Home » 【レビュー】実質約60万円、Apple Vision Proで実現した圧倒的高性能の威力


Vision Pro 2024.02.06

【レビュー】実質約60万円、Apple Vision Proで実現した圧倒的高性能の威力

米国時間2024年2月2日、Apple Vision Proが発売された。Appleが「空間コンピュータ」と銘打つこのデバイスは米国でのみ発売されるという非常に限定的な形で登場した。

筆者は発売に合わせて渡米。2月3日にデバイスを購入することができた。その体験談はどこかでするとして……購入後に滞在先でさっそく開封、体験してみた。本記事では開封するところからそのレビューをお送りしよう。

と、その前に……今回のApple Vision Proの価格だが、タイトルでは「実質60万円超」と銘打っている。本来、Apple Vision Proは256GBモデルの3,499ドルから。512GBモデル(3,699ドル)、1TBモデル(3,899ドル)とストレージによって金額が変わっていく。昨今の円安なドル円レートで換算しても50万円程度だ。

ところがこの掲示されている金額は「税抜」価格。米国では州によって消費税率が異なるので滞在している州や地域の消費税が加算される。筆者の場合は9.4%の税率だった。これにより、Appleに対して支払う明細は60万円近くになる。そして、もしApple Vision Proを日本に持ち帰る場合、入国・輸入時にさらに日本の輸入消費税(税抜価格の6%程度)を支払うことになるのでさらに数万円が加算される。購入を考えている人は注意が必要だ。

いざ開封

Apple Vision Proが収められている箱は大きく、そして重い。筆者はカリフォルニア州ロサンゼルスにあるApple Storeにて受け取ったのだが、多少の距離でも持ち運んでいると腕に堪えるほど。600g超の本体を入れる箱にしてはあまりに重厚な作りだ。近年AppleはiPhone等のパッケージの小型化を目指していたが、Apple Vision Proの外箱は明らかにその逆を行っている……ように見えてしまった。金額が金額なだけに、そして形状や素材的にもしっかり守る必要があるのかもしれないが。


(箱のサイズ感を伝えるためにiPhone 15 Pro maxの箱と重ねてみた)

さて、その箱を開けると……さっそく本体が綺麗に収められている。ガラス製の正面部分にはしっかりとしたカバーがかかっており、その表面を保護してくれる。

同梱されているのは、バッテリーとACアダプタ、換装用のヘッドストラップ、視力矯正のレンズを入れたときに使うライトシール(額当て)、レンズクリーナーだ。

Apple Vision Proはビデオシースルー型のヘッドセットだ。つまり、カメラを通して周りの世界を見るので、ヘッドセット自体は没入感を高めるようにできている。

予約時に頭を3D化するため、顔にフィットするフェイスパッドが付属。すっぽりと外界を遮断する。

頭に固定するヘッドストラップはヘアバンドのようなバンド状。これが個人的にはフィットした。側面のダイヤルを回して締めていくので、ずれなくて締め付けすぎないちょうどいいところを探したい。

ストラップの着脱はマグネットで引っ掛ける仕様。うかつにとれたり緩まないようにかなりしっかりしている。

ヘッドストラップはもう一つ、Meta Quest 3のような頭頂部もあるヘッドバンド型のものが付属している。ヘッドバンド型は締め付けがきつすぎる人もいるとのこと。とはいえヘッドセット自体は約600gと重い。できるだけ重さを感じず、首への負担も少ない装着にしなければならない。好みで使うのが良いだろう。

そしてバッテリー。いわゆるモバイルバッテリーのようなもので、専用ケーブルと特殊な端子でApple Vision Proに接続する。他のヘッドセットのようにUSB typeCを刺すのではなく、こちらもガッチリと外れないような工夫が施されている。


(バッテリーからのケーブル接続前と後。しっかりと引っかける)

このバッテリー自体はUSB TypeC経由で充電可能だ。別売りされている付属品を使ってもいいし、デスクなどで使うなら電源から直接の給電もしながら使える。筆者はAnkerの大容量バッテリーを接続して使うのが一番快適だった。

起動、そしてセットアップ

さてこれで起動準備が整った。ケーブルを接続すると電源がオンになり、Apple Vision Proを被るとディスプレイがつき、初期設定が始まる。まずはIPD(瞳孔間距離)の調整から。右上にあるクラウンを押し込んでいると勝手に調整が終わる。一瞬だ。

