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業界動向 2024.04.08

Roblox幹部が語る、生成AI活用、そして日本のゲーム開発者へのラブコール

現在、世界中で急成長を遂げているゲームプラットフォーム「Roblox」。子供を皮切りに幅広いユーザーを惹きつけ、190ヶ国で1日あたり7,150万人が利用するまでに拡大した。

そんなRobloxの真の魅力は、ユーザー自身がゲームを創造し、収益化できる点にある。

もともとは北米から広がり始めたRobloxは現在、世界中に広がりつつある。日本でもYouTuberの実況などをきっかけに子供たちには人気。クリエイターや企業の取組も徐々に注目を集めている状況で、今後さらに加速することが期待される。

3月にサンフランシスコで開催されたゲーム開発者会議GDCでRobloxはクリエイター向けに生成AIを活用した技術的なアップデートを発表した。アジア圏のメディア向け合同インタビューにMogura VRも参加。直近のプラットフォームの状況やIPに対する考え方、日本でRobloxに取り組むクリエイターや企業に向けたアドバイスについて直接聴いてきたのでその様子をお届けしよう。

今回、インタビューに答えてくれたのは、Robloxで開発者リレーション部門VPのマット・カーティス氏、製品部門でプラットフォームのディスカバリー構築に携わっているシニアディレクターのチェン・ゼン氏、クリエイター・エンジン部門の担当VPティアン・リム氏と各部門のキーパーソン3名だ。


(左からRobox 製品部門シニアディレクター チェン・ゼン氏、開発者リレーション部門VPのマット・カーティス氏、製品部門・クリエイター・エンジン部門担当VPティアン・リム氏

開発の簡易化、レコメンド、安全……生成AIを駆使して進化する

ーーRobloxからは、GDC2024に合わせてクリエイターや開発者の皆さんに向けて様々な発表がありましたね。

マット・カーティス氏(以下、カーティス氏):私たちのビジョンは、10億の人々を結びつけることです。クリエイターの皆さんに対しては、どこでも何でも(Robloxのコンテンツを)作成できるような機会を提供することを目指しています。今回のGDCでは、AIを活用した作成支援ツールなどについて発表しました。

また、クリエイターを金銭面をはじめとした様々な形で支援するGame FundをCreator Fundに進化させることも発表しました。革新的なゲームプレイ、野心的なビジュアル、斬新なアイデアで作られる次世代のコンテンツ制作のバックアップに注力していきます。

具体例をだすと、人気アニメ作品「アバター 伝説の少年アン(Avatar: The Last Airbender)」(※1)とコラボしたIPコンテンツや、Neura Studiosによる「Clip It」のようなゲームではない体験も提供していきます。

※1「アバター 伝説の少年アン」:ニコロデオン・アニメーション・スタジオが制作したアメリカのテレビアニメシリーズ。2007年にエミー賞を受賞している北米で人気の作品。

チェン・ゼン氏(以下、ゼン氏):ディスカバリー(※2)についても触れますと、私たちはユーザーとクリエイターの作品をマッチングさせながら、プラットフォームを活気あるフレッシュな状態に保つことを目指しています。

そして、没入感のある3D体験をシームレスに提供し、各ユーザーに最適なパーソナライズされたコンテンツを迅速に提示できるよう、AI技術を活用した高度なレコメンデーションシステムを構築しようとしています。

※2 ディスカバリー:プラットフォーム内に大量に存在する各コンテンツをユーザーがどのように発見する(discovery)デザインを行うかという導線設計のこと。Robloxのアプリを起動したときに開く各エクスペリエンスやストアのUI設計、レコメンド機能などのトータルデザインを指す。

クリエイターが作るRobloxのコンテンツ群は、ものすごい速さで変化していきます。その流れに対応するためのファウンデーションモデルの構築にも取り組んでいます。Robloxのコンテンツはすでに何十億とあります。そしてユーザーも数億人います。この膨大なコーパスを活かした多様なレコメンデーションを行うためにはLLM(※Large Language Models:大規模言語モデル)が大いに活用できます。今後、パラメーターをさらに拡大させていき、より多様なコンテンツを幅広く扱えるようレコメンデーションシステムをアップデートする予定です。

ティアン・リム氏(以下、リム氏):Robloxは誰もが全世界のユーザーにコンテンツを公開できる配信プラットフォームであり、クリエイターが費用をかけずにユーザーを獲得できる仕組みを提供しています。既存のゲームプラットフォームでは、ストアフロントで目立たせるために広告費がかかったりしますよね。一方、Robloxでは、クリエイターの代わりにRobloxがユーザーとのマッチングを提供しているのです。

