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VTuber 2024.01.31

こんな音楽ライブの形があったのか 透過LEDで魅せるバーチャルとリアルの融合 「DOUBLE:」体験レポ

2024年1月26日。「リアルとバーチャルが交差するハイブリッド音楽フェス」と銘打ったイベント「DOUBLE:」が、池袋harevutaiで開催された。

主催はActiv8。キズナアイさんを生み出した会社としてよく知られている一方、近年は『ONE PIECE FILM RED』に登場するウタの3DCGモデル作成や、『PROJECT IM@S vα-liv』の制作サポート、VRChatで開催されたバーチャルライブ「CAPSULE Live in VRChat “メトロパルス”」のライブ制作などに携わっている。

そんなActiv8が主催する今回のイベント。その最大の特徴は、バーチャルとリアルを組み合わせたハイブリッド演出にある。事前告知では「最新鋭の透過LEDをはじめとしたデジタル技術」を活用していることが強調され、一般的なVTuberの音楽ライブとは別の、新たな試みであることがうかがえた。

実際、出演アーティストのラインナップも独特だ。2次元と3次元の両軸で活動するシンガーに、音楽以外の分野でも注目を集めるクリエイター。ダンスミュージックをテーマにしたキャラクタープロジェクトに、第一線で活躍するDJにして音楽プロデューサー。それぞれに異なる背景を持つ、広い意味で「表現」に意欲的なアーティストをキャスティングしているようにも感じられる。

肩書きもジャンルも異なる4組のアーティストが、数々のバーチャルライブを手掛けてきたActiv8主催のイベントで、パフォーマンスを披露する。それならばきっと、何か新しい演出や、おもしろい表現が見られるんじゃないか――。本記事では、そんな期待感があった「DOUBLE:」の模様をお伝えする。

くっきり&鮮やかに姿が投影される最新鋭の透過LEDディスプレイ

オールスタンディングのライブ劇場を埋め尽くす観客に向かって、4組のアーティストが2時間半近くにわたって歌とパフォーマンスを繰り広げた「DOUBLE:」。

ライブ全体を通しての感想としては、「『バーチャル』な表現手法の拡張性と、リアルな『体験』としてのVTuberの音楽ライブの可能性を感じた」という一言にまとめられる。もちろん「音楽ライブとして最高に楽しめた」というのは大前提として。

何よりも印象に残ったのが、事前告知にもあった「最新鋭の透過LED」の存在だ。むしろこの透過LEDこそが、今回のライブの肝だったと言っても過言ではない。

まずは、下記の画像を見て欲しい。

お分かりだろうか? バーチャルなエフェクト(うず巻き)と現実の演者(Daoko)、背景映像(水色の景色)、それぞれ3つが重なり合わさったような絵面になっていることに。

さらに、上記の画像では、リアルの長瀬有花の前面に、透けるようにしてバーチャルの長瀬有花が現れている。これは一体どういうことだろうか?

そもそも、一般的な現実世界のライブハウスなどで行われる「VTuberの音楽ライブ」では、ステージ上に設置された大型のディスプレイにVTuberの姿を投影する。にじさんじやホロライブの大型ライブでたびたび見られるAR演出や、山葵音楽学校の等身大アバターライブシステムといった特殊なバリエーションもあるものの、小〜中規模のイベントでは「ディスプレイ投影」のスタイルが主流と言えるだろう。


(一般的な中規模のVTuberライブ。リアル出演者がいる場合はスクリーンの前面に登場することが多い)

今回の「DOUBLE:」でも同様のスタイルでVTuberの姿が投影されていたが、従来のそれとは異なるところがある。全面LEDの高精細ディスプレイがステージの背景に設置された上で、それとは別にもう1枚、客席にほど近いステージ上にも大きな透過型LEDディスプレイが用意されており、そこにVTuber/キャラクターの姿を投影していたのだ。

つまり、図にすると、下記のようになる。


(「DOUBLE:」の場合:VTuberは青色で示した透過LEDに登場する)

