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企業動向 2024.01.11

【体験レポ】片目4K?一体型?突如登場したソニーのXRヘッドマウントディスプレイ、その正体に迫る

ラスベガスで開催中のエレクトロニクス展示会「CES2024」にて、ソニーはクリエイターや産業向けの新XRヘッドマウントディスプレイ(XRHMD)を発表した。本記事では 、CES期間中に設けられたメディア向けの説明、およびこのXRHMDのプロトタイプ体験会で得られた所感・詳報をお伝えする。


(中央がソニーの新XRヘッドマウントディスプレイ。左側のスティック型コントローラー、右側のリング型コントローラーとセットで「空間コンテンツ制作システム」を構成する)

なお、このXRHMDは、ソニーグループ株式会社CEOの吉田憲一郎氏による基調講演にて発表。この時点では詳細な情報は公開されておらず、後にソニー公式Webサイトに掲載されたプレスリリースで判明した、という次第だ。

現状は名称未定とのことなので、本記事では単に「XRHMD」とだけ記載する。2024年中の発売を予定しているものの、現時点で体験できたものはプロトタイプであるという点にはご留意いただきたい。

ソニーの「没入型空間制作システム」とは?

このXRHMDの主な想定ユーザーは、3D制作ソフトウェアを使う「クリエイター」とのこと。産業向けのCGデザイナーからエンターテイメント向けコンテンツクリエイターまで、幅広く「クリエイター」を対象としている。一方で一般ユーザー向けの発売は予定していないようだ。

ドイツの製造業大手シーメンスとの提携や、産業向けのモデリングツール「NX」との統合も発表されている。ソニー担当者いわく、「現状のXRHMDは、NXとセットで使うデバイス」とのこと。他の用途では使用できない。つまり「SDKやAPIが広く公開されており、誰でもアプリケーションを開発できる」ような展開は想定されていない、ということだ。

ただし、ソニーは「今後シーメンス以外にも、ソフトウェアパートナーを増やしていく予定」と語る。将来的にはエンターテイメントのクリエイター向けに使われている3D制作ツールとの統合も期待して良さそうだ。

片目4K、55ppdの超高解像度

先ほどキャプションに書いたように、このシステムは「XRHMD本体」と「2種類のコントローラー」、そして「コントローラーの充電台」で構成されている。

XRHMDはソニー製の1.3インチ4KマイクロOLEDパネルを搭載。内部にはアイトラッキングセンサー、正面には4基のトラッキング用のカメラに加え、2基のカラーパススルー用カメラを搭載している。XRHMDではVR体験だけでなく、パススルーカメラを通して現実の風景に3Dモデルを重ねる、いわゆるMR(Mixed Reality/複合現実)体験が可能となる。

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(レンズのすぐ周囲をアイトラッキングセンサーが囲んでいる)

装着してみると、4Kの有機ELパネルはさすがに美しい。一方で視野角はそこまで広くない。それもそのはずで、XRHMDは「顔に密着させる」仕組みになっていないからだ。イメージとしては「Meta Quest Pro」のように、顔から少々浮かせて使うスタイルになる。


(今回、いわゆる「遮光パーツ」は用意されておらず、横から外の風景が見えるようになっている)

視野角を削った結果、PPD(Pixel-Per-Degree、視野角1度あたりの画素密度)は55ppdと非常に高く、Varjo のハイエンドな産業向けXRデバイス「XR-4」(51ppd、2024年上旬発売予定)やMetaの「ButterScotch Varifocal」(56ppd、研究開発プロトタイプのため発売予定なし)と同レベル。現状、HMDとして組み上げられる最高水準の画質を選んだとも言える。

ちなみに、今回ビデオパススルー機能は「調整中」とのことで使えず、VRでの体験のみとなった。Metaをはじめ、ビデオパススルーのクオリティ向上には様々な企業が腐心しており、ソニーも同様なのだろう。スマートフォン向けカメラに組み込まれている「イメージセンサー」で知られるソニー。彼らがどのようなクオリティのビデオパススルーを提供するのか、気になるところだ。

駆動方式こそ一体型だが……

XRHMDには、プロセッサとしてクアルコムの「Snapdragon XR2+ Gen 2」が搭載されている。つまり、XRHMDはプロセッサを内蔵した、一体型のデバイス(単体で動作するXRヘッドセット)ということになる。そしてこのプロセッサは、片目4Kのレンダリングに対応しているので、XRHMDは「単体動作で片目4K」という、Appleの「Vision Pro」並の高解像度を実現しうる。

