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メタバース 2023.05.18

角川ドワンゴ学園N/S高等学校による「VR教育」 その実態は? 2年間、体験した生徒たちに話を聞く

角川ドワンゴ学園N/S高等学校で、これまで6000名以上の高校生に行われた「VR教育」。VRヘッドセットMeta Quest 2を生徒に配布し、VRプラットフォーム「バーチャルキャスト」を利用して、VR空間内で授業を受けられる仕組みを運用している。

N/S高等学校のVR教育は、単に映像をバーチャル空間に配信するものではない。授業で利用するサブテキストや世界地図、グラフなどを出現させることができ、実際に自分の手で触れて能動的に学べる点が大きな特徴だ。

2年前の初実装時に著者も実際に体験してみたが、「授業の資料集をめくりながら講師の話に耳を傾ける」という行為がVR内で完結していることに驚いたことを覚えている。

また、VRでの授業のみならず、学内行事についてもVRを積極的に活用している点も見逃せない。これまで海外修学旅行や、新入生を集めた入学式などをVR空間で実現しており、また生徒同士が自主的に学園イベントなどを運営するといったこともあったという。

こうした取り組みが、生徒たちにどのような影響を与えたのだろうか? 今回はこれまでVR学習を2年間体験した生徒に直接話をお聞きした。

須藤隼人さんの場合:VRで受ける授業は「体験」になる

――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、角川ドワンゴ学園N/S高等学校ではバーチャルキャストを使った授業をしているとお聞きしています。須藤さんが普段どのような授業を受けられているのかをお聞かせください。

いろいろですね。物理なり数学なり国語なり、基本的にすべての科目がVRの授業になっているので。

――特に印象に残っている科目はありますか?

物理や数学です。たとえば数学だと、目の前の空間にグラフが出てきたりするんです。数学って本来は、平面上の紙とペンで学習する科目じゃないですか。それが平面でなく目の前に出てきて、立体的に動く。そういう「現実じゃないな」と感じる体験はやっぱりVRならではですし、すごくおもしろいと感じています。

――オンラインで映像を見る授業と、VR空間で受ける授業とでは、感覚的にどちらのほうがやりやすいですか?

個人的には「VRのほうが身につくんじゃないか」という気がします。パソコンの画面は平面ですよね。平面の板をただ眺めているよりもVRのほうが情報量は多いし、学習効果が高いんじゃないかなと。個人的な仮説ではありますが。

――授業のスタイルとしては、対面授業もあるのでしょうか?

基本的には一方通行の映像配信ですが、生配信の授業もあります。

――中学までに受けてきた学校の教室で行われる対面授業と、今の学校に入ってからのVR授業とで、感覚的に「ここは違うな」と感じる部分はありますか?

視覚的に「目の前にある」という実感が得られるかどうかは、大きく違うと感じています。教室の授業では、立体的なグラフや絶滅した生き物を目の前に出すことはできないじゃないですか。VRの授業には、そういう部分でのおもしろさがあります。

それに、リアルの授業って何と言うか……一方通行なんですよね。先生は教壇に立って教えてくれますが、黒板にはただ文字が羅列されているだけで、伝えられる情報が一方通行であるように感じています。

でもVR授業は、使われる教材がインタラクティブなんですよ。グラフにもボタンがあって、自分が触れると変化が起きる。手元に物を持って、「これの裏側はどうなっているのかな」って調べることもできる。そうやって自分からアクションを起こすと反応があるのは、(教室の授業とVR授業とで)ちょっと違うなって感じがします。

――VRでの学習は、ご自身の学力向上に役立っていると感じますか?

