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イベント情報 2023.08.03

秋葉原が”バーチャルの入口”になった日。「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」レポート

7月末の土日。秋葉原の街の一角に、”バーチャル”が姿をあらわしました。イベントの名前はバーチャルマーケット2023リアルinアキバ」(以下、「VketReal」)。「バーチャルマーケット2023 Summer」と連動開催された、VRイベント「バーチャルマーケット」初のリアルイベントです。

「”バーチャル”なのにリアルにくるの?」と、多くの人が当初は首をかしげていたであろうこのイベント。ふたを開けてみれば、2日間とも多くの人でにぎわった大盛況のイベントとなりました。筆者も現地へ足を運びましたが、これはリアルで開催する意義がしっかりあると、様々なところで感じられました。

本記事では、「VketReal」現地の様子を、写真も交えながらレポートしていきます。筆者の視点から、2日間にわたって盛り上がった「リアルにやってきたVket」とはどのような場所だったのかお伝えしていきましょう。

フラッと立ち寄れるアトラクションコーナーは大盛況!


ベルサール秋葉原で開催された「VketReal」は、1階と地下1階の2フロアに会場が展開されました。いずれも入場は無料。1階は半屋外なオープンスペースなので、道沿いからフラッと立ち寄れる場所でした。

1階に展開されたのは企業出展コーナーアトラクションコーナー。出展企業の多くは「バーチャルマーケット2023 Summer」にも出展しており、各企業ごとのコンテンツに加え、Vket側のブースをVRヘッドセットをかぶって体験できるコーナーを設けている企業が多くありました。


(JRAブースの「精巧なロボットの馬」。口の動きまで細かいリアル仕様)


(HIKKYブースの「会話できるVket1号ちゃん」。「Gatebox」に現れ、ChatGPTと音声エンジンで会話ができました)

そして、目玉の1つは最新技術を活用したアトラクション。3つ用意されたアトラクションのコンセプトは「現実とバーチャルの融合」。現実にいながら、お手軽にバーチャルの世界を楽しめるものがそろっていました。筆者はこのうち2つを体験できました。


(「AVATAR MEETS」。一度に最大5人ほど体験できたため、回転がいいアトラクションでした)

「AVATAR MEETS」は、特別な機材なしでアバターコミュニケーションを体験できるアトラクション。渡されたマーカーを首から提げて大型モニターの前に立つと、自分の目の前に3Dアバターが現れ、全身を使って動かすことができました。


(筆者の体験中の様子。ちゃんと全身の動きを検知できるし、足元の影もアバターのものに)


(画像左が首から提げるマーカー。画像右のうちわにもマーカーがあり、上にかざすといろんなアイテムがアバターに装着される仕組み)

モーションキャプチャー機材を身に着けてないのに、手足はもちろん、回転しても、しゃがんでも、しっかりとその動きがアバターに反映されるのは驚がく。足元の影までアバターのものになっているというこだわりぶり。「なにが起きてるの!?」と思わず口から漏れるのと同時に、そのお手軽さはとても魅力的でした。


(技術的にはこのセンサーで動きを検知しているようでした)

なお、体験者のそばにいるアバターは、「NeosVR」にログイン中のユーザーのみなさま。VR世界にいる人たちとの交流を、VRヘッドセットをかぶらずにアバターとなって楽しめる体験をするべく、多くの人が詰めかけていました。


(「VRショットBAR “シーサイド~Seaside~”」。こちらは一時整理券配布になるほど盛況でした)

もう1つ体験できたのは「VRショットBAR “シーサイド~Seaside~”」。海辺のカフェテラスでバーチャル接客を受けられるコーナーと、VRの砂のお城を守るシューターゲームの2つで構成されたアトラクションです。


(接客担当だったおきゅたんbotさん。リアルからは、はじめまして!)

筆者はバーチャル接客を体験しました。このときの接客担当はVRガイドでおなじみのおきゅたんbotさん。座席についてからメニューを注文すると、VR側にいるおきゅたんさんが3DCGのドリンクやフードを運んできてくれました。


(注文したメロンソーダ。頭の動きに追随して立体的に見えます)


(におい制御デバイスと思われるもの。当日は風が強くてあまりにおいはせず……)

運ばれてきたドリンク・フードは、空間再現ディスプレイ「ELF-SR2」に表示。同時に、ソニーのにおい制御デバイスによって、ドリンクやフードのにおいも発生します。裸眼のまま立体的に見え、においまで嗅ぐことで、まるで「VRの世界からリアルへドリンクやフード運んできてくれる」という体験ができる仕掛けです。


(VRからリアルへの接客体験はワクワクします!)

メニューはローポリ寄りなので、立体視してもそこまで実物感はなく、においも屋外の風に飛ばされてやや薄かったものの、VRキャストとのコミュニケーションは間違いなくリアルタイム。現実にいながら、VR世界の人の接客を”バーチャル飲食付き”で体験できるのは、なかなかにおもしろいところでした。


(シューターゲームコーナー。さながらアーケードゲームのような雰囲気!)


