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開発 2024.03.14

​​3D都市モデルがもたらす価値の源泉を見た 「TOKYO NODE XR HACKATHON 」最終審査会

2月10日、「AWARD NIGHT」が開催されました。都市デジタルツイン実装プロジェクト「PLATEAU」のデータを活用するハッカソン、TOKYO NODE XR HACKATHON powered by PLATEAUの最終審査会です。

ハッカソンのテーマは「デジタルツイン環境を活用した、都市拡張のAR体験」。参加者は提供された「PLATEAU」による屋外の都市3Dモデルや、森ビルによる虎ノ門ヒルズ内の3Dモデル、そしてImmersalのVPSが使えるUnitySDKを活用。エンターテインメントやアート、シミュレーション、可視化ツール、虎ノ門エリア・施設の利便性向上アプリ等を、限られた期間で開発しました。

今回Mogura VR Newsでは、この「AWARD NIGHT」を取材。ファイナリストの作成したARコンテンツや、アワードの模様をレポートします。

個性豊かな「都市拡張」のAR体験

「TOKYO NODE XR HACKATHON powered by PLATEAU」に参加したチームのうち、ファイナリストとして選出されたのは以下の12チームです。いずれも個性的な「都市拡張」のAR体験を作り上げていました。それぞれご紹介しましょう。

くらばらぼっち: TOKYO DOMINO

ドミノで時と、場と、事を共有する。複数のユーザーが、複数の端末で同じ空間にあるARドミノが倒れていく様子を見れる「TOKYO DOMINO」

部屋サイズから都市サイズまで表現できるスケールは自由自在。複数端末で同期をとることができるため、特定の時間、特定の場所で切り替わるコンテンツも展開できます。ドミノだけではなく、重力表現を使って花びらが舞い落ちるといった表現も可能と、よりユースケースが広がる可能性を感じます。

fujitomatsubara: XR Mall

ARとWebアプリケーション、位置情報を組み合わせ、地域や事業規模に関わらず日本全国津々浦々のショップ情報が集積し発信できるアプリが「XR Mall 」。地方の生産者や商業者、個人クリエイターが大都市のプロジェクトに参加しづらい状況をどうするか、という問題意識から生まれたそうです。

プレゼンでは虎ノ門ヒルズとバーチャルとつながったようなAR空間と共に、店舗や販売アイテムを表示できる仕組みが紹介されました。これを応用すれば空きビルや空きスペース等の有効活用ができるほか、マルチプレイも可能で、ユーザー間でポイント・クーポンをやりとりできる仕組みもあります。

fortissimo: CHEERS CITY

虎ノ門にいる人同士が繋がり、ともに街の活気を広げていけるような体験作りを目指したのが「CHEERS CITY」。町や都市というスケールでソーシャルな繋がりができるよう、人と人がつながるための世界共通の文化「乾杯」をテーマにしています。

アプリを起動し、虎ノ門ヒルズを歩くと、ARでビールの蛇口が見つかります。バーチャルなグラスにビールを注ぎ、その場にいる他のプレイヤーたちと乾杯する。ビル内で乾杯が行われるとビルの外観にコインが表示され、活気をビルの外側に伝える設計となっています。

センサリーカメレオン: XR Sensory Map

日常の空間のなかに飛び交う音や光や匂い。特に何も感じない人が多数派かもしれませんが、感覚過敏の方にとっては苦痛を伴う刺激になりえます。そのため五感情報をマップ化した「センサリーマップ」が作られつつありますが、これは2D=平面に落とし込んだ情報ゆえに、直感的には分かりづらいところがあります。そこで「XR Sensory Map」はVRによる立体的なマップ化、そしてARによる可視化を行い、理解しやすい形での情報提示を試みています。

アプリ内に表示されたアイコンをタップすると、五感情報や動画、音声等が流れ、どのような視覚・聴覚・嗅覚的な刺激が存在するかの詳細を知ることができます。感覚過敏の方々が、従来は困難だった多くの社会的活動に参加できるようにするのが目的となっています。

Make Smile: EMOUCH

オリジナルのメイクボックスを担いで世界を渡り歩き、メイクでコミュニケーションを取っているMake Smileチームの「EMOUCH」。都市に元気や笑顔が集まる体験を目指したとのこと。位置情報を生かし、ユーザーが楽しいと思った場所、寂しさを思い出した場所にエモート(表情や感情を示すアイコンやアニメーション)を残していくアプリで、他のユーザーと気持ちを共有できます。