これも感覚的な話になってしまうのですが、VRで見たものは忘れにくい気がしています。ただ「見る」だけの映像とは違って、VR空間で何かを触ると、それが「触った」という経験になると思うんですよ。その「触った」感覚は記憶に残りやすいので、VRの授業は「体験」だと感じています。

――ちなみにVR授業を受ける際は、いわゆる「板書」のような形で手元でメモを取ることはあるのでしょうか。私も過去に授業を受けたことがあるのですが、VR空間ではメモを取るのが難しかった記憶がありまして。

やっぱりメモの取りにくさはありますよね。必ずしも常に手元が塞がっているわけではありませんが、現実の様子が見えないのはちょっと不自由だなと感じています。ただ、私の場合はあまり紙にメモを取らないタイプなので、普通にパソコンでキーボードを叩いています。ブラインドタッチで、カタカタと。

――かなり器用なことをされていますね(笑)。では、授業での集中のしやすさについてはいかがでしょう。「オンライン授業は集中しにくい」という話を聞いたことがあるのですが、須藤さんにとってVR授業は集中しやすいですか?

2つの見方ができるように思います。そもそもVRのヘッドマウントディスプレイって、視野が狭いじゃないですか。現実が見えないぶん余計な情報がないので、集中力を高めてくれるような気がしています。でも同時に、HMDそれ自体は重いので、首や顔への負担が現状はあります。そう考えると、集中力を削がれそうな要素と、集中力が高まりそうな要素の2つがあるなと。

――HMDの重さを考慮すると、長時間の使用にはあまり向きませんものね。VR授業は1日に何時間くらい受けているのでしょうか。

日によりますね。普通の学校では「1コマ何分」という形で授業時間が決まっていますが、オンラインだと授業ごとに授業時間が違うんですよ。必要最低限の内容を「授業」として、最適化されたものを配信しているので。なので途中まで見てやめてもいいし、途中でオンラインとVRを切り替えることもできます。そのあたりはフレキシブルに使い分けています。

――授業ではバーチャルキャストを利用されていますが、使い勝手はいかがですか?

今は良いですね。ただ、私が入学したての頃は、操作系が割と特殊だったんですよ。というのも、バーチャルキャストは配信用のプラットフォームなので、ほかのプラットフォームやVRゲームとは操作方法が違ったんです。

なので当初は、私を含めていろんな人から「やりづらい」という声があがっていました。今はアップデートで操作方法を選べるようになったので、すごく使いやすくなりましたね。細かい部分では気になるところもありますが、バーチャルキャストの根幹のシステム面に関しては、今のところは特に不満はありません。

VRChatにはN/S高生が多く集まっている

――N/S高校では入学式などの学校行事でもVRを活用されていますが、特に印象に残っているイベントはありますか?

いろいろなイベントをやってきましたが、印象に残っているのは夏祭りとバーチャル体育祭ですかね。夏祭りはVRChatRec Roomでやりました。

もともとは「夏休みにRec Roomで何か大きな企画をやろう」みたいな話があって。Rec Roomって、すごく簡単にワールドを作れるんです。生徒で集まって、神社を作って……と作業を進めていたところ、「Rec Roomでやるんだったら、VRChatでもやりたいよね」という話も出てきて。

VRChatに入って、雑談している時にたまたまUnityを扱える人が何人かいたので、「できるんじゃね?」って話になって。だから、その場のノリと勢いですね(笑)。そこそこタイトなスケジュールだったのですが、Rec RoomとVRChatのそれぞれでワールドを作って、「夏祭り」というコンセプトでイベントをやりました。

――前提の話になってしまってすみませんが、生徒のみなさんは「普段からVRChatやRec Roomでも遊んでいる」という認識で間違いないでしょうか?

そうですね。授業以外でもVRに入って遊んでいます。いわゆる「校舎」が我々にはないので、VRは「友達と会って遊ぶ場所」みたいなイメージですね。「今、誰かいるかな?」とバーチャルキャストに入ることもありますし、暇な時に友達と一緒にゲームで遊ぶような感覚で、お互いに誘ったり誘われたりしています。

――それは学校側から「VRChatやRec Roomで遊んでもいいですよ」と言われたものではなく、生徒のみなさんが自発的に遊ぶようになっていったのですか?

我々の世代は自発的に、っていう感じですかね。VRのコースができて1年目に入った一期生だったので、最初は職員も生徒もみんないろいろと手探り状態だったんです。

「そもそもVRって、何ができるの?」みたいなところから始めたので、本当に初期の頃は「おもしろいゲームを見つけたから、みんなで一緒にやってみよう!」って生徒のあいだで共有していました。みんなで開拓していく楽しさのようなものがありましたね。

最近はそれもある程度は確立されてきたので、学内で開催されるイベントも増えました。そういう意味では、自発的というよりは学校主体になりつつある感じもあります。でもやっぱり、みんな誰かと一緒に話したり、ゲームをしたりして遊びたいので、今も自発的といえば自発的ですよね。

――おもしろいですね。以前、別の方と話した時に、「VRChatには結構な数のN高生がいるんじゃないか」というお話があったことを思い出しました。

いると思いますよ。……いや、いますね、うん(笑)。VRゲームを遊んでいる人のN高生の割合って、なかなか高い気がしていて。実際、オンラインでVRゲームをプレイしていると、「なんか、どっかで聞いたことある声だな」って思うことがあるんですよ。多分、N高生は活動の時間帯が被っているんですよね。

――現実に置き換えると、「放課後に学外の商店街でたまたま鉢合わせする」ようなイメージでしょうか(笑)。

「今日は誰も誘わずに1人でプレイするかー」と思って出かけてみたら、ばったりN高生と会ってしまった、みたいな(笑)。そもそも生徒数が多いので、必然的にVRで会う確率も高くなるのかなと思います。VRCは生徒のあいだでも人気なので、結構いると思いますよ。

中学生の頃からやっていたUnityの経験を生かして、XR系のインターンに参加

――普段からVRChatでも遊ばれているというお話でしたが、ソーシャルVRでのアバター制作やワールド制作に関して、授業を受けてから興味が出てきた部分などはありますか?

授業を受けてから……というよりは、周りの人の影響が大きいかもしれません。VR自体への興味については、授業を受けてから「やっぱりおもしろいな」と感じるようになりました。空を飛ぶとか、現実ではできないようなことが、HMDを被るだけで気軽にできる。それはやっぱりおもしろいなと。

あと、私自身ちょっと特殊で、「中学2年生の頃からUnityをやっていた」という事情もありまして。

――そうなんですか!? Unityは何がきっかけで触るようになったのでしょうか。

プログラム自体もすごく好きなのですが、「Unityやりたいな」っていうのが最初にあったんです。「N Code Labo」っていう、N高が母体でやっているプログラミング教室があるんですよ。ちょうど中学生の時にその教室ができて、そこに入ってUnityを触り始めたら楽しくて、それが今も続いています。

――すると学校に志望した動機も、中学時代から興味のあるプログラミングやUnityが関係しているのでしょうか?

そうですね。「今やっていることは楽しいし、続けたいな」という気持ちが大きくて、この学校に来ました。ありがたいことに、今はUnity関係のインターンもやらせてもらっています。ジャンルはXR系ですね。この学校でVRに出会って、XRにも興味を持ち、たまたまご縁があって、今はいろいろ作っている感じですね。

――高校に通いながらXR系のインターンに参加されているのはすごいですね……! もともと興味のあったUnityから始まり、N高の授業でVRと親しむようになり、XR分野にも関心を持つようになって、それがインターンにもつながったと。

ここに来る以前から単語としての「VR」は知っていたのですが、実際に触ったことはありませんでした。なので、初めて触ったときの衝撃は強く残っています。そこから徐々に、技術としてのVRやXRの沼にハマっていった――っていう感じですかね(笑)。

あとは、自分がもともとやっていたUnityと重なる領域だったことも大きいと思っています。VRChatやRec RoomといったVR系のプラットフォームもそうですが、ARやMRといったXR系も含めて、Unity製のサービスが多いんですよね。

――VRから受けた衝撃と、それがたまたま自分の技術と重なっていたことで、今の須藤さんがあるわけですね。初めてVRを体験したときの感想をもう少し詳しくお聞きしたいのですが、何が一番の衝撃でしたか?

一番衝撃的だったのは――些細ではありますが――「物が持てる」ことですね。もちろん、初めてHMDを被って、360度どこを見ても世界が広がっているのもすごいなと感じました。

と同時に、最初にチュートリアルがあるじゃないですか。周囲に物が転がっていて、それを手を伸ばして掴もうとすると、実際にこう……「持てるんだ」っていう。それは現実にはないオブジェクトのはずなのに、たしかに「持っている」感覚があったんですよね。

おそらくは脳の錯覚的なものなんですけど、でもたしかに持っている気がしたし、物を投げたら「投げた」という感覚があった。それがすごくおもしろくて、初めてHMDを被ったときに感動した、衝撃的だった部分です。

――そこから、徐々に沼へと突き進んでいったわけですね。

そうですね。「これもおもしろい! あれもおもしろい!」ってどんどん掘っていったら、すごい沼に突き当たってしまいました(笑)。

同じ空間で「会える」VRは、オンラインとオフラインの良いとこ取り

――ここまでのお話と重なる部分もあるかもしれませんが、授業で主に利用されているバーチャルキャスト以外には、どのようなサービスを、どういった用途で使われていますか?

VRChatRec Roomバーチャルキャストの3つが比率的には高いと思います。使い方としては、バーチャルキャストで開催したバーチャル体育祭では、競技をやりつつ配信もしていました。バーチャルキャストは配信に強いプラットフォームなので、限定公開のYouTubeライブで行う形ですね。私はそこで司会や実況もやっていました(笑)。

あと、バーチャルキャストにはN高生しか入れない「学びの塔」というルームがあって、そこに入って雑談したり、遊んだりもしています。ルーム内で待ち合わせて「今日どこ行く?」みたいな感じで、待ち合わせ場所のような使い方もしていますね。それ以外にも、VARKに行ってカラオケをしたり、対戦系のオンラインシューターのイベントをやったり――いろいろなところで遊んでいます(笑)。

――ゲームなども日常的に遊ばれているわけですね。VRで過ごすようになってから友達は増えましたか? また、「VRで遊ぶことでさらに仲良くなれた」などの感覚はありますか?

明確にありますね。うちの学校は結構特殊で、生徒の住んでいる場所がバラバラなんですよ。北は北海道から、南は沖縄まで――なんなら海外もいます。でも海外在住の人とも、VRだったら会えるんですよ。

この場合の表現としては、本当に「会える」と言うのが正しい気がしています。というのも、通話をつないだ状態を「会う」とは言いませんが、VRだと本当に会っている感覚があるんですよ。だからVRは、自宅にいながらにして「会った」ような体験ができるという意味で、オンラインとオフラインの良いとこ取りをしていると思っています。

実際、もともと知り合いだった相手とも、VRで一緒にゲームを遊ぶことでさらに仲良くなれている感覚があります。初めましての人と会う場面でも、オンラインならではの気軽さがあることは結構大きい気がしていて。「リアルで会う」って、結構ハードル高いじゃないですか。だからVRは、「会う」ことと「仲良くなる」ことのどちらも強いなと思います。

――学校の生徒さん以外の知らない人とVRで会って、仲良くなるようなことはありますか?

ありますね。Echo VRに入って練習しているときに、学外の人とマッチングして仲良くなったり、あとは「Echo VR Japan」というコミュニティがあるんですけど、そこで知り合ったり。Echoに関しては、友達とも「この時間、練習しようぜ」って日時を合わせてやっています(笑)。

――学内だけでなく、課外活動や部活に関してもVRが結構な割合を占めているんですね。周りのみなさんも普段そうやって過ごされているのでしょうか?

