2017年にリリースされた「VRChat」。日本からも多くのユーザーの集まるメタバースプラットフォームであり、近年では日本国内の企業や自治体もバーチャル空間でのイベント企画や商品プロモーション企画などを打ち出す事例も増えつつあります。
本記事ではVRChatとはどういったサービスなのか、どのような企業が参画し、どのように活用しているのか、また他のメタバース関連サービスとの特徴も比較&解説していきます。
一般ユーザー向けの情報をまとめた記事はこちら
目次
そもそも、VRChatとは?
VRChatを体験できるデバイス
VRChatで何ができるか?
ワールドやアバターの制作&アップロードの基本
日本企業による活用事例
VRChatとの公式パートナーシップ契約について
VRChatを利用する際に気をつけるべきポイント
1.そもそも、VRChatとは?
「VRChat」は、米国のスタートアップVRChat Inc.の運営するメタバース(ソーシャルVR)サービスです。VRChat社は2016年創業。2024年にレイオフを行っていますが、サービスの展開を継続しています。個人クリエイターらが制作したバーチャルワールドが多数アップロードされており、ユーザーは自由にワールドを歩き回ったり、他のユーザーとコミュニケーションしたりできます。
基本的にはどのワールドも無料で体験可能です。また、ユーザー向けには特典の付属する有料プラン「VRChat Plus」や、クリエイター向けの「有料サブスクリプション」機能もあります。また、企業発の有料イベントなどが実施される事例も続々と出てきている状況です。
企業が利用する際には日本にも数社存在する公式パートナー経由でワールドを制作すると専用機能などが使えるようになります。なお、利用規約とガイドラインの規定によって、ブロックチェーンやNFT関連の禁止規約が設けられています。
ユーザー層としては、主に英語圏のユーザーが多く滞在していますが、日本でも独自のコミュニティが活発に活動しており、イベント開催や創作活動などに利用されていることも。2023年頃からは、VRChat運営側が、日本のユーザーに向けた施策を増やしており、日本語公式Xアカウントを開設。2024年には、これまで英語のみだったUIの一部が日本語化に対応しており、日本の初心者ユーザーにとって、より気軽に参加できるサービスとなっています。
2.VRChatを体験できるデバイス
VRChatを体験する方法として、VRヘッドセットとPCを繋いで体験する「VRモード」と、PCのみで遊べる「デスクトップモード」があります。加えて、スマートフォンなどのモバイル端末向けβ版が新たにリリースされました。
特に「VRモード」では、自分の周囲すべてがVR空間に様変わり。さらに、VRコントローラーで身振り手振りのコミュニケーションも可能です。これにより「自分が実際にバーチャル空間の中にいる」という強い没入感を味わえます。

(頭や手の動きを同期できるため、デスクトップモードよりも豊かな表現が可能です)

(VRモードであれば、自分でモノを掴んだという感覚がより強くなります)
VRヘッドセット単独でも一部のワールドが楽しめますが、PCと接続するVRヘッドセットを使うことで、公開されているすべてのワールドを体験可能です。
一方、VRヘッドセットを持っていない場合は、デスクトップモードやモバイルで利用する方法もあります。身体や両手を細かく動かすといったことはできず、VRモードと比べて没入感は劣るものの、VR空間にいるユーザーとの交流などを気軽に体験できるため、まずこちらから試してみるのも良いでしょう。
VRChatを遊ぶためのPCの推奨スペックや、用途別VRヘッドセットのオススメはこちら。
またVRChat上でのコミュニケーションは、ボイスチャットやVRデバイスのコントローラー、エモートなどでできますが、さらに全身を動かしたいというユーザーは、Viveトラッカー、mocopi、HaritotraXなどのデバイス(トラッキングツール)による全身トラッキング(通称:フルトラ)を利用しています。バーチャル空間で足踏みしたり、ポーズを取ったりと、より細かな動作ができるようになり、没入度や表現力が大きく向上します。
トラッキングデバイスによって一体型VRヘッドセットと組み合わせられるもの、PC接続が必要なものなどが異なります。
おすすめのトラッキング情報については下記の記事でも詳細に紹介しています。
各モードの対応デバイス一覧
| モード | 対応デバイス | 備考 |
| VR(VRヘッドセット+PC接続) | ・Meta Quest シリーズ(2、3、Pro) ・PICOシリーズ(neo3、4) ・Valve Index ・VIVEシリーズ(Pro、Pro2、XR Elite 等) ・Big Screen Beyond |
・下記スペックのPCが必要 |
| VR(VRヘッドセットのみ) | ・Meta Quest シリーズ(2、3、Pro) ・PICOシリーズ(neo3、4) ・VIVE XR Elite |
・Android(旧Quest)対応ワールドのみ訪れることができる |
| デスクトップ | ・Windows PC | |
| モバイル | ・Android(オープンβ版) ・iOS(クローズドβ版) |
・Android(旧Quest)対応ワールドのみ訪れることができる ・下記スペックのモバイル端末が必要 |
PCスペック(VRヘッドセット利用時)
| 最低スペック | 推奨スペック | |
| OS | Windows 8.1、Windows 10 | Windows 10 |
| CPU | Intel i5-4590以上 またはAMD FX-8350以上 |
Intel i5-6500以上 またはAMD Ryzen 5 1600 equivalent相当以上 |
| メモリ | 4GB以上 | 8GB以上 |
| グラフィック | NVIDIA GeForce GTX 970以上 またはAMD Radeon R9 290以上 |
NVIDIA GeForce GTX 1060以上 またはAMD Radeon RX 580以上 |
モバイルスペック
| Android(オープンβ版) | Android 10以上 RAM 6GB |
| iOS(クローズドβ版) | ・iPhone 12 Pro/Max ・iPhone 13 Pro/Max ・iPhone 14 ・iPhone 14 Pro/Max ・iPhone 15 ・iPhone 15 Pro/Max ・iPad Pro(11インチ 第2世代以上) ・iPad Pro(12.9インチ 第4世代以上) ・iPad Air(第5世代以上) |
VRChatで何ができるか?