そして、この透過LEDの透明度には、目を見張るものがある。

一度そこに「ある」とわかってしまえば普通に見えるのだが、スポンサーの映像が流れていた開演前の時点では、そこにあるディスプレイが「透明」であるとまったく認識できていなかったほど。ライブが始まり、トップバッターの電音部 港白金女学院の2人(黒鉄たま&白金煌)がステージ上に現れ、その背後でVJが流れ始めたタイミングで、ようやく「2枚のディスプレイを使っている」ことを理解した。客席の前方にいればすぐに気づけたのかもしれないが、少なくとも遠目にはまったく捉えられていなかった。

その透過LEDの存在を認識したところで、今度は映し出される映像の美麗さに驚かされる。


キャラクターを投影するライブの場合、ディスプレイの性能によっては、発色に違和感があったり、ちらつきや残像が見えたりしてしまうことがある。しかし、この日ステージ上に現れた港白金女学院の2人は、その立ち姿がくっきりと投影されているのみならず、大きく動いてもまったく違和感やブレがなかった。なびく髪や服の裾の揺れなどもきれいに描写されており、激しいダンスパフォーマンスのキレの良さまでもが、しっかりと捉えられていた。

ちなみに、今回のライブは一部を除いて写真撮影と録画が許可されていたのだが、「スマホのカメラでも透過LEDに投影された姿と動きをはっきりと捉えられるレベルだった」と書けば、そのすごさが少しは伝わるだろうか。実際のパフォーマンスの様子は「#DOUBLE_XR」で投稿されているので、気になる人はぜひチェックしてみてほしい。

透過LEDが拡張する「ライブ」表現と、奥行きのあるリアル×バーチャルのハイブリッド体験

ところで先ほど、図で説明した通り、2枚のディスプレイのあいだには本来の「リアルの演者のためのステージ」がある。

つまり、ディスプレイの数は2枚だが、レイヤーとしては3層構造になっているわけだ。リアルアーティストは2枚のディスプレイのあいだに立ち、背後の大きなディスプレイだけでなく、客席側に設置されている透過LEDを活用することで、奥行きのある演出の中でパフォーマンスを行える。言い換えれば、バーチャルな演出を“リアル”の側に持ってこれるわけだ。透過LEDの存在は、VTuberだけでなくリアルアーティストにとっても恩恵がある。

――などとライブの前半時点では考えていたのだが、しばらくして、レイヤーがもう1層あることに気づかされる。パフォーマンスの途中、客席側から見て透過LED越しに歌っていたDaokoさんが、そのディスプレイの前に出てきたのだ。客観的に見れば「歌っていたアーティストがステージ前方に移動した」だけなのだが、その時は「“こっち側”にも来れる!?」という、まるで空間を移動したかのような感覚があった。

“こっち側に来る”と言えば、「リアルとバーチャルのハイブリッド」を掲げるこのライブにおいて、長瀬有花さんの存在とそのステージはやはり象徴的だったように思う。バーチャルシンガーの姿で現れた長瀬有花さんが、瞬く間にリアルシンガーの姿になって登場する演出。長瀬さん自身が投稿しているダイジェスト映像の中にそのシーンがあるので、ぜひ下記ポストをチェックしてみてほしい。本当に一瞬で切り替わっていて驚かされる。

バーチャルからフィジカルへの“早着替え”にとどまらず、その後も2人で並んで一緒に歌ったり、バーチャルの自分を増やして(?)ステージ上で行き来させたりと、多彩な演出で魅せてくれた。

目を引いたのが、客席側に出てきて歌っていた長瀬有花さん(フィジカル)が透過LEDの向こう側に戻る際に、ステージ上を行き交う長瀬有花さんたち(バーチャル)のシルエットに紛れて、その姿を一瞬見失う場面があったこと。「3次元空間に存在する人間の姿が映像に紛れてしまって見えなくなる」体験は初めてで、不思議な感動があった。

夢が広がる、最新鋭のデジタル技術の実験場

前後のディスプレイをリンクさせた歌詞アニメーションや、幾何学模様の多重表現。「打上花火」に合わせてステージ上で炸裂する花火の閃光に、「水星」のサビで大きく映し出されるミラーボール。前後に重なる2つのディスプレイを活用することで、このような立体的な演出が数多く組み込まれていたのも「DOUBLE:」の見どころだ。

