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活用事例 2023.10.13

世界で進む、学校教育でのXR/メタバース活用: やる気や集中力向上、効率的な教育のために

世界各国でVRやMR、メタバースの教育利用が進んでいます。学生の意欲を向上させ、教員の手間を減らすなど、様々な方法で学習効果や効率を高めることが期待されています。米国ではMetaが15大学との協力関係を公表し、日本では政策投資と企業参入が進んでいます。

本記事では、こうした教育におけるVRやMR、メタバースの活用事例をまとめて紹介します。

バーチャル技術で「教育の情報化」を目指す機運

2020年以降、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、世界各国でオンライン授業が急速に普及しました。科学・技術・工学・数学分野の総称である「STEM教育」、テクノロジーで教育を支援する「EdTech」といったキーワードの認知も進み、教育現場の情報化、テクノロジー導入が改めて注目されています。

こうした背景から、ここ数年で多くの学校・教育機関がVRやメタバース関連技術を学習プログラムに取り入れ始めており、教育ビジネスにおける市場開拓の可能性も指摘されています。


(GIGAスクール構想のリーフレット表紙。出所:文部科学省「GIGAスクールの実現へ」から抜粋)

日本でも、文部科学省「GIGAスクール構想」に基づく教育データ活用の一環で、XRデバイスやメタバースを授業に取り入れる試みが増えています。専修学校における先端技術利活用実証研究のように、職業訓練の分野でVR/AR活用も進んでいます。メタバース企業の側からも、日本のクラスターが自社のメタバース「cluster」を教育機関向けに無償提供するなど、大手プラットフォームが注力する姿勢を示しています。

VR/ARは学生の「やる気」と「集中力」を高めると期待される

VRやメタバースの教育効果については多くの調査・研究が行われています。バーチャル技術の教育利用は、学生の意欲を向上させ、教員の手間を減らすことで、学習効果を高める可能性があるとされています。

学習者の「やる気」と「集中力」を高める効果


(VR教育の実験報告における導入理由の分類。出所:Sam Kavanagh, et al.

ニュージーランドの研究チームによれば、2010年以降に発表された99件の論文を2017年に調査したところ、全体の30%以上が学生のやる気や没入感といった「内発的動機」を高めるために行われていました。また、PwCが2022年に米国企業5,000社を調査したところ、VRヘッドセットを用いた社内研修は、ビデオ視聴よりも従業員の集中力を4倍高めたと報告しています。

他にも、2022年にスペインの研究チームが、幼稚園から小学6年生までを対象とした21の実験について評価し、2時間未満の没入型VR体験は児童の学習効果を高めると結論しました。VR数学教材会社の「Prisms」が2022年に中高生514人を対象に行った実験によれば、自社のバーチャルコンテンツを体験したグループは、そうでないグループと比べ、テスト成績が11ポイント高かったと発表しました。

教師や学生の「孤独感」や「面倒」を減らす効果


(バーチャルオンライン授業のメリット。出所:小谷究「バーチャルオンライン授業をやってみた!!」

より実際的な効果も期待されています。国立情報学研究所のシンポジウムでは、バーチャルオンライン授業は教師・学生どちらも孤独感を減らせるだろうとの報告がありました。前述したニュージーランドの研究チームによれば、バーチャル技術は多くの実験で、シミュレーションやトレーニング、実験機材などのリソース節約のためにも使われています。

Metaは米国の15大学と協力中、新たな提携プログラムの準備も


(出所:Meta)

こうした動向を受けて、Metaは9月12日、米国15大学との共同取り組みを紹介し、 教育分野における新たなパートナープログラムを準備していることを表明しています。具体的には、以下のような取り組みです。

  • スタンフォード大学は、BodySwapsのアプリを使って、ビジネススクールの学生に、難しい会話の仕方や面接の受け答えといったソフトスキルを教えています。
  • アリゾナ州立大学ではVRを使い、学生がさまざまなバーチャル環境で新しい言語での会話を練習できるようにしています。
  • ニューメキシコ州立大学では、学生がバーチャルな犯罪現場を調査する「刑事司法」など、さまざまな科目でVRを活用しています。
  • アイオワ大学は、VRをビジネス学生のソフトスキル訓練に活用しています。
  • パデュー・グローバル大学では、病院のバーチャルシミュレーションで、看護師のトレーニングを行っています。
  • アラバマ大学バーミンガム校は、VictoryXRと提携し、バーチャルキャンパスでビジネスコースを教えています。
  • ノヴァ・サザン大学は、VRを使って医学部1年生に人体の臓器について教えています。
  • マイアミ・デイド大学は、バーチャルキャンパスを作り、音楽、建築、研究、化学、生物学などの分野でVRを活用したコースを教えています。
  • モアハウス大学はデジタルツイン・キャンパスを開設し、化学、生物学、ビジネス、ジャーナリズムなど、さまざまな科目の授業を行っています。

専門知識の伝達だけでなく、コミュニケーション能力の養成や体験学習にも取り入れられていると分かります。他にもMetaは、オンライン学習の「GoStudent」や没入型教育教材の「Itaca Education」、VR語学シミュレーションの「Noun Town」を例に挙げ、「ヨーロッパでVR教育ツールの機運が高まっている」としました。

日本の学校教育は?

多分野で進む応用:専門教育から技能実習まで

適用分野は広がっており、語学料理保育といった生活教育や、土木看護介護などの職業訓練、スポーツ文化防災といった社会教育に至るまで、さまざまな現場で技術導入が試されています。いずれも教科書だけでは伝えづらい、実技・実習を効率よく学ぶことが期待されています。


(有志による「理系集会」。一部の回は国立研究開発法人科学技術振興機構が後援を行っている)

国内大手企業の参入や専門組織の設立も進みます。2021年に角川ドワンゴ学園(N高等学校・S高等学校)は「普通科プレミアム」と銘打ち、2,341本の授業・課外活動を展開。2年で6,000人以上が受講しました。2023年には東京大学が、バーチャルリアリティ教育研究センターに「VR/メタバース実践部門」を新設。NTTグループ凸版印刷・NHKグループは、教育用メタバースの開発・提供を始めています。「理系集会」など、有志の学術交流も全国各地で行われています。

先行研究では発育・健康への悪影響が懸念され、コストや体験品質、双方向性が課題とされていますが、ここ数年でVR/MRのデバイス性能は飛躍的に向上し、コンテンツ品質も進歩が続いています。昨今ではプログラミング教育障害者教育軍事演習にまで用途が広がりました。教育分野でのVRやメタバース導入、そしてより効果的な教育に向けた試行錯誤は、今後も続くと思われます。

(参考)Meta

(※2023/10/16/18:30……「理系集会」の後援に関する記述を修正)


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