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にじさんじ 2022.09.27

「にじさんじ」事業統括プロデューサーインタビュー ライバーたちが長く活躍し続けるために必要なこと

2022年上半期以降も躍進を続けるVTuberグループ「にじさんじ」。6月には運営会社であるANYCOLOR株式会社がVTuber事業を中心に据える企業として初めて東証グロース市場に上場し、大きな話題となりました。

MoguLiveでは今回、ANYCOLOR株式会社の国内VTuber事業統括プロデューサーを務める、鈴木貴都氏にインタビューを実施。上場後の動向と変化をはじめ、NornisやROF-MAOなどのユニット展開、注目度の高いメディアミックス作品「Lie:verse Liars」、そして開催間近の「にじさんじフェス 2022」まで、夏季の大きな動きの裏側に迫ります。

新しく間口を広げるために「VTuber」というワードを外す

――本日はよろしくお願いいたします。最初に「上場後、ANYCOLOR社の中で大きな変化はあったのか」からお聞かせください。

鈴木:
コンテンツ制作やマネジメントの方針といった部分には影響はありません。ただ「我々の一挙手一投足が、経済系の新聞などのメディアでも扱われるようになった」といった変化は大きかったように感じます。

たとえばNornis(ノルニス)の発表があったときに、ティザームービーの報道が株式系の新聞やネットニュースにも掲載されたことは驚きでした。「我々の出したコンテンツが、今後はそういうところにも広まっていく」と思いつつ、普段ではリーチできないようなエリアに広がっていくのはプラスだと感じました。

――Nornisは上場後まもなくのタイミングでサプライズ発表がなされ、SNS上でも大きな話題になりました。そもそもどのような経緯で生まれたプロジェクトなのでしょうか?


(Nornis:町田ちま、戌亥とこ、朝日南アカネによる新ユニット。歌唱力に定評のあるメンバーで構成され、6月に発表された「Abyssal Zone」は、380万再生を突破している)

鈴木:
やはり大きいのは「『にじさんじ』そのものに対する間口を広げたかった」というところですね。

例えば、ROF-MAO(ろふまお)がスタートしてからはにじさんじのバラエティ方面での活動の枠を広げられたと感じています。先日「ろふまお全国行脚」シリーズが公開されましたが、ROF-MAOチームではバラエティ系の企画を多く仕込み、それを多くの人に評価いただいています。「では、次はどこだろう?」と考えたときに「次は歌だ」と。

ただ、「歌」に関しては、我々はすでにさまざまな取り組みをしてきています。Rain Dropsをはじめとして、ROF-MAOも歌を発表していますし、葛葉さんや樋口楓さんや月ノ美兎さんも、もちろんそうです。そのような今までの試みで、楽曲面では評価していただいていると思っています。

そこから今度は、「VTuberアーティスト」や「VTuberの歌」という枠をも超えたいと思ったんです。実は、各メディアにお渡ししているNornisの紹介資料では、「にじさんじ」というワードも極力出さないようにしているんです。「『にじさんじ』という名前を使わなくても、『Nornis』というアーティストの存在と楽曲を評価してもらえる」ような構図を作りたかったんですよね。

言葉を選ばずに言うと、すでに人気を獲得している3人のキャラクタービジュアルを使わずに、純粋に歌で戦いたい。だからNornisは、MVもティザーも全部、3人の――町田ちまさん・戌亥とこさん・朝日南アカネさんの――ビジュアルを一切使っていないんです。リリックビデオにしても、「Abyssal Zone」のMVにしても、「あの夏のいつかは」のカバー動画も、登場しているのはこの3人ではない、架空のキャラクターです。

「キャラクター性と人間性の両方が備わっていて、両方の側面でアプローチできる」ことは、VTuberの良いところだと思います。ただ、Nornisについては、歌1本で戦っていきたい。それが正解かどうかはわかりませんし、今後変わっていく可能性も十分ありえますが、少なくとも今はそのような気持ちでやっています。

「VTuberのシンガー」から「VTuber」というワードをなくした状態で世の中に認められることで、新しく間口が広がる。そうすることで、今まで見てくれなかった方々や、届かなかった領域に対しても、コンテンツが広がっていけばいいなと思います。

――「VTuber」あるいは「にじさんじ」という枠にとどまらないプロジェクトとして、純粋に「歌」で評価されるアーティストであってほしい。そういうことでしょうか?