(VR側からは各ゲームごとに2人が参加。水鉄砲で砂のお城を襲ってきました)

シューターゲームの方にもVR側の参加者がいました。砂のお城を水鉄砲で崩しにくるVR側の参加者を、リアル側の参加者が水大砲で攻撃し、お城を防衛するというゲームとなっており、どの回も大盛り上がり。ゲームセンターのようにわかりやすく、「リアルタイムに動くVR世界の住人」との交流を体験できるアトラクションに、10代くらいの子どもも楽しんでいるようでした。


(1階はどこも超満員! 終始さまざまな人でにぎわっていました)

全体的に、1階の出展物やアトラクションは、VRやメタバースをなにも知らない人でも楽しめるものが多かった印象です。「VR・メタバースの入口」として広がった1階フロアは、開会から絶えず多くの人であふれていました。


(VTuberが入って動く「アバターロボット」も会場内をめぐっていました)

地下1階はVRユーザーの大規模オフ会に

一方の地下1階に広がっていたのは、クリエイターとコミュニティの交流の場と、様々な企画が実施されるステージでした。


(7月30日、午前10時半ごろから始まるマグロ解体ショー)

VR・メタバース体験や音楽ライブ、トークショーなど、スペシャルステージで実施された企画は多種多様。その中で筆者がぜひ見たいと思ったのは「リアルマグロの解体ショー」でした。

Vketにも出展した静岡県焼津市によるこのステージでは、ゲストにやいづ親善大使を務めるSKE48・青木詩織さんも招き、焼津市から提供された本物のマグロを解体。もともと焼津市のブースでは「バーチャルマグロ解体ショー」という好評なコンテンツがあったのですが、これがリアルにも出荷された形です。

持ち上げられる巨大なマグロの身を前にステージは大興奮! プロの手によるマグロ解体も鮮やかでした。

そして、さばきたてのマグロはその場で寿司として観客へ提供されました。もちろん筆者もいただきました。新鮮な赤身と中トロは弾力があり、味は濃厚で、でもさっぱりとしていて……大変美味でした!

Vket出展が縁となって生まれたユニークなステージでしたが、マグロ解体を行っていた方が「この中落ちの部分は、さばきたてをスプーンですくって食べるのがうまいんです。焼津市に行けば食べられます。ぜひ焼津市にお越しください」とも語っていたのが印象的です。VRの中でも、そこから飛び出したリアルでも、多くの人に関心を持ってもらう地方自治体PRが展開されていました。


(「パラリアルクリエイターエリア」と「バーチャルコミュニティエリア」。入場規制がかかるほどのにぎわい)

ステージエリアとは別の区画には、「パラリアルクリエイターエリア」「バーチャルコミュニティエリア」が展開。リアル・バーチャルの双方で活躍するクリエイターの展示・即売や、VRを中心に活躍するコミュニティの展示・企画が行われていました。


(出展物もさまざま。「バーチャルのものをリアル化」というものも多い)


(VRでおなじみな団体の広告もたくさんありました)

このエリアは終日大盛況で、一時は入場規制すらかかるほど。それだけ多くの人が訪れ、出展者との交流を楽しんでいました。こちらのエリアには、パッと見聞きするだけでもわかるくらいのVRChatヘビーユーザーが多く滞在しており、いわば「VRChat民の大規模オフ会」だったと言えるでしょう。


(「私立VRC学園の案内」や「『プロジェクト:エメス』のミニポスター」など、持ち帰りできた「バーチャルなもの」もうれしい)

「VR・メタバースの入口」とは真逆に、地下1階のこの区画は「ディープなVRコミュニティの世界」が広がっていました。もちろん、VRで生きる人々と直接会える場所として、ここもまた「VR世界の入口」だったと言えそうです。

“現場”にリアルもVRも関係なし。音楽ライブ「VRave」の熱気


(秋葉原エンタスに集まる音楽を愛する者たち)

7月30日には、秋葉原エンタスにて音楽ライブ「VRave-ヴレイヴ–」が開催されました。VRで活躍するアーティストが出演するライブイベントで、8月に開催予定の音楽特化VRイベント「MusicVket 5」の前哨戦も兼ねたイベントです。

DJの影虎。さんに始まり、アイドルユニット「Suc×Suquel。」、ロックバンド「LAUTRIV」、ヒップホップユニット「CROWK」、音楽ユニット「YSS」、ヴォーカルデュオ「AMOKA」、ブルースロックバンド「JOHNNY HENRY」……と、出演陣のジャンルはバラバラ。ここに、VTuberのChumuNoteさんも加えた、計8組がエンタスの舞台に立ちました。

どのステージでもフロアは熱狂! ステージに立った途端、どのアーティストも抜群のパフォーマンスを見せてきました。彼らはVRの世界で、眼前に実際に立つ観客を前に、パフォーマンスを積み重ねてきた猛者たち。リアルの現場であっても、そのパフォーマンスが揺らぐことはありません。

観客たちの間で音声ラグが存在しないこともあってか、会場のボルテージはすさまじいものになっていた印象です。音が体を振動させるリアルの現場の特性もあり、声を張り上げ、跳びまわる観客の熱量は、音声として出演者にも届いていたようです。そのリアクションの熱さが、パフォーマンスにさらなる拍車をかけていたようにも見えました。

ChumuNoteさんはほか7組とは少し毛色が異なるものの、前歴を含めれば長いキャリアを持ち、数々の場数を踏んできたVTuberの一人。オリジナル曲を引っ提げてステージを沸かせました。余談ですが、3Dモデルは「My Vket」製のものを活用していました。

ぶっちゃけてしまうと、筆者も取材を忘れてライブを楽しんでいました。ソーシャルVRで育まれたアーティストが、リアルのハコを震わせ続ける光景は、2020年末に「AMOKA」の「不完全存在」を初めて知り、衝撃を受け、VRChatの世界に関心を持った身にとっては感慨深いものでした。

トリを務めた「JOHNNY HENRY」ボーカルのYAMADAさんは、映画「レディ・プレイヤー1」のラストを、VRにどっぷりハマってた時期に見て憤慨した話を切り出しつつ、「こうしてバーチャルな存在としてリアルの場に出たり、秋葉原でイベントが開催されて盛り上がって、リアルでもバーチャルが認められてきたんじゃないかなって感じてます。ほんとに楽しい時間でした!ありがとう!」とコメント。「愛にすべてを」の大合唱のうちに、「VRave-ヴレイヴ–」は閉幕しました。

秋葉原が”バーチャルの入口”になった日


(2日目・閉会直後のようす。お疲れ様でした!)

「VR発イベント・コミュニティのリアルイベント」という、世間的にはまだニッチなカテゴリーのイベントだった「VketReal」ですが、2日間ともに会場は常に人であふれかえるほどの大盛況でした。公式の発表はまだですが、速報値の延べ来場者数は約4万人。筆者も「そんなに!?」とおどろくレベルの数でした。

多くの人が訪れた理由はいくつか考えられます。一つは立地的な理由です。会場となったベルサール秋葉原は、秋葉原の表通りの交差点に面しています。多くの人が行き交う場所のため、たまたま通りかかった人でも立ち寄りやすかったことは大きいでしょう。

そしてもう一つは、体験コンテンツの出展が多かったこと。上記の通り多くの人が立ち寄りやすい1階には、「とても精巧な馬ロボット」「会話できるAIキャラ」、「その場でVR世界を見られるコーナー」、「立つだけで3Dキャラクターになれる不思議な画面」、「バーチャルキャラクター(実際は生きた人!)とバトルできるゲーム」といった、ものめずらしいものがたくさん並び、全部がその場で並べば体験できるようになっていました。

流行りの「メタバース」や「バーチャル」を、あれこれ説明されるのではなく、「こういうものだよ」とその場で体験できる。なにも知らなくても、楽しい体験はできる。そうした敷居の低さが、家族連れや海外の観光客も立ち寄るきっかけになっていたのでは……と推測できます。


(イベント期間中はVRChatユーザーがよく集まる「HUB」ともコラボ。VR音楽イベントの中継も実施されました)

もちろん、これまで育まれてきた、ソーシャルVRコミュニティの熱量が花開いたのも大きいでしょう。VTuber黎明期とほぼ同じ時期から「VRChat」を中心に活動してきた人々がいたからこそ、「バーチャルマーケット」というイベントが始まり、今日に至るまで走り続けてきた。ひたむきに積み重ねてきたものの強さは、たくさんの人でにぎわった地下1階や、「VRave-ヴレイヴ–」の盛り上がりが物語っています。


(閉会式にて。舟越CEOもやる気満々!)

HIKKYにとっても、「VketReal」の盛況ぶりはなかな想定外だったようですが、閉会式ではCEOの舟越靖さんは「来年もやろう!」と意気込み十分。なにより、すでに冬の開催となる「バーチャルマーケット2023 Winter」でも、「VketReal」の連動開催は決定済みです参考)。次は肌寒い季節の開催になりそうですが、寒気を吹き飛ばす熱量であふれそうなことは、いまからでも想像に難くありません。

2023年に入り、未だ新型コロナの脅威は残りつつも、リアルへ人は戻りつつあります。そうした中で、「リアルもバーチャルも融合する」という方向へ漕ぎ出した「バーチャルマーケット」は、誰もが予想以上に大きな第一歩を踏み出したと言えるかもしれません。VR世界最大のイベントが、多くの人にとっての「VR・メタバースの入口」としてさらに成長するか、見届けていきたいところです。


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