ワールド探索
VRChatで公開されているワールドはVRChat社が作ったものではなく、クリエイターたちの手によって生み出されています。バリエーションは豊富で、小さな一部屋のみのワールドから、歩き回るのが困難なほど広大なワールド、様々なジャンルのゲームで遊べるワールドまであります。
これらはコミュニケーションの場としてだけでなく、ワールド巡りという楽しみ方があり、1人で、もしくは友人たちと、旅行の観光地のようにじっくりと探索できるのが魅力です。
例えば「ORGANISM」は、立体的につながった建造物がひたすら続いており、何時間進んでも全容が見えないほど巨大な空間となっています。印象的なスポットが多いものの、それぞれ明確な説明はされず、訪れる者の想像を掻き立てます。常に驚きがあり、これからVRChatでワールドを作ってみたいという方にはぜひ訪れて欲しいワールドです。
エンターテイメントに特化したワールドでは、VTuberの甲賀流忍者ぽんぽこさんとオシャレになりたい!ピーナッツくんによるバーチャル遊園地「ぽこピーランド」という例もあります。VTuberのファンであるクリエイターたちが結集して制作したワールドで、ぽんぽこさんとピーナッツくんの世界観が詰まった広大な敷地には、細部まで作り込まれたアトラクションや施設が存在し、何時間でも滞在できるほど遊ぶことができます。ファンの人はもちろん、ファンでなくとも楽しめる遊園地です。
現実の建物を写真から3Dモデルに変換するフォトグラメトリ(※現実の建物などをさまざまな方向から撮影して、写真データをもとに3Dモデルに変換する技術。個人でもカメラを使用すれば製作可能)で作られたワールドも存在しています。放送10周年を迎えたTVアニメ「きんいろモザイク」では、メインキャラクターのひとり・アリスの故郷である、イギリス・コッツウォルズ地方のバイブリーを再現した公式ワールドを公開しました。この他にも、歴史的建造物や街並みをフォトグラメトリでワールド化する動きが盛んになっています。
音楽ライブ・展示会などのイベント
VRChatでは、音楽ライブや展示会などのイベントが多数開催されています。特に企業主催によるものは規模感が大きく、お祭りのような盛り上がりを見せています。
展示イベントの代表例が、3Dモデルなどを取り扱うVR展示・即売会「バーチャルマーケット」です。2018年より開催され、2023年12月までに計11回開催。期間中、企業出展会場では、各企業の特徴を全面に出した企画ブースが立ち並び、ワールド全体がお祭り会場のようなにぎわいを見せています。また、2023年7月には秋葉原で現実会場と連動したイベントも開催されました。
企業出展会場とは別に一般出展会場も公開されており、個人クリエイターが手がけるアバターやファッションアイテムなども展示され、クリエイターとユーザーの交流の場としての役割も担っています。
VRChatは、メタバース音楽イベントの開催場所としても脚光を浴びています。人気VTuberやVRChatを中心に活動するバーチャルアーティストが多数出演しており、圧倒的没入感のパーティクルライブ(※)など、トップシーンのVRクリエイターが手がけるステージ演出も魅力となっています。
※パーティクルライブ……VRChatでは、バーチャル空間上に仕掛けをして、光を飛ばしたり物体を見せたり、観客の視界をジャックして映像を見せることで演出をするライブを指す。
サンリオ主催の「SANRIO Virtual Festival」、TBS主催の「META=KNOT(メタノット)」、JVCケンウッド主催の「MAGICAL JUKE BOX」と、大手企業が続々と参入。人気音楽ユニットのCAPSULEやFLOWも、それぞれ単独でバーチャルライブを開催しています。
多くのイベントでは、VRChatに参加できないユーザー向けにYouTubeなどへの配信を組み合わせていることも多いです。
VRChat上で文化を形成するコミュニティ活動
企業による大型イベントが開催される一方で、ユーザー主催のイベントやコミュニティも活発です。
初心者向け集会、音楽ライブやクラブ、カフェやバーなどの店舗を模したイベント、学術的な知見が得られる交流会、有志によるVR演劇……等、様々な有志たちが集合し、活動を行っています。SNSなどで積極的に広報活動を行うオープンなコミュニティもあれば、知人や関係者のみの参加できるクローズドなコミュニティもあり、参加や依頼などを検討する際は、事前にどのようなタイプのコミュニティなのかを調べることが重要となります。