鈴木:
そうですね。「にじさんじのNornis」ではなくて、「Nornis」という名前が広がってほしい。というのも、バンドの音楽を聞くときは、そのアーティストの所属する事務所の名前をあまり気にしませんよね。メジャーアーティストの所属レーベルを意識することは普段あまりありませんし、「大きいレーベルにいるから偉い」というわけでもないと思います。

もちろん、Nornisがきっかけになって、にじさんじにも興味を持ってもらえたら嬉しいですが、「Nornisの3人のことを好きになってもらえれば、それでいいかな」とも思っています。

――「にじさんじ」という枠にこだわらないプロジェクトという考え方自体が挑戦的なものに思えます。

鈴木:
チャレンジングなプロジェクトだと思いますし、一方で、ようやく我々が「『にじさんじ』そのものを大きくすることだけに注力しなくてもよくなった」という言い方もできるんです。

これまでは何よりも「1人ひとりを安定して生活させる」ために全体を大きくしようとしてきていました。ライバーが所属している事務所そのものが大きくなれば、得られる恩恵も自然と増える。それが所属しているライバー全員に対する、会社としての支え方のひとつでした。

ですが、それが去年から、ありがたいことに「にじさんじ」の名前が口コミで広がっていくフェーズに入っているんです。2021年のデータを見ると、明らかに「新学期に視聴者が増える」という傾向がありました。きっとファンのみなさんがお友達に紹介してくださっているのではないでしょうか。

みなさんの応援もあり、そのような段階に入ったことで、にじさんじ全体の施策だけではなく、個別の施策にもチャレンジすることができるようになりました。それが、NornisやROF-MAOであるわけです。なので、ROF-MAOも「にじさんじのROF-MAO」ではなく、「ROF-MAO」という名前が広がってほしいと思って取り組んでいます。

――昔から応援しているファンにとっては、「推しがさらに上の舞台で活躍してくれる」という嬉しさもありそうですね。

鈴木:
ただ、一方では「配信時間が減ってしまう」といったご意見もいただいておりまして……。ユニットなど別のプロジェクトでの活動が増えるほど、個人のチャンネルでの配信が多少は減ってしまうのは避けられません。と言いつつも、各メンバーは個人の配信もがんばって続けているのですが。

「ライバーが(一人の人間として)この先長い人生を生きていくための可能性を広げる」ということを考えると、一時的に配信頻度が多少下がってしまうことは、ある程度やむを得ないと考えている次第です。当然両方のバランスが取れるよう、会社としてマネジメント面での努力を広げているのですが、ようやく様々なことにチャレンジができる機会が巡ってきたのだから、自分の活動の枠を広げるような、色々なことに挑戦してほしいと思っています。そしてそのチャレンジの結果を配信という形でみなさんに還元できるよう、何事にも全力で取り組んでくれていると思います。

三者三様の挑戦と成長があった、3マンライブ「Aim Higher」

――ROF-MAOといえば、7月に開催された3マンライブ「Aim Higher」は本当に大盛り上がりでした。当日はTwitterの世界トレンド1位になり、その後のSNSの感想を見ていても、ライブの余韻が残り続けている印象です。この「Aim Higher」とはどのような企画だったのか、改めてうかがってもよろしいでしょうか?