カーティス氏:バックエンドインフラを一括して提供することで、クリエイターはコンテンツ作りに専念でき、すぐに配信して、さらにフィードバックを即座に得られます。制作から配信、フィードバック獲得のための素早いイテレーション(※一連の工程を短期間で繰り返す開発サイクル)を通じて、クリエイターは何が機能するのかを見極め、成功に向けて改善を重ねられるのです。

ゼン氏:もう一つ私たちがAIを活用している分野は「安全」です。ユーザーにRobloxで安全に体験してもらうことは、私たちにとって最重要で中核にある問題意識です。従来は人力でのコンテンツモデレーションを行なっていましたが、現在はAIを活用してコミュニティガイドラインに即した安全性を学習させ、モデレーションの多くを自動化する方向にシフトしています。これにより、大幅な効率化が図られ、スケーラビリティ(※システムやソフトウェアなどの拡張性を指す用語)の向上を実現しつつあります。

リム氏:私たちがやりたいと思っているのはクリエイターに向けて、より高品質なものをより速く作れるようにするということです。生成AIを活用して自然言語でテクスチャを作れる「テクスチャジェネレーター」や「アバター自動設定」はまさにその機能です。3Dモデルのテクスチャ作成やアバターのリグの設定などクリエイターにとって場合によっては1週間以上かかっていた工程です。これらの工程を数分で可能にすることはクリエイターがよりコンテンツを作りやすくなることを意味し、業界にとって非常にインパクトがあると思っています。

ーーRobloxでは直近でチャットにAIの自動翻訳機能が追加されました。韓国では英語の勉強に対する子供のモチベーションが下がる懸念から、保護者がRobloxの利用を嫌がるケースがあるようですが、その点はどうお考えでしょうか?

カーティス氏:各国のユーザーに安心して言語の壁を越えて楽しんでいただくことが重要だと認識しています。

幸いなことに、現在でも複数の言語を話せる人向けに、翻訳をオフにする設定を用意しています。保護者向けの言語コントロール機能の充実は前向きに検討したいと思います。

ゼン氏:すでに「Clip it」ではクリエイター自身が言語の垣根を越えるため、AIによる自動翻訳に取り組んでいます。検索時に母国語に対応しているコンテンツが少なくて、あまりコンテンツが見つからない、といったことが起きぬよう言語の壁がなくなってインターナショナルなプラットフォームとして機能するようにしたいと思っています。

カーティス氏:Robloxはゲームプラットフォームであり、ソーシャルプラットフォームです。開発者とユーザー双方の視点に立って、グローバルでシームレスなコミュニケーションを実現できるよう、改善を重ねていきたいですね。

ーー2年前のエンジニア向けイベント「Roblox Developer Conference」では、メタバース構想の一環として3Dの世界で実際にエクスペリエンスを作る機能の展開が予告されていましたが、その後の進捗はいかがでしょうか?

リム氏:今年さらにアップデートがあると思います。Robloxではすでにユーザーが創作できるコンテンツが日々生み出されています。たとえば「Build A Boat for Treasure」など、ゲームの中で自由に創作できる環境が人気を集めています。

今後は、こうしたUGCをさらに推進するための施策を強化していく方針です。具体的には、ゲーム内アセットのパッケージ化と他ゲームへの持ち出し、没入感あふれる制作体験の提供、プレイヤー同士のコラボレーション機能の拡充などを計画しています。

クリエイターの勝機は“観察”と“イテレーション”にあり

ーーアジア地域、特に日本と韓国における今後の展開について、具体的な計画はありますか?

カーティス氏:日本と韓国は私たちにとって非常に重要な市場であり、優先的に注力している地域です。アジア太平洋地域での1日あたりのアクティブユーザー数(DAU)の前年比成長率は27%。2023年第4四半期時点で世界の中で最も急速に成長している地域でした。すでにアジア太平洋地域には1,700万人のDAUがいます。その中でも、日本と韓国は突出しています。2020年~2023年の4年間でのDAUの増加率を見ると、日本は年間平均1,600%、韓国は300%と驚異的な数字を叩き出しています。

ゲーム制作という観点でも、両国には優秀な人材とユーザーが集まっています。そして両国発のコンテンツを通して独自のゲームデザインが持ち込まれることで、Robloxに新たな風が吹くと考えています。

ーーRobloxはすでに大量のエクスペリエンスが存在し、10数年開発を続けているクリエイターもいれば、スタジオとして制作しているチームもありと、しのぎを削っているような状況です。その中に日本や韓国の開発者はこれから飛び込んでいくわけですが、Robloxとしては今後こうした新たに参入する開発者にどのようなアプローチをしていく予定ですか?