ところが、実を言うと、このXRHMDを「一体型」と形容するのは難しい。プロセッサを搭載しているものの、「XRHMDを駆動させるにはシーメンスのNXをPCで起動し、その後XRHMDとPCを有線で接続する必要がある」のだ。つまりXRデバイスとしてはヘッドセットだけで完結していると言えるのだが、実際のところはソフトウェアをインストールしたPCと繋がなければ使えないという、他にない駆動方式となる。さらに、PCとHMDでレンダリング負荷を分散させる仕組み「スプリットレンダリング」を搭載しているため、プロセッサを搭載せずPC側でレンダリングを行う「PC接続型VR」とも異なる。PCVRでは非常に一般的な「SteamVR」を使わない独自方式になるとのことだ。

PlayStation VR2の経験が活きる装着感、独自のコントローラー

XRHMDのエルゴノミクスは、ソニー傘下のソニーインタラクティブエンターテイメント(SIE)が展開する「PlayStation VR2(PSVR2)」や、他社の各種VR/MRヘッドセットとの共通点が多い印象を受ける。頭部への固定方法は、後頭部のダイヤルを回してバンドを締める方式が採用されている。


(ダイヤルでがっしりと固定する)

また、同じダイヤル方式でも、PSVR2のようにふわっと頭に載せるというよりは、しっかりと固定される「Meta Quest2」や「Meta Quest 3」のエリートストラップ、「Varjo XR」シリーズ、「HTC VIVE Pro」シリーズなどの固定方式に近い。


(HMDをはずさずに外を見ることができる「フリップアップ機構」も搭載)

そしてコントローラーは非常に独特だ。利き手に持つのは、刃が3つの手裏剣を思わせるようなコントローラー。こちらは位置がトラッキングされるほか、穴に通した人差し指を使うことで、3Dモデルを直感的につかんで動かせる。また、3Dモデルに干渉すると振動によるフィードバックも感じられる。PSVR2のような「触感を複数表現できるきめ細やかな振動」というよりも、他社製デバイスにもあるオーソドックスなハプティクスだ。形状は独特だが、ボタンもスティックもなし。ゲームコントローラー等に慣れていない人でも、非常に直感的な操作ができるだろう。

3Dモデルをつかんだコントローラーを視野の外に持っていき、手を離して置いた後、そちらに顔を向けてみると、しっかりと先ほど置いた場所に3Dモデルが残っている。大きな位置ズレもなく、搭載された4基のカメラによるトラッキング範囲の広さが伺える。なお、今回体験できたのはデモ用のソフトであり、シーメンスの「NX」ではなかった。


(左手人差し指にリング型コンローラーを装着している様子)

反対の手には、人差し指にリング型コントローラーを装着。様々な指の太さに合うように伸縮し、簡単にフィットする。このコントローラーには特別な入力機能はなく、「手と指の動きを認識する、ハンドトラッキングの補助的な役割」を果たしているとのこと。確かにリングを装着しなくてもカメラの映像をもとにして手を認識していたが、このリング型のコントローラーを装着すると精度はグッと向上した。

XRによるワークフローの変革

XRの分野では、企業におけるデザインの現場において、XRのデバイスを活用するワークフローが長らく期待されてきた。VRやMRを使うことにより、3Dモデルを立体的かつ直感的に扱うことができ、さらに複数人でのオンライン/オフラインでの同時作業を行うことで、デザイン工程の生産性向上が図れる、といったものだ。国内外問わずこのワークフローは採用や実証実験が進められている。

今回の発表においても、「クリエイターが快適に産業メタバースに没入し、高画質なディスプレイで、モデリングからレビューまでの一連の作業を行えるように」(ソニー株式会社 副社長 テクノロジー、インキュベーション担当 松本義典氏)と強調。「ソニーのテクノロジーとシーメンスの知見を合わせることで、工業デザインや製品設計のプロセスを大きく変革する潜在力を持つ」とし、シーメンスが推進する産業メタバースに、ソニーのXRHMDが大きく貢献する旨を語った。

XRHMD自体はプロトタイプ段階ということもあり、ビデオパススルーの機能をまだ試すことができなかったり、ディスプレイや処理落ちなど課題感はまだ多かったように感じられた。2024年中に登場する製品版ではどこまで完成度が上がるのか、またパートナーシップ拡大により、エンターテインメント分野のクリエイター向け展開がどこまで強化されるのか。ソニーのXRHMDの今後の動向に期待したい。


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