鈴木:
先ほどのお話と同様に、「Aim Higher」もまた、「『にじさんじ』という枠を飛び出たい」という思いを軸に進めてきたプロジェクトでした。

弊社のこれまでを振り返ってみると、にじさんじ全体が一丸となったイベントが非常に多かったと思うんです。「FANTASIA」や「Virtual to LIVE in 両国国技館」、「Shout in the Rainbow!」に、そして10月に開催される「にじさんじフェス 2022」もそうですね。その一方で、「1アーティスト単位で立つイベントは、あまり実現できなかったな」という思いもずっとあったんです。

葛葉さんはソロイベントがあったので2回目ですが、さんは今まで単独でのイベントがありませんでした。ROF-MAOは結成後、有観客としては「Aim Higher」が初めてのイベントになります。

この座組には「ライバーが1人で舞台に立てるようにしたかった」という気持ちがあります。今回の「Aim Higher」を見ていても、ソロイベントの経験がある葛葉さんは単独でもトークをうまく回して、お客さんをちゃんと盛り上げて、話にオチを作ることもできる。ソロイベントの時よりも上達していたと感じました。

一方で叶さんは、配信以外の場では意外と1人で喋る経験がなかったんですよね。だから彼自身、今回のイベントでは新しいチャレンジがたくさんあったんじゃないかと思います。自分しかいないステージの上で喋って、歌って、踊って、全部を1人でやらなくてはならない。そういう状況はこれまであまりなかったので、経験をちゃんと積ませたいと考えていました。

実際、序盤は緊張する姿も見られましたが、最後には慣れてきて、しっかり喋れるようになっていました。そういった経験も含めて、「今までにできなかったことができるようになってほしい」と。

お客さんからは「ChroNoiRで出てほしい」「ROF-MAOはユニットなのに、なぜ2人は別々なのか?」という声がありましたが、ユニットで立つステージとソロで立つステージは、やはり明確に違うので。ChroNoiRでできることもあれば、1人じゃないとできないこともいっぱいある。だから、両方やる。それが大事なんですよね。10月のフェスではChroNoiRとして立つステージもありますし、本人のことを一番に考えてバランスを取っているつもりです。

ROF-MAOに関しては、甲斐田晴さん以外は何度もイベントに立っているメンバーなのでもうベテランです。とはいえ、甲斐田さんもそんなに緊張していないように見えました。あと、剣持刀也さんもMCで話してくれていましたが、彼らは「可能性が広がる」ことについてすごくポジティブに捉えています。ただ、4人とも「アーティストとして立つ」ことは初めてだったんですよね。

「にじさんじの○○」じゃなくて、「ROF-MAOの剣持刀也」「ROF-MAOの加賀美ハヤト」「ROF-MAOの不破湊」「ROF-MAOの甲斐田晴」として立った、初めてのイベントだったわけです。出演した全員のために企画して、それぞれの良いところをさらに伸ばせましたし、それぞれに足りていない経験値を埋めることもできました。結果、本当に良いイベントになったと思います。

――その後、サプライズの「連れ去り」のロケがあったわけですが(笑)、全国行脚のロケ自体に力が入っていて、ROF-MAOデビュー時を思い出させるような面白さがありました。

鈴木:
見ているかぎりでは好評でしたね。実はROF-MAOはですね……みなさんの見えないところで、まだ発表していないものを沢山準備しています。「個人の活動が減ってしまう」「活動が大変そう……」と不安に思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、タフな彼らは既にさまざまな活動を両立させた上で活躍してくれています。そして弊社はマネジメント事務所ですから、当然彼らの希望や体調を最優先にスケジュールを組み立てています。なので、これからも楽しんで見守っていただけると嬉しいです。

さらに別の話で、ROF-MAOについて「アイドル売り」と言われることがあるのですが、我々としては彼らを「アイドル」として売り出しているつもりはありません。もちろん、そのような解釈や受け取り方もできるとは思いますが、剣持さんとも話していたように、アイドル活動をするためのグループではないので。

その一方で、「アイドルをやりたい」というライバーがいれば、全力でサポートします。ただ自称していない肩書きをレッテルのように貼り付けてしまうことは、ライバーの可能性を狭めることにもつながりかねません。その点は我々も意識すべきだと考えております。

「VTuberにしかできないこと」を考えてたどり着いた「Lie:verse Liars」

――ここからは「Lie:verse Liars(リーバース・ライアーズ)」についてお聞きしたく思います。弊メディアでも関連記事が非常に読まれており、注目度の高さを感じるのですが、「そもそも、これは何か?」というところからお聞かせください。


