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テック 2018.11.27

VRはかくも美しくなる。ジャパンディスプレイ初のVRヘッドセットレビュー

VRを体験するために使われているVRヘッドセットは、年々着実に解像度が向上しており、最新モデルは以前のモデルと比べて“より綺麗”に見えます。2016年に登場したPC向けのOculus RiftやHTC VIVEの解像度は2160×1440。翌2017年末から2018年にかけて登場したWindows Mixed Realityの上位機種やVIVE Proでは2880×1600と、年を追うごとに解像度は高くなっています。

2018年末に日本のジャパンディスプレイ(JDI)が法人向けに投入する新VRヘッドセット「VRM-100」も、2880×1600×RGBの解像度を実現したVRヘッドセットです。数値上はVIVE Pro等と同程度。動作要件はハイエンドPCなどと同じくゲーミングPCを必要としますが、ポジショントラッキングは搭載していません。

他のVRヘッドセットと比べてもユニークな「VRM-100」。本記事では、日本のディスプレイメーカーが生産したこのVRヘッドセットをレビューしていきます。

PC接続型のVRヘッドセット

VRM-100はPC接続型のVRヘッドセットです。外見こそスマートフォンを使うタイプのVRゴーグルに見えますが、この製品はVRゴーグルに高精細なVR専用の液晶ディスプレイを挿し込んで使用する構成となっています。

パッケージに含まれるものは以下の通りです。

・液晶ディスプレイ(本体)
・VRゴーグル(ヘッドバンド含む)
・PC接続用ケーブル

液晶ディスプレイの性能は2880 x RGB x 1600 (615 ppi)と、HTCのVIVE Proが搭載している有機ELと同等の数値。スマートフォンをVRモードにしたときのように左右に分かれた構造で、1440×RGB×1600の液晶パネルが2枚搭載されています。

描画頻度を表すリフレッシュレートは80Hzと60Hzの2種類が設定されており、パフォーマンスに応じて自動でスイッチングします。トラッキング用にはジャイロセンサー、地磁気センサーを搭載しています。ポジショントラッキング用のシステムは採用されておらず、頭を動かすヘッドトラッキングのみ。いわゆる3DoF(※)のデバイスです。

(※3DoF:頭の回転だけをトラッキングすること。対とされる6DoFでは3DoFに加えて前後左右と上下の動きに対応する)

液晶ディスプレイは、PCとHDMIとUSB3.0の端子に接続します。ディスプレイ側はマイクロUSBとminiHDMIが採用されています。

気になるPCの推奨スペックはWindows 10、そしてGPUはNVIDIA GeForce GTX1060以上、AMD Radeon RX580といわゆるVR Ready相当の高スペックなPCが推奨されています。

VRM-100を利用するためには、PCにドライバをインストールして使用します。SteamVRが起動するため、SteamVRにある360度動画などの3DoFのコンテンツの再生が可能です。

なお、VRゴーグルはJDIのロゴがあるものの、よく見ると中国製のスマートフォン用VRゴーグルが採用されています。ラバーの部分が多く、コンパクトに折りたたむことも可能です。JDIの担当者いわく「ディスプレイをはずしてしまえば洗える」とのこと。液晶ディスプレイをスマートフォン代わりに載せて体験するため、ケーブルを接続できればセットのVRゴーグルを使う必要はなく、どのVRゴーグルでも使うことができます。


(レンズはフレネルレンズではなく通常のレンズを使用)


(上部には瞳孔間の距離を調節する機構が備わっている)


(ケーブルを挿さないとスマートフォンを装着しているようにしか見えない)

「こんなにも綺麗に見えたのか」と声の出る美しさ

VRヘッドセットと銘打ってはいますが、VRM-100の真髄とも言えるのは着脱可能なそのVR専用高精細液晶パネルです。カタログスペックでは、2880 x RGB x 1600 (615 ppi)とVIVE Proと同程度の性能を謳っていますが、実際の見え方はどう変わってくるのでしょうか。

