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メタバース 2023.04.27

アバターで、障がいや病気を乗り越える。メタバース上で開催された「こども宝物自慢展示」が生み出す可能性に迫る

特別支援学校・特別支援学級の子供たちの作品を、メタバース上で展示する「先生学校自慢島」「こども宝物自慢展示」が実施されている。どこからでも入れるメタバース上には、自分たちのアバターよりもはるか大きく拡大されたこどもたちの作品が大量に配置されており、かなり迫力がある。たくさんのワールドがあるので、あちこち見て回るのも探検をしているようで楽しい。

病気で顔を出さない子や車椅子の子などが、メタバースに入ってコミュニケーションを取り、自分たちの作品を自慢し、褒めてもらう体験は、本人や親たちに大きな影響を与え始めているようだ。なかなかしゃべれなかった子が、メタバースを通じて参加者にいきいきと話すようになる姿もあるという。

なぜ子どもたちが楽しそうな姿を見せたのか。そのヒントは、アバターの活用理念にあるようだ。メタバースでの展覧会を企画運営している、公益財団法人 ベネッセこども基金の事務局長 青木智宏氏と、一般財団法人ニューメディア開発協会 新情報技術企画グループグループ長 林充宏氏に話を伺った。

「こども宝物自慢展示」と自己肯定感

――メタバースを活用した「先生学校自慢島」「こども宝物自慢展示」について、具体的にどんなことが行われているか教えてください。

林:
「先生学校自慢島」は、4校の特別支援学校の先生方が自分の学校の紹介を自慢ネタを交えて、メタバース上に3Dの島を作ったものです。「こども宝物自慢展示」は、子供の作った作品や宝物を展示しており、学校別と世代別展示で全部で11校参加をしております。作品点数は全部で118点です。


(手前がアバター。広いマップにこどもたちの巨大な「作品」「宝物」が展示されている)


(取り込まれた立体物は3Dで再現され、メタバース内で登ったりできるものもある)

(学校ごとに分かれているゾーンと、年齢ごとに分かれているゾーンがあり、どちらもワールドをワープしながら見に行くことができる)

――自分の作った作品の展示を大々的にするというのは、特別支援のこども達も経験としては少なそうですね。

林:
ほとんどないです。特別支援学校では、自分の学校内の施設で作った物の展示が行われます。都道府県の学校作品展示展がある場合もあります。でもそういうものって、そこに行ける身近な先生や家族、知り合いしか見に来ないんです。

たとえばおじいちゃんおばあちゃんが北海道にいたら、東京には来られない。ましてやコロナの問題もありました。そういう中で、自分の作品が世界中に発信されたことになるわけですよね。「僕の作品がインターネットから見られる」ということで皆さん喜ばれてますよ。

青木:
展示作品を通した交流や称賛の経験も大きいですね。例えば、展示作品に対して、いろんな大人たちが「どうしてこういう風に作ったの?」といった質問をされます。普段そんなことを聞かれる経験もないので、がんばって脳みそをフル回転して答えると、「おおっ、すごいね!」って褒められる体験が得られるんですよね。

病気や障がいを持つ子たちって、自己肯定感が低めな子が多いんです。学校も休みがちだし、親にも迷惑かけて、病院で寝たきりで社会の役に立ってない、と考えている子もいる。そういう子たちが初めて評価されて、肯定されたことによって感じた喜びで、眠れなくなることもあったみたいです。

林:
あと、メタバースでは「アバターの覆面」になるだけで、コミュニケーションへの参加の敷居を下げられるんですよね。私も意識してなかったんですけれども、コミュニケーション障がいの方って最初しゃべることができても、途中からしゃべられなくなることが結構あるんですよ。

そこで、途中から口頭からチャットに切り替えるなど、自顔を見せない、今日は元気だから顔を見せよう、といったことを小学校低学年の子がやっているんです。

――大人でも難しい「自分の症状の判断」が、小学生でできるのはすごいですね。

林:
ベテランですよね。我々が付き合っている多くのお子さんは自分のことよくわかっている中で、人に手伝ってもらうことなく自分で、あるいは先生にも支援頂いて、我々が提供してるICTツールを使い分けているんです。音声会話と文字チャットができると、よりそういう傾向が顕著に出ますね。

――アバターの子たちが、自分の作品について他に見に来てる人に紹介することもあるそうですが、その時の子供たちや見に来ている人の反応はいかがでしたか?

