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VRChat 2024.04.15

クリエイターとの共創でバーチャルファッションを根付かせていくアダストリアの新戦略「StyMore」

2024年4月10日、アダストリアがファッション特化型メタバースプラットフォーム「StyMore」を発表した。メタバースプラットフォームと記されてはいるが、実際には3D CGのバーチャルファッションデータを販売するECプラットフォームだ。

アダストリアはグローバルワークFOREVER21といった30以上のブランドを持ち、業界第3位の売上高を誇るアパレル企業。ビジネスの主軸はリアルなファッションではあるが、2022年10月よりダウンロードECサイト「BOOTH」でVRChatなどのソーシャルVRプラットフォーム上で利用できるアバターやバーチャルファッションの販売を開始してきた。

そんな彼らが独自の、そしてバーチャルファッション専門のECサイトを運営する。アダストリア執行役員マーケティング本部長ドットエスティ事業本部長の田中淳一氏は、成長戦略の1つとしてデジタル領域、そしてメタバース領域にも注力していくと語る。

「新しいお客様のタッチポイントとして、メタバースに可能性を感じております。2030年ぐらいにはある程度のマーケットになるんじゃないかって予測もしており、メタバースの中でファッションを楽しんでいただく価値観がもしかしたらマスになるかもしれないという仮説を持ってます」(田中氏)

野村総合研究所の調べによると、メタバース内での消費が2028年には3兆円を超えるという予測(EMERGEN Research社の調査が元)がされている。

また現時点においても、バーチャルファッションなどを楽しんでいるソーシャルVRユーザーの半数以上が、合計3万円を超えるアイテムを購入しているという(※上記画像は、株式会社インテージホールディングス インテージグループR&Dセンターとの共同研究から)。

アダストリア メタバースプロジェクト責任者ドットエスティメディア部長の島田淳史氏いわく、バーチャルファッションなどのアイテムは月に2~3回ほど購入している反面、現実のファッションは2~3ヶ月に1回の購入にとどまっている方もいるという。

また2022年10月からメタバース関連アイテムを展開。約1年半での累計販売額は約1000万円になったそうだ。

「100万円以上の売上を作れるアイテムが複数生まれてきています。メタバースの世界でもヒット商品というのはもう生まれるということが実証できているのかなと思っています」(島田氏)

国内外に1563もの店舗を出店し、自社ECサイト.st(ドットエスティ)の会員数1750万人を持つことを背景に、リアル店舗とECサイトによるタッチポイントのなかにバーチャルファッションを組み込んでいく。その結果として、バーチャルでアダストリアを知った顧客が現実のファッションも楽しんでいく、または現実のアダストリアを知っている顧客がアダストリアのバーチャルファッションでメタバースに遊びにいく、といった戦略を考えている。実際にアダストリアは現実のファッションアイテムと同じデザインのバーチャルファッションも手掛けており、両方を好んで買い求めるユーザーの姿を見てきているものと思われる。

バーチャルのなかでも毎日着替えを楽しむ文化を目指して

StyMoreのサイトを見ると、現時点で24のクリエイターショップと、3つの企業ショップが登録され、トラックジャケット、振り袖、柄シャツやアクセサリーなど89アイテムを販売している。自社ブランドだけではなく、様々なクリエイターや企業とともに共創していく姿勢は、.stと同じだ。

サイトの作りは、従来のファッション系ECサイトのUIUXに近い。トップス、シューズ、アクセサリーなど特定のジャンルのアイテムが検索しやすいシステムで、ファッション専門ECサイトを構築し続けてきたアダストリアの知見が生きている。

既存の3Dデータ販売サイトは、誰でも商品を登録できる反面、R-18のアイテムをゾーニングなく販売できたり、ゲームなどからリッピングした違法データの販売も可能になっている。この問題に対しアダストリアは老若男女を問わず誰でも安心して利用できるECサイトとするべく、出店を希望するブランドの事前確認や、当初は目視で、将来的にはAIを活用したデータチェックを取り入れることで、クオリティコントロールをしていくという。

バーチャルファッションを手軽に楽しめるようにするための施策にも取り組んでいる。Gugenkaが開発したMakeAvatarと連携することにより、スマートフォンアプリを使った着替えとデータのインポートを可能としている。VRChatの場合、Unityを操作してアバターやバーチャルファッションのデータをアップロードする方法が主流となっているが、簡略化するシステムを採用したことでライトユーザーの関心を引くことができるだろう。

StyMoreの話からは外れるが、Robloxの場合は「同じ服を着続けるのは恥ずかしい」という感情のもと、毎日異なるファッションで遊びにいくユーザーが増えてきている。着替えが簡単にでき、購入できるアイテム数が増えていくのであれば、他のプラットフォームにおいても同様の楽しみ方をするユーザーは確実に増える。そしてStyMoreは3年後には10万以上のアイテムを販売できるように取り組んでいくという。

メタバース領域はアダストリア全体の規模と比較するとまだ小さい市場ではあるものの、在庫を持たず世界中の顧客に向けたビジネスができることは大きな可能性がある。コロナ禍における外出機会の減少により大打撃を受けたファッション業界が、次なる一手としてバーチャルファッションに関心を向けるのは必然といえよう。


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