このエモートをログとして残しておくことで、ユーザー感情の調査も行えます。「例えば『月曜日はちょっと憂鬱な気持ちになってる人が多い』ということがわかれば、カフェでコーヒーを購入したらチョコをつけるといった、ちょっとしたキャンペーンを企画できるかもしれない」とのこと。

TeamIMK: 3D Scan Showcase

虎ノ門ヒルズを「3Dスキャンモデルの博物館/美術館」に見立て、全国各地のリアルな景観をARアプリで楽しめる「3D Scan Showcase」。「3Dスキャンはいいものだけど、なかなか使いどころがない」という視点から生まれたAR体験です。

これは「観光内見」とでも言うべきでしょうか。観光地を現実に近いスケールで体験できますし、過去の写真があれば、観光地の「かつての姿」をリアルに再現できる可能性も秘めています。

Make a Fire: Make a Fire 〜虎ノ門に上がる超巨大花火〜

離れた場所にいても”同じ月を見ている”という物語への拡張性を感じるのが「Make a Fire 〜虎ノ門に上がる超巨大花火〜」。「同じ場所に居なくても『会える』世界を創る」を目標に掲げたチーム、Make a Fireのアプリです。

打ち上げる花火の直径が大きければ、遠く離れた稚内や那覇からでも花火をARで見ることができる。しかも打ち上げ作業には、虎ノ門にいる人と離れた場所にいる人の二人が必要……と、「つながり」を強く意識した内容。また老若男女問わず理解しやすいインタラクションが軸となっています。

Culeido: Kaleido Bloom

何気ない2つの組み合わせで、新しい文化が生まれることを狙った「Kaleido Bloom」。Culeidoチームはスマートフォンの「カメラロール」に着目。虎ノ門ヒルズの景観に花の3Dモデル、そして個々のユーザーの「カメラロール」で多く撮影された色を組み合わせて、十人十色、千差万別な文化を調合・表現しています。

AR画面であたりを見渡すと白い花の3Dモデルがあり、その花を自分のカメラロールの色=自分色に染め上げていくことで、街に文化の花壇が生まれます。時間を経て育った花が周囲にどんな影響を与えていくのかを可視化した、カルチャープロトタイピングの実験でもあるそうです。

虎ノ門ゴルフカントリー: ARプロゴルファー虎!

「都市×ゴルフ」という発想から生まれた「ARプロゴルファー虎!」。現実のゴルフはどうしても敷居が高いという課題を受け、ARアプリを使って虎ノ門ヒルズを中心としたコースを回っていく体験を作り上げました。

従来のゴルフコース同様、プレイヤーは打ったボールの場所までは歩いていかねばなりません。しかしこれは、コースごとに景色を楽しみ、自分の足で歩くことで健康にもつながる……というゴルフの要素を上手く活かしたデザイン。ビルの地形データがあることから、地上のみならず、一般開放されているビルのテラスもコースに組み込めるため、回遊性の向上にも繋がります。

LUDENS: TORANOMON bird’s eye view

個人の位置、そして周囲の環境を知覚するためのXR基盤として提案されたのが「TORANOMON bird’s eye view」。東京のような都市は、本来の人間の身体スケールを大きく超えているため、Googleマップでルートを調べてから「特定の場所=点」へと移動する、いわばワープのような移動になりがち。目的地までの途中にある素敵なカフェ、新しい展示イベント、ちょっとした憩いの場といったアクティビティにはなかなか気づけません。

このアプリでは、デジタルツインとXR技術で都市における身体性を拡張し、巨大な建物の中にいても外にいても自分のいる位置が分かるようにします。その上で、虎ノ門ヒルズで使えるヒルズアプリ等と組み合わせて使えるような基盤機能を目指しているそうです。

ばいそん: WaraWara

ロケーションベースのARコンテンツに、自分の顔写真を取り込んだアバター(パペット)で参加して記念写真を撮れるアプリ「WaraWara」。アバターに組み合わせる顔写真を増やすことで、一緒にいる人や、好きなキャラクターと一緒に遊んでいるかのようなコンテンツも作れます。

言語や世代を超えて楽しめる顔ハメパネルや、トリック写真的な要素を動きのあるアバターで表現し、都市レベルの広大なエリアのARに落とし込んでいるのがポイント。VPSの整備が進めばより広いエリアで遊べるようになります。「将来的には、アバターの動きを作るクリエイターにも興味を持ってほしい」とのことでした。