(「Lie:verse Liars」:ANYCOLOR、KADOKAWA、BALCOLONYの3社共同事業で手がけるメディアミックス作品。ノベル作品およびコミックの出演キャストとして、にじさんじのVTuberが「俳優」として起用されている)

鈴木:
「Lie:verse Liars」は最初に私が企画書を作ったのが2020年の6月なので、実は結構前に立ち上げた企画なんです。現在では状況もさまざまに変化していますが、2020年当時のVTuberコンテンツは、リアルの番組に出現したり、アニメにキャラクター兼声優として出演したりといった、既存のメディアを踏襲するようなかたちで発信されることが多く、「VTuberにしかできないこと」といった企画があまり無かった状況でした。

そこで「VTuberにしかできないことって何だろう?」と考えたときに、ふと思ったのが「本人が何かの役になってマンガなどのIPに出演する」ということなんです。「キャラクターであると同時に、人でもある」という2つの性質を持っているVTuberでなければ、あるIP作品に本当の意味で「出演する」ことはできないんじゃないか、と。

参考にした作品としては、当然テレビ東京で公開された「四月一日さん家の(※)」があり、弊社の物述有栖さんも参加していました。この番組は、今考えても相当先進的な取り組みだったと思います。

(※「四月一日さん家の」:2019年にテレビ東京で放映されたテレビドラマ。VTuberを役名のある「俳優」として起用したドラマであり、ときのそら・猿楽町双葉・響木アオが出演。2020年には第2期「四月一日さん家と」も放映された)

それから、もう一つのきっかけとなったのは、個人的な話で申し訳ないのですが、ドラマの『逃げるは恥だが役に立つ』を見たことだったんです。エンディング曲を聞いていたとき、ふと「星野源さんが歌手もやってることは知っていたけれど、曲はぜんぜん聞いたことがなかったな」と思って。そのあとリリースされている楽曲を広く聞いたらハマってしまい、ライブのBlu-rayを買うところまでたどり着きました(笑)。そのとき「俳優が出演している作品をきっかけとして、そこに付随する他の様々なコンテンツへと深くハマっていく」といった方法論は、VTuberコンテンツにおいても成立するのではないかと気づいたのです。

2020年の当時はちょうどにじさんじライバーがアーティスト活動を始めたタイミングでもありました。遅ればせながらそんな時期に『逃げ恥』を見た結果、「自分たちでIPを制作して、ライバーたちが出演し、もしそれがアニメになればオープニングとエンディングもライバーたちが歌える」と、発想が徐々に膨らみまして。これはライバーたちにも新しい活躍の機会を与えることに繋がります。2022年の今でこそ、作品のオープニングやエンディングを担当する機会も増えていますが、それを「全部ワンストップで実現できる」と考えました。

また、この企画は立ち上げ段階から、複数のライバーに相談して意見をもらっています。
明確に反映した意見としては、声優さんの比率ですね。当初は弊社ライバーと声優さんとで5:5の割合でキャストを組もうと思っていたのですが、「出演陣は全員ライバーが良い」といった意見があったのです。

そういったさまざまな意見を反映させてもらいつつ、同時に、私としてはもうひとつの目論見がありました。それは「プロの声優さんと一緒に働かせていただくことで、ライバーにも技術的に得られるものもたくさんあるんじゃないか」と。

弊社には「声優」という仕事に興味を持つライバーも所属しており、プロの方と現場で同席できれば、背中をみて学ばせていただけるものも多いと考えていたんです。なので、主人公やヒロインなどの一部のキャストをプロの声優の方にお願いし、それ以外はライバーが務めるといった構成になりました。

――「Lie:verse Liars」の目指すところは「自社で運営できるメディアミックスコンテンツの作成」と「所属ライバーの活躍機会の提供」という2つの軸があるわけですね。

