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開発 2024.04.15

【GDC2024】「Roblox」とF2Pモバイルゲームの常識の違い: 新進気鋭のスタジオが実例を交えて語る、成長に必要な施策

日本国内で名前を聞くことも増え始めた「Roblox(ロブロックス)」。数百万人以上のクリエイターがゲームや空間を構築・公開し、毎日数千万人以上が遊ぶ、超巨大な「体験」あるいは「ゲーム」のプラットフォームだ。

2024年3月、サンフランシスコで開催された「GDC 2024」でもRobloxに関する講演は多数行われている。本記事ではそのうちのひとつ、「RobloxとモバイルF2Pゲームの違い」のレポートをお届けしよう。登壇者は新進気鋭のRobloxスタジオ、Voldexアレックス・シンガー氏とアンドリュー・ローズ氏だ。


(左: Voldexの創設者兼CEOのアレックス・シンガー氏 右: 同じくVoldexの最高製品責任者のアンドリュー・ローズ氏)

「Robloxネイティブ」の活躍する新興スタジオ

まずはVoldexの紹介から。Voldexはモバイル向けに「F2P(Free to Play、いわゆる基本無料)」のゲームを展開してきたスタジオで、最近はRobloxやMinecraft、Fortniteなどへの展開もスタートしている。特に注力しているのはRobloxで、同社タイトルの月間アクティブユーザー数は合計2,500万人以上とのこと。スタッフは約60名で、「Robloxネイティブなクリエイター」とモバイルゲームに携わってきた開発者が在籍している。


(Voldexはここ5年間にわたり、データを重視するアプローチで収益を成長させてきた。年間での成長率は実に75%にも及ぶという)


(Voldexが展開するタイトル 「Driving Empire」、「Ultimate Football」、「Zo Samurai」、「Dungeon Quest」、「Base Battles」、「Encounter」などが並ぶ。本講演ではそれぞれのジャンルやDAU、モバイルユーザー比率、売上等が公開された)

と、ここでVoldexの2人から「まずはRobloxについて紹介したい」との声が。最大規模の“メタバース”プラットフォームと目されているRobloxは、数百万の制作者がゲーム制作を行い、プレイヤーとゲームをつなげるUGCプラットフォームだ。プレイヤーはPCにモバイル、PlayStation、Xbox、そしてVRヘッドセットなど、各種デバイスからアクセス可能で、個性的なアバターとクロスプレイ可能なフレンドシステムを使ってコンテンツをわたり歩いている。

Roblox上のゲーム含むコンテンツは「エクスペリエンス」と呼ばれる。数にして実に4,000万以上存在し、やはりゲームやソーシャルアクティビティが中心だ。ジャンルは多岐にわたり、同時接続数100人以上のサーバーでマルチプレイができ、フレンドとも自動的に繋がるようになっている。中にはピーク時の同時接続人数が10万人を超え、デイリーアクティブユーザー(DAU)が300万人超の大ヒットタイトルも存在する。

Robloxでのクリエイターやスタジオの主なマネタイズ方法は、Roblox内通貨である「Robux」による課金(およびその換金)や、サブスクリプションシステム、広告等でマネタイズを行っている。なお、Voldexのゲームでは「売上のうちゲーム内課金が85%を占めている」とのこと。

ちなみに、プラットフォーム手数料については、収益の71%はアプリストア(App Store、Google Play等)やRobloxに支払われ、残る29%がクリエイターに分配される。他社のプラットフォーム上にRobloxが載っかる形態、いわゆる「2階建て」となっているため、他プラットフォームと比較して収益率は低めだ。

しかしVoldexの2人いわく「チャットのフィルタリングやサーバーのコスト、認証システム、ストレージ、決済関連、オーガニックな集客・宣伝等をRobloxがカバーしているため、クリエイターの取り分は29%だが、実質的な恩恵はかなり大きいと感じている」とのことだ。この点は2022年夏、Mogura VR Newsがインタビューを行ったRobloxスタジオ・SuperSocialの回答と一致している。