また(コミュニティごとに運営指針の違いはあるものの)その多くが利益を得るための経済活動よりも、サードプレイスとしての居場所づくりや、友人たちとのコミュニケーション維持、VRを活用した新たなカルチャーの醸成などに比重をおいているのも大きなポイントとなっています。
ワールドやアバターの制作&アップロードの基本
ワールド制作の基本情報
VRChatのあらゆるコンテンツは、ゲーム開発プラットフォーム「Unity」を介して制作されています。ユーザーは自作の3Dモデルや頒布されているアセットなどを活用して、独自のワールドを公開可能です。
現在VRChatでは「VRChat Creator Companion(VCC)」と呼ばれる公式アプリを頒布しており、この中に含まれるSDKを仕様することで、正式に対応しているバージョンのUnityで、ワールドのアップロードができるようになります。
VRChatでは一般的なUnityの3Dゲームと違い、VR視点で見たときの見栄えや快適性が重要です。特にVR酔いが発生しやすいかどうかは重要なポイントで、多くのクリエイターは、実際に自分でVR空間に入りながら、調整を重ねて正式版のワールドをアップロードしています。
基本的には、ワールドを制作するうえで、有料のコンテンツを購入することは必須ではありませんが、自分の望ましい3Dオブジェクトが手元にない場合は、自作するか、有料のアセットを販売サイトで購入する必要があります。その際、VRChatにアップロードすることが制作者によって許諾されているかを規約から確認することも必要となります。
アバター導入の基本情報
VRChatでは最初から公式が用意したアバターが用意されている他、企業やクリエイターの用意したアバターがワールド内で頒布されている場合もあり、自由に利用可能です。「Himiko Avatar World」「Himiko Avatar World: Quest」といったワールドでは、権利者の許可の得たモデルが展示され、自由に試着ができます。このほか、市販アバターの見本が展示されたワールドも存在します。
「BOOTH」などで購入した市販アバターや自作アバターを使用したい場合は、ワールドと同じく「Unity」と「VCC」が必要です。
ただし、アバターをアップロードするためには、アカウントの「トラストレベル」が「New User」以上の必要があり、VRChatを始めた直後では自分でアバターをアップロードできません。トラストレベルはVRChatのプレイ時間が増えたり、フレンドが増えると上がりやすいので、まずはVRChatでいろいろ遊んでみることを推奨します。
また、他人の作った3Dモデルを無断使用したり、Unityのプラグインである「MMD4Mecanim」の利用などは禁止されているため、アバターやプラグインの利用規約は厳守しましょう。
アバター導入の詳細な方法はこちら。
「Unity」のアバターアップロードが簡単になる支援ツール「EAUploader」の使い方はこちら。
日本企業による活用事例
サンリオ
サンリオはバーチャルフェスイベント「SANRIO Virtual Festival」を2021年より開催しています。無料ながらサンリオキャラクターによる没入感の高い演出が魅力のパレードや、後藤真希(ぶいごま)さんの出演したライブステージが話題となりました。
日産
日産自動車では、銀座に実在するショウルームをVRChatで再現したバーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING」をオープンしています。日産の自動車の3Dモデルが実寸サイズで展示されており、メタバース上の新車発表会にも利用されました。また、EVを体験するコンテンツなど複数のワールドも公開しています。
BEAMS
「BEAMS」は、実在の衣服をソーシャルVRアバター向けの3Dモデルにしたアイテムを発売しており、「バーチャルマーケット」への常連企業でもあるなど、バーチャルファッション領域に大きく注力しています。さらに、常設ワールド「Tokyo Mood by BEAMS」では、セレクトショップのみならず、周辺に広がる都内の繫華街まで制作しました。
アダストリア
アパレルEC「ドットエスティ」を運営するアダストリアも、バーチャルファッション領域に参入。ファッションだけでなく、メタバースファッションアバターの販売にも取り組んでいます。2024年4月にはメタバース×ファッション特化のマーケットプレイス「StyMore(スタイモアー)」を公開し、市場拡大に向けた取り組みも行っています。
東映アニメーション(プリキュア)
東映アニメーションではプリキュアシリーズ20周年イベント「プリキュアバーチャルワールド」を開催しました。プリキュアの世界観に合わせたステージにて、シリーズ3作品のミュージックステージが行われた他、バーチャルキャラクターショーでは変身シーンや迫力のある戦いのシーンまで再現されました。
あしびかんぱにー(バーチャル沖縄)
あしびかんぱにーは沖縄県の文化をバーチャル上で再現しており、VRChatワールド「バーチャル沖縄」を運営し、そこでバーチャルフェス「OKIVFES」を開催しています。OKIVFES 2023の総動員数は20万人を達成。また、メタバースファッションブランド「AtelierZ School」も販売を開始しています。
鳥取県倉吉市
鳥取県倉吉市では、バーチャル倉吉事業の一環としてVRChat上に「バーチャル倉吉」を公開。倉吉市の街並みや観光地、名産品を3D再現しており、「倉吉がどういった魅力のある街なのか」を知り、実際の訪問を促すことを目的としています。オープン当初は、VTuberとのコラボ企画も実施。倉吉の現地とバーチャル空間の両面をレポする企画が複数投稿されています。
VRChatとの公式パートナーシップ契約について
上記で一部紹介したように、日本企業がVRChatを使う際は、VRChat社と公式パートナーシップ契約を締結した開発会社と共同で制作を実施。有料イベントや大手イベントの企画を実施しています。
特徴的な試みとしては、Gugenkaによる自社アプリ「Make Aveter」の例があります。アプリとVRChatと連動させ、本来必要なUnityを介さずに、アバターをそのままアップロードできる機能を実装しています。このように、自社サービスとメタバースを機能的に連携するといった提携ケースも存在します。
こうした動きをする企業の多くは、すでにVRChatへの知見を蓄積していたり、すでに3D関連の技術を持っている傾向にありますが、今後より多くのユーザーが増えるに従って、新規の企業がVRChatを利用した施策を提案・実行する可能性があります。
VRChatを利用する際に気をつけるべきポイント
コミュニケーションを体験し、実感することが重要
VRChatは基本的に、ユーザー同士でコミュニケーションを楽しむプラットフォームとして機能しています。そのため、現状のユーザーの盛り上がり具合を知るためには、実際にユーザーとVR空間で対面し、話を聞いたり、同じコンテンツで遊んだりといった経験が重要となります。(各コミュニティによってルールや取り決めなどはあるものの)初心者ユーザーを歓迎するイベントなどがユーザー主導で行われているため、そういったイベントに参加するのがおすすめです。また、ユーザーとランダムにマッチングする1対1の交流ワールド「NAGiSA」など、グループ交流の必要のないワールドもあります。ユーザーと話し、交流し、さまざまなワールドを巡るという体験を経ることで、VRChatがどのようなプラットフォームなのかを理解できるようになるはずです。もちろん、ユーザーとの交流の際は、相手への失礼な言動がないように注意しましょう。
コンテンツを制作したまま放置では盛り上がらない

(ユーザーからの評価の高いアパレルブランド「BEAMS」の公式ワールド)
企業公式の企画として、オリジナルのアバターやワールドなどのコンテンツを発表する場合、気をつけるべきは「アフターフォロー」です。VRChatでは、シンプルにリリースするだけでは、日々更新されるコンテンツの中に埋もれてしまい、一時的に利用されたとしても、その後はユーザーが減り、忘れ去られてしまうという可能性があります。
特に「VRユーザーに対して、息長く愛着を持ってコンテンツを利用してもらう(製品や商品の認知度拡大)」を目的とするのであれば、コンテンツの定期的な更新(ワールドのアップデートやアバターのバリエーション拡大など)が必要と考えたほうがよいでしょう。また、ユーザーを招待してのファンミーティングやイベントなどの会場としてワールドを運用するなど、ワールドを様々な企画に活用する空間として利用するのも重要となります。メタバースは“公園”のようなものであり、誰かの定期的な手入れがなければ、誰も訪れない場所となってしまいがちです。ユーザーの声に耳を傾け、時にはVRに知見のあるクリエイターとも協力し「一緒に空間を作り上げていく」という感覚を持ち続けることが、重要です。






