鈴木:
はい、まさにその通りです。

――「Lie:verse Liars」に対するファンの方々の反応を調べてみると「ライバーの○○さんが出演するなら何をするのか?」「どんな演技で見せてくれるのか?」といった部分への期待感が強い印象があります。このプロジェクトのコンセプト自体は伝わっていて、あとは本人たちのパフォーマンスを期待している状態なのかと。

鈴木:
ライバーについているファンのみなさんに期待してもらえているのはありがたいですね。コミック本誌での連載もありますし、もちろん小説は単行本が発売されるので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。

その一方で、「作品としておもしろい」と思ってくれた方が、そこからライバーに興味を持ってくれるようなことも今後はあると思っています。「YouTubeは普段あまり見ないけれど、アプリでマンガは読む」ような層にもリーチできると考えています。

それこそ「アニメで知った声優さんのCDを買う」ような感じで、作品を見て「あ、この作品に出演しているこの人って、こういう他の活動もしてるんだ」と興味を持ってもらえたら嬉しいですよね。1年後、2年後の話にはなるでしょうが、YouTube以外のファン獲得へのアプローチ手段として、そういう方向でも広がっていくといいなと思います。

――既存のメディアミックスとの違いについて他に特徴的な部分はありますか?

鈴木:
弊社はコンテンツメーカーではありますが、それ以前に「マネジメント事務所」です。なので、観点としては「ライバーをいろいろな人に見てもらうためにはどうすればいいか」が重要になります。

たとえば、マンガを読んでいる層に対するアプローチ方法として、「にじさんじ学園」や「さんばか〜にばる」などのコミカライズを展開していますが、これらは「新しいファンを増やす」よりは「ファンの人によりにじさんじを楽しんでもらうコンテンツ」だったとも思います。一方で今回のプロジェクトは「新しい人に知ってもらうには、新しい作品を作らなきゃいけない」という考えのもとに作られています。

なので、我々の考え方としては、「ライバーがどのように広がっていくか」という部分が起点にあります。「IPを広げていく」ことだけが目的ではありませんので、ほかのメディアミックスとはその点が大きく違うと思っています。

――今回の「Lie:verse Liars」をきっかけに、「にじさんじ」を知ったユーザーにとっては「作品の中のキャラクターがYouTubeで本当に実在している!」という感動があると思います。それは、以前のインタビューでお話いただいた、「にじさんじのライバーが現実に生きていて、自分たちの暮らしの中の延長にいるという実感を与えたい」というお話とも繋がるように感じます。

我々のVTuberに対する思想として「ライバーがこの姿で現実世界に存在するよう認知してもらいたい」というのがあって、その思想を上手く示せる広告とはなにかなと考えた時に出たのが「歩く広告」でした。

ライバーを等身大サイズで映して、道行く人たちに「この姿のまま、こう生きているんですよ」と示すことができたと思っています。
https://www.moguravr.com/nijisanji-interview-3/より)

鈴木:
そうですね。そういう新しいことを、コストを払ってでもやらなくちゃいけない。誰かが開拓していかないと物事は終わってしまうので、それが我々の使命だと思っています。

――改めて「Lie:verse Liars」の今後の展開について教えてください。

鈴木:
現時点で発表済みのものとしては、コミックとノベルの展開があります。コミックは「月刊コミックアライブ」本誌と、コミックウォーカーでの連載が、ノベルは「カクヨム」での配信が始まっています。ほかにはボイスドラマやボイスコミックもありますね。今後、作品として売れれば売れるほど展開も広がっていきますし、新しいキャラクター、つまり新しい出演者も出てくると思いますので、応援していただけると嬉しいです。

また、もうひとつお伝えしておきたいことがありまして、「Lie:verse Liars」の出演者は、ライバーも含めてその全員をオーディションで決めています。マネジメント側の目線として「このキャラが合うんじゃないか?」と考えることはありますが、そういった思惑とは無関係に、ライバーはどのキャラクターに応募してもOKという条件です。なので、3〜4キャラに応募してくる人もいましたし、1キャラに絞る人もいました。

選考の方法としては、まずテープオーディションを実施します。音響監督や製作委員会のメンバーでテープを聴いて、1キャラあたり3から5人ほど選抜。候補者にはスタジオに来てもらい、スタジオオーディションを行う――という流れでした。オーディション抜きで、指名して選ばれたライバーは1人もいません。選ぶ側も選ばれる側も本気で挑んでいます。

――なるほど……! 「まずは企画ありきで、誰が出演するのかもあらかじめ脚本に組み込まれているのかも?」という可能性も考えていたので驚きました。

鈴木:
実はそうではありませんでした。流れとしては、まず先に脚本ができあがっていて、オーディションをして、キャラクターデザインを作るのはその後です。また「Lie:verse Liars」の物語そのものは、どのライバーが出演するか、といったことを全く考慮せずに制作しています。ライバー個人の設定などを元にして作品の中身を作ってしまうと、それは結局二次創作になってしまいます。

――今後、ストーリーが進めば新たにキャラクターも登場すると予想できますし、出演したいライバーさんにも今後もチャンスがあるわけですよね?

鈴木:
そうなりますね。物語が深まれば深まるほど、登場人物もどんどん増えていくはずです。新キャラクターのキャストがライバーになるのか、声優さんになるのかは現時点で分かりませんが、今後もキャラクターは増えていきますので、楽しみにしていただければと思います。

大団円を迎えた夏の球場から、にじさんじ史上最大の「文化祭」へ

――次は話題を夏季に行われた大きな企画の話に移します。やはり特にインパクトを残したのが「にじさんじ甲子園」で、今年も前回以上の盛り上がりを見せました。

鈴木:
「にじさんじ甲子園」は本当に良いイベントだったと思います。今回もコナミさんをはじめ、弊社の制作チームも、もちろんライバーたちも、全員ががんばって盛り上げてくれました。

このイベントが夏の風物詩として認識していただいているのでしたら、本当にありがたいことだと思います。今回は「協賛」という形で、ahamoさんやナッシュさんなど複数の企業の方にも応援していただきつつ、広告としても活用されていたのも良かったところです。

実は今回「Google TV」にも、画面の一番上に「にじさんじ甲子園」のバナーを掲載していました。そのため今回、普段は我々のコンテンツに触れていない層の方々も、テレビ経由でアクセスしてくださったようです。本当に各部門の尽力があって出せた結果ですし、何よりもライバーたちががんばった結果、良いものを多くの人に届けることができたと思います。

――また8月末に公式チャンネルで定期放映された「にじヌ→ン」も夏季ならではの企画として定着していますね。

鈴木:
「にじヌ→ン」も今回はまた少し体制が変わりました。社内から構成作家や総合演出を入れたことで、全体的におもしろさのベースラインが上がった実感があります。

――今年の夏は恒例イベントが全体的にレベルアップしていて、それぞれがすごく盛り上がっていたように感じました。そこには出演者とスタッフ両方の努力があったことがうかがえますが、全体的な手応えをお聞かせください。

鈴木:
手応えはとてもありました。みなさんから見えている数字だけではなくて、我々が内側で見ている数字も含めて「本当に多くの人に応援していただいているな」と感じることができました。。「継続は力なり」と言いますが、長くやってきた効果を実感できている状態です。

それと同時に「まだまだ上を目指さないといけない」という気持ちもあります。新しいファンの方も増えてきたので、「より多くの方に魅力を知っていただき、この先もずっと見ていただくにはどうすればいいか?」ということも考える必要があります。すでに次のチャレンジについて考え始めていますが、まず次のミッションは「にじフェス」ですね。

――日に日に期待度が高まっている「にじさんじフェス 2022」ですが、全体を通しての見どころはありますか?

鈴木:
まず我々の思いとして、当然ですが、「このイベントを盛り上げていきたい」というものがあります。現在発表されているイベントとしては、10月1〜2日の「にじさんじフェス 2022」、そして9月30日と10月1日には4th Anniversary LIVE「FANTASIA」の振替公演です。

フェスが開催される2日間はそれぞれ朝9時から夜の18時までイベントをやるわけですが、「それだけでは、まだ足りない」とも思いまして……いや、足りないわけがないんですけれども(笑)、さらに楽しめるかなと思いまして。

そこで、9月30日の夜23時から翌朝5時にかけて、「にじさんじフェス2022 “前夜祭 DJ NIGHT” sponsored by にじさんじ」というDJイベントを秋葉原MOGRAさんで開催します。もう本当に「朝から夜まで全部楽しもう」と。DJイベントは現地で楽しみたい人も多いかと思いますが、会場のキャパの問題もあるので、インターネットで全編を無料配信します。ですので、もちろん家からでも楽しめます。

――にじさんじのコアなファン層には、DJイベントやクラブカルチャーが好きという方が少なくないので、このイベントに喜ぶユーザーの方は多いのではないかと。

鈴木:
そのようなファン層の存在は私も強く感じています。以前、無観客イベントになってしまった「SMASH The PAINT!! リリースDJパーティー」が私個人としてもとても良かったので、どうしてもあのようなイベントを有観客でリベンジしたかったんです。ぜひ、にじさんじファンだけでなく、DJイベントが好きな人にも見ていただきたいなと。

当時の様子を振り返ると、視聴してくださった方々にはクラブカルチャーが好きなお客さんが多かったんです。そこで初めてにじさんじを知った方も多くいらっしゃいました。今回はこの「前夜祭」という機会でぜひとも盛り上がってもらい、せっかくなら配信で新しく知ってもらって、翌日からの「にじさんじフェス」も配信で楽しんでもらえたらいいなと思います。

夜23時から朝5時までDJイベントが行われ、朝9時にはもう「にじさんじフェス」が始まるという、スタッフ陣にとっても非常にハードなスケジュールですが、年に1回のお祭りなので、全力でやりたいなと思っています。

2日間開催されるフェスについても、無料配信を多く用意しています。「前回のフェスは無観客開催だったから、YouTube配信が多かった」と思われている方もいるかもしれませんが、今回もほとんど全ての企画を無料で配信します。

もちろん、一部の有料ステージについてはオンライン視聴チケットを購入する必要がありますが、オープンステージはすべて無料でYouTubeで流れますし、ライバーが先生になって授業をする「ライバー特別授業」も一部を除いて配信されます。

今回は現実での入場券を非常に多く用意したのですが、一瞬でソールドアウトとなってしまいました。我々としてはありがたいのですが、現地に行きたかったのに購入できなかったお客さんにとっては、残念な結果になってしまったのではないかと思います。また混雑緩和の観点から企画参加券についても制限があり、その点でも残念な結果になった方がいらっしゃると思います。

ですが、「チケットを買えなかったから楽しめない」「企画にひとつも当選できなかったから楽しめない」ということにはならないよう、どういった形でも楽しんでいただけるよう全体を設計しています。実際のところ、現地でも全部を回るのは不可能なので……。「同じ時間に4つのコンテンツが走っている」なんてこともあるくらいには見るところが多いので、現場でも体験できなかったステージはYouTubeでアーカイブを見ていただければと思います。

――落選して落胆している方々も少なくなかったので、今のお話で安心できる方もいるのではないかと思います。

鈴木:
こうした形式のフェスの入場券は通常であれば売り切れしないものなので、それでも多く用意していたのですが……。もともと4ホール分しか借りていなかったものを追加で2ホール借りた、という経緯もあったりするので、可能な限り調整した結果ではあります。この反省点はもし次回開催があれば、しっかりと改善できるようにしていきます。

――リアルイベントに対するにじさんじの異様な力の入れ具合は定番となりつつありますので、具体的な内容についても楽しみにしております。

鈴木:
ぜひ期待して見ていただけたらと思います。今回、本当に採算が全く合わないことも多く用意しています。……なので、グッズを買っていただけると非常にありがたいです(笑)。

あと、少し話が逸れますが、今年2月に「NIJISANJI ID」「NIJISANJI KR」という別ブランドとして活動していたメンバーを、すべて「にじさんじ」に統合する発表をしました。なので今、弊社として見ているのは、「にじさんじ」「NIJISANJI EN」「VirtuaReal」の3つになっています。

