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業界動向 2018.12.30

【年末企画】2018年のVR/AR/MRデバイスを振り返る

VR元年と言われた2016年から、今年2018年で2年が経過しました。2016年には多数のVRヘッドセットが発売され、「VR元年」と呼ばれる年に。2017年は2016年ほどの衝撃はなかったものの、各種デバイスの値下げや投資の増大により、VR/ARの普及が着実に進んだ年となりました。

翻って、今年2018年はVR/AR/MRにとってどのような1年だったのでしょうか? 本記事では今年1年のあいだに発売されたデバイスや、情報が公開されたデバイスの歩みとともに、これらの流れを振り返ります。

ハイエンド:高解像度化やさらなる快適さへ

PCと接続して使用するタイプのハイエンドVRヘッドセットの分野では、アジア圏の奮闘が目立った1年でした。4月には台湾のHTCから「HTC VIVE」の上位モデルである「VIVE Pro」が発売され、12月にはStarVRが開発した「StarVR One」が発売、その他にも中国企業Pimaxが開発した「Pimaxシリーズ」が相次いで発売されています。

また、日本国内でも動きがありました。12月、株式会社ジャパンディスプレイ(JDI)は、高画質なVR映像を視聴する事に特化したVRヘッドセット「VRM-100」を発表・発売しました。国内発のVRヘッドセットであることに加え、「PC接続であるにも関わらず3DoF」という特殊性から驚きをもって迎えられています。

さらに、Facebookの開発者会議F8で発表されたOculus(現Facebook)の次世代VRヘッドセット、「Half Dome」の存在も見過ごせないところです。

VIVE Pro:コンシューマだけではなく業務利用も進む

「VIVE Pro」はHTC VIVEの上位機種として1月に発表され、4月に国内販売がスタートしました。ディスプレイ解像度が向上(両目で2160×1200→2880×1600)し、HTC VIVEではオプションだったヘッドフォンが内蔵されるなど、様々な機能面の向上が見られます。

発売から約4ヵ月が経過した8月には、VIVE Proを所有する法人向けに追加の保証やサービスを提供するサービスパック「Vive Pro/Vive Pro HMD⽤アドバンテージパック」の販売が開始され、その業務向けの利用を後押しする形となりました。

VIVE Proはエンターテインメント向けの利用にも一定以上の人気がある一方、イベントにおける展示や業務活用などにも注目が集まっています。

StarVR One:超ハイスペックだが出荷遅れ

2017年にリリースされた「StarVR」をバージョンアップした「StarVR One」。アイトラッキングや非常に広い水平視野角(210度)を有しており、VRアーケードなどの施設型VRや法人など、B2Bの利用を目指しています。

日本国内では8月、発売に先駆けて国内初となるStarVR Oneを使用した展示会が開催されました。12月には開発元のStarVRと日本企業である株式会社リンクトブレインが業務提携を発表しました。リンクトブレインはこの提携により、商用利用を目的に国内の自動車・建築・製造物流を対象にしたVRコンテンツの開発を行う予定です。一方でStarVRの親企業であるStarbreezeは経営再建中であり、その先行きは注意深く見守る必要があります。

PImax 8KやVRM-100など

中国Pimax社によるVRヘッドセット「Pimaxシリーズ」のフラッグシップモデルが「Pimax 8K」です。その名の通り8Kの解像度を実現したこのVRヘッドセットは、2017年にクラウドファンディングで多額の資金を集め注目されました。本来2018年1月の発売が予定されていましたが、デザインの変更などを理由に延期が重なり、最終的には2018年12月に一般販売開始となりました。

Pimax 8kの販売開始と同時に、下位モデルのPimax 5K Plus、Pimax 5K Business Edition (BE)も販売が開始されています。

また昨年2017年2月に発表され、2018年11月に開発者向けの販売がスタートした株式会社ジャパンディスプレイ(JDI)のPC向けVRヘッドセット「VRM-100」は、ある種の”変わり種”として注目が集まりました。

VRM-100には、他の多くのVRヘッドセットで採用されている有機ELではなく、液晶ディスプレイが使用されています。この液晶ディスプレイはスマートフォンをVRモードにしたときのように左右に分かれた構造で、1440×RGB×1600の液晶パネルが2枚搭載されています。解像度は、2880 x RGB x 1600 (615 ppi)と解像度の数値上はVIVE Proと同等ですが、液晶のサブピクセルが全て配列されていることで、より高精細な映像を提供します。

他のハイエンドなPC向けVRHMDとは異なり、外部ヘッドトラッキングセンサー及びコントローラを省くことで、高画質なVR映像を視聴する事に特化している点(いわゆる3DoF、回転のみをトラッキングする)がユニークな点となります。非常に高画質な映像を出力できるデバイスであることからも、6DoFでない点が惜しまれるところ。今後の展開に期待がかかります。