体験してみてまず分かるのは「とにかく綺麗」の一言。これまでのVRヘッドセットを体験したことのある人であれば、VRM-100以外のVRHMDとの違いは一目瞭然ではないでしょうか。それほどVRの世界がクリアに、くっきりと、鮮明に見えるのです。数字上は同程度のVIVE Proや他のヘッドセットと比べてもその差は明らか。実際に筆者も同じコンテンツを再生してみましたが、VRM-100で見たときの方が如実に綺麗に見えます。

筆者が試したのはフルCGで描画された「ユニティちゃんライブステージ! -Candy Rock Star-」と8Kの実写360度動画でした。CGではエフェクトがぼやけることなく美しく描画されています。歌って踊るユニティちゃんの顔もしっかりと見ることができ、顔の造形が平面的なことが気になってしまうほど。

また、8Kの360度動画も衝撃的なものでした。これまで見ていた8Kの360度動画は、そのポテンシャルをまだ発揮できていなかったと思わざるを得ないほどクリアに見えます。海岸の上空からドローンから360度撮影を行ったシーンでは、寄せて返す白波の一つ一つを視認することができました。

(コンテンツはアルファコード社の提供による)

コンテンツの合間に表示されたSteamVRのホームであるSteamVR Homeすら、全てがクリアに見えていました。また、グラフィックが綺麗になることは「文字もクッキリと読める」ことを意味します。VR内では解像度の限界から文字がぼやけてしまうことが往々としてありましたがその課題に対応できそうです。

パネルの構造に隠された“差”

数字が同じなのに見え方が明らかに違う、そのカラクリはパネルを構成するRGBサブピクセルの配列にあります。RGBサブピクセルは、各ピクセル内に含まれるいわゆるR(赤)、G(緑)、B(青)の光の3原色を表現するためのものです。

Oculus RiftやHTC VIVEなどVR用に使われている多くの有機ELパネルは、ペンタイル方式というRGBサブピクセルの配列が採用されています。通常、RGBのサブピクセルは均等な数あるはずですが、ペンタイル配列では、RとBの数がGの3分の2しかありません。一方、サブピクセルが均等に配置された配列をストライプ式と呼びます。

ペンタイル方式はストライプ方式に比べてサブピクセルの総数が3分の2程度となり、映像データを66%に圧縮して表示しています。そして、物理的なサブピクセルの数が少ないため、コストを抑えつつの製造が可能です。

主要なVRヘッドセットの多くはこのペンタイル方式の有機ELパネルを使っていますが、唯一、PlayStation VRだけがストライプ方式の有機ELを使用していることが知られています。

(参考:ジャーナリストの西川善司氏による詳細解説、【映像パネルのサブピクセルの並び ~ ペンタイルとストライプについて (1)】

このペンタイル方式の影響もあり、現行のVRヘッドセットの多くでは、ディスプレイに網目模様が見えてしまうスクリーンドア効果と呼ばれる問題が生じます。


(スクリーンドア効果の一例。網目模様が見えてしまう)

さて、今回のVRM-100では有機ELではなく液晶が採用されています。RGBが均等に配置されているため、数字通りの高解像度が実現されており、スクリーンドア効果がほとんど感じられません。かつては有機ELの方が応答速度が速いといった性能差がありましたが、この液晶の応答速度は有機EL並みになっており、遅延は発生しません。

直近ではPCやスマートフォンを使わない、一体型のVRヘッドセットも増えてきました。2018年上旬に発売されたOculus GoMirage Soloは2560×1440というVRM-100に近い高解像度の液晶パネルを搭載しています。中国のPico Neoは2880×1600と同程度の性能を誇ります。


(一体型VRヘッドセットOculus Go)

しかし、こうした同程度の液晶パネルを搭載するVRヘッドセットと比べても、VRM-100のグラフィックは圧倒的に綺麗に見えます。一体型のVRヘッドセットでは、スマートフォンに搭載されているモバイル機器向けのプロセッサがグラフィックの処理も行っています。モバイル向けプロセッサの処理能力はPC向けのハイエンドなGPUと比べたときにどうしても大きな差があります。こうした差が実際に描画されるグラフィックの質に影響していると考えられます。

また、付属のVRゴーグルでは、VRヘッドセットで多く採用されているフレネルレンズが使われていません。フレネルレンズは、同心円状の溝が刻まれているレンズでVIVE ProやOculus Goでも採用されています。視野角を広げる一方で、レンズ内で光が乱反射して暗いシーンで光が浮かび上がってしまうことがあります。

高品質かつ360度コンテンツに特化

ここまではVRM-100の特長である「美しさ」について説明してきましたが、これはシンプルに「これまで見ていたVRコンテンツがさらに綺麗に見える」ことを意味しています。現在、一般発売されているVRデバイスの中では最も綺麗に見えます。「BigScreen」などSteamで配信されており、3DoFでも見ることのできるアプリを起動すると、これまでのVRヘッドセットとは明らかに違う印象を受けます。

VRM-100のユースケースを考えると、かなり癖のあるVRヘッドセットです。グラフィック性能は高いものの、6DoFには対応しておらず、コントローラーも付属しません。そのうえで、PCはいわゆるハイエンドVR向けの高性能なものが必要となります。

同じく3DoFに特化したOculus Goなどと比べると、導入コストが上がる分、画質にこだわりたい場合に向いています。高品質な360度動画などを視聴することに特化しているデバイス、といったところでしょうか(このレベルでハイエンドな3DoFのVRヘッドセットは、ほぼほぼ存在していませんでした)。

実写のVRコンテンツでは現在、流通しているVRヘッドセットの性能に合わせて画質を4Kに落とすことが一般的です。VRM-100では360度で8K画質の映像のポテンシャルを活かすことができ、180度ステレオ動画であれば4K画質をさらに活かすことができるでしょう。ディテールを確認したい場合や深い没入感、実在感を求めたい場合、説明文などを文字を多く見せたい場合に活用すると良さそうです。

12月には法人向け発売がスタート

2018年12月の発売は法人向けの発売となります。JDIの担当者は「接客業でご利用いただきたい」と話しており、ビジネス向けの導入を促していく意向です。

エンターテインメント向けとしては、お台場で稼働中の「hexaRide」など、大型筐体を使って体感する施設型VRコンテンツとも相性が良いかもしれません。「hexaRide」は、振動などを感じる大型筐体に乗って体験する体感型のVRコンテンツですが、使用されていたのは非常にグラフィッククオリテイの高いフルCGの360度動画でした。こうした映像をさらに高精細で見れるとなれば、より没入感は高まりそうです。

余談:VRM-100が魅せる将来性

JDIのこれまでの発表などを振り返ると、JDIの今後の動きはVRM-100の発売だけではない、という可能性をうかがわせるいくつかのポイントがあります。

VRM-100の液晶パネルは、1枚あたりの解像度が1440×RGB×1600、画素密度は615ppiと発表されています。JDIはこの性能に近い651ppiのVR専用液晶パネルを2017年2月に発表。その後、VRM-100は1年半以上の月日をかけての製品化となりました。

詳しくは以下の記事で解説しています。

それ以降、JDIは2017年12月に803ppi、2018年5月に1001ppiのVR向け高精細液晶を立て続けに発表しています。画素密度が高いことは「同一面積あたりでよりきめ細やかな表現ができる」を示しています。VRM-100では「綺麗」という感想を書きましたが、さらに画素密度がVRM-100の倍近いパネルがすでに発表されていることも驚きです。画素密度が倍という性能向上は、解像度が倍になる可能性それ自体と、パネルのさらなる小型化、つまりヘッドセットそのものを小型・軽量にできることも意味します。

筆者も803ppi、1001ppiともパネルを試しましたが、今のVRヘッドセットで見えているものとは全く異なる、非常に美しい映像が実現することは間違いない素晴らしい出来でした。

VRM-100のようにディスプレイを取り外せるデバイスであれば、今後さらに解像度の高いディスプレイに交換することも容易です。また、ハイエンドなVRヘッドセットの主流であるポジショントラッキングやコントローラーを使える6DoF対応にも期待したいところです。

JDIはVRM-100の法人向け予約を12月3日(月)から開始し、12月中旬以降に発送を開始する予定です。価格は問い合わせに対して見積もりをだしていくとしています。


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