元IDと元KRのメンバーの対応について気にされている方も多いと思いますが、今回のフェスを皮切りに、徐々に国内のイベントにも出演する機会が出てくると思います。3Dモデルに関しても、オープンステージの公演においてLazuLight3名とHana Macchiaの3D化が発表されました。

そのような状況を見ていただければ伝わるかと思いますが、海外のライバーについても、今後さまざまな展開ができるように体制の移行を進めています。昔から応援されている方ほど思うところもあるかと思いますが、もう少しお待ちいただければ、見守っていただければありがたいなと思います。

「新しいことをやめてしまったら、多様性は生まれない」

――最後に、にじさんじの運営面での今後の課題と、それを乗り越えるためにどのような施策を考えているのかを教えてください。

鈴木:
2022年現在、「にじさんじ」という存在は、間違いなく大きくなってきています。しかし、だからこそ、「自重で潰れる」ようなことは避けなければなりません。大きくなったからこそ、改めてもう一度、足元を見直さなきゃいけないフェーズになっています。社内体制やコンテンツひとつひとつについてなど、当たり前だと思っていたことから考える必要があり、大きな改革を進めています。

要するに「ライバーやお客様に満足してもらえる、より良い形があるんじゃないか」といった姿勢で再検討していくということです。一方では規模をさらに大きくしていくのも重要で、さまざまなチャレンジにも取り組んでいく必要があります。「変化」というものは、やはり新しいチャレンジから生まれてくるものだと思うので。

我々の活動について、ファンのみなさんからご意見を頂戴することも少なからずあります。NornisやROF-MAO、「Lie:verse Liars」についても、やはりファンの全員から受け入れられてるわけではないと感じることがあります。もちろん、我々に足りない部分は改善しなければなりませんし、ファンの方々からのご意見もありがたく感じています。

その一方で、新しいことに挑戦しなければ、全員が共倒れしてしまいます。それは会社としてだけでなく、一人ひとりのライバーの可能性を潰してしまうことにもなりかねません。ですので、変化を恐れず新しいことに取り組む姿勢は不可欠ですし、それこそが、みなさんが「にじさんじ」というものに対して昔から感じてくださっている良い部分だったり、多様性だったりすると思っています。

さまざまな人から「これがにじさんじの魅力だよね」と声をかけてもらえるのも、大勢のライバーが自由に活動して、予想外のことが起きているからだと思うんです。それこそ、よく話題に上がりますが、ローションカーリングだってそうですよね。「そんなことまでやるんだ!?」という。

ひたすらカードゲームをやってもいいですし、FPSばかり配信してもいいし、バンドをやってもいいですし、もちろんアイドルをやってもいい。とにかく本人たちがやりたいことを自由にやって、我々はそのサポートをしつつ、それがライバーたちの活動の幅を広げることにつながればいいなと。

とにかく、ROF-MAOも、Nornisも、「Lie:verse Liars」も、「Aim Higher」をはじめとするイベントの話もそうですが、今は本当にいろいろな意味で「幅を広げる」ことを止めてしまってはいけないように感じています。

コンテンツの中身もそうですし、お客さんとの接触面という意味でもそうです。もちろん、批判の声も受け止めながら、それでも止めてはいけない部分なんじゃないかなと。

そこには、そもそも「『にじさんじ』の多様性をみなさんに応援してもらって、ここまできたから」という思いもあります。立ち上げた4年前から常に弊社、そしてライバーたちはチャレンジをし続けてきています。Live2D中心のVTuberだって、当時は大きな批判がありました。ただ、新しいことをやめてしまったら、多様性は生まれない。だから、死ぬまで走り続けなきゃいけない。そしてそれができるのが弊社の良いところですし、このVTuber業界を長く成長させるために弊社が貢献できることだと思っています。

いろいろなご意見があるとは思いますが、どうか温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

――ありがとうございました。今後の展開にも期待しております。

聞き手・編集:ゆりいか
執筆:けいろー


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