Home » 【体験レポ】注目のARヘッドセット「North Star」で感じられた未来


AR/MR 2018.07.16

【体験レポ】注目のARヘッドセット「North Star」で感じられた未来

バーチャルな3Dモデルが、まるで目の前の現実に存在するかのように表現できるAR(MR)が注目を集めています。現在では一部スマートフォンでも本格的なARが実現できるようになりました。

今ではスマートフォンをかざしてARを体験するような状況ですが、将来は誰もがメガネ型などウェアラブルなARデバイスを装着して暮らすようになるかもしれない。そういった未来を見据えて、マイクロソフトのHoloLensやMagic LeapのMagic Leap Oneなど専用デバイスが登場しています。

注目を集めている「North Star」

2018年3月に電撃発表されたのが「Project North Star」というARデバイスです。VR向けに手の動きをトラッキングする技術を開発していたLeap Motion社が発表。その印象的な見た目とは裏腹に、公開されたデモ動画は、現実空間に出現させたキューブをまるでそこにあるかのように手で扱ったり、ユーザーインターフェース(UI)をあたかも手に張り付いているように表示させる、という画期的なものでした。


(Leap Motionが公開した映像)

全て実機で動いていることが明らかとなっており、非常に正確な様子は「こういうことができてほしい」という多くの人が考えるものでした。

North Starは、ハイエンドとされながらもオープンソースのプロトタイプとして発表しました。そのため、ハードウェアの部品や設計図、そしてソフトウェアまでもが全て公開されて、関心のある人は誰でも作ることができます。また、North Starは部品などを合わせても100ドル(約1.1万円)未満で作れる、ことが謳われています。HoloLensが30万円以上で販売、Magic Leap Oneも10万円から20万円の間と噂されており、比べると破格の値段と言えます。

2018年5月にオープンソースで設計図が公開されたものの、一部の専用部品、ドライバが提供されておらず、組み立てるのは困難と思われていましたが、なんと日本国内で制作に成功したとの報を受け、さっそく体験を行いました。

開発を手がけたのは、ハードウェア部分を触覚デバイスの開発を行うexiii株式会社の山浦氏、ソフトウェア部分をVR制作プラットフォームSTYLYを提供する株式会社Psychic VR Labの藤井氏です。今回の体験は実機を置いてある東京・新宿のPsychic VR Labのオフィスにて藤井氏に話を伺いながら行いました。

きっかけは藤井氏のこのツイート

意外とシンプルな外観…

まずはさっそくNorth Starとご対面。発表された通り、かなりイカツイ第一印象です。

ハンドトラッキング用のセンサーを搭載する部分は、設計図で謳われている新型センサーではなく、既成品の「Leap Motion モーションコントローラー」を使用しています。ヨドバシカメラなどでも数千円で売っており、非常に手軽に手に入ります。藤井氏いわく「既成品でも挿したら動いた」とのこと。

仕組みとしては、左右のLCDに表示された映像をハーフミラーで反射させ半透明のアクリル板で見ます。こちらやや白味がかって半透明です。今回、Leap Motionが指定している解像度のLCDパネルが市販されていなかったため、解像度は半分のもので代用しています。

[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]

[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]

[/wc_column][/wc_row]

頭に固定するための調整機構は非常に原始的ですが、しっかりとしており、頭の小さい女性でもしっかりと固定できていました。

North StarはHoloLensなどと異なり、PCに接続して使います。接続もかなり力技。HDMIを左右それぞれのLCDから直接PCに接続しています。(現時点では、PC側のHDMI端子は2つ使用)

装着感と見え方

いよいよ装着です。

メガネをかけていると額に当てる固定具が当たってしまったためはずして体験。バッテリーやプロセッサが内蔵されていないため、HoloLensに比べると圧倒的に軽く感じられます。

映像も比較的クッキリと映っていましたが、前述のように解像度が半分のLCDパネルを使っているため、設計図通りのスペックのパネルを使うとさらに綺麗になることを期待したいところです。リフレッシュレートも、60Hzと公称の120Hzの半分となっており、さらに滑らかに描画されるようになる模様です。

また、100度と公称されている視野角は同様に広視野角を謳うMeta 2と比べても遜色のないものでした。その後編集部にあるMeta 2と比べましたが、同じかややNorth Starの方がやや広いという印象。HoloLensの倍程度の視野角で、手を肩幅より多少広げた程度の範囲まで視界に表示されています。

