といった事例自体がレアケースだと思いますが、その背景にはどういったことがあったのでしょうか?
(宗谷いちかさんのソロタレント転向発表配信)
事業担当:
これから活動を継続するにあたって、色々な選択肢があっていいと思っているので、そのひとつとして「774inc.所属のソロタレント」といった枠があっても良いと思っていました。今後、宗谷いちかの活動を見て、所属形式を変更するといったケースはまた起きるかもしれませんが、その都度柔軟に考えていきたいなとは思っています。
(このインタビュー終了後、「シュガーリリック」の虎城アンナさんがソロタレントに転向)
――全体的にお話を聞いていると、現状の課題に対して柔軟に対応していきたいという意識が強いと感じています。
事業担当:
あまり決め打ちはせず、様々な未来の可能性を検討していきながら、足元で今起きていることを判断していくべきかなと。そういった意味で、常にフットワークを軽くしておきたいと考えています。
コンテンツ担当:
今回のケースは、別にグループでの活動がネガティブだったわけではなくて、ファンの皆さまに提供するコンテンツにプライオリティを置いた結果でした。つまり、宗谷いちかの場合は、運営・本人ともにその形の方がよりリスナーさんを楽しませるコンテンツを提供できる、という意見に至った上での判断ということですね。
事業担当:
「グループが良いか? ソロが良いか?」といった判断も冷静にその都度考えていった方が、結果的に長期的な活動に繋がっていきます。本人にとって「その方が長く活動しやすい」といったところも一つ大きな判断軸として検討しています。
「774inc.」というブランドの認知を広げていきたい
――現状の774inc.の課題となっているものはどういったことでしょうか?
コンテンツ担当:
事業の規模が拡大しつつあるので、それに合わせて社員同士でフォローしあえるような環境整備が重要だと考えています。現在はファンの方々に喜んでもらうためのサービスに精一杯になっている状況ではあるので、ファン層を広げられるようなプロモーション施策を打ち出せるようにしていきたいですね。
――今後達成したいとお考えのミッションはありますか?
コンテンツ担当:
今後もより多くの人に喜んでもらえるようなコンテンツ制作を目指していきたいので、
主体的に情報をキャッチしてくださる温かいファンの方々に甘えず、より分かりやすく、より広がりやすい情報発信や企画発表を行っていきたいですね。
具体的には、いわゆる既存のVTuberファンはもちろん、もっとライトな一般層にもアピールしていきたいです。所属タレントが提供するコンテンツのクオリティの高さは自負しているところなので、そういった部分が届けられたらと思っています。
――来年以降の具体的なプロジェクトや方針はどういったものになりそうでしょうか?
コンテンツ担当:
これまでは、「あにまーれ」や「ハニーストラップ」といった各VTuberグループを前面に押し出していたのですが、一方で「『あにまーれ』は知ってるけど、774inc.は知らない」「『ハニーストラップ』と『あにまーれ』は同じ事務所だったの?」といった声も少なくありませんでした。
(774inc.が運営するVTuberグループとソロタレント)
今後は、もちろんグループの認知度を上げつつも、さらに「774inc.」をひとつのブランドとして知ってもらえるようにしていきたいと思っています。
――「774inc.」ブランドの認知拡大を目指していくと。
コンテンツ担当:
これまで、各ユニットごとの個性を担保するため、あえてやってなかったことでもありますが、グループの枠を超えたユニットやこれまでにない組み合わせでのイベントや楽曲の発表なども考えて行きたいですね。
事業担当:
まずは「ななしふぇす」のしっかりとした成功を目指したいですね。
「ななしふぇす」が生み出す“横の繋がり”
――引き続き、今年12月に開催される大規模イベント「ななしふぇす2022″JUMP!”」についてお聞きします。前回「どぅーいっと!」から2年ぶりの開催となりますね。
コンテンツ担当:
そうですね。2年前までは774inc.という事務所単位でイベントをやることは、ゼロではありませんでしたが、少なかったと思います。「どぅーいっと!」という枠を超えて横の繋がりが生まれたというのは、タレント側にとっても良かったことだったのではないかと思っています。
――2年越しの開催が決まった経緯はどのようなものでしたか?
コンテンツ担当:
2年前と比べ、弊社のタレントも普段のコラボ配信や活動がグループの枠を超えることが多くなってきており、ファンの方々の中には、グループの枠を超えたライブやイベントを要望する声も多くありました。そのため、このタイミングであれば、2年前とはまた違ったアプローチの事務所全体イベントができるのではないかと考えたのが大きな理由です。
――ファンからグループ超えたコラボを期待する声が大きいと。
コンテンツ担当:
そういった印象はありますね。もちろん各グループごとに単独イベントを実施しているので、そちらはそちらで楽しんでいただけているからこそ、「774inc.最大の規模のお祭りであれば、グループの枠を超えたものが見たい」という声をいただいているのかもしれません。
――今回、公式サイトには「来場者参加型演出」とありましたが、具体的にどういったものになるのでしょうか?