林:
最初に作品を見に来るのは、学校の先生のようなしっかりした対応ができる方で固めています。先生方は非常に温かい言葉を子供たちに話されてるので、子供たちも最初はおどおどしてるんですけど、だんだん楽しそうに話し始めます。それを見た学校の先生は「○○ちゃんは口下手でほとんど話さないんだけど、なんであんなに喋れたんだろう」と驚かれていました。

――実際にやる前はそこまで子供が変わるとは想像できないですよね。

林:
おっしゃる通りです。「アバターロボット」だとお金の問題や技術的な問題があるので、メタバースでちょっと利用が増えるのかなぐらいだったんですよ。でも手軽さゆえに使える人が一気に増えて、多対多の交流を一気に広げられました。

青木:
「アバターロボット」の時はあくまで分身なんですよね。「病院にいる○○くんが学校に今来ている」「遠足や卒業式でも○○君いたよね」という完全な分身なのですが、メタバースの世界だとプラスして変身願望も叶います。

痩せ細ってしまった身体の子でも、ムキムキの人になれたり、かわいい女の子になれたり、動物になれたりする。これもたまらないんですよね。「なってみたい身体」によって相手の反応が変わって、使い分けられるのはツボだろうなと思います。これも想定していなかったところです。

――「こども宝物自慢展示」には身体の動かせない方も参加されてるんでしょうか?

林:
最近の例だと、車椅子のお子さんが参加されたんですよ。我々もある程度は「この中で自由に動けるな」とは考えてはいました。でも実際は、大声で「これだったら僕普通の子供と一緒に動き回れる!」と言ったようで、むちゃくちゃ喜ばれていたんですよ。頭の中でわかってても、我々が目指した世界でこうした反応をいただいたのは、ジーンとくるものがあります。

青木:
ただ、やっぱり操作が必要なので、すごく重篤な子はまだメタバースには入っていないですね。それでも、4年間喋れなかった子が、先生たちとちゃんと会話ができたという話も聞きましたね。大人の前でまったく喋れなかったような子どもも、大きな変化を起こしてます。

林:
当然、身体能力として喋れない子もいらっしゃいますけど、キーボードが打てる子って結構いるんですよ。そういうところで参加している方もいらっしゃいます。肢体不自由で、キーボード操作もiPad操作もできなくても、お母さんがサポートして、代わりに操作して多分お子さんに見せているんですよ。色んなやり方で、子どもたちはメタバースに参加しています。

リモートで交流するためのアバター

――どのような経緯でこのイベントを始められたのでしょうか?

青木:
公益財団ベネッセこども基金では、長期間学校から離れてた子や入院している子が「アバターロボット」を使って学校と繋がることができないか、東京都の支援学校と連携して取り組んできました。東京都などから評価していただいていましたが、いくつか壁にぶつかり、技術的な難しさを感じていたところで、ICTスキルをお持ちのニューメディア開発協会さんと出会って、共同プロジェクトを組みました。

林:
ニューメディア開発協会では、もともと3年前から「アバターロボット」を病弱な子供が操作して、自宅や病院から学校生活に参加する支援をやっていました。今まで参加できなかった学校の授業に参加したり、友達と話せるようになった、という部分は非常に評価をいただいていたものの、周りから「具合悪くてやっぱり来れないんだなぁ」と見えてしまうことで、障がいや病気の不安をお子さんが感じるようになった、という課題が生まれました。

それは取っ払わなきゃいけないなというところで、メタバースにつながったんです。メタバースは具合が悪かろうが顔色が良くなかろうが、関係なくみんな元気に出られるじゃないですか。

青木:
なのでメタバース活用は「アバターロボット」でやってきたことのバリエーションの一つだと思います。病気になった子たちって髪の毛が抜けてたり、見た目変わっちゃってたりするので絶対見られたくないんですよね。「アバターロボット」は顔を「映さない」ことができます。さらにメタバースだったら動き回れるのでいいね、ということでチャレンジしてくれました。これは学校では難しいのではと思っていましたが、林さんたちと学校の先生たちが頑張ってくださいました。

――どんな状態の病気の子どもたちがいるのでしょうか?