違和感のない手の認識

ハンドトラッキング(手と指の認識)は視野全体で行われています。内蔵しているLeap Motionのコントローラーを使ったことがある人であれば、そのハンドトラッキングの高さに驚くことはないかもしれません。2014年にPC向けのアクセサリーとして一般発売されて以降、VR用コントローラーとして2016年に「Orion」という名称のアップデートを行い、その精度が飛躍的に向上しました。2018年6月のアップデートでも、さらにその精度が上がっています。この改善は驚異的です。


(ヘッドセット内部のディスプレイに描画される様子が見えています)

その驚異的にアップデートを続けるコントローラーを使ったハンドトラッキングは素晴らしいものでした。HoloLensではタップとブルームの2種類のジェスチャーが基本になっていますが、現実の手でバーチャルなものを掴むといった動作はできません。手はあくまでも入力するための擬似的なコントローラーです。

North Starでは、手で実際に見えているバーチャルなものに干渉することができました。
奥行きもあり、さらに手をバーチャルな物体の後ろに持っていくと物体の後ろに手が隠れる(オクルージョン処理)が行われており、実際はその場に存在しないものがそこにあるように感じられます。「手を物体の後ろに持っていっても手が突き抜けてしまって前後関係がおかしくなる」ことにはなりません。

Meta 2でも同様の動作やオクルージョン処理がありますが、ハンドトラッキングの精度ではNorth Starに分があるため、体験の質はNorth Starに軍配が上がります。

また、既成品のLeap Motionではハンドトラッキングしか行われないため、いわゆるSLAM技術を使った機能は実現してません。SLAMは、空間構造を認識する技術のことで、設計図で示されている新型センサーではこの機能が搭載されることが示唆されています。SLAMは、HoloLens、Meta 2、Magic Leap Oneいずれのデバイスでも実現している重要な技術です。実現すれば、机の上にバーチャルなものを置くことが可能になります。

(SLAMを使い、卓球台を認識しているデモ動画。North StarでできるようになるとLeap Motionは謳っている。)

費用と困難

体験の質に期待が持てることは分かりましたが、ここで気になるのは費用です。HoloLensは30万円を超え、PCに接続する同タイプのMeta 2は日本向けに購入すると送料込で10万円以上となります。

果たしてNorth Starは公称のように100ドル未満で生産できるのでしょうか。

藤井氏によると、今回のハードウェア部分はexiiiにある3Dプリンターなどを使って製作したとのこと。部品の費用などを訊いたところ、「加工代などを入れたら合計35,000円くらいでできるのではないか」とのことでした。

3Dプリンターでの製作も一点物のため、コストがかかっています。大量生産を行った場合にはなりますが、「100ドルも非現実な話ではない」とのコメントもあり、公称と大きくズレがあるわけではなさそうです。

一方、制作に関しては、やや苦労が伴ったようです。ソフトウェア部分を担当した藤井氏は「ハードウェアを組み上げた後、きちんと見えるようにするためのキャリブレーション(個人に合わせた調整)が大変だった」と語っています。

気になる点と改善の見通し

ARデバイスではこれまで部分的(もしくは不十分)にしか実現していなかったハンドトラッキング。North Starで実現したことで、ARの未来は一気に近づきました。

・パネルの関係で解像度が足りないこと
・センサーの関係でSLAMは未搭載なこと

気になる2点については今回体験したものはLeap Motion社が提案するフルスペックとは言えないものだったこと。いずれ設計図通りの部品が供給されることで即座に解決されると考えられます。North Starの公式Githubでは新型センサーに関しては「Coming Soon」と記載されています。

また、非常に気になるのがPCの存在です。HoloLensではプロセッサやバッテリーはヘッドセットに内蔵された一体型のコンピューティングデバイスとなっています。Magic Leap Oneはプロセッサやバッテリーを内蔵した「Lightpack」という付属デバイスを腰に装着して使用します。

North StarはPC接続型のため、使用にはPCが必要です。最終的には、メガネのようにかけるだけの一体型のデバイスが理想ですが、プロセッサやバッテリーをPCではなくヘッドセットに搭載しなければなりません。

実現にはまだ時間がかかりそうですが、North Starをいずれかのメーカーが製品化していくような流れが起きた際に、プロセッサやバッテリーに関する問題は解決していくのかもしれません。

2018年中にはMagic Leap Oneが出荷され、HoloLens次世代モデルの噂も聴こえ始めました。安価で手軽で欲しい機能が搭載されているメガネ型のウェアラブルデバイス。SFの話のようですが、その夢のようなデバイスの実現に向けて、着々と狼煙が上がり始めています。

North Star(北極星)は、「バーチャルなものとの手によるインタラクションを実現する」ARヘッドセットです。その名のごとくARが向かう未来を示しています。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード