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作業補助・ナビゲーション 2019.01.21

VR/ARのビジネス活用事例10選。国内外で業務効率向上やコスト削減に

VR/AR技術はゲームを中心としたエンターテインメントでの利用が目立つ一方で、ビジネス領域でも様々な業界においてVR/ARの活用が広がり続けています。直近では従業員や学生向けの研修・トレーニングや業務効率の向上、コスト削減などに大きく貢献しています。

本記事では国内外問わず、VR/ARを用いたビジネス活用事例を複数紹介します。

ウォルマート:100万人以上の従業員へVRトレーニングを導入、効果も明確に

小売大手として知られるウォルマートは、米国内で雇用している100万人以上の従業員らに対して一体型VRヘッドセット「Oculus Go」を店舗に配布し、VRトレーニングを行うプランに着手しています。

ウォルマートが2017年6月に実施したVRトレーニングにおいてすでに効果が現れており、Oculus RiftとSTRIVRのコンテンツを利用した研修では、通常のトレーニングと比較して満足度が30%向上したと報告されています。

さらにOculus Riftを使ってトレーニングを行った従業員のうち、およそ70%は、他のトレーニング方法を用いた従業員と比較して高いパフォーマンスを示したとのこと。ウォルマートU.S.アカデミーのAndy Trainor氏は、「この教育は非常にうまくいったため、我々はVRをさらに多くの従業員教育へ導入しようと考えています」とコメントしています。

ジョンソン・エンド・ジョンソン:手術を学べるVRを提供へ

米ヘルスケア大手のジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(J&J;)メディカル・カンパニーは、日本における心房細動の手術に関するVRトレーニングの提供を発表しています。このトレーニングを通じ、専門医が足りない同分野の医師の増加に貢献することを目指しています。

J&J;が提供するVRトレーニングは、「名医が手術しているシーンをそのすぐ隣に立って体験できる」というもの。名医とされる医師が手術中にどのような動きをしているのかを、ナレーションつきで学ぶことができます。

名医の振る舞いを見るだけでなく、患部をモニタリングしている情報も大きく出すことで、「何をどうしたらいいのか」、手術中に起きている全てを見ることでより効果的なトレーニングが可能になっているとのこと。VRであれば、忙しい日々の中でも、トレーニングのために限られた手術の時間に合わせる必要もなく、いつでもどこでも体験できることもポイントになります。

フランスの道路建設Colas:VRに安全教育訓練に導入

インフラ企業の世界的大手として知られるColasは安全対策を重視しており、予算の多くを割いています。安全監査や現場安全講習、専門的な事故防止研修、そして応急処置訓練などに時間と投資を行い、全社従業員の3分の1以上が何らかの研修を受け、事故ゼロを目標に掲げています。

同社が実施した社内調査の結果では、過去数年間にColasで発生し時間の損失を招いた事故のうち、約60%に作業経験2年未満の人間が関わっていることが判明したそうです。そこで同社は新人教育の強化とVRを用いた安全訓練の導入という二段構えのアプローチをとりました。

導入されたVR安全訓練は、「安全トレーニングの手段として革新的というだけでなく、楽しく内容が身につくもの」になっていたとのことです。Colasで労働災害防止・衛生・安全担当ディレクターを務めるPhilippe Simarik氏は、「バーチャルリアリティの中でなら、危険な状況を体験しても危害は受けませんし、教訓はしっかり記憶に残ります」とコメントしています。

火災時の環境や有効な判断要素を学べるVRコンテンツ

株式会社理経は、VRで火災からの避難を体験できる新製品を2018年11月より提供を開始。理経がすでに提供している「避難体験VR」をリニューアルし、より実態に近い煙の動きVRで再現しています。本コンテンツの開発は、火災避難を研究している東京理科大学大学院・関澤教授が監修を務めています。

VR体験では火災の煙による視界不良や、避難時に有効な判断要素を学ぶことができます。煙の状況は時間経過とともに変化し、しゃがむことで目線が変わるなど、実際の火災避難時に近い内容が再現されています。

理経では消防署や区や企業などでVRコンテンツを提供しており、今後は市や区の単位だけでなく、より地域に根差した自治会などの組織において活用できる廉価なVRコンテンツの開発を行っていくとのこと。自主防災のコンテンツ開発と並行して、今後は隊員向け訓練領域での本技術の活用を目指すとしています。

テスラ:電気自動車の製造工程でAR活用

自動車会社のテスラは、AR(拡張現実)の利用により莫大な工数やヒューマンエラーが削減できると見込み、AR機器を利用した工数削減に関する特許を出願しています。本特許により、Google GlassタイプのARグラスを用いて、製造ラインに従事する従業員らの作業効率化を図る見込みです。特許ではARグラスを使った3つの機能に触れられています。

一つ目に、ARのディスプレイを用いて、従業員に作業内容を述べた図解を提示する仕組み。非「常に薄い膜のコーティングを高精度で行う際の補助を行う、塗布が難しい場所を特定して作業員に知らせる」などの役割を担います。

二つ目に、車の点検時の異常検出を行う仕組みです。「溶接や穴あけの位置が正しいか、部品間の接触面の耐性は十分か」などの観点で点検を行い、製造車の品質管理に役立たせることが可能としています。

最後に、工場の各階のマップをARグラスを通して提示し、製造ロボットが正しい位置や向きで設置されているかを確認できる機能があります。「工場には莫大な数のロボットがあるため、互いにぶつかる、現場での障害物となる」などの危険を回避する狙いがあります。テスラの自動運転車の精密な製造ラインの構築に役立てるものと考えられます。