私の周りは特にアクティブな人が多いので、そうだと思います。特定のプラットフォームばかり使っている人もいますが、基本的にはみんな、その時にやりたいことを自由にやっている感じです。それこそ、体を動かしたかったらEcho、友達と遊びたかったらRecRoom――といった形で、いろいろなプラットフォームを使い分けています。

XRで教育を拡張したい

――須藤さんは現在高校3年生ですが、将来の進路はどう考えられていますか?

大学への進学を考えています。インターンもその一環といえば一環ですね。個人的にはやっぱり「やりたいことをやりたい」という気持ちが強いので、そのための場所として、大学に行きたいなと。

今、取り組んでいることのなかでは特にXRと教育分野に興味があって、「XRで教育を拡張しよう」と考えて……詳しくはお話できませんが、いろいろやっています。「ARで田植え体験できないかな」とか。

学外のプロジェクトとして取り組んでいるものも多いのですが、今はそれが楽しいし、自分の興味のあることなので、そういう方面で活動を続けたいなと思います。

――学校で授業を受けつつ、そこで学んだことを生かせるようなプログラムを体験して、さらにそれをインターンや自分のプロジェクトに生かしていきたいと。ちなみに、具体的に行きたい学部などはありますか?

学部は情報系を検討しています。今のところ、個人的に一番、熱が入っているのはXRですが、もともと興味があったのはプログラムやIT系の技術全般なので。

ただ、「受験のための勉強をがっつりやっている」というよりは、「受験勉強にかこつけて、やりたいプロジェクトをやっている」のが現状かもしれません。勉強……あまり好きじゃないんですよ(笑)。AO入試を受けようと考えているので、小論文や英語などの勉強をやってはいますが、そろそろ時間がないので……「やばいなぁ」って思いながら取り組んでいます(笑)。

――個人のプロジェクトに取り組みつつの受験勉強は大変かと思いますが、どちらも応援しております。ありがとうございました。

外間美朱さんの場合:VR授業は自分のペースで、集中して勉強ができる

――よろしくお願いいたします。早速ですが、。外間さんがVRで普段どのような授業を受けているのかをお聞かせください。

私は数学が苦手なのですが、VR授業では目の前に図形やグラフが出てきて、自分で操作をすると、変化が目で見てわかるような授業があります。理科の授業でも、生物の模型が目の前に出てきて、それをいろんな角度で見られたり。社会の授業では、「この地域にはこういう特色があるよね」と色別に示されていて、それを詳細表示することでわかりやすく見られるような授業もあります。

あとは地理に「全天球」という授業がありまして、私はその授業が一番好きです。自分が気になったところや、なかなか行けないような場所――前に見たのだと、本当に山の上に登らないと見られないヒマラヤ山脈の光景とか――も、そこに行ったかのような景色が見られるんです。VR授業は、そういう体験をできる授業が多いなと感じています。

――VR授業だけでなく、通常の映像を見て学ぶオンライン授業もあるとお聞きしました。オンラインの映像授業とVR授業とで、何か違いを感じる部分はありますか?

オンライン授業は自分のペースでわからないところを巻き戻して確認したり自分のスピードで覚えていけるので、安心して学習出来ます。VRは目の前にまったく違う世界が広がっていて、自分のペースで、自分が気になったものを集中的に学習できます。

VR空間での授業は気持ち的にも楽ですし、勉強を進めるなかで、どんどん興味関心が広がっていくなと感じています。どちらかと言うと、私はVRのほうが楽しく学べるなと思っていますが、ノートが取りづらい、見返すのに苦労するなどの欠点もあるので、オンライン授業と併用することで充実した学習ができています。

――現実の教室で対面で受ける授業と、VRの授業とではいかがでしょうか。何か違いはありますか?

