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VTuber 2023.04.25

企業化と事業拡大、「REALITY Studios」の次なるVTuber戦略とは? 杉山代表インタビュー

今年3月、グリー株式会社がVTuber事業を展開する企業として「REALITY Studios株式会社」を設立。「KMNZ」、「VESPERBELL」などが活動するクリエイティブレーベルでの事業を引き受けつつ、新グループとして「FIRST STAGE PRODUCTION」を発表した。

これまで主に音楽分野でのVTuber活動がメインの事務所として知られてきた「REALITY Studios」だが、企業化によってどんな変化が起きたのか、また今後VTuber文化をどのようなアプローチで発展させていこうと考えているのか、そういった全体のイメージについて、REALITY Studios代表の杉山綱祐氏に話を聞いた。

VTuberファンの信頼を積み上げることが大事

――今回VTuber事業部門が独立して企業化したことで、これまでの「REALITY Studio」とはどのように大きく方針が変わるのでしょうか?

杉山:これまではREALITY株式会社の中で、アプリ事業と並行するかたちで、VTuber事業をある意味で試験的にミニマムに運営してきていましたが、今回の事業変更で、よりグリーグループの強みを活かすかたちで大規模に事業を拡大するといったところが大きな違いかと思います。

では、どういったことが大規模かといいますと、大きく2つあります。1つは弊社の運営するVTuber事務所を直立に複数化し、それぞれ独立して事業を走らせるということ。もうひとつは、日本に限らずグローバルな領域を前提としてのユーザー層の拡大を目指すといったことです。

――事務所の複数化といった話がありましたが、これまで貴社はKMNZやVESPERBELLなど直接の所属として参加しているVTuberユニットだけでなく、RK Musicのように独立したレーベルも参加しています。現状の企業全体ではどのような所属構成となっているのでしょうか?

杉山:
KMNZとVESPERBELLはREALITY Studiosの直下に所属しているVTuberユニットという認識で問題ございません。RK MusicはREALITY Studiosの子会社として含まれているかたちになっております。また今回の企業化後に発表されたFIRST STAGE PRODUCTIONも、ひとつのVTuber事務所として並列に所属しているという構成です。

――このグループ構成自体は今のところ再編の可能性などは無いのでしょうか?

杉山:
今のところ、そういったことは考えておらず、この形のままそれぞれの事業を拡大することを考えております。

――先程、お話にあがった通り、今年3月には、VTuber事務所FIRST STAGE PRODUCTIONが新設されました。この事務所は一体どのようなコンセプトのものでしょうか?

杉山:
これまでのREALITY Studiosは、音楽を強みにしたアーティスト色の強い印象がありましたが、FIRST STAGE PRODUCTIONは、総合エンターテイメントを土台とした事務所になると思っていまして、タレントそれぞれの夢や目標を実現していくようなかたちで、あえてジャンルを固定せずに進行していくことをコンセプトにしております。

――具体的には、どういった企画や配信などが行われることになるのでしょうか?

杉山:
今後、ファンの方々の反応やタレントそれぞれの特性を踏まえて決めていくことになりますが、デビュー後まもなくの配信で24時間のバラエティ企画なども行っておりまして、こういった企画は定期的に世の中に提供していきたいと考えております。

――事務所が新設され、規模も拡大というお話でしたが、各事務所内でのプロデュースやマネジメントなどについては大きな変更はあるのでしょうか?

杉山:
プロデュース面に関しては、これまでの路線自体を大きく変えることはなく、それぞれのグループ、事務所ごとの色のままに拡大を目指していくイメージです。なので、突然RK Musicが別の事務所になってしまうといったことはありませんし、企業化を機にプロジェクトを止めてしまうといったこともありません。それぞれのVTuberごとにファンの方がいらっしゃるので、その信頼を積み上げていけば継続できると思っています。そのためにも、信頼の積み上げをしっかりとやっていこうと思っています。

また、マネジメントに関しても大きく変更があるわけではございません。それぞれのグループと事務所が独立した存在となっているため、誰かが業務を兼任するといったこともありませんし、それぞれがひとつの会社のように動いているとイメージしてくだされば幸いです。

もちろん、より理想の形が見つかって、それに合わせて再編するといったことは今後2、3年のうちでありうるかもしれませんが、短期的には急激な編成変更は考えておりません。

メタバースアプリ「REALITY」との横のつながり

――あらためて、現在のREALITY Studiosの「強み」と呼べるところはどういったところだと認識されていますか?

杉山:
強みと言いますか、ひとつ特徴としては、グリーグループに所属していることであると思っています。VTuber事業はグリー全体のメタバース事業に属しているのですが、アプリ方面ではすでに「REALITY」が存在しているので、例えば、弊社のVTuberがREALITYに露出したりといったこともできますし、逆にグローバルに活躍しているREALITYのVTuberさんに弊社に所属していただくといったことも可能だと思います。そういった横のつながりを活かした展開ができるのが大きな強みかと思っております。


REALITYアプリ

――それは「REALITY」との連携も今後増えていくということでしょうか?