トヨタ・JR東日本:MR(複合現実)を作業効率化や訓練に活用

トヨタ自動車株式会社と東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、マイクロソフトのMRデバイス「HoloLens」を活用しています。トヨタではMRを活用した複数の取組み検討が進められており、「塗装の膜厚検査での活用」および「試作工場の設備移設での活用」などで利用されています。

HoloLensを塗装の膜厚検査に導入することにより、作業の効率化と時間短縮を可能としています。また、HoloLensとMRビジネスアプリケーション「Dynamics 365 Layout」を用いた工場の設備移設では、大型設備の入れ替えシミュレーションで事前に安全性などを確認できます。

JR東日本では、鉄道信号設備の保守業務、および線路設備の保守訓練でHoloLensを活用した取り組みを進めています。設備の保守業務では、HoloLensと「Microsoft Remote Assist」を導入。作業員とリアルタイムに視界が共有することで、音声だけでなく視覚的に指示が行えるようになり、現場の保守作業の正確性や迅速性の向上が期待されています。

保守訓練では、訓練環境の整備、訓練頻度の増加、習熟度の早期向上を図る取り組みを行っており、保守点検手順を、3Dアニメーションで理解するアプリケーションを開発しています。訓練頻度を高め、さらに実機を使った訓練と組み合わせ習熟のスピードアップが期待されています。

石油大手シェブロン:HoloLensで出張費削減や業務効率向上

石油大手シェブロンもHoloLensの導入を進めています。同社はHoloLensをリモートアシスタントに使用することで、出張旅費の削減や業務効率向上に一定の成果が出ていることを明らかにしています。

シェブロンが特に活用しているのは「Microsoft Remote Assist」です。Remote Assistを使用することで離れている場所でも協力して業務に当たることが可能となり、出張旅費の削減や業務リスクの低下、業務効率の向上といった効果が現れています。例えば検査員は、米ヒューストンのオフィスにいながらシンガポールのプラントの月次検査を行うことが可能です。

VRによる「共感力強化」で自閉症児や学習障害児を支援

(画像引用:PLOS ONEより)

スタンフォード大研究チームは、VRと他の方法(文章を読む等)を比較し、共感レベルの違いを明らかにしようと100名超の被験者を対象に調査を実施。本実験を通して、「VRでの体験は共感が長く続き、共感に基づいた実践につながっていく」としています。

米国教育省は、「高機能自閉症や学習障害を持つ生徒を支援するために、VRが有効である」と考えています。生徒らが社会的スキルを身に着けるために、VRを活用する新たなプロジェクトに250万ドルの投資を行っています。研究チームは5年をかけて、社会的スキル習得を主眼としたVRを導入しその有効性を証明していく計画です。

基盤となるのは「脳の機能的可塑性」という認知科学の知見。バーチャル環境で脳神経の接続が変化し、脳は新しい解剖学的機能を創り上げることができるというものです。バーチャル環境で学習したことを一般化する能力を向上させるだけでなく、バーチャル環境で改善されたスキルをバーチャル環境「外」で持続させることも可能にすると考えられています。

VRで摂食障害を克服:9割以上で効果、プログラム化する企業も

ニューヨーク州のHoward Gurr医師は、VRを使って拒食症や過食症の患者の不安、自身の体に対するイメージの問題に取り組んでいます。本治療は摂食障害の治療に9割以上効果ありとされています。

治療方法は認知行動療法とVRを組み合わせたもの。まず、VRでビーチなどの落ち着いた環境を体験することで患者をリラックスさせます。その後、同様にVRの中で飲食店、試着室といった、患者の不安の種になるような場所へ連れて行きます。そして「PsiousToolsuite」と呼ばれるプログラムを使い、患者自身の体に対するイメージの問題や、摂食障害の克服をサポートしていきます。

「PsiousToolsuite」は様々なVR環境を揃えており、医師やセラピストは患者のストレスレベルをチェックしながら場面をコントロールし、現実をどのように認識するか、導くことができます。患者が自信を正しく認識できるようになると、セラピストは患者の実際の体に基づくVRのボディーイメージを提示します。患者は自身の体と他者を比べ、体に対するより正しいイメージを身につけることができるとのこと。

eXp Reality:ほぼ完全なバーチャル勤務を実現する米企業

今から約10年前に誕生した企業eXp Reality。同社は2017年10月以来、株価が300%以上の伸びという急上昇を遂げています。さらに2018年5月にナスダックで株式公開した際には、取引初日に時価総額10億ドル(約1,100億円)を記録し、急成長を見せています。

この急成長の大きな要因は同社の「オンライン・バーチャルワールド」の活用にあります。従業員や建築業者、不動産エージェントといった関係者は全員、バーチャルな世界で会議をし、教育や研修を受けています。

バーチャルなオフィスのメリットの一つには、スペースを気にせずに人を雇えるということがあります。従業員はインターネット環境さえあれば業務可能です。そして経営陣も、世界中からマネジメントを行うことが可能です。

同社のCTOであるScott Petronis氏は、メディアSingularity Hubの取材に対して「バーチャルな世界を舞台にしている点は、我々の成長の大きな源泉です。もし物理的なオフィスの制約があったら、これほどまでの成長は出来なかったでしょう」とコメントしています。


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