PLATEAU Window’s: 「虎ノ門消防団」 避難経路を発見し、生き残れ

VPSを活用した新たな安全対策として提案されたのが「『虎ノ門消防団』 避難経路を発見し、生き残れ」。商業施設の消火器やAEDは、景観を優先してデザインされているケースが多く、一見して置いてある場所が分かりづらいという課題を解消するものです。

ARアプリで消火器の位置を確認できるだけでなく、災害発生時の状況を再現し避難経路を確認できる機能や、洪水時に被害が出るエリアの可視化も行っています。さらに避難ルートの移動ログを三次元情報と時間軸で保存し、振り返ることができる機能も備えています。消防訓練や防犯対策、都市開発やインバウンド対策にもなりそうです。

NS: 春風

「春風」は待ち合わせをしている時間・場所をイノベーションし「新しい町に出会う、新しい自分に出会うという場所にする」というテーマをもとに作られたアプリ。 XRを使ったアートインスタレーションアプリ、とでも言うべきでしょうか。

待ち合わせ中に暇をつぶしているとき、ARアプリで周囲を見渡すと子どもたちが遊んでいる姿が目に入ります。その子どもからアプリ内で受け取った風船をタップすることで、空間にどんどん風船が飛んでいき、自分自身がXRアートインスタレーションに参加していることが直感的に分かるような設計となっています。

41h0(シホ): 虎ノ門アストロライダー

今いる空間が、テーマパークのライドアトラクションのようなコンテンツに様変わりする「虎ノ門アストロライダー」。巨大隕石が迫る地球の危機を救うため、ARで宇宙を冒険する旅に出発します。

アプリが窓を認識してスクリーン化し、バーチャル空間のオブジェクトを表示することで、リアルとバーチャルの「サンドイッチ構造」を実現。窓の外のバーチャル空間と現実とが地続きに感じられる仕組みです。

hmns: 時間投影: 写真群のプロジェクションによるアンビエントな追体験ネタ

自分で撮った写真や動画を見るのは楽しい時間。けれども、1時間の体験をそのまま1時間かけて追体験するのはナンセンス。そこで「時空間レンズ」という“嘘科学”的な設定を活用し、自分と遠い位置の時空間の速度は速く再生され、近い位置の速度は遅くなるのが「時間投影: 写真群のプロジェクションによるアンビエントな追体験ネタ」です。

写真データにはいつ、どこで撮影したかといった画素以外の情報も含まれていますが、ここにVPSのデータを合わせることで、撮影時の3次元的な位置や姿勢が見えてくるかも。

SKiT: SKyscraper stage in Toranomon

ARドラム×虎ノ門で、ドームを超えるライブがしたい!という目標のもとに作られたのが「SKyscraper stage in Toranomon」。電子ドラムのMIDI情報をもとにビジュアライザーを構築、巨大なビル群や空をARでディスプレイに見立て、ドラムサウンドを遅延なく、美しく・楽しく・彩って表現しています。

現状はスマホ向けのARアプリを使ったプロジェクトのため、ドラマー自身は自分の演奏が生成したビジュアルを見ることはできません。しかし「将来的にはAppleの『Vision Pro』等のXRデバイスを使えば、演出を見ながら演奏できるかも」とのこと。エフェクトに囲まれながら演奏するのはかなり楽しそうです。

気になる受賞作はいかに? 国交省・バスキュール・WIRED・森ビルのメンバーが審査

ここからはグランプリや各種受賞作の発表です。審査は国土交通省総合政策局/都市局 IT戦略企画調整官の内山裕弥氏、株式会社バスキュールの代表取締役である朴正義氏、「WIRED」日本版の編集長・松島倫明氏、そして森ビル株式会社 TOKYO NODE 運営室の杉山央氏が担当しました。

Xploler Prizeは「SKyscrape stage in Toranomon」

まずはTOKYO NODEが作る新しいAR都市体験アプリ「TOKYO NODE Xplorer」のコンテンツ開発に参加できる部門賞「Xplorer Prize」からの発表。受賞したのはARドラム×虎ノ門の「SKyscraper stage in Toranomon」でした。

審査員/プレゼンター・朴正義氏は「ARやXRのコンテンツを作る、というのは、ともすれば複雑なものになりそうでしたが、『SKyscraper stage in Toranomon』は良い意味で最もシンプルでした。本当にやりたいという想いがあったからこそ、楽しむ方も安心できるところがありました。開発チームに実際のドラマーがいる、つまり自らがプレイヤーであることで、試行錯誤しながら辛抱強くいい作品を目指してもらえるだろうな、と思いました」とコメント。受賞したSKiTのメンバーは「自分のやりたいことを伸び伸びとやらせてもらえたプロジェクトだったので、今後は人に使ってもらえる形にするというステップを作っていただけることにワクワクしています」と語りました。