杉山:
当然、分社化したこともあって、それぞれの企業で独立採算で成長していく方針ではあるので、それを前提としたうえでの事業連携はやっていくことになると思います。また、グリーグループ全体で言えば、ゲームやアニメなど総合的にエンターテイメント事業をやっておりますので、そういった各グループとの連携によって生まれるコンテンツをVTuberファンの方々にも提供できるのかなと思っています。

――活動初期の頃のKMNZなどの一部のVTuberはREALITYアプリで配信をされていて、その後、YouTube側に活動をシフトしていった印象ですが、そこにはどういった経緯があったのでしょうか?

杉山:
当時の世の中的にVTuber事業はREALITYアプリを前提としたビジネスではなかったので、既存のビジネスとして盛り上がっているYouTube側での配信に力を入れていくべきだという背景がありました。

なので、現状もYouTubeなどの大きなプラットフォームを軸にしつつ、REALITYとも連携して、横への広がりをつくっていければと思っています。まだまだREALITY Studiosの土台を固めて、ファンの方の応援を増やしていくことが大事ですので、各グループでこの初期の状況をしっかりとしたものにしつつ、それぞれのサービスがより大きくなった段階では、それぞれのサービスを融合したような動きがお見せできるのではないかと思っています。

――アプリサービスの「REALITY」はVTuber志望の方が本格デビューの前段階に利用されているといったケースも多い印象です。そういった方々が後々、REALITY Studiosに所属されて活躍されるといった事例も今後期待できるのでしょうか?

杉山:
おっしゃるとおり、当然そういったことも想定していますし、これまでにもやってきたことではあります。

私個人としても、REALITYがグローバルなユーザーにリーチしているのは非常に魅力的なことだと思っています。ここまでリーチできるプラットフォームはあまり例がないのではないかと。今のVTuberビジネスは海外での展開も非常に力を入れている企業が多いなかで、そういった有利な点をうまく活用できれば良いと思います。

VTuber文化は長い目線で続けていくことが重要になる

――近年のVTuber業界では、ANYCOLOR社やカバー社などの上場といった大きな出来事がありましたが、他社のVTuber事業は現在も非常に目まぐるしいスピードで動いている状況です。そんな中で、REALITY StudiosはVTuber文化をどのように進めていきたいとお考えでしょうか?

杉山:
VTuber文化を「マス化」と「グローバル化」の両方の軸で勧めていきたいと考えております。これは私個人の話ですが、幼い頃からアニメやゲームがとても好きだったんです。しかし小学校の頃はそういったものに夢中になっていると、同級生から変な目で見られることも少なくありませんでした。ですが10年以上の月日が経った現在では、世の中がアニメ文化を受け入れる土壌はかなり広がっていますね。こういったコアだった文化がマスに広がっていくといった現象は、VTuber文化でも同様に起こりうると思っています。まだまだ、一部のユーザーの特殊なエンタメとなっている状況ですが、弊社の力なども合わせて、マスにより届くような状況にしていきたいと思っています。

もうひとつは、日本だけではなく海外での展開ですね。もちろん人口の多さからも英語圏が中心になってくるかと思いますが、スマホの配信アプリをきっかけに、すでに広がりはじめていると思います。自分たちはそれを後押しするようなかたちで、グローバルな地域に日本の文化を浸透させていければと思っています。

――他社ではグローバル向けのグループや事務所を専門に開設して事業を展開するといったケースも増えつつありますが、REALITY Studiosもそういった方向へと向かうのでしょうか?

杉山:
もちろん、考えております。我々が企業化された意義といった点でも非常に重要なことですので、事務所新設といった方向で動くことになります。プロジェクトについては、どういったプラットフォームでの活動が最適なのかといったことなど、我々のなかにある仮説を検証しながら、まずチャレンジしてみるという流れになるかと思います。

――また、VTuberの音楽系事務所に関しても、かなりの規模のものが増えており、レッドオーシャン化している印象ですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか?

杉山:
たしかに、業界全体が盛り上がってきたこのタイミングでどういった価値付けをおこなっていくかということは考えている最中です。ただ弊社の事務所に関しても、そういった流れの中で「負けない」規模感になってきているという自負もありますので、これまで積み重ねてきた資産をどう活かすのかという視点で企画を練っているところです。まだタイミングなどはお伝えできませんが、これからも今の事務所とは違ったカラーのグループが登場するといったことも考えておりますので、ご期待いただければ幸いです。

――ありがとうございます。これまでのお話を振り返ると、VTuber文化に対して継続的な投資を続けていこうというREALITY Studiosの意思といったものを感じられます。

杉山:
我々としては、この業界に対して熱意や本気といったものを強く持っていると自覚しています。例えばVTuberグループを試しに登場させて、ちょっとした失敗で止めてしまうといったことはありませんし、長い目での投資ということを非常に重要視しております。過去にグリーグループの創業者の田中良和代表が「10年後の企業価値」といった視点で事業全体を考えていると話されたことがありましたが、そういった視点をVTuber運営に対しても考えているといったところです。

なので、ファンの皆様からすれば弊社の所属VTuberを「安心して応援できる」のではないかと思っております。やはり「すぐに辞めそう」「撤退しそう」といった雰囲気になってしまうと、ファンの方は周囲の友人の方にも紹介しづらいのではないかと。そういった点を前提として動いていることをご理解いただけるとありがたいです。

――VTuberファンにとって、とても期待できる話をいただきました。ご協力ありがとうございました。


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