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VTuber 2022.01.29

VTuber渋谷ハルロングインタビュー 新プロダクション「merise」の目指していくもの

2021年10月にVTuberプロダクション「merise」が立ち上がり、VTuberファンのみならずネットユーザーたちの間で大いに話題となった。立ち上げメンバーは渋谷ハルまふまふそらるCrazyRaccoon。ミュージシャンとプロゲーマーチーム、そしてVTuberという多方面に強いメンツが集まっている。

今回はVTuber渋谷ハルに、注目の集まるmerise立ち上げの経緯や、「VTuber最協決定戦(以下・「V最協」)」など自身の活動について話をうかがった。

これまでのナレッジを新人へと受け継がせていくために

――10月に始動した「merise」ですが、現状(2021年12月時点で)オーディションにはどのくらい応募があったのでしょうか?

渋谷ハル:

一期生の締め切りを一旦行ったタイミングで、4万件の応募がありました。今コロナ禍とかも相まって、多くの方がVTuberやストリーマー界隈を観ていて、その中で興味を持った方が多い印象を受けましたね。年齢層は10代20代中心で、30~50代ぐらいの方も見られました。

――そもそもの話ですが、meriseが立ち上がった経緯をお聞かせください。

渋谷ハル:

僕自身がもともと「箱(※VTuberのグループや事務所のこと)」に興味が強かったんです。「Apex Legends」の仲良しチームとして「KNR(Knot Not Rank)」を立ち上げたのもそういった気持がきっかけでした。


(渋谷ハル、BobSappAim、あどみん、kinako、kawase、バーチャルゴリラ、Aleluで構成されたグループ」

それから自分がVTuberの新人に色々と教えて育てるって経験したいと感じていた時に、CrazyRaccoonのオーナーのCR.おじじから「やってみない?」っていう話をいただきました。

――もともとは渋谷ハルさん発案ではなく、CR.おじじさんからの提案だったんですね。

渋谷ハル:

「新人VTuberに色々教えたい」というアイデアに似た思いは「merise」のそらるさんとまふまふさんも持っていたようです。彼らは後発の人間が多く増えてきているタイミングで、自分たちが活動10年以上やってきた中で得てきたナレッジ(知識)を、しっかり後ろの世代にを受け継ぎたいと考えていたようです。

彼らも伸びていない頃はライブひとつ行うのもすごく大変で、がんばって様々な繋がりをつくってきたわけで、そういったものが(自分の代で)無くなってしまうのはもったいない。だからこそ、今後の新人にもしっかりと受け継がせていきたいっていう思想があったんです。

――「merise」は、渋谷ハルさんを含む複数人で運営するVTuber事務所という形式ですが、こういった形式のメリットはどういったものでしょうか?

渋谷ハル:

周りに協力者がたくさんいた方が、できることの幅は基本的に広がりますし、ここ数年活動してきて「1人で無ければできないこと」ってあまり無いのではないかとも思っています。

複数人が所属する事務所という形式のメリットとしては、例えば、「merise」所属のVTuberの音楽ライブなどを実施しやすいといった点ですかね。またメンバー皆で「Minecraft」や「Ark」といったゲームで配信できるといったことも、小さいながらメリットではあります。こういった多人数でのコラボはコンテンツとしての強さがありますので、それが気軽にやりやすくなるのは良いことです。

現時点では、各VTuberを「推し」として応援するだけでなく、グループ全体の盛り上がりを追ってくれる、つまり「箱推し」できるグループに愛されるようになれば良いなと思っています。

――現役でVTuberとして活動しつつ「merise」で新人をサポートするのはとても大変なことに思えます。

渋谷ハル:

正直なところを申し上げますと、今は立ち上げ時期なので裏方業務が多く、一時的に活動量が減っていると感じます。ただ、これが落ち着けば、むしろ活動自体をコレまで以上に活発にできるんじゃないかと思います。

新人VTuberが影響力を持つために必要なサポートとは

――もう少し「merise」という事務所の目指していくもののお話をお聞きしたいです。所属するVTuberにはどのような能力を発揮してほしいとお考えですか?

渋谷ハル:

運営から活動方針を厳格に決めるといったことは、あまり無いと思います。当人が持っているスキルを活かして、やりたいようにやってもらえたらいいなと。まずは配信メインで、しっかりファンと交流して自分たちの数字をつけていってほしい。大会への参加や企画の実施などはサポートしますし、それ以上のことを目指す方には全力でバックアップします。

――他運営陣の中には歌に関する知見があるメンバーがおられますが、例えば「音楽中心での活動をするためにmeriseに所属したい」といった志望者も受け入れることになるのでしょうか?

渋谷ハル:

正直なところ、音楽一本でやっていくのはちょっと厳しいかなとは思っています。いきなりハードルが高くなってしまうので、着実に(登録者数や視聴者数などの)数字を獲得していくのであれば、素の個性をアピールできる生配信に力を入れるほうが、現状は強いと思っています。meriseでの活動を全力で楽しんでもらうためにも、まずは数字を伸ばして欲しいですね。

というのも、数字があれば、やりたいことの幅は増えて行くと思うんですよ。例えば、音楽ライブを実施するにしても、事前にファンが多い方が来場してくれる方も増えますし、大きな企画をするにしても、同業者を巻き込みやすくなります。だからこそ、自分自身の持つ影響力をまずは獲得してほしいですね。ただ、音楽中心で活動していきたいといった要望が演者さんからあればもちろん全力でサポートさせていただきます。

――つまり音楽だけでなく雑談や企画、ゲーム実況など多方面に展開していくことになると。

渋谷ハル:

おっしゃるとおりです。ゲームに関してもプロ級の腕前が必要ということでは
全然ないです。実際、選考している候補者の中にはゲームがそんなに得意でない方も残っています。他のスキルと兼ね合いではあるんですけど、本人のスキルに合わせて活動を展開していく形になります。

――新人VTuberにとってデビューから影響力を持つことは一番難しいところですね。

渋谷ハル:

そうですね。ただそれでもやはり最初の段階で音楽ライブなどの大型企画ありきで考えてしまうと、努力の方向がぶれてしまうんです。「数字が伸びる→大型イベントを行う」というのが大事で、その順番を誤ると活動の方向性の狭まってしまいます。なので「数字」の部分は、merise側でサポートしていくことになります。

――具体的にどのようなサポートをされるのでしょうか?

渋谷ハル:

デビュー時のアセット(配信に利用できる素材などのこと)には気を使おうと思っています。一般的にVTuberさんがデビューする時、自分の姿一つだけの状態からスタートすることになりがちなのですが、最初のデビュー時から配信クオリティを上げてスタートできるようにしてあげたいです。

あとは、VTuber名を知っていただく機会をつくるのが本当に難しいことなので、そのバックアップは行うことになります。例えば、僕や白雪レイドと一緒にコラボ配信したりといったことですね。明確に人に目につく機会を提供できるのは、わかりやすいメリットかなとは考えております。個人的にソロで活動した中で一番しんどかった部分が認知度の向上なので、少しでも最初の障壁を崩していきたいです。

――お話を聞いていると、かなり親切なサポートですね。

渋谷ハル:

めっちゃ優しいです! なぜかと言えば、meriseの運営陣も個人から活動を始めている方が大半なんですよ。VTuber側のニーズを一番知っているって言い切れる自信があるぐらいなので、しんどい部分をカバーできるかなと。

――配信者の活動期間の目処などもあるのでしょうか?

渋谷ハル:

末永く活動してほしいですね。VTuberさん全てのコンテンツの寿命が短いと感じることがあります。1年先や2年先のことって結構分からないですが、それでも長くつづて欲しいですね。

また兼業も専業もどちらも大丈夫です。一昔前、僕がデビューした時期であれば、専業は怪しかったと思うんですが、今は専業の方も増えてきているようなので。運営としては兼用でも専業でも末永く活動していけるようにサポートしていきます。

――気になっていたことですが、運営陣では渋谷ハルさんだけがVTuber活動をされていて、他の方は別分野の専門家という印象です。その中でも、なぜ「VTuber事務所」というかたちにこだわるのでしょうか?

渋谷ハル:

少なくとも「merise」に関しては「VTuber事務所にしたい」というのが僕ら4人の総意です。おそらくリアル系のストリーマーやミュージシャンとVTuberが在籍する事務所もできると思うんですよ。でも今回は僕らがVTuberっていう存在に対するリスペクトがあるんだと思いますね。

僕自身は基本的にVTuberとリアルを完全に分け切らなくていいと思っています。実際VTuber自体がリアルのストリーマーさんとコラボするようになってきています。ただ、完全にそこをないまぜにする事務所というのは、ちょっとまだ早いかなっていうのが正直なところです。そこを隔てないことによって逆に、所属することになるVTuberさんの数字が伸びない可能性もリスクとしてあり得るかなと感じたので。

――ということは、他の御三方もVTuber事務所であることのメリットを感じられているわけですね。

渋谷ハル:

運営陣全員が長い間VTuber界隈の歴史を詳しく見てきています。細かいところに関してはもちろん僕からもフィードバックができますし、それを見た上で「VTuberで行こう」って話になっているので、彼らもそこに対してはメリットを感じていたり、リスペクトがあったりするのかなと思いますね。

最協決定戦は高校の部活のような熱さがある

――渋谷ハルさん自身の今後の活動についてもお聞かせください。これまで「VTuber最協決定戦」など競技運営も注目されています。今後はこういった企画についても、meriseでやっていくことになるのでしょうか?

渋谷ハル:

そこに関しては恐らく今まで通り個人主催という形で開催していくと思います。
個人で開催している理由は「他の企業の方が参加しやすいから」に尽きます。商業感を前面に出してしまうと、企業所属VTuberの方が所属事務所にお伺い立てないといけない空気が出ちゃうなあと思っていて。まぁ杞憂ではあるんですけれども、参加が難しくなるかもしれないじゃないですか。そうはなってほしくないんですよ。

単純に「楽しい大会だから参加した」だけでいい。僕自身もそれでお金儲けをしないから気軽に参加してね、楽しんでね、その代わりYouTube上での数字はちゃんと僕が出すよというかたちで今のところうまくいっています。

――これまで運営されて、一番うれしかったことは何でしょうか?

渋谷ハル:

参加者の方が喜んでくれることですね。参加する側がめっちゃ熱くなれて、「楽しかったよ」とか「また次回はないの?」って言ってもらえる瞬間が、僕は一番嬉しいです。

――参加者側は命をかけているかのような真剣さで挑んでいますよね。

渋谷ハル:

そうなんですよ。本当にギリギリの戦いで、何か一つ(状況が)変わっていれば結果も変わっただろうなっていうぐらいの熾烈さですね。ここまで全力で打ち込める熱いコンテンツってあんまりないと思います。

――回を重ねるごとに全体のスキルレベルが上がっているように感じます。

渋谷ハル:

上がっています。試験的な試みですが「V最協」に関しては、希望のあった各チームごとにプロゲーマーのコーチをつけることにしたんです。そういう方針にしたところ、やっぱりレベルも大きく上がった感じがします。

――大会本番の盛り上がりはもちろんですが、各参加者の練習を楽しみにしている視聴者も多い印象です。練習配信を通して、徐々にメンバーの仲が深まっていく過程が、学校の部活にあるような青春の1ページを見ているようです。

渋谷ハル:

本当に部活を見ているような感じですよね。初日って各チームバラバラですし、熱量もやっぱり違う。けれども勝ったり負けたりを繰り返していくうちに、本当の悔しさや嬉しさを感じる場面があって、その中で参加者の試合にかける想いがどんどん変わっていくんですよね。本番前には「ここは絶対勝ちたい!」っていう気持ちを全チームが持つようになるんですよ。

その1週間の過程すべてがコンテンツとして成り立っているので、視聴者側も「このチームの練習のあそこが良かった」といったかたちでコメントしてくれています。練習も含めてのV最協だと感じていますね。

以前から、この大会とプロゲーマーたちの競技シーンとの違いを考えていたのですが、各選手の技術のレベルの違いが明確にある上で、それでも全員が「勝ちたい」と願う熱があるというのが大きな差別化ポイントなのかなと思います。それこそ高校の甲子園のようですよね。

プロの競技シーンを盛り上げるために自分ができること

――「V最協」をきっかけにして、プロゲーマーの大会にも興味を持ち始めた視聴者も多いのではないでしょうか?

渋谷ハル:

「V最協」からプロの競技シーンを見始めたという声は多いですね。僕はプロゲーマーさんの試合が好きなんですけど、まだまだ競技シーンってプレイヤーの数と比較すると観られていない場所なんです。観たらめっちゃ面白いんですけど、観るきっかけが少ないので、そのきっかけの一つになるかなと思っています。

――個人的には意外な答えです。プロゲーマー界隈はすでに過去から相応の盛り上がりを見せていると捉えていたのですが、VTuberやストリーマーたちの影響が非常に大きいのですね。

渋谷ハル:

V最協やCR カップは公式視点が多い時で10万、20万の同接がつくのに対して、公式大会ってつい最近のアジアリージョンファイナルでも2、3万ぐらいだったので、まだまだ少ないと思っています。一昔前は同接が数千とかで、これでも本当に増えたほうなんですけどね。

――「V最協」の盛り上がりをきっかけに、視聴者を競技シーンにも案内していきたいという思惑があるのでしょうか?

渋谷ハル:

あります、もちろんです! 僕自身いろんな界隈がどんどん混ざっていってほしいって思っているので、だからこそVTuberではないプロゲーマーさんに関しても、コーチといった形で絡んでいただいています。

だからこそVTuberではないプロゲーマーさんを、選手ではなくコーチとしていれる形で絡んでいただいています。

コーチのお名前がVTuberファンにも知れ渡るし、逆にVTuberの方は技術を提供していただける。win-winの関係が築けた時に、コーチの方のチームを応援するきっかけも生まれると思います。

――もともとプロによるゲーム大会が好きというのも活動のモチベーションなのでしょうか?

渋谷ハル:

ゲームが根本的に盛り上がってほしい、もっと長く続いてほしいっていうのが一番です。プレイヤーってゲームを長くプレイしていても、いずれは飽きがきたりして限界がきちゃうんですよ。でも観る分には際限ないところがあります。だからこそ観る楽しさをもっと、多くの人に知ってほしい。競技シーンは「観るための楽しさ」に最適化されたコンテンツなので、そこはもっと観られるべきじゃないかなと思っています。

――「APEX」も「観る楽しさ」を求めて多くの視聴者が集まっているコンテンツのひとつですが、そもそもなぜVTuberの間で「APEX」がこれほど盛り上がってるんでしょうか?

渋谷ハル:

とっつきやすさですよね。基本プレイ無料ですし。あと僕自身から「PUBG」から「APEX」へと主戦場を移行した際に感じたのが「わかりやすさ」でした。

例えば「PUBG」の場合、武器のカスタムを1個拾おうと思っても、形の違うグリップが数種類あるんですよ。しかも「これが最適!」という明確な答えが無く、人によって使い方がバラバラなんです。

一方の「APEX」では、とりあえず落ちているアイテムに視点を合わせて拾うキーを押していくと基本的にはだんだん装備が強くなっていきます。分かりにくい情報が少なくて、知識量がそこまで重要ではないから、初心者でもプレイしやすいのかなと思います。

僕はゲームで一番大事なのは初心者だと思っています。初心者が途絶えない限りはゲームは生き続けていきます。初心者が負けるのは当たり前ですが、何だかわからなくて負けた場合と、わかった上で負けたのって全然違う。何もわからないまま負けてしまうと変なストレスがかかってしまうんですよね。

――世界的にはストリーマーたちの主戦場といえば「フォートナイト」という印象です。「APEX」がこれだけ日本で流行っているのには、なにか独自の理由があったりするのでしょうか?

渋谷ハル:

実際、日本だけ「APEX」が流行っているという状況ではありますね。海外では「フォートナイト」や「CoD」とかが結構数字持ってるのに対して、日本市場だけ異常な量の「APEX」の数字持ってるんですよね。

やっぱりストリーマーやVTuberがどこの配信でも「APEX」をやっているので「流行っているからやる」っていう層がいるのも大きいのかなとは思います。鶏が先か、卵が先かみたいな話ですけどね(笑)。

――個人的にはプロゲーマーたちの本格的な大会を観ていなかったのですが「V最協」をきっかけにして、参加者を応援する楽しみを与えてくれたのは、ありがたかったです。

渋谷ハル:

「V最協」の良いところは、ゲームを知らない人でも興味を持ってくれるところだと思っています。出場しているVTuberを見てるうちになんとなくゲームのことも理解して面白さを発見できるようになる。そこからゲームをプレイしてみる…というステップになってくれたらいいなって感じますね。

――貴重なお話ありがとうございました。最後に2022年のビジョンを教えて下さい。

渋谷ハル:

「merise」のデビュー時期は大体3月ぐらいを目処にしています。4万件の申し込みは処理し終えて、かなり絞られた段階になっています。

「merise」の面白いところのひとつは、箱が育つ様子を見られるという、他にない体験だと思います。そのためにも隠しすぎるのはもったいないなと思っています。どんな感じで箱が育つのかって、めちゃめちゃ面白いエンタメだと思います。

僕らはやっていきたいことが無限にあって、これもやりたいあれもやりたいとよく話していますが、僕自身、何か仕掛け作ったりするのが得意なので、多分また皆さんがアッとなるような何かしらを作れると思っています。楽しみにしていただきたいです!

――ありがとうございました!

執筆:たまごまご


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