Volumetric Prizeは「WaraWara」に

続いて、部門賞「Volumetric Prize」を受賞したのはアバター・パペットカメラアプリ「WaraWara」です。ボリュメトリックビデオの収録、編集、配信が可能なスタジオ「TOKYO NODE VOLUMETRIC VIDEO STUDIO」が使える権利が贈呈されました。

審査員/プレゼンターの松島倫明氏からは、「今回のハッカソンでは、XRによって都市の体験価値をどれだけ増やせるかというテーマがあったのですが、『WaraWara』はその中で最も楽しそうで、『このサービスを、みんなが使うようになっていきそうだ』と感じさせてくれました。ボリュメトリックスタジオで、新たなコンテンツを開発していただけたらと思います」とのメッセージ。受賞したばいそんチームは「今はまだ『何を作ろうか?』という具体的なイメージは思い浮かんでいませんが、いただいたボリュメトリックスタジオの利用権で、面白いものを作ってまた皆さんにお見せできれば、と思っております」と語りました。

PLATEAU Prizeは「ARプロゴルファー虎!」へ

3D都市モデルPLATEAUの公式ファーストガイドが贈呈される「PLATEAU Prize」を受賞したのは、「ARプロゴルファー虎!」です。

審査員/プレゼンター・内山裕弥氏は「屋外と屋内の詳細な地形・建築物情報を統合した“本当の意味でのデジタルツイン”を活用するためにハッカソンを実施しましたが、『ARプロゴルファー虎!』は屋外から屋内、屋内から屋外への移動や、ボールを追いかけるという身体性を含めた都市全体のリアルな体験をARと融合させた新しいソリューションを見せてくれました」とコメント。受賞した虎ノ門ゴルフカントリーのメンバーは、「動画にまとめましたが、3ホールも作っちゃって(笑)。皆さんに作品の意図や狙いが伝わるかなと心配していたのですが、お褒めいただけて良かったです」 と話しました。

予定外の審査員特別賞は「XR Sensory Map」

そして、本来は予定していなかった審査員特別賞が設定されました。受賞したのは「XR Sensory Map」。街で体験する視覚や聴覚、嗅覚的な情報をデジタルツイン上で可視化、感覚過敏の人たちに役立ててもらうためのアプリです。

運営スタッフからは「あらかじめ設定していた賞の中では評価しきれなかったけれども、素晴らしい取り組みだということで、審査員から『どうしても賞をあげたい』という声が上がりました。まちづくりをしている側の視点からでもなかなか気づけないようなことに、改めて気づかせていただけました。我々としても引き締まる思いがあります」とコメント。受賞したセンサリーカメレオンのメンバーは、「思想、実装、実証の3つが大切だと考えています。思想は『健常者の方と感覚過敏の方が滑らかにグラデーションを実現できる世界を作りたい』、実装は『思想を実現するために開発するチームの力』、そして実証は『実際にインタビューをしていかないと意味がない』。今回はこのことを学ぶ機会にまりました」と語りました。

グランプリは「TORANOMON bird’s eye view」に!

最後に、賞金50万円が贈られるグランプリが発表されました。受賞したのは「TORANOMON bird’s eye view」です。都市の中で自分の位置を見失ってしまわないよう、様々なデータを使って自分や目的地の座標を把握、虎ノ門ヒルズを直感的・身体的に「感じられる」空間にするアプリです。

審査員/プレゼンター・杉山央氏からは、「様々な素晴らしい作品の中が多々ありましたが、『TORANOMON bird’s eye view』は、都市が抱えている課題を、まちづくりの視点からテクノロジーで解決している点を高く評価しました。高密度な都市構造ではナビゲーションが課題となってくるなか、自分の位置がわかり、建物も見えるというのを直感的に把握できることが一番のポイントになったと思っています」とコメント。受賞チームのLUDENSのメンバーは、「もともと自分たちには建築がバックグラウンドにあり、大きいビルを見たときに『このビルの中には、そしてビルの向こう側には何があるんだろう?』と考えがちという自分を通して、課題を『自分ごと』として取り組めた点が大きかった」とし、授賞式を締めくくりました。


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