アイトラッキング、ハンドトラッキングなどのヘッドセットらしい設定から、Apple IDなどの入力までAppleのデバイスらしい設定を一通り終えると使えるようになる。

ユニークなのは、一風変わった自分のアバター「Persona」を作る過程だろうか。ヘッドセットの正面を自分に向けて持ち、ヘッドセットのセンサーを使って顔を上下左右に傾け、笑顔などいくつかの表情を登録すると、あっという間にアバターが完成する。Apple Vision Proの前面にはディスプレイが搭載されているため、声の案内とともに矢印などが表示される。

このヘッドセット前面のディスプレイは、自分の眼の前に人が現れたときに自分の顔を補完する「Eyesight」機能のためにある。今回のレビューではもっぱら自分が装着することが多かったこともあり、Eyesightの機能紹介にとどめておこう。


(Apple Vision Proを装着して鏡の前に立つと人間がいると認識してEyesightが起動する、ぼんやりしているし似てるとは言い難いが、やりたいことは分かる)

ハンドトラッキングのための手の登録、アイトラッキングのための眼球移動の設定もしっかりと行うことになり、個人用のデバイスであることは非常に伝わってくる。アップル公式もデバイスの共有は可能としているが、ハードウェア的にも設定的にも、本人が最も良質な体験ができる。

特にFace IDならぬ「Optic ID」は、いわゆる虹彩認証であり、装着者の目の情報でデバイスのロックを解除できる。つまり被るだけでロックが解除できるのだ。再起動したとき以外は暗証番号いらずでロックが外れるので、これは癖になる。

ここまでのセットアップで感じたのは、Meta Quest 3の初期設定などと工程自体は大して変わらないということだ。Wi-Fiなどの情報はiPhoneに表示されたコードをヘッドセット前面のカメラで読み取ることで同期される。一方、ロック解除のための暗証番号やApple IDは眼の前に浮かぶバーチャルキーボードで入力しないといけない。物理キーボードを繋げば回避可能かもしれないが、Bluetooth接続が初期設定時点でできるかは不明だ。

極上の高品質な体験がそこに

セットアップが終わると、いよいよApple Vision Proの体験が始まるのだが、そもそもセットアップの瞬間、Apple Vision Proを被ってディスプレイがついた瞬間に息を呑むことになる。

片目4KのマイクロOLEDパネル、そしてMacBook Airに乗っているM2に加えR1の2枚のチップを搭載しただけあり、描画は寸分の遅延もなく、高精細で文字がくっきりと見える。まさに眼前に4Kディスプレイが広がっている状態なのだ。XRのヘッドセットでここまで美しいディスプレイはVarjoのヘッドセットくらいでしか体験したことがない圧倒的に最上級の視覚体験だ。

そしてアイトラッキングを搭載しているので、目が向いている中心部分が最も高解像度に描画されるフォービエイテッド・レンダリングがその存在に気づかない程度に実装されている。高解像度でも処理能力を節約してマシンパワーをセーブしている。

Meta Quest 3やVIVE XR Elite,Bigscreen Beyondなどの各社のヘッドセットと比較しても、この性能は圧倒的と言える。

そしてその画質で見えているのは、これまた他の追随を許さないクオリティの現実の世界だ。Apple Vision Proの前面についている複数のセンサーで捉えられた現実の世界はどのデバイスで見た現実世界よりもそのものだ。明るさや照明の環境等によって画質は粗くなったりするが、遠近感に違和感がなく、歪みなどもない。こんなに現実がフルカラーでそのまま見えるのかとびっくりする。スマートフォンやPCの文字も視線さえ合っていれば読めるので操作も容易だ。


(歯を磨きながら自撮りもたやすい。ポーズでやっているのではなく、いちいち体験中にヘッドセットをはずすことなく歯磨きのような日常生活もできる)

カクカクと動作することもなく遅延などは感じられないし、位置合わせに関してはもはや言及するまでもないかもしれない。表示しているウィンドウなどは空間にピタッと固定支点存在するし、天井や壁に気持ちよく貼り付く、そして安全のための境界線の設定や周囲を見渡すなどのアクションは一切不要だ。