カーティス氏:Robloxというプラットフォームについての理解がまだ広がっているとは言えません。私たちの最初の役割は、Robloxが提供する機会や可能性について、きちんと伝えていくことです。

Robloxは一見複雑なプラットフォームに見えるかもしれませんが、実際には開発者にとって非常に興味深い魅力的なプラットフォームだと思います。私自身、10年以上ゲーム開発をしてきた経験がありますが、モバイルやコンソール市場とは全く異なる可能性を感じています。

無料で提供している開発ツール「Roblox Studio」を使えば、ユーザー参加型のソーシャルな体験を自在に創ることができます。モバイルのようなリリース前の審査や、大規模な初期投資によるリスクを回避しつつ、世界中のユーザーに直接配信できるのはRobloxならではの強みだと言えます。

リム氏:私が印象に残っているのは、ある日本のサラリーマンの方が趣味で制作し始めたゲームが、いつの間にかグローバルヒットとなり、本業を辞めてフルタイムのクリエイターになった事例です。

カーティス氏:バックエンドのインフラやユーザーとのマッチングはすべて私たちが担うので、開発者はアイデアを形にすることに集中でき、共有から流通、収益化まで一気通貫でサポートします。ゲーム開発の初心に返ることができるとも言えるかもしれません。マーケティングに頼らずに、プラットフォーム内のオーガニックなユーザー流入を獲得しやすい点も、インディーズ開発者に優しい設計だと感じています。

ゼン氏:ディスカバリーチームとしては、重み付けを意識しています。ユーザーの行動履歴だけを参照すると、すでに大きくなった特定の古参ゲームが上位に表示されてしまいます。これでは新規の開発者にとって難しい市場になってしまいます。新しいコンテンツも表示されるようにコンテンツの内容も考慮したシステムを構築しています。

カーティス氏:そしてコンテンツの評価は継続して行なっています。Robloxではコンテンツのイテレーションが早く回っているためそれに合わせてディスカバリーでも評価をし直します。イテレーションを回してみて、ダメならさらに回して……を繰り返して試行錯誤できる仕組みを作っています。プラットフォームとしてのRobloxの特長だと思います。

Robloxには多様なジャンルのゲームが存在し、ソーシャル要素が深く根付いています。没入感のあるマルチプレイヤー体験を通じて、ユーザー同士の交流を促進する仕組みが標準で備わっているためです。開発者としては、こうしたソーシャルの環境を活かしてコミュニティ主導の文化を育むことが重要になります。

ーー具体的に、日韓のクリエイターがキャッチアップするためのポイントは何でしょうか。

カーティス氏:イテレーションを高速で回すことです。データ分析ツールを使えば、リアルタイムにゲームパフォーマンスの可視化と迅速な改善サイクルが実現できます。そしてプラットフォームでの訴求も一目瞭然ですし、SDKも提供しているのでより詳細にデータを分析することもできます。

開発者は素早くイテレーションを重ね、最適化を進めることで、着実にユーザーを増やしていけます。Gunfight Studioの「Gunfight Arena」は好例で、彼らはテストを繰り返すこの手法で見事にRoblox一のFPSに成長しました。

リム氏:Robloxの歴代TOP10のアクセス数を誇る体験も、みなこの過程を経ています。とにかく丁寧にイテレーションを回しています。

ーーRobloxではイテレーションのサイクルを速く回せるというのは多くの開発者が語っていますね。どれくらいのサイクルを目指すとよいのでしょうか。

カーティス氏:チームの規模にもよりますが、本当に小さいチームはほぼ毎日サイクルを回しています。Robloxならできてしまうんですよね。大規模になってくると1週間〜2週間がよくあるサイクルだと思います。繰り返しになりますが、毎日でも回せる仕組みは提供しているのであとは開発者次第です。

リム氏:例えば「Gunfight Arena」はアップデートしてフィードバックがきたらすぐにまたアップデートして、をとにかく繰り返していたので、1日に何度もアップデートしているときがありました。

ーーRobloxの開発者は主にどうやってユーザーのフィードバックを得ているのでしょう?

カーティス氏:まずアナリティクスツールです。そして多くの開発者がコミュニティグループを作っています。特にファンな人たちが入ってくるわけですが、そのコミュニティを皆さん何年も運営し、フィードバックを得るために活用していますね。ちょっとしたQAとして活用している例も見たことがあります。すべての開発者に言えることですが、コミュニティに関われば関わるほどコミュニティも関わってくれます。

ーー他にも何かポイントはありますか?

カーティス氏:ビジネスの観点からは、収益化の方法が色々とあるということです。体験を作ってそこでマネタイズをすることも一つですが、マーケットプレイスでアバターやアイテムなどUGCの素材を販売することもできます。

リム氏:Robloxならではのゲーム体験を理解するには、まずは自分でプレイしてみるのが一番だと思います。さまざまなジャンルのゲームに触れることで、プラットフォームの特性や可能性が見えてくるはずです。

カーティス氏:本当にその通りです。Roblox特有のゲーム性やコミュニティ文化を体感することが、成功への第一歩だと言えます。ユーザーの反応を肌で感じながら、理想のゲーム体験を追求していく。そうした地道なプロセスの先に、大ヒットの可能性が待っているのです。

何より、国内市場に依存せずグローバルにヒットを狙える可能性を秘めています。実際、ブラジルや東南アジアなど、新興国の開発者がここ数年で目覚ましい成長を遂げています。才能とアイデア次第で、一気にスケールする機会に恵まれているのです。

ーーRoblox上ではアニメやマンガなどを意識したエクスペリエンスが多く、サムネイルなどでも非常に近い表現が多い印象です。コンテンツ権利者の懸念にはどう対処されているのでしょうか?

リム氏:RobloxはUGCプラットフォームとして、ユーザーの創作の自由を尊重する一方、IP権利者の正当な権利についても真摯に向き合っています。もし権利侵害のおそれがあるコンテンツについて申告があった場合、迅速に対処する体制を整えています。

具体的には、権利者からの削除要請には明確なプロセスを設けており、侵害コンテンツについてはスムーズに措置できる仕組みを用意しています。また、先日ローンチした「Rights Manager Portal」により、権利者自身がRoblox上のコンテンツを検索し、疑わしい事例について通報できるようになりました。

一方で、ファンコンテンツをどう取り込むのかという観点もあります。UGCを通じた世界観の拡張を歓迎するIPホルダーも増えつつあります。

ゼン氏:プラットフォーム上で起きていることとして、検索を意識したあまりタイトルやサムネイルを他の人気コンテンツに似せていくことがあります。私たちはこうしたコピーコンテンツには向き合っており、オリジナルコンテンツがこういったコピーコンテンツに駆逐されることがないようユーザーの滞在時間などを参考にコピーコンテンツがランキング上位に入らないようにする仕組みなどを整えています。

一方で昨今は、IPホルダー側からの積極的なアプローチも増えつつあります。先述の通り、今回のGDCではパラマウント社の「アバター 最後のエアベンダー」など、Robloxへの展開を歓迎する事例が登場しました。RobloxにおけるUGCとオフィシャルコンテンツのコラボレーションは、まだ始まったばかりの取り組みです。今後はIPを活用した新しい多様なコンテンツ展開に取り組んでいきたいと考えています。(※3)

※3 このインタビューを実施した1週間後の3月29日には、講談社及びRobloxの日本展開をサポートするGeekoutより「進撃の巨人」のIPをRoblox上で展開するクリエイター向けコンテストが発表されている。
https://creatorslab.kodansha.co.jp/topics/2162/

ーーRoblox上のコンテンツ制作は、大人と子供のどちらが活発なのでしょうか? 何か傾向はありますか?

カーティス氏:コンテンツ制作に積極的なのは、大人と子供のどちらも変わらないのが実情です。年齢によって動機やアプローチに違いはあるものの、優れた作品を生み出すクリエイティビティは万国共通ですからね。

子供の場合は、学校の授業や趣味の延長でRobloxに触れ、友だちと一緒に遊べる場を作ろうと始める傾向が強いですね。大人になると、プロフェッショナルな製品として作り込む意識が芽生え、よりビジネス色が濃くなる印象です。実際、本格的にマネタイズしているクリエイターの平均年齢は20代といったところ。子供の頃の情熱や感性を持ち続けながら、スキルと経験を積み上げている層が中核を担っているイメージです。

ただ、年齢に関わりなく、Robloxを通じて得られる学びの体験は共通しているはずです。プログラミングやゲームデザインはもちろん、経済感覚やコミュニケーション力など、人生の糧となるスキルが自然と身につく。そうした教育的効果についても、各国の教育機関から一定の評価をいただいています。すでに「Roblox Studio」を使った講座がスタンフォード大学の夏期講習に採用されるなど、着実に実績を重ねているところです。そこでは、先生と子供が一緒にコンテンツを作っています。

ーーこれから先の5年間でRobloxはどのようになると思いますか?

ゼン氏:従来の機械学習ではできなかったフィードバックループが回るようになり、クリエイターとユーザーをつなげる仕組みはさらに進化していくでしょう。

カーティス氏:難しい質問ですね。なぜならRobloxはすべてユーザーのものだからです。私たちがしていることはクリエイターをサポートすることであり、そのためにツールを提供しています。なので、この先の5年がどうなるかはクリエイター次第です。AIの観点からはここ5年間は非常に印象的なことが起こりました。この先はSFのようなことが起きるかもしれません。そして、プラットフォームとして私たちは特定のハードウェアに縛られません。これからもビジョンに忠実に、様々なプラットフォームに対応していくでしょう。


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