TDKは10月2日、スマートグラス向けの「メタオプティクスミラー」を開発。網膜直接描画(Direct Retinal Projection。以下DRP)ディスプレイと合わせての実証に成功したと発表しました。メディア向け発表会で一足先に体験してきましたが、2026年10月13日(火)~16日(金)に幕張メッセにて開催されるCEATEC 2026のTDKブースにおいて、実機の一般展示が行われるそうです。


このミラーの厚さは約150nm(ナノメートル)。髪の毛の太さの約500分の1で、メガネ用のレンズに埋め込んでも違和感はほぼありません。また可視光透過率は80%と高く、光干渉による虹模様を減らし、メガネとして自然な外観のスマートグラスが作れるパーツになるとのことです。

端的にいえば、エンタメ向けディスプレイグラスで使われるバードバス(※ハーフミラーと凹面鏡を組み合わせたタイプの光学形式)や、ディスプレイつきAIグラスで用いられる光導波路ディスプレイ(※薄くて透明なガラスや樹脂板などで光を閉じ込めて、反射を利用して日の目にまで届ける仕組み)のライバルとなりえる存在。軽量化や低コスト化にも期待できる新技術です。
スマートグラスを成長領域に据えるTDK
TDKといえば記録メディアの印象を抱く方もいるでしょうけど、基本的には電子部品メーカーです。フェライト(磁性材料)の工業化にはじまり、磁気テープ、HDD用磁気ヘッドへと事業を広げ、現在は、バッテリー、センサー、磁気応用製品などを主力としています。
TDKは、AIサーバー・ストレージをもつAIデータセンターや、その施設を支えるバックアップ電源に産業用半導体製造装置、ドローン・自動運転車輌などをまとめたAIエコシステムを成長領域に位置付けており、ユーザーにとってのインプット・アウトプットデバイスとなるスマートグラスもその対象となっています。2022年には、開発中の超小型フルカラーレーザーモジュール(FCLM)をQDレーザの網膜直接投影技術と組み合わせ、約40度の視野角を持つスマートグラスを公開しました。2024年にはレーザー制御デバイスも発表、2026年に入ってからは、スマートグラス関連技術のM&Aも相次いでいます。
今回のメタオプティクスミラーの技術起点はどこにあるのかをたどっていくと、これがHDD用磁気ヘッドに行き着きます。HDD用磁気ヘッドの開発で蓄積した薄膜形成や微細加工の技術を応用したことで製造できたとのことです。

なおスマートグラスにおいても、BtoBという立ち位置は変わりません。オプティカルエンジン(光エンジン)などをスマートグラスメーカーに提供する形での参戦となります。今回発表されたモデルはあくまでデモ機という位置付け。Google Glass(※2013年に発表された旧式モデル)のように見える外観は、あくまで開発中の一例として捉えたいところ。

参考までに配布された資料には、TDKのテクノロジーを用いることで、普遍的なメガネのディメンジョンにあわせたスマートメガネの開発が可能、ということを示すイラストがありました。
QDレーザと進める網膜直接描画システム

TDKが現在推進しているDRPディスプレイは、レーザー光を眼球に届け、映像を網膜に直接描く方式です。最大の特徴はフォーカスフリー。肉眼で見るレンズ越しの風景と、投影された映像の両方に焦点が合うので、エンタープライズ向けARグラスや、ディスプレイつきAIグラスに向いている技術となります。
投影映像に関しては、装着者の視力に左右されないのも強み。角膜や水晶体の影響を受けないため、遠視、近視、乱視、老眼のいずれでもシャープな映像が見られます。さらに投影に必要な光量は約1μWと小さく、省エネ性に優れます。構造がシンプルで安価という点もメリットです。

しかし従来のDRPディスプレイ搭載グラスには、厚みのある曲面ミラーが使われていました。
さまざまな角度から入るレーザー光を球状の眼球にあわせて反射させ、曲面になっている網膜に正しく光を届けるための光学技術ですが、TDK自身「スタイリッシュ性が低い」と言及。このシステムだと低コストや軽量と言ったメリットがあっても、広く普及しないと考えたのかもしれません。
150nmの極薄平面ミラーで光を網膜に届ける
そこで登場したのが、今回発表されたメタオプティクスミラーです。平面なのにどうやって、網膜に正しく光を届けられるのでしょうか。

実は約150nmのミラーは複数の構造体となっており、その中にナノサイズの台形状の反射素子が並べられています。この素子の形状、長さによって反射角をコントロールしています。
また導波路ディスプレイで見られがちな光干渉による虹色のムラも、メタオプティクスミラーが可視光の波長より薄いため減るとのこと。対面する人に映像が漏れないため、見た目の違和感も薄くなります。
製造面の利点もあります。半導体と同等のプロセスで作れるため、光導波路ディスプレイと比べて、製造工程、部品点数、コストの面で有利です。
フルカラー版も現在基礎検証中

今回体験したデモ機はグリーンの光によるモノカラーで、対角FOV(視野角)は45度、解像度は750pです。スイートスポットが狭いため、眼球とメタオプティクスミラーの高さや角度を念入りに合わせる必要がありますが、一度フィッティングしてしまえば細かい文字もシャープに映し出されて読みやすい。光導波路ディスプレイと比較して、映像クオリティで劣るところはないと感じました。
このモノカラー版DRPディスプレイは、CEATEC 2026出展後、2026年年末から製品化の準備に入るそうです。またフルカラー版は基礎検証が2026年から進行中(FCLM=フルカラーレーザーモジュールは発表済み)で、デモグラスは2027年3月に作られる予定とのこと。そこから数年以内の量産化を目標に掲げています。