教室では大勢の生徒に対して先生1人が授業をすることになりますので、どうしてもみんなに合わせる形になるんですよね。先ほどもお伝えしたように、私は周りの子の授業スピードについていくのが難しかったので、本当に苦労していました。でも、VR授業なら自分のペースで進められますし、自分1人の空間なので集中もしやすいと感じています。

あと、普通の対面授業って、先生の話を1回聞いたらもうその回は終わりだと思うんです。ですが、N高のVR授業では、気になったところを巻き戻したり、集中的に学習したいポイントを繰り返したりできるので、私にとっては学習しやすいスタイルだと感じています。

中学校の頃は塾に通っていたのですが、塾もやっぱり先生1人が大人数の対応をしているので、何回も同じ質問をするとちょっとイライラされるんですよ(笑)。そういう圧迫感のないVRでは、自分が学習しやすい、理解しやすい授業の受け方を模索しながら、楽しく学ぶことができています。

――VRで授業を受けるようになったことで、「学力が上がった」という実感はありますか?

苦手な教科は苦手なままなのですが、「自分で学習したい」と思えるようになりました。中学校までは勉強しないと授業についていけないので、「やるしかない」みたいな感じだったんですけれども、VR授業を始めてからは、「VRでの授業が楽しい! だから勉強をしたい!」という考え方に変わりました。

――勉強それ自体にも興味が持てるようになったわけですね。ちなみに、1年生で初めてVRの世界に飛び込んだときに驚きはありましたか?

たしか私が小学校の頃に、スマホを使ったVRゴーグルが流行っていた時期がありまして。「すごい! やってみたい!」と思っていたのですが、その時は買ってもらえなかったんです。

だから、まず「授業をVRで行う」というのも驚きでしたし、VRを使った交流も初めての経験だったので――すごく緊張はしていたんですけれども――本当に、自分が新しい世界に来たように感じました。

――VR授業に関しては、1日に何時間くらい受けられているのでしょうか。

レポートのある授業が始まると、1日の1時間半~2時間くらいはVR授業を受けています。それ以外は、オンラインで普通の「N予備校」の授業を受けている形になります。

――先ほど「VRは集中しやすい」というお話もありましたが、HMDを長時間にわたって装着していることで、疲れることはありませんか?

私はVRでお友達と遊ぶことも多いのですが、4、5時間くらいずっとみんなで話すこともあるので、それで慣れちゃっている部分はあるかもしれません(笑)。なので、「めちゃめちゃしんどい」とまでは思わないですね。

VRを通して、卒業後もずっと仲良くしたい友達ができた

――授業で利用されている「バーチャルキャスト」について、感想をお聞かせください。

バーチャルキャストさんって、本当にリアルで立体的なものを目の前に映し出すことができるんです。生き物とかもそうですし、地球儀だったら、本当に地球儀の形をかたどったものが目の前に現れて、ひとつひとつの国まで見ることができます。

興味関心を持つものは人それぞれだと思うんですけれども、VRだからこそいろんなものが見られるし、たくさんの選択肢が用意されています。自分が学ぼうと思ったことを学べて、生徒一人ひとりの学力や知識につながる内容が多く含まれているなと感じています。

――バーチャルキャストを使っていて、欲しい機能はありますか?

明るさの調整ができるようになってほしいです。背景の設定が朝のみしかないので、時間帯を自分で選べる機能があれば嬉しいと思っています。あとは、あとはVRChatのように簡単にプライベートルームが作れて、そこですぐに友達と遊べるようになったらいいな、とは思いますね。

――お話を聞いていると、普段からVRChatなどでも友達と遊ばれている様子が伝わってきますが、学校の授業外でも利用されているのでしょうか。

そうですね。学習はバーチャルキャストさんなんですけれども、VRChatで遊び始めてからたくさんお友達もできましたし、人と交流する機会が本当に増えた印象があります。

――VRChatはどういったきっかけで使うようになったのですか?