他方で、リアルアーティストのパフォーマンスでは、必ずしも常に透過LEDが使われているわけではない。そのため、ここぞという場面で立体的な演出が投影されると、急に目の前に映像が浮かび上がったような独特な緩急が感じられる。

透過LEDを使った一連の演出は、いわゆる「AR」的な表現だと捉えることもできる。ただ個人的には、VRのMVやパーティクルライブでたびたび見られる「視界ジャック」に近い感覚もあったかもしれない(VRのように演出が自分の頭の動きに追従するわけではないので、性質としてはまったくの別物なのだけれど)。

また、そのような映像演出とシンクロすることでパフォーマンスの臨場感を高めてくれる、音響面が非常に良かったのもポイントだ。


体の芯に響くような重低音にあわせて、色彩の暴力と言わんばかりのサイケデリックなVJを2枚重ねて展開されると、そのまま思考を手放してトリップしそうになる。視覚も聴覚もステージ上のアーティストに委ねて、ただただ音楽に全身を浸すかのようなライブ体験だった。特にtofubeatsさんのパフォーマンスでは、AIを使ったVJ演出によって良い感じに脳がバグらされて最高だったので、ぜひとも他のクラブイベントでも取り入れてほしい。

以上のような演出や表現が見られたライブ全体を改めて振り返ると、「ディスプレイを1枚増やすだけでこんなにも表現の幅が広がるとは思わなかった」というのが、まず思い浮かぶ素直な感想だ。

もちろん、「ディスプレイを1枚増やした“だけ”」などという単純な話ではない。間違いなく高性能・高品質なLEDディスプレイを使っており、奥行きのある演出を実現するためのシステムは、入念な調整を経て実装されているはずだ。加えて、見ている人により強く立体感を感じさせるためのVJや、逆に違和感を感じさせないための音響なども考慮する必要がある――と考えると、この日のためにかけられた手間を少しだけ想像できるだろう。

とはいえ、素直に興奮させられてしまった観客目線では、この試みの「今後」に思いを馳せずにはいられない。今回のライブだけでも多種多彩な表現手法が取り入れられていたが、透過LEDを使えばもっといろいろなことができるはず。ディスプレイに投影するだけではない、新しい形のVTuberの音楽ライブや、リアルアーティストとのコラボレーション、あるいは演劇やファッションショーといった、ライブ以外の分野での活用なども考えられそうだ。

ここまであれこれと書いてきたものの、正直なところ「実際に会場で見ないことには伝わりにくい」タイプの表現であり、現地で味わうことでその魅力を最大限に実感できる体験だったとも思う。今回の「DOUBLE:」は1日限りのイベントであり、アーカイブの配信期間も短かったため、残念ながら見逃してしまった人も多いかもしれない。

だが、公式ページやXのアナウンスを見ると「Vol.1」という表記が散見されることから、どうやらこれっきりではないらしいのだ。

「最新鋭の透過LED・XR・3DCG・モーションキャプチャーなどのデジタル技術を活用したハイブリッド音楽フェス」という文言をそのまま受け取るなら、この「DOUBLE:」というイベントは透過LEDに限らない、さまざまなデジタル技術を用いた実験と実践の場となるのではないだろうか。今回のような刺激的で楽しい音楽体験ができるライブが展開されていくはずなので、気になった方はぜひ公式Xをチェックしてみてほしい。

<電音部 港白金女学院>
01. 探す獣
02. MUSIC IS MAGIC
03. いただきバベル
04. Resist

<Daoko>
01. 御伽の街
02. MAD
03. spoopy
04. 月の花
05. Allure of the Dark
06. 打上花火
07. 水星
08. ぼくらのネットワーク

<長瀬有花>
01. fake news
02. アフターユ
03. 近くて、遠くて
04. 宙でおやすみ (feat. 長瀬有花)
05. 駆ける、止まる
06. 宇宙遊泳
07. ブランクルームは夢の中

<tofubeats>
intro
01. 陰謀論
02. PEAK TIME
03. STAKEHOLDER
04. I CAN FEEL IT
05. CAND¥¥¥LAND
06. EMOTION
07. REFLECTION
08. 自由
09. 水星

Photo by Kenichi Inagaki

公式サイト:https://double.activ8.co.jp/
公式X:https://twitter.com/DOUBLE_XRLive


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