マーケティング不要な「Roblox」

Voldexの2人によれば、Robloxの魅力は「収益化の機会の大きさ」、「ユーザーベースの大きさ」、そして「成長性」だという。

実際にRobloxのクリエイターへの支払総額は年々増加しており、2023年には前年比59%増の7億4,000万ドル(約1,138.2億円、2024年4月15日次点)だ。さらに上位10タイトルの平均年間収益は2,700万ドル(約41.5億円)、トップタイトルは7,000万ドル(約107.6億円)に達しており、モバイルゲームの上位150タイトルに匹敵する規模だ。

ユーザーベースという観点では、Roblox自体のDAUは実に7,200万人超。そのうち41%が17歳以上で、2020年以来、毎年24%前後の成長が続いており、既に「子ども向けプラットフォーム」を脱していることがわかる。さらに新たな年齢層やデバイス、地域への展開を続けているため、今後もプレイヤー数の成長が見込まれる。2023年夏にアジア太平洋地域、特に日本への展開を強めはじめたことは記憶に新しい。

Voldexが特に強調したのは、Robloxでのディスカバリーの仕組みがアルゴリズムベースで、リテンションの高いゲームほど優先的にインプレッションが得られるという点だ。Voldexが開発した「Encounters」では、リテンションの改善とインプレッション数が連動して伸びている。彼らいわく「マーケティングコストをかけずに大量のオーガニック流入が獲得できるチャンスがある。ユーザー獲得費用がかからないのが、Robloxの大きな魅力」とのこと。Voldexでも四半期のマーケティング費用は全体のわずか0.3%だけで、2024年はさらに下がる見込みだという。

再訪してもらうために有効だったこと

続いて、Voldexが「モバイルゲームとRobloxを比較して、最も驚いたこと」を語った。内容はズバリ「リテンションの低さ」。ユーザーが同じコンテンツに何度も再訪してこないのだ。

Voldexの2人はモバイルゲームとの差異として、「ローンチ当日のリテンション率が16%というのは、モバイルゲームならはっきり言って失敗です。しかし、Robloxでは上位10%のゲームでさえ、プレイ初日のリテンション率は16%程度しかありません」と語る。彼らの分析によれば、他の体験へ移動するためのフリクションが低く、プラットフォームがプレイヤーを積極的に別のゲームに誘導する構造になっているようだ。


(Robloxの「上位10%」ピッタリのタイトルは、初日のリテンション率は16%。「最高のモバイルゲーム」は60%以上、「普通のモバイル向けRPGゲーム」が29%とのこと)

前掲の記事でも語られていたが、Robloxのエクスペリエンスではオンボーディング(チュートリアルなどを通じて、コンテンツにユーザーを引き込むこと)が簡潔だ。アクセス直後の新規ユーザーに対して、矢印を表示するだけのシンプルな誘導しかないこともしばしば。Voldexではこれがリテンションの低い理由ではないかと疑問を持ち、「Base Battles」や「Encounters」で、モバイルゲームのような丁寧なチュートリアルを導入した。しかし、効果はほとんどなかったという。

そこで、「Dungeon Quest」ではプレイの核となる一連の行動とその面白さ(Voldexでは「コアループ」と読んでいる)をしっかり教えるチュートリアルを実装したところ、ローンチ当日のリテンションが40%向上し、アルゴリズムによるインプレッション数も大幅に増加して成果を上げたという。

他の大手スタジオは「チュートリアルをいかに簡略化するか」というポイントを強調したが、簡略化しすぎて完全に省略してしまう、カットしてしまうのもそれはそれで問題なのだろう。この部分はスタジオの腕の見せどころだ。

「ユーザーを家に帰らせる」ための施策

Voldexが挙げた2つ目のポイントは、ウィークリー単位で見たときのアクティブユーザー(Weekly Active User: WAU)の構成だ。モバイルゲームでは、毎週遊ぶユーザーはコアユーザーが大半を占める。一方RobloxにおけるVoldexのポートフォリオでは、WAUのうち翌週に戻ってきたユーザーはわずかに15~30%程度。新規ユーザーと1週間以上経って戻ってきたユーザーが大半を占めている。