空気のように安定したトラッキング

高品質な体験を支えているのはそれだけではない、Apple Vision Proの操作は目と指で行う。

目の動きとはいわゆる頭を動かすのではなく眼球の動きだ。言ってしまえば、じっと見たらそれが選択できるというインターフェースだ。これはXRのデバイスに慣れてしまった人ほど最初は苦戦するかもしれない。

ウィンドウを閉じるためにはウィンドウの下部にあるバツ印に目を動かす必要があるし、ウィンドウのサイズを買えるためには右下のコーナーに目をうごかし、メニューを呼び出すにはギョロっと真上に眼球を動かさなければならない。慣れると非常に楽なのだが……。

そしてもう一つ特徴的なのが指の動きだ。他のデバイスと異なり、ポインターは目だ。そして目で見ているものを指で操作する。指で実際に物に触れることもできるが、ただの選択なら膝の上で「トン」と一回タップするような動きをすれば足りる。Apple Vision Proの下部についているセンサーが指の動きを捉えるので、腕を上げる必要はない。座りながら、テーブルに手を置き「トン」これだけで十分だった。つまむ動作で動かすなと、ジェスチャの認識は他にもある。

ちなみに、遮蔽物があると反応しないので、立ちながら体の横で「トン」としてもだめだ。この目と指の操作は慣れが必要だ。

と……ここまで自然に書いてきたが、この目と指の操作を実現する目のトラッキングと手のトラッキング技術がこれまた非常にレベルが高い。認識が飛んだり(トラッキングが外れたり、ぶれたり)することは一切ない。慣れさえすれば安定的に使える点は本当に高い技術を感じる。他のデバイスでは何らかトラッキングがはずれてしまうことがしばしばあるし、なかなか安定した操作とは言いがたかった。それがいきなり初代機から完璧なレベルで実装してくるのは、さすがアップルというべきだろう。

少ないボタン操作

なお、Apple Vision Proは先程の操作が基本的な操作となる。コントローラーはないし、ヘッドセット本体にはボタンが2つしかない。

左上にあるボタンはカメラのシャッターだ。押すとヘッドセットをカメラに見立て、写真や動画を撮影できる。Apple Vision Proのこの撮影機能で撮影した写真と動画は、いずれも奥行きのある空間写真・空間ビデオになる。Apple Vision Proなどのデバイスで閲覧する専用のフォーマットだが、これらについては次の記事で言及したい。

右上にあるもう1つのボタンは、クラウンだ。押し込むとホームシーンに戻り、ダイヤルのように回すと現実とバーチャルの比率を変化させられる。いわゆる没入感の調整だろうか。その時々によって現実がどれくらい見えていたほうがいいかは異なる。Apple Vision Proでは、没入度をユーザー側で好きに調整できるようになっているというわけだ。これもユニークな仕掛けである。

なお、細かな機能は紹介しきれないが、カメラのボタンとクラウンを同時押しするとスクリーンショットかとれたり、目線を上に上げてのメニューからは見ている世界の録画やAirdrop、ミラーリングなどの各種機能にアクセスできる。


(コントロールセンターでは、移動中に使えるトラベルモードへの変更や録画、iPadへのミラーリング、Airdropなど各種機能に対応している)

“ハードウェアのレビュー”はここまで

以上、ハードウェアとしてのレビューをお届けしてきた。いわゆるタッチアンドトライの感想ということになる。

とにかく、XRのヘッドセットとしてはリッチで、これまでにないレベルの体験をすることができる。現存するどのデバイスとも異なる超高性能なデバイスだ。

ここまで書いておきながら、実は筆者は考え込んでしまった。この記事を書くためにはセットアップからいくつかのアプリを体験したところまで、正味1〜2時間くらいほどである。性能が良いだけでなく、このデバイスにはもっと何かがある、そんな気持ちが拭えなかった。

なぜならApple Vision Proは圧倒的に高額だ。圧倒的に高いのだから、これまで技術開発してきた虎の子の技術を結集して圧倒的に高性能なXRヘッドセットを作った。プレミアムなMeta Quest 3、PCから解放されたVarjo XR-3。それは当然のようでもあり、それだけがこのデバイスの価格分の価値ではないように観じられたのだ。

続く記事では、Apple Vision Proとは何なのか?さらなる本質に迫ってみたい。


(おまけ、Meta Quest 3とのサイズ比較。ほとんど変わらないが重さはApple Vision Proのほうが100g以上重い)


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード