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VTuber 2018.11.25

特集:物語化するVTuber① にじさんじSEEDs「OD組」が紡ぐ“劇場型青春”

VTuberの中には、鳩羽つぐカフェ野ゾンビ子ピクセル子のように物語仕立ての動画をあげるスタイルがたまに見られます。一つの世界観の中、本人はこちらに語りかけているけれども、そのバックで何かが動いている、というものです。

このような物語展開を生配信の中で行うVTuberが登場しはじめています。今回はそのケースの一つとして、にじさんじSEEDs「OD(おなえどし)組」を紹介していきます。

劇場型配信の特殊なスタイル

配信の方法がかなり特殊なので、簡単に説明します。基本的には、一般的な生放送と同じ。こちらを向いているVTuberが視聴者と語り合う形式です。

配信でしゃべっている最中に、伏線が撒かれたり、何らかの事件が起こったりします。どこからが事実で、どこまでが演技か、わかりません。バーチャルですから。
こうなると、視聴者はただの観客ではなく、そこで起きている出来事の当事者になります。書き込んだコメントをVTuberが読んだら、自分もその世界の事象に参加することになってしまいます。

「演劇」に近いのですが、物語型・劇場型配信の場合は、演じている側と視聴者に壁がありません。むしろ配信者側が積極的に視聴者に働きかけています。

例えるならば遊園地のヒーローショーやディズニーランドのパレードに近いかもしれません。場合によっては視聴者が選択する場面があらわれるような「ゲーム的な仕組み」が盛り込まれることも。

OD組の1人・鈴木勝の初配信がこのスタイルをよく使っており、本人は「劇場型企画」と名付けています。(以降この手法を「劇場型配信」と記述します)

厨二病まっただなかの13歳の少年が、ライブ配信時に謎の部屋に閉じ込められているところからスタート。脱出ゲームのように進みながら、視聴者と会話を続けていきます。途中から視聴者に対しての選択肢が出てきたり、ミニゲームを解いたり、画面は次々変わります。
配信全体が、自作のゲーム風画面。ライバーが「コメントと会話する」「視聴者と一緒にゲームを解く」「事件の全貌を解明し、話を進める」ことで物語が完成する。リアルタイム進行で、みんなと配信を作っていくこと自体が、作品表現になっているスタイルです。

OD組の出会い

ここから先、OD組の物語に触れていきます。なるべく致命的なところは避けていきますが、「ネタバレは絶対いやだ」という方はご注意ください。

今までの一連の配信・動画は下記の再生リストにまとめておきます。こちらの「OD組ストーリーパートまとめ」のリストを順に見ることで、彼らの物語を追うことが出来ます。一部動画が削除されたものもありますが、意図的な削除のようなのでそのまま残しています。

また、動画視聴にあまり時間を取れなかったり、「おおまかに物語のあらすじを理解しておきたい」という方には、下記のまとめ記事「12時間あるいは10分でわかるおなえどし組」をオススメします。

OD組ストーリーパートまとめ(Youtubeリスト再生)
12時間あるいは10分でわかるおなえどし組 – がんがんもんもん

SEEDsの鈴木勝、寝るのが好きな少女・出雲霞、背伸び御曹子・卯月コウの3人は、13歳の同い年。「おないどし」を鈴木勝が言えず「おなえどし」と言ってしまったことが元ネタの「おなえどし組(OD組)」を結成します。一番最初のコラボ配信から既に劇場型になっており、仕込んだユニークなネタを次々繰り広げていきます。

ところが、鈴木勝の配信で、事件が起こります。

卯月コウと出雲霞が登場。一見、今まで通りですが、どうも異常なことらしい。というのも2人はバーチャルな存在(メタ的に、視聴者から見た卯月・出雲の状態)なのに、「バーチャル化していない自分が、現実の街で出会ってしまった」ということらしい。詳しくはラスト数分で描写されますが、本当にやばかったことが遂に明らかに。

この後、YouTubeのみならず、MirrativTwitterにも謎がばらまかれます。これには視聴者も大混乱。なんだか茶番と言えない、ヤバイことが起きている。

出雲霞の異変


並行して展開していたのが、出雲霞の配信。一番最初は「色々な自分」みたいなものを突然披露。1人で会話を始めます。

そういう芸なのか、イマジナリーフレンド的なものなのか、多重人格なのか。この時点では全くわからない状態だったので、そういうネタだと思った人のほうが多かったようです。なおMirrativ録画なので見られませんが、コメントは流れていました。

鈴木勝・卯月コウと出会ってからは、徐々に出雲霞まわりで不穏な空気が見え隠れしはじめます。いかんせん、普段は「一般的な配信」を行っているし、おかしな時も視聴者とはやりとりしている。何が起きているのか全くわからないので、何もかもが伏線に見えてきます。

投下された動画で、今まで「当たり前」に見えていたものが、「危険な事態」だったことが判明していきます。コメントした視聴者は、既に赤の他人ではありません。

夏祭り、そして夕やスミ

SEEDs24時間のコーナーのひとつとして、OD組の夏祭りの様子が配信されました。もちろんこれも生放送。コメントを拾いつつ、3人で夏祭りを楽しむ様子が見られます。特にラストのエモさと言ったら。ガチのドッキリだったようで、コウ本人がウルウルに。

変な出来事はまるでなかったかのように、幸せな青春を見ることが出来ます。この回単体でしっかり楽しめる演出とトークになっているのですが、実はこの後展開される物語の伏線ががっちり仕込まれています。一部はわりと露骨なので、すぐ気づくはず。他の部分は一通り物語を知った後じゃないと、ピンとこないもの。

鈴木勝「毎年行くんだよって。コメントもあったけえな」
出雲霞「来年も、その次も、一緒に行こうよ」
卯月コウ「来年も、じゃあ…約束で」
鈴木勝「改まって言うなよ!なんか深刻だなおい!」
出雲霞「なんか大げさすぎない!?」

以前も今回も、卯月コウが、未来に対してものすごく執着し、極度に約束にこだわるのが気になってきます。

その後に始まったのが、出雲霞の「夕やスミ」シリーズ。普段の配信の他に、自分の学校を紹介してまわる、という内容で、基本的には視聴者との会話で配信は展開しています。このパートで今までの伏線が一気に回収され、事態が急変します。

「夕やスミ」シリーズは一見普通なトークですが、中にはトークが不自然なループをする奇妙な回も。卯月コウ・鈴木勝との関係が重要なのも次々と明かされていきます。

以下はクリティカルなネタバレを含むので、見る際はご注意ください。

劇場型企画としての、クライマックス。視聴者は完全に、物語の一部になります。ここから先、視聴者は今までの仲良しOD組として3人を見ることは許されなくなります

その後、とりあえずの一段落となり、その直後にやってきた出雲霞の誕生日回。前半はSEEDsの他のメンバーが演劇を行いながら、お祝いされます。後半は八朔ゆずの機転で、3人だけのお祝いに。

明るくなった出雲霞が、2人に今日だけのわがまま。いつもどおりブーブー言う2人。でもちゃんと、伝えます。

卯月コウ「お誕生日おめでとう、でも、お友達になってくれて、ありがとう」
鈴木勝「生まれてきてくれて、ありがとう」

2人が出雲霞の謎を理解した上での言葉なので、重みがある。でもそこに踏み込みすぎること無く、今までどおりの仲良しを貫こうとする3人。誕生日はだけがわがままが言える、という霞に対し、2人は言います。

卯月コウ「80回くらいはわがまま言ってこい」
鈴木勝「80年後のわがままって何言われるんだろうな」
卯月コウ「ほうじ茶一気飲みでしょ」

80年後も一緒にいようね。各々が現状を飲み込んだ上での、果たされるかわからない、だけど果たしたい希望が、しれっと語られます。

終わらない日々

ODが組のお誕生日やハロウィン配信がとても幸せなものだったので、ここで一段落したかのように思えました。しかしそうではないようです。応急処置的にこの場はおさまったけど、実は3人の状況は根本的な解決をしていません

https://www.youtube.com/watch?v=O–3TaG8ZFA

裏で奔走していた鈴木勝。彼自身の問題は何一つ解決されていない。ハロウィン特別配信のでびでび・でびるとのやりとりが非常に意味深です。

出雲霞も「とりあえず」今はクリアしたけれども、一番大事な部分は解決できていません。
そして何より、現時点で一番動きがない上に、おそらく重要な鍵になる卯月コウは、沈黙を保ったままです。出雲霞と鈴木勝の配信では、その片鱗を見せていますが……。

生配信スタイルの劇場型展開は、「どこが終わり」なのか一切わからないのが魅力の一つ。3人のバーチャルな人生はこれからもずっと続くわけで、その人生をリアルタイムで追える楽しみが、視聴者にはあります。

劇場型生配信の難しさと価値

物語の伏線や真相を、ずっと胸に秘めたまま3人がライバー活動をし続け、今も一切漏らしていないのは、かなりすごい。ライバーとして画面の中にいる間、ずっと心に何かを秘めて、「自分」を演じ続けている、ということです。

生配信演劇は、編集ができない一発勝負のもあり、きわめて難しい手法。
コメントを読んでアドリブを入れていかねばいけない。小道具や背景、音楽、ムービーなども随時切り替える必要がある。しかも切り替える休憩時間は無い。時にTwitterなども管理しなければいけない。余計なネタばらしをしてしまう危険を避けなければいけない。
何より、その時の配信の結果が、この後の配信に直接関わってくる。

「これがね、生配信の恐ろしさですよ。自分の書いたシナリオどおりにはいかない。人生ってそういうもんですよね」(夕やスミ第6話「再」)

自分の思い描いた通りのシナリオは、完全に再現できないことも何かしらあるのでしょう。とはいえ視聴者から見るとその変化したシナリオが事実。本来の台本か否かは関係ありません。それでもなお、演劇とは別スタイルの劇場型生配信は、視聴者が体験できるエンタテイメントとして唯一無二のものです。

OD組の話を今から「全部」を見て追いかけるのは、正直とても難しいです。TwitterやMirrativ分まで含んだ事件を全部追おうとするのは、アーカイブがないものもあるので、ほぼ不可能。

とはいえそこは、「無理しなくていい」と思います。とりあえず一個でもアーカイブを見て「何か変わったことやってる」と感じられれば、その体験で十分楽しめるはずです。生配信中に何かが突然起き、急に事態が変化し、巻き込まれる、ドキドキ感。

にじさんじSEEDsは全体で、このような「VTuberにしかできない公演・茶番」を行うことがあります。先日行われた「SEEDsシェアハウス」は、名伽尾アズマが7億円当てて、全員がシェアハウスに一緒に住むことになった、という全員参加の大規模コラボ。

https://www.youtube.com/watch?v=Lzi6iimGeeQ

どういう無茶な冗談だよ!と思いきや、実はこれが「向こうの世界の現実」な部分があるらしく、出雲霞は最近の配信で、SEEDsシェアハウス生活を始めた旨を、リアルに語り始めています。この「夢現の境界線」が見えない表現こそ、バーチャルな面白さ。

ちなみに今後、演劇「SEEDsマフィア」が公演されるそうです。それぞれのライバーの生き方とは無関係の、完全な演劇だそうです。生放送一発勝負で、どう見せてくれるか楽しみ……!

このような劇場型企画や演劇は、ODが組やSEEDs以外にも行われています。この点は今後、別の記事でも扱っていきます。


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