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Vision Pro 2024.02.08

Apple Vision Proとは何か? 色々試して至った一つの答え

2024年2月2日に米国で発売されたApple Vision Pro。前回の記事では開封からハードウェアの性能などレビューをお送りした。

その記事の最後で、筆者がApple Vision Proを体験して直面した悩みについて紹介した。「高性能なヘッドセットであることは分かったが、それでも50万円もするApple Vision Proとは何なのか?」という疑問だ。

Apple Vision Proを装着して時間を過ごしながら至った答えは、アップル自身が使っている言葉にあった。


(Apple Vision Pro公式サイト「Welcome to the era of spatial computing.」)

アップルは、Apple Vision Proの発表時以来、一貫して「空間コンピュータ」という言葉を使ってきた。アップル自身も多用してきたARという言葉を一切使わず、空間コンピュータという言葉で統一していた。筆者はこの言葉の使い方について、「VRやAR、MRといった他社の土俵に乗らず自分たちがデファクトスタンダードをとるためのマーケティング上の意図が大きいのではないか」と理解していた。結局のところアップルもXRのデバイスを出してくるのだ、と。

空間コンピュータという言葉は「空間コンピューティングを行うデバイス」を指す。ちなみに、空間コンピューティングという言葉は、アップルが最初に使い始めたわけではない。Magic Leapは長らくこの言葉を使ってきた。Metaのマーク・ザッカーバーグは2016年から「VR/ARは次のコンピューティングプラットフォームだ」と言い始めていた。筆者自身も講演などでXRの価値を話すときに「XRによってもたらされるのは、インターフェース革命であり、平面のディスプレイによる2次元インターフェースは空間の3次元インターフェースに変わっていく」と語ってきた……が、実現にはまだ時間がかかりそうだった。

実はApple Vision Proには、この「空間コンピュータ」という定義が最もしっくりくる。そう、Apple Vision Proはヘッドセットではなくコンピュータなのだ。

コンピュータであるとはどういうことか。それは「このデバイスで、仕事や家事、娯楽など多種多様なシチュエーションに合わせて、数多くのシステムやアプリ、サービスを利用できる」ということだ。PCは言うまでもないが、例えばモバイルコンピューティングの世界を牽引したiPhoneを思い出してみよう。スティーブ・ジョブズは2007年にiPhoneを発表する伝説的なプレゼンテーションの中で、iPhoneをiPod、電話、インターネットの3つの機能が一つになったデバイスとして紹介した。それが今や、用途は上記3つだけに留まらない、あまりにも多様に活用できるデバイスに進化した。

Apple Vision Proも同じだ。VRゲームやメタバ―スなど、特定のアプリに適したXRデバイスではなく、実に色々なことができるコンピュータなのだ。例えば、Meta Quest 3はゲーム機として、そしてソーシャルVRやフィットネスのために主に使われているデバイス。XREAL Airは空間にディスプレイを出すデバイスとして認知されている。Varjo XR-3やMagic Leap 2、HoloLens2などは産業向けに特定のアプリケーションを起動するためのものだ。

それらに比して、Apple Vision Proは、1台のデバイスの中で、それまでXRデバイスが用途として設定していたものを、全てではないにせよ、飲み込んだ。


(左からXREAL Air、Apple Vision Pro、Meta Quest 3)

もちろんXRデバイスの各メーカーからも、特定条件でのみ効果を発揮するデバイスという立ち位置を突破して、空間コンピューティングにつなげたいという思想は見え隠れする。Meta Questのプレゼンテーションでも、Questが家でも仕事でも使えることがアピールされている。だが思想はともかく、実際のところはまだ「何かのためのデバイス」にとどまってしまうことが多い。

Apple Vision Proは、「空間コンピューティングとは何か?」を教えてくれる空間コンピュータである。まさに汎用性のレベルが違うという印象を受けた。それでいて、あらゆる体験がそこそこ快適で、境界線判定やトラッキングロストのような技術の粗さもほとんど感じられない。

高価な分スペックは特盛なので申し分なく、一つひとつのクオリティが高い。さらに、Appleの他のコンピューティングデバイスとOSレベルで統合されているから、UXのストレスのなさが段違いだ。

さて、前置きが長くなってしまったが、Apple Vision Proでできることを書いていこう。

バーチャルディスプレイは捗る

Apple Vision ProとMacのPCを接続することで、PCの画面を大きなサイズにして空間内に表示できる機能が、拡張ディスプレイだ。macのOSが最新なだけで使うことができる。Apple Vision Proは4Kの画質を誇るため、解像度を一切劣化させることなく拡張表示が可能だ。あらゆる文字はくっきりと描画される。MacでアップルがこだわっているであろうLiquid Ratinaディスプレイの美しさは、Apple Vision Proでもしっかり再現されている。筆者は普段13インチのMacBook Airを持ち歩きながら使っているが、画面はいかんせん小さい。大きなディスプレイを表示させ、しかも、サイズも場所も自分で好きに決められる。一言にすれば「捗る」。

接続方法は非常に簡単だ。macのOSを14以上にアップデートし、ログインしているApple IDが同一で同じWi-Fiに繫がっていれば、Apple Vision Proを装着しながらMacをじっと見るだけ。Macの上に、「接続するか?」表示が出るのでタップすれば拡張される。あまりに簡単だ。(まれに認識されない時があるが、Macを再起動すると解決した)