Half Dome(Oculus)への期待

Oculusの次世代プロトタイプである「Half Dome」の詳細はほとんど明らかになっていません。2018年5月に行われた開発者会議F8で公開された情報によれば、視野角は140度程度とやや広めに。使用者の眼の動きに対応して、焦点部分を移動させる可変焦点システムが搭載されることが大きな特徴です。

現行のVRヘッドセットにおける焦点は一定の位置に固定されており(2m程度)人間の眼のように、物体の距離に応じて焦点を調整することができません。Half Domeの可変焦点システムは、この問題を解決するものとして注目されています。

一体型ヘッドセット:より手軽に、より生活の近くに、そしてより安く

今年2018年は、一体型VRヘッドセットの普及が始まった年でもあります。一体型VRヘッドセットとは、PCやスマートフォン、家庭用ゲーム機といった周辺デバイスを必要とせず、ヘッドセット単体で動作するもの。「Oculus Go」「VIVE Focus」などが該当します。

PCと接続するタイプのVRデバイスはセンサーの設置やケーブルの管理、そして何よりも高スペックなPCが必要となるなど、ユーザーにとっての負担は決して小さいとは言えませんでした。一体型VRヘッドセットは体験のクオリティこそハイエンドなVRヘッドセットに及ばないものの、より手軽に、より安価に一定以上の品質のVRを体験できるという点から、VRの普及を担う役割となることが期待されています。

Oculus Go

2018年に発売された一体型VRヘッドセットの中でも、特に注目が集まったのが「Oculus Go」です。2017年10月に発表されたOculus Goは、性能としてはスマートフォンを使うGear VRやDyadream Viewと同程度のクオリティのVRが体験できるミドルレンジのVRヘッドセットです。スマートフォンを使う他のミドルレンジのVRヘッドセットと比較して、非常に安価な価格で2018年5月に発売されました。価格は、32GB版が23,800円、64GB版が29,800円です(送料、税込)。

Oculus(現Facebook)が2018年9月に行った発表によれば、Oculus Goの販売は非常に好調とのこと。販売台数が多いのは64GBモデルで、購入者の継続率も高いと語っています。

また、エンドユーザーのみならず、VR業界で活躍する業界人たちもOculus Goには注目しています。2018年12月には、Oculusの創業者であるパルマー・ラッキー氏が自身の手でOculus Goを“魔改造”し、話題を呼びました。業務利用の面でも、米国の小売大手として世界的な知られるウォルマートが大量導入を行うなど、その利活用が進んでいます。

Mirage Solo

「Mirage Solo」はレノボ・ジャパン株式会社が国内へ向け、2018年5月11日に発売した一体型VRヘッドセットです。価格は51,200円(税別)。

Mirage Soloは、Googleの提供するVR用プラットフォーム「Google Daydream」に対応した、初の一体型VRヘッドセットです。インサイドアウト形式のトラッキングが採用されており、トラッキングに外部センサーを必要としません。

2018年9月には、6DoF(※)のトラッキングを可能とするMirage Solo用ハンドコントローラーが、Googleから発表されましたが開発者向けの提供にとどまっています。(※6DoF:前後上下左右の位置トラッキングが可能なことを意味する。頭部の回転だけのトラッキングは3DoF)

2018年10月には、商業施設等で使用されることを前提に改良された、ビジネスエディションの発売も行われています。外を見る「シースルーモード」も今後のアップデートで実装が予定されています。

VIVE Focus

VIVE Focusは2017年11月に発表された、HTCが開発した一体型VRヘッドセットです。2018年1月に中国で発売され、その後2018年春に欧米で販売が開始しました。日本での販売は、2018年10月からスタートしています。価格は66,750円(税別)です。日本販売はビジネス用途向け限定となります。

VIVE FocusにはMirage Soloと同じく、インサイドアウト形式の位置トラッキングが採用されています。手に持つコントローラーは3DoFです。Mirage Soloと同じく、6DoFのハンドコントローラーが開発者向けには提供されています。

スマートフォン開発も手掛けるHTCらしく、同社製のスマートフォンとの連携機能も搭載されています。プラットフォームにはHTC独自のVR用プラットフォーム「VIVE Wave」を採用しています。また、2018年11月には、VIVE Focusに対応するVR会議ツール「VIVE Sync」がHTCから発表されました。

Oculus Quest

来年2019年に発売が予定されているVRヘッドセットのなかでも、特に注目されているのが「Oculus Quest」です。詳細な情報がほとんど公開されていないにも関わらず、すでに多くの企業が自社ソフトウェアの対応予定デバイスとして挙げていることからも、その注目度がうかがえます。

Oculus Questは、Facebookが2019年春に発売を予定している、ハイエンド一体型VRヘッドセットです。位置のトラッキングと手のトラッキングがいすれも6DoFで搭載されており、PCにつなぐHTC VIVEやOculus RiftのようにVRでも現実同様に身体を動かすことができます。価格は64GBモデルが399ドル(約45,000円)。日本国内での発売の有無は2018年12月現在、判明していませんが、日本語公式サイトがすでに公開されていることから、その可能性は高いものと思われます。