青木:
天井と壁しかずっと見ないで何年も療養してる子たちがいっぱいいます。喉に呼吸器があって喋れない子もいます。見た目も変わってしまっているので、心を閉じている子もいます。でも「アバターロボット」だとこちらの姿を見られずに済むということで選びました。

これがメタバースの世界だと、さらに自由に動き回れます。今回の企画でメタバースに置かれた自分の作品に、登ったりかくれんぼしたりしている子がいました。ご家族がそれを見て泣いて喜んでくれていました。

――どちらのプロジェクトも「アバター」を特に大事にしているんですね。

林:
「アバターロボット」はロボット自体がアバター(化身)です。今回のメタバース活用も、「メタバース空間」よりも、「そこに自分の化身を置きましょう」という考え方から採用したので、「アバター」が中心にありますね。自分の居場所をリモートでいろんなところにおいて、あちこちに行って交流してもらう、というのが基本的なコンセプトなんです。

青木:
ずっと天井と壁を見てて友達との交流もない子供の2〜3年って、大人の2〜3年と違うんですよね。全然発育が変わってきます。「アバターロボット」を通してスーパーに行って買い物したり、お友達と会話するって、すごいかけがえのない体験なんです。

――「アバターロボット」を使った子供の支援の延長線上としてメタバースがあるならば、「アバターロボット」で培ったノウハウを活用されているんですか?

林:
すごい応用してますね。

青木:
「メタバースの流行に乗っかってやってみた」という単発の取り組みではなくて、「GIGAスクール構想」より前から継続的に取り組んでいたことの発展型です。

林:
障がいや病気の子供たちをを、健常者の方以上に最新のテクノロジーを使って楽しませたい、ワクワクさせたいっていうのが、我々の基本的な考え方です。なので、もしメタバースの次の新しい技術が出てくるとしたら、それにも取り組みます。

「アバターロボット」もメタバースも、それぞれいいところがあります。それを融合させてもっともっといいものを作って、子供、親御さん、先生方、それぞれの視点で見た時にハッピーだと感じる世界につながってほしいんです。

青木:
特別支援って、1対1の個別最適化をしているので、実は凄いクリエイティブな授業が多いんです。その凄さを逆にメジャーにして、一般校でももっと個別最適化が進んでいく流れを作れたら素晴らしいなと思っています。

特別支援学校の先生たちはすごいんですよ。その子が「できること」に注目するんです。たとえば、寝たきりの子の場合「あごが動かせるじゃん!」と思い立って、あごで使えるマウスを作ったりする。「できること」に注目して取り組むクリエイティブさが凄まじいんですよ。「特別支援学校とか特別支援学級はすごいね」って思ってもらえるようなムーブメントを起こしたいです。

こどもたちの才能

――私も「先生学校自慢島」「こども宝物自慢展示」に行って作品を拝見したのですけれども、ものすごいクオリティが高い作品もあってびっくりしました。子供たちの才能が見える場所として、親御さんや先生方はどう感じられたんでしょうか?

林:
いわゆる「ギフテッド」という言葉がありますけれども、創作に対する才能がある方は多いと思います。特別支援学校の先生方や関係者は、それを世の中に知らしめる手段がほとんどないことに悩んでいるのも我々は分かりました。だから単純にこのコーナーに来て、特別支援学校の子供っていうのはこんなものを作れるんだよって見てもらえること自体が意義があるなっていうのは、皆さん共通でおっしゃってますね。

――子供たちも自分の作品がドンッと飾られているのを観るのは嬉しいでしょうね。

林:
「もともといい作品」を、メタバース空間上で子供たちがちゃんと自慢できるように見せよう、という考えはありましたね。たとえば、習字や作文を学校の掲示板に貼り出した時って、それぞれの作品って平坦に並ぶじゃないですか。


(非常に大きく拡大されている立体展示の部屋は、本当の部屋よりも大きく見えてアバターで中に入れて楽しい)


(学校のゆるキャラを制作し、3Dスキャンしたもの)

――学校だと掲示された習字などはなかなかひとつひとつは観ないですね。

林:
でも、メタバースで大きく飾ると迫力あるんですよ。大きくするだけでなく、空中に浮かせたり。立体物なら3Dスキャンで取り込んで、その中を探検できたり、登れるようにしたり。

そうやってメタバース上で展示したものが、子供たちには本当にかっこよく見えるみたいで、「かっこいい!」「自慢できる!」と喜んでいました。メタバース空間にある同世代の他の作品を見て「今度はもっとすごいものを作るぞ!」と子供の創作意欲向上にもたくさんつながっています。面白いのは先生方が「◯◯学校は◯◯のテクニックを使っている。我々もこどもにその手法を教えよう」と先生方のライバル意識から新たな制作意欲にもつながっているようです。


(アバターの何倍も大きく拡大展示された習字は、文字に迫力があってとてもかっこいい)


(大きく飾られた作文。子供が書いた文字から気持ちがつたわってきます。こういう作品を飾ってみんなで楽しめるのが「宝物」展示のよいところだ)


(宝物として大事にしているものへの想いが詰まった一枚)

――すべての作品を見るのにどれくらいの時間がかかりますか?

林:
すでに全部で作品が118点あるので、すべて真面目に見ると多分4時間ぐらいかかります。ですので、目的を持った人がある部分を訪れてゆっくり見てもらったり、イベントをやる際に見てもらうような工夫をして、交流の場として充実させていくことを今後は目指します。ただ単に、作品の島を増やすのがいいとは決して思っていないですね。「こども宝物自慢展示」の作品は、子供たちがアバターで交流する媒介なのです。
 
(自走式アバターでの買物 京都市立呉竹総合支援学校  京都市伏見区商店街(納屋町、伏見大手筋、竜馬通り))


(学校からアバターロボットを操縦して商店街での買い物を体験している様子)

――アバターロボットについて。こちらは以前、自分も触りましたが、メタバース側からリアルの展示会会場に入ってロボットを操縦できるという、今まで見たことのないことをやっていました。この発想はどこから出たのでしょうか?

林:
「車に乗る自分」と「歩く自分」って、実は同じ存在じゃないですか。同じように、リアルはリアル、メタバースはメタバースと分けてしまうのは、やっぱり自然じゃないと思うんですよ。シームレスにつなげる中で、電子とリアルのワクワクを合わせることで、よりワクワクする世界を作れるんじゃないかなというところが発想の原点としてあります。

この取り組みでいいなと思ったのは、メタバースに入っても話せない、あるいは「話したくない」お子さんが「人の様子を見たがってる」のが分かったことです。画面の前にへばりついて、離れた位置から見て最終的には一緒の仲間になるんです。同じメタバース 空間をどういう視点で捉えるかによって、アプローチはいろいろあることに気がつきました。

――アバターロボットの操縦にチャレンジした子の反応はいかがでした か?

林:
自走式の「テミー」という「アバターロボット」を使っているんですけど「東京にいるのに長野のイベントの会場で動いてる」と皆さん驚いていましたね。リアルは何がいいかというと、「知り合いがたまたま前を通った」ようなセレンディピティ(偶然の産物)が起きることですね。向こうに自分の学校の先生がいると「先生元気?」みたいな会話が始まったり。

メタバース「DOOR」を選んだ理由


(「DOOR」を使用したワールドは移動も軽く、操作がシンプルでより多くの方に利用いただける)

――メタバースはたくさんありますが、今回「DOOR」を選んだのはなぜですか?

林:
メタバースは現状、「高機能な端末でネットワークが保証されてる場所で威力を発揮するようなプラットホーム」と、「端末スペックが高くなくネットワークも速くない環境でも気軽に誰でも使えるプラットホームに二極化」してると思います。

我々が使うのは学校の場面です。ネットワークが遅かったり、接続そのもの自体がダメというところもあります。敷居を下げないと始まらないなと思ったんですよ。そこで目をつけたのが、Web経由で使えるNTTの「DOOR」でした。ただ「DOOR」だけを使うわけではなく、プラットホームの使い分けが必要かなという気がします。

青木:
高校生になったとき、病気でも稼げる場所を作りたいと思っていて、そうなってくると障がい者アートとかをNFTで販売するような「Decentraland」とかもいいかなとか。本当に使い分けですね。

林:
あと、積極的に参加してくださっている特別支援学校の先生が盲学校に行ったとき、その先生に「世の中には『音のメタバース』という世界がありますよ」といったら驚いていました。あらゆる形で体験できる世界は、これからもどんどん出てくるじゃないですか。利用者のニーズやターゲットによっていろんなものを提供していきたいですよね。

――視野を大きくしないと一人一人への対応ができないんですね。

林:
この領域全部を我々がカバーしきれるとは思ってないです。我々が取り組んだことで「こういうのって有効なんだ、じゃあ我々もやろう」と思ってくれる人たちを増やして、情報共有ができる世界を全国で作っていきたいですよね 。

――今の取り組みを見て、他の先生とか親御さんたちでやってみたいという声はありましたか?

林:
現在、モニター校として密にお付き合いしているところが11校あるのですが、さらに10校ほどから「うちも仲間に入れて」とお声掛けいただきました。皆さん思っていることは多分一緒なんですよ。目の前にいる子供たちの個別最適化のために、もっともっといろんなことできるんじゃないのかって。もっとハッピーにさせてあげたいという思いの先生は日本全国いっぱいいます。そういう先生方が一歩踏み出すところを、僭越ながら少しはお手伝いはできるんじゃないかなと思います。

――最初の11校のモニター校は前例がないので、理解して参加してもらうのはかなり難しかったのではないでしょうか?

青木:
以前Wi-Fiルーターのない学校33校に、我々が日本育療学会と組んで配ったことがあります。そこで繋がった学校の中から、今回のモニター校になっていただきました。

林:
校長先生にまずご理解いただいてもらうのが第一関門です。そのあと、校長先生だけ頑張っても先生方が実務はやりたくない、という学校だとまた進みません。いろんな方と話させていただいて、11校の方と一緒にやる関係を築いています。

その際に「アバターの話はわからない」「ICT音痴なんだけど」といった話を現場からいただくのがほとんどです。なので我々は各学校に対して、「専門的なことは我々が全部ご支援するので、みなさんは子供たちの問題課題に対して、こういうICTを使って何かハッピーになる世界ができないか、と考えていただけるだけで問題ないですよ」と伝えてきました。おかげで、今は各学校とも、自分たちだけで自走されていますね。

――今はまだまだ過渡期で、メタバースに対して不安に感じる方はすごく多いと思います。どういうサポートをされてきたんですか?


(力の入った「先生学校自慢島」は、先生方のメタバースの理解を高め、関連の技術向上に大いに役立ったようだ)


(先生たちのユニークなネタも盛り込まれている)

林:
最初に「先生学校自慢島」を作っていますが、4校だけの取り組みです。これは、11校の中でまずメタバースでの成功事例を作りたかったからです。「メタバースって何ですか?」という人がほとんどの状態で、先生方がそれを説明できずに子供に「メタバースの作品みんなで頑張りましょう」っても迫力全然ないですよね。

――メタバースは実際にやってみないとわからないことは多いですよね。

林:
そこでワンクッション置くためにも、先生方に「学校自慢島」を作ってもらいましょうとなりました。先生方が中心になって、メタバース空間にコンテンツを作っていただいたんです。

そうすると、先生方が「これは楽しいな」と感じて、皆さん童心に帰っていくんですよ。それを見ていた4校以外の先生方も、自分たちと同じ先生方がこういうの作ったんだ、と意識が変わってきました。最初は、メタバースに対して批判的で「いろんな人とのコミュニケーションは危ないじゃないか」と言う極端な先生もいました。けれどもこの取り組みで、雰囲気がガラッと変わりました。安全な使い方があることを理解いただけました。


(学校を紹介する展示の他、動画で学校ごとに取り組んでいる実践事例も、先生や親向けに動画で流されている)


(こどもたちが遊べる交流の場として、移動して答えるクイズなども用意されている。先生方も結構楽しまれていました)

――実例があると変わるものですね!

青木:
私も最初は11校集めるのは難しい、と思っていました。ただ企画段階で「失敗も含めてプロセスを集めて、プロセスも含めて事例として共有していくことが大事だろう」って方針にしたんです。

もちろん、全部が全部うまくいったわけではないのですが、特別支援学校でこれだけ成功事例が生まれたということは、公立の学校でも同様に乗り越えられるという事例ができたということです。先生方も「ログインすらわからない」みたいなところから出発したけど、今はこれだけ扱えているよねって言ったら、「NO」って言いにくいですよね。一部のネットワークに対してネガティブな意見は、基本的にはその事例で解消されていくと思います。

地域差があってもできること

――全く違う地域の学校から「やってみたい」という声が来たらどうしますか?

林:
我々のリソースは限られていますが、冷たく突き放すつもりは全くないです。情報提供はできますし、メタバースに参加してみてくださいと声掛けするとか、できることはあると思います。

実は思いのほか、先生方は横の会話ができないっていうのを、我々も取り組むうちにわかってきました。学校を超えて話し合うきっかけがないし、発言に対しての責任問題などで会話もできないとか、いろんな制約があるんです。そういう中で「覆面」をして会話をしたいという方はいっぱいいらっしゃるんですよね。

出た話で興味深かったのは、法令の解釈が全然違うということです。ある県ではこう解釈したけど違う県では全く別で、そういうところがICTの普及に大きく影響を及ぼしているのがわかりましたね。

――いろんな都道府県の方がやる気を持っていても、一概にはできないんですね。

林:
そうそうできないです。ですからそういう先生方をつなげて交流して、より実践的な話をしていただくというのはメタバースの使い方の一つですよね。一緒に仲間としてやっていく門戸を広げる予定はあります。

これからのアバター利用

――2023年以降、どのように拡大していく予定ですか?