これからは「空間ビデオ」で思い出を残したい

前の記事でも少し触れたが、Apple Vision Proでは、奥行きのある写真と動画、通称「空間ビデオ」を、実際そのままに観賞・体験できる。いわゆる3Dコンテンツであり、これまでも「180度動画・写真」、「ステレオ写真・動画」などという名称で存在していたフォーマットだが、iPhoneで撮影したものを、Vision Proで見てみると、とにかく質が良い。あらかじめ我が家の一歳児との日常を撮った動画を見てみたが、遠く離れた米国にいるにも関わらず、本当に目の前に子どもがいる感覚になり、思わず「おお!」と声が出てしまった。


(空間ビデオでは、人を撮影したコンテンツが最も適していると考えられるが、筆者のプライベートなものしかなく、この記事では風景を収めたものにとどめたい)

そして、空間ビデオの撮影には専用機材が不要だ。iPhone 15 Pro maxとApple Vision Proで撮影が簡単にできてしまう。撮った空間ビデオは、iCloud共有やAirdropで転送が完了する。あまりに簡単だ。他のヘッドセットでこの手のデータの移動がいかに面倒だったことか。何より一杯食わされた感覚があるのは、「空間ビデオを見る専用アプリ」は存在しないことだ。iPhoneと同じ「写真」アプリがあるだけ。他の写真や動画も部屋に浮かせて見ながら、空間タグのついたものをさらにリッチに楽しめるというわけだ。

ちなみに360度写真のiPhone+Apple Vision Pro版がパノラマ写真であり、こちらも機器同士の連携はシームレスだ。

これからは空間ビデオで大切な思い出を残していこう……そう思わせられる。

ストリーミングコンテンツの3Dが活きる

Apple TVやディズニープラスのアプリを起動すると、Apple Vision Proの大画面で見ることができる……これだけなら、とりたてて新しくもない体験だ。しかし、Apple Vision Proでは、大画面そのものを現実空間に浮かせてもいいし、あえて(周囲がシアターに見えるような)没入環境にも設定できる。このように、気分に合わせて、視聴形態を変えられるのも特徴だろう。

最も衝撃的だったのは、Apple Vision Proの片目4Kの解像度で動画が再生されるため、おそらく映像の実効的な解像度は、3K程度と高画質という点だ。自分の持っているPCやスマホ、モニターよりもApple Vision Proで見たほうが大画面高画質で見られる可能性がある。そして現実にその画面を浮かばせて料理をしながら見てもいいし、ソファにゆったり座って劇場の中で見ているシチュエーションにしてもいい。飛行機でもう小さい画面を見なくて済むという意味でも、他のデバイスでも実現できていることをApple Vision Proは飲み込んでしまう。

そしてオーディオも臨場感のある立体的な音響を楽しめる「空間オーディオ」となっており、ばっちりだ。さらにApple TV+とディスニープラスでは、3D映画を3Dそのままに立体視で見ることができる。


(Apple Vision Pro向け「ディズニープラス」アプリには、3D映画が並ぶ)

つまり、「大画面・高画質で映像を楽しめる」、Apple Vision Proはそんなすぐれた映像機器でもあるのだ。各種プラットフォームの対応状況が気になるところだが、YouTubeもアプリの配信を検討しているという。このままApple Vision Proに対応する流れが確立すると、映像視聴機器としても大きな選択肢になるだろう。

外さなくても可能なビデオ通話

Personaアバターを使って、Apple Vision Proを外さなくても、ZoomやTeamsなどの各種通話に参加できるというもの。これ自体は何かが優れているというよりはApple Vision Proをはずさなくても十分ビデオ通話ができる、というのが正しい解釈だろう。もともと不便になりがちなヘッドセットの装着中、「ビデオ通話もできる」ことが重要なのだ。

遊べるコンテンツは今後増えていくだろう

現時点では、Apple Vision Proに専用のコントローラーがないため、VRゲーム系コンテンツの量は全体的に少なめだが、限られたコンテンツを体験すると、片目4K画質のVRをスタンドアローンで体験でき、VRヘッドセットとしても可能性を感じられる。

性能を見る限りは、AppleがApple Vision Proで提示する「空間コンピュータの没入型コンテンツ」にいわゆるVRゲームは含まれていないと推測される。「それならどうするか?」という問いが、VRコンテンツ開発者に突きつけられているのかもしれない。

いつか、iPadにApplePencilが登場したようにApple Vision Pro向けのコントローラーがでないとも限らない。もしくは、「Apple Vision ProでQuest、PCVR、PSVR2などのVRコンテンツの予告をして、実際の本編は各デバイスで遊ぶ」といった可能性もありうる。すでにMacやiPhoneで日常的に起きていることと同じだ。

逆にローンチ時点でリリースされているゲームのほとんどは、これまでスマートフォンのARもしくはQuest 3などでMRのゲームとして登場していたもの、つまり現実世界にボードゲームやパズル、ジオラマ的なものを表示して遊ぶものが多いようだ。

なお、Apple Vision Pro向けのゲームはほとんどが有料だ。Apple Arcadeに組み込まれているものも多く、米国のPaypalアカウント(日本のクレジットカード使用可能、米国の電話番号が必要)、米国で作ったクレジットカードや米国版のギフトカードでの決済が必要となる。日本人はとにかくアクセスしづらいので注意が必要だ。

空間コンピュータの赤子は成長していく

Apple Vision Proは、まだ発売されたばかりの赤子のようなコンピュータだ。今後アップデートでさらに機能が増えていくのだろう。そして、遅かれ早かれ世界中の開発者が作ったアプリが自律的にその可能性を広げるようになる。

世になかった「空間コンピュータ」なので、何ができるかはまだこれから掘り甲斐がある。Mogura VRではこれからも継続してその可能性と課題を伝え続けていく予定だ。

※日本国内におけるApple Vision Proの使用に際しては、総務省へ「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」に基づく届出申請を行っています。


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