Oculus Questの特徴は、ハイエンドに近い性能と価格の両立です。Mirage Soloの51,200円(税別)、VIVE Focusの66,750円(税別)といった他の一体型VRヘッドセットと比較すると、両手を自由に動かせるコントローラーが備わっている点で性能が抜きん出ているにも関わらず399ドルです。VRコンテンツやVRデバイスの普及の一翼を担うことが期待されています。

AR

昨年2017年はモバイルARの飛躍が目立った年でしたが、今年2018年はハイエンドのAR(MR)ヘッドセットに大きな動きがありました。特に注目を集めたのは、2018年8月のMRヘッドセット「Magic Leap One」の開発者向けのリリースです。

このデバイスを開発したアメリカのMagic Leap社は、世界的に知られた多数の大手企業から巨額の調達を繰り返す一方、デバイスやソフトウェアの情報をあまり公にせず、注目を集めていました。

Magic Leap One

「Magic Leap One」が、発売前から非常に高い注目を集めていた理由は複数存在しますが、何といっても巨額の資金調達額と徹底した秘密主義でしょう。一般的に企業は新型デバイスを開発する際、当該デバイスのスペックや長所を宣伝し、投資家や見込みユーザーに売り込みを行います。しかしMagic Leapは、Magic Leap Oneの発売まで、詳細なスペックをほとんど公開しませんでした。

その結果、多くの人々の注目を引きつけていました。Magic Leapは2010年の創業以降、2018年8月まで1つも製品をリリースしていなかったにも関わらず、多額の資金調達に成功しています。出資者にはGoogleやヨーロッパ最大のデジタルメディア会社であるAxel Springerなどが含まれます。

Magic Leap Oneの情報が初公開されたのは2017年12月。公式サイトで本体とコントローラーの形状が公開されるなど、わずかな情報の開示に留まりました。その後2018年3月には、開発者(クリエイター)用のツール「Lumin SDK」の配布が始まりました。6月には、ブラジルのTV番組にサプライズ登場するという事態も。

その後2018年8月、Magic Leap Oneは(開発者版ですが)アメリカ国内限定で正式にリリースされました。価格は2,295ドル(約25万円)。当初はアメリカの限られた地域でのみ販売されていましたが、同年11月、アメリカ全土への販売拡大が発表されました。

ヘッドセットのリリースに伴い、Magic LeapはMagic Leap One用のコンテンツの拡充にも力を入れています。2018年11月Magic Leapは、Magic Leap One用のアプリを開発するインディー開発チームを対象とした開発支援プログラム「クリエイター募集プログラム」をスタートしています。

RETISSA Display

国内で多くの関心を集めたRETISSA Display」は、半導体レーザーの開発・製造・販売を行う株式会社QDレーザが開発した、網膜照射型のARグラスです。販売価格は645,840円(税込)。同年8月には公式サイトで一般向けの受注も開始されました。RETISSA Displayの開発元QDレーザは2018年10月、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)から約1億円の出資を受けています。

一般的なAR(スマート)グラスと異なり、RETISSA DisplayはQDレーザの独自技術としてレーザー網膜走査技術「VISIRIUM」を使用し、ユーザーの網膜に直接情報を投射します。網膜投影には消費電力が少ない、常にピントが合う映像体験ができる、小型化への可能性などのメリットが存在します。

業務用のほかに視覚に障害を抱える人や弱視に悩まされる人などに向けての使用も想定されています。「十分小型なサイズでメガネ型、網膜に直接情報を映す」という性質から、発表や発売告知の際は熱い視線を集めました。

Project North Star

「これまで誰も見たことがない、どんなデバイスとも異なるもの」という謳い文句で、2018年4月にプロトタイプが発表された「Project North Star」。アメリカのスタートアップLeap Motionが開発を進めている、ARヘッドセットです。

Project North Starは、100度というARヘッドセットとしては非常に広い視野角(MicroSoft Holorensは水平30度、Magic Leap Oneは水平40度)が特徴です。ARヘッドセットとしては非常に低価格であることも注目されています。4月の発表時、Leap Motionの最高技術責任者(CTO)David Holz氏は、Project North Starの予定価格を「100ドル」と語り、大きな注目を集めました。

ハードウェアとソフトウェアに関する情報が、すべてオープンソースで公開されているのもProject North Starの特徴です。2018年6月には、Project North Starの設計図自体が無料で公開され、適切な部品を入手できる者ならば、誰でもProject North Starを制作できるようになりました。ただし設計には、Project North Star用の専用部品が導入されており、一部未発売となっているため、現行のデバイスを組み合わせての製作となります。仕様書通りの組み立ては困難というのが実情です。

2018年12月現在、Project North Starは未だ開発は続いており、具体的な発売日程などは公表されていません。


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