林:
まず、今のメタバース空間をどんどん使って、色んな交流をしていこうという話があります。それと、メタバース上での子供の作品コンテストをやろうと思ってます。子供たちから「今度はあの子に負けないものを作るぞ」みたいな声がいっぱい出ているんですよ。そういう気持ちを活かそうと考えています。

――リアルへと働きかける予定はありますか?

林:
特定のメタバースに限らず、リアルとメタバースの世界を連携してやることも、企画として今動いています。全国各地の観光地紹介だとか、お祭りの訪問を実現したりだとか。離島の場合、特別支援学校の子供と地元の子供をつなげて、相互にメタバース空間を通してハッピーになれるような企画をすでに2つ進めています。子供がつながって、いろんな人と話せてワクワクするモデルを作って、そのモデルケースを多くの先生方に見てもらって、全国に広げるべく取り組みを進めています。


(こどもたちのアイデアが随所に見られる作品を、多くの人に見てもらえるのがこの空間だ)

青木:
この活動の波及効果として、一般校に広がっていってほしいですね。関連した動きとして、今年の3月31日に、永岡文科大臣が「COCOLOプラン」という不登校対策を発表しました。不登校の子たちは学校に行けないことで学びの場がないという問題で、「学びたい」と思った時にどこにいても学べるような環境を整えることを自治体に発信したんですよ。

これは、子ども家庭庁やこども基本法ができたのが追い風だと思うのですが、10年くらいずっと実現できなかったことが実現したという点で、すごい画期的なことなんです。子供の権利が尊重されて意見を言ってもいいっていう、意見表明権のようなものが尊重されるようになってきました。

不登校のためのメタバース活用は、熊本や広島といった自治体で始まっています。なので、学校に行かなくても学べるっていうのが当たり前になって行くとすごくいいですね。

――今は不登校に関しては選択肢も少ない気がします。

青木:
仕組みもシステムもそうですけど、同調圧力もありますよね。さっき「ギフテット」という言葉も出ましたけど、海外だと発達障がいとかハンディキャップとかって言わないで「2E」って言い方をするんです。他の人よりも発達面で困難もあるけど、一方ですごいことができる場合があります。

例えば、目が見えない人が、実は耳がすごくよいといった、信じられないような感覚があったりします。また、「トイレが臭い」とか「人の匂いが苦手」といった理由で学校に来れない子がいっぱいいるのですが、そういった「匂いに敏感な子」が、某化粧品メーカーで香水の開発に関わってたりします。耳が過敏で「人の声がうるさくてだめだ」という子が、ある大学とコラボして、音の聞き分けを可視化するアプリ作ってたりするんですよ。

特性を生かして、自分でご飯を食べていけるところへ就労できるのが理想です。人間らしい感性とか、その人らしい特性を生かしていく方が、社会的にも多様性があっていいと思うんですよね。

――それこそメタバースの展示は才能のある子のポートフォリオになりますね。

青木:
今は大学も企業も学力だけでなく、ポートフォリオと言って、その人の実績やユニークポイントをみることができます。特性がある子も、そこを磨いて武器にすることで、やがていろんな企業の人から、「この子と一緒に仕事がしたい」と言ってくれるような時代になっていくんじゃないかなと。それによって面白い社会になっていくんじゃないかなと思ってます。

林:
特別支援学校から社会に出るとき、現場の先生方は皆さんすごい苦労されてるんです。だからメタバースを通して、「こういう細かいものが作れるんだ。じゃあこういう仕事やってもらおう」みたいな、こちらからアピールしなくても見に来てくれて紹介できる世界を作るのが理想ですね。

「先生学校自慢島」「こども宝物自慢展示」について

「先生学校自慢島」「こども宝物自慢展示」は、現在一般向けの公開がスタートしています。アクセスに際しては、以下の手順を行ってください。

  1. コミュニティサイト「テレロボ学校」へ新規登録。
  2. 新規登録完了後、「お役立ち資料」から「『先生学校自慢島 & 子ども宝物自慢展示』特別支援学校・学級メタバース 入場手順」の資料をダウンロード。
  3. 資料内の「参加時の注意事項」内容を確認、実施。
  4. 資料内の「特別支援学校・学級メタバース エントランス」のURLから入場。

より詳細な案内はこちらもご覧ください。


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