Voldexは、プレイヤーが別のゲームをプレイしてからもともと遊んでいたタイトルに戻ってくることを、「旅行から家に帰ってくるようなもの」と表現した。Robloxにはスマートフォンのホーム画面のように、プッシュ通知やメール、アプリアイコンなどが存在しないため、「旅行から家に帰ってきてもらうため」に開発者が取れる選択肢は限られている。

そこで紹介されたのが、ゲームアイコンとゲーム名の変更。これにより関心を喚起し、アルゴリズムで露出を高めることが重要とのこと。上述の「Encounters」でアイコンを変更したところ、クリック率とインプレッション数が連動して大きく伸びたという

「同期型」のソーシャルゲーム

Robloxの3つ目のポイントは、同期型のソーシャルゲームプレイである、ということだ。PvPでないモバイルゲームのソーシャル要素は、リアルタイムに同時にプレイしない「完全な非同期型」が多い。一方、Robloxはゲーム内に他プレイヤーがリアルタイムに存在する同期型だ。

同期型のタイトルには、ベテランユーザーが新規ユーザーのオンボーディングを助けるメリットもある一方、両者の間の力の差が新規ユーザーの熱量低下に繋がるデメリットもある。「Base Battles」で、新規ユーザーのみのサーバーとベテランユーザーと新規ユーザーが混在するサーバーでテストしたところ、混在サーバーではローンチ当日のリテンションが15%低下する一方、LTV(ユーザーがゲームを開始してから、プレイしなくなるまでの課金額)が92%向上した。ゲームによって、リテンションと課金額でトレードオフが発生しているのだ。

また、Voldexの展開するいくつかのゲームでは「再訪ユーザーの34~45%がゲームを遊ぶためにアクセスしているのではなく、単に友達とおしゃべりするために利用している」ことが分かった。これを受け、「Driving Empire」ではその実態に合わせ、会って話をするためだけに訪れるユーザー向け機能を実装したところ、プレイ時間が10%向上した。

マネタイズの工夫もデータから

最後にマネタイズについて。Robloxユーザーは「リテンションが低いものの、ロイヤルユーザーの売上貢献度は非常に高い」。Voldexの各ゲームでは、半年以上プレイしているベテランユーザーが売上の大半を占めており、「Dungeon Quest」に至っては3年以上前からのプレイヤーが売上のほとんどを占めているという。

ここまでの講演内容からは、インストール数を伸ばすには新規のリテンション改善、売上を伸ばすにはベテランのLTV最大化の両輪が重要ということになる。ただし、課金額の多いユーザーも合理的な課金行動をとっているようだ。「Zo Samurai」のいわゆる「ガチャ」システムでは、一定額以上の購入を行った場合必ずレアアイテムが排出される、いわゆる「天井システム」を導入、7%のLTVアップに成功した。一時的な課金を促すのではなく、継続的な課金に繋がる仕組みの重要性を語った。

さらにLTVの分布を見ると、96%のユーザーが100ドル以下の課金に留まり、1,000ドル以上の高額課金ユーザーがほぼ不在。モバイルとは売上構造が大きく異なることを指摘した。つまり、少額多数の課金を促すマネタイズ設計が鍵になる。

実際に「Base Battles」では、アイテムの単位を細かく分割し、少額での購入を可能にして最低価格を99セントから5セントに引き下げたところ、コンバージョン率が大幅に向上した。さらに「乗り物」アイテムを単発で導入したところコンバージョン率が追加で伸び、合計で109%のコンバージョン増加、30%のLTVアップを実現できたとのこと。

Voldexの2人は、最後にここまでの講演の内容をまとめ、以下の「データから得られた重要な学び」6つを示し、講演を締めくくった。

1. モバイルにおける新規ユーザー獲得のベストプラクティスがRobloxでも有効
2. リアクティベーションを行うためには、アイコンとゲーム名の変更が主要施策
3. ベテランプレイヤーが新規プレイヤーに与える影響を考慮して設計する必要がある
4. プレイ以外の目的でゲームに来るユーザーも多く、そのニーズを汲み取ることが重要
5. 高LTVユーザーは合理的な消費行動を取るため、一時的でない、継続的な価値提供が肝要
6. 1,000ドル以上の高額課金ユーザーはほぼ不在のため、数十ドル単位の少額多数の課金を促すマネタイズ設計


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