コンテンツ担当:
事前お届けグッズ&現地の物販として、無線制御のペンライトを販売するのですが、そのペンライトを使用すると、特定の楽曲のときに演出側の主導でペンライトが光ります。つまり参加者は手に持っているだけで自然とライブ演出の一部になれるということですね。
――自分がステージ全体のデコレーションのひとつになることで、会場全体で一体感を感じられると。
コンテンツ担当:
そもそも日常では、同じ趣味を同じ熱量で楽しめる人たち同士で集まれる機会ってなかなかありませんよね。このペンライトも含め一つのきっかけとして、そういったファンの方々同士が「繋がっている」という感覚を、今回のイベントを通して味わってもらえたらいいなと思っています。さらに言えば、私個人的には本イベントを経てファンの方同士が仲良くなってくれていたら嬉しいな、と。
――ちなみに、現時点でイベントのお忙しさはどれほどのものでしょうか?
コンテンツ担当:
そうですね、大変ですね(苦笑)。実は今回のななしふぇすも、普段から弊社のイベントを担当してくださっているバルス株式会社さんにお願いしています。
これまでのライブやイベントは、どちらかというと弊社側からバルスさんに希望やイメージをお伝えしてそれを形にしていただくような進め方が多かったのですが、大規模な有観客イベントとなると弊社やバルスさん以外にも様々なセクションで多くの方が関わってきますので、今回のななしふぇすは初めて企画・演出から券売、プロモーションなど、イベント全体をバルスさんに統括いただいております。
とはいえ、各所さまざまな方にお力をお借りしているものの、今回は弊社でも今まで実施したことのない規模感なので、予想外のことも多く、日々バタバタしています(笑)。
――以前、因幡はねるさんのファン(因幡組)が秋葉原のアクリルスタンド販売の際に集合したという出来事もありましたが、そういった盛り上がりを今回のライブでも感じられるのかと期待できそうですね。
コンテンツ担当:
それは大事ですね。極端な話、ライブをきっかけに生まれた横の繋がりは、その方にとっての掛け替えのない財産になるかもしれないじゃないですか。1人ひとりの方の人生にプラスとなる出会いがあればと思っています。今回のイベントがそんなハブ的なものになれたら幸せですね。
――現状、タレントの方々はレッスンに集中されていると思いますが、舞台裏での様子はいかがでしょうか?
コンテンツ担当:
みんな本当に頑張ってくれています。普段の配信活動に加えての練習で、本当に大変だと思うのですが、その中でも実際の練習の様子を配信で伝えたり、イベントのためになるような配信を実施してくれたり。当日のパフォーマンス準備はもちろんのこと、それと同じくらい「当日までにもリスナーさんに楽しんでもらえるようなことはできないか」をそれぞれが考えてくれていますね。
――他に今回のフェスで期待してほしいポイントはどこでしょうか?
コンテンツ担当:
今回のライブは、ファンの皆さま同士はもちろん、タレント本人とも同じ熱量を共有することができるのではないかと思います。また、本イベントはこれまでの集大成的なライブであると同時に、来年に向けての新たな動きへのスタートの場でもあります。そういった大切なタイミングに立ち会ってもらえたら嬉しいです。
そして、今回は774inc.全体をいつも見てくださっている方には特に喜んでもらえるようなプログラムをひとつ用意しています。因幡はねるのセカンドシングル「独占予報」や、柚原いづみ & 風見くくのデュエットソング「ハチャメチャバース」など新曲たちのお披露目予定もあり、それらは昼と夜のパートのどちらでも視聴いただけます。ぜひ、当日のパフォーマンスにもご期待ください。
――それは初公表の情報ですね! どういったプログラムなのか楽しみです。
コンテンツ担当:
もちろんそれだけでなく、シャッフルユニットとしていつもお馴染みのメンバーや珍しい組み合わせ、得意なことが同じタレント同士など、色々なユニットが登場する予定です。長年のファンの方から初心者の方まで楽しめる内容のイベントになりますので、ぜひ楽しんでいただければ幸いです。
――ありがとうございます。当日のイベントに期待しております。
ななしふぇす2022″JUMP!”詳細情報
イベント名 | ななしふぇす2022″JUMP!” |
会場 | 立川ステージガーデン https://www.t-sg.jp/ |
日時 | 12/3(土) 昼の部 OPEN12:00/START13:00 夜の部 OPEN16:30/START17:30 |
会場チケット販売 | 会場 https://virtual.spwn.jp/events/221203-774fes 配信 https://virtual.spwn.jp/events/221203-774fes-lv |
出演者 | 有閑喫茶あにまーれ / HoneyStrap -ハニーストラップ- / VApArt −ブイアパ− / SugarLyric -シュガーリリック / 緋翼のクロスピース-ひよクロ- / 宗谷いちか |
特設サイト | https://774fes.com/ |