1年生の夏頃に、学内でVRを広めていくための広報活動をする実行委員が設立されたんです。私もそのバーチャル実行委員に所属するようになったのですが、その活動のなかで「VRChatを使ったイベントを開きたい」という話があって。それでアカウントを作って、VRChatを使うようになりました。

――VRChatではどのようなワールドで交流をされていますか?

観光系とかもそうなんですけれども、私、鬼ごっこがすごく好きなんです。氷鬼ができるワールドがあるのですが、そこで人数を集めて、10〜15人くらいで遊んだりすることもあります(笑)。

あとはVRの子たちが集まったDiscordのグループがあって、そこで呼びかけて、集まってくれた人たちと一緒に遊んだりとか。特に仲の良い子たちとは、そこまで広くない、ゆったりできるワールドで、一緒に雑談をして楽しんでいます。いつも大勢で遊んでいるわけではないんですけれども、本当にたくさんの方と交流する機会が増えたなと思っています。

――VRで遊ぶ機会が増えたことで、友達は増えましたか? また、「友達とさらに仲良くなれた」などの実感はありますか?

やっぱりありますね。VRを通して、「卒業後もずっと仲良くしたいな」と思えるようなお友達が2人もできました。VRをやっていなかったら多分そういうお友達もできなかったし、いろいろアプリを試して、遊ぶ人を誘って――そうやって自分から動いてみて本当によかったなと思います。

――VRChatと言えば、Unityを使ったアバター導入など、ハードルが高く感じられる部分もあったのではないかと思います。そのあたりはどうでしたか?

私はこれまでの人生でぜんぜんパソコンを触ってこなかったので、最初はすごく戸惑いました。アバターを購入してもどうすればいいのかがわからないし、英語も苦手なので、「なにこれ?」みたいな感じで。

そのあたりはお父さんがちょっと得意だったので、一緒に見てもらって、初めてのアバターはなんとかアップロードしたんですけれども。あとは、すごく仲良くなったお友達の1人に――アバターもそうなんですけど――Unity関連もすごい得意な子がいまして。その子に一緒に見てもらいながら、お洋服の色変更や改変などをしていました。

――すごい。改変までしっかりして、結構バリバリに遊ばれているんですね。

そうですね。めちゃめちゃ遊んでいます(笑)。

――ちなみに、VRChat以外ではどのようなゲームやアプリで遊んでいるでしょうか。

Rec RoomEcho VRなどのゲームとか、カラオケアプリのVARKで遊んでいます。実行委員でイベントなども開かれているので、検証がてら自分でやってみたりもしていますね。

夏に学内でEcho VRの大会があって、私も2回ほど出場させていただきました。ただ、私は結構酔いやすい体質だったので、最初はRec Roomに長時間入ることができなかったんです。10分以上入ると酔ってしまうほどに弱くて、最初の1年半くらいは酔い止めを飲んでもあまり効いていませんでした。

ですが、去年の夏頃に実行委員で一からワールドを作成をして、夏祭りのイベントを開いたことがありまして。その時にRec Roomを使って、ワールドを作るために毎日何時間も作業をしていたら、だんだんと酔わなくなってきたんです。今はRec Roomにもぜんぜん入れるようになって、みんなと一緒に楽しんでいます。

バーチャルなら、全国にいる生徒と一緒に修学旅行にも行ける!

――ちょうど夏祭りのお話がありましたが、ほかにも入学式などの学校行事で普段からVRを活用されているとお聞きしました。特に印象に残っている行事はありますか?

2つあります。1つが「バーチャル修学旅行」というもので、ついこの前も2回目が行われました。これはWanderというアプリとバーチャルキャストを併用して、実際に日本国内や世界各国を巡っていくイベントです。

今年はバーチャル内で見たお土産が実際に家に届くようになっていて、本当に楽しかったです。ネットの高校なのでリアルで会う機会は少ないですし、いわゆる「修学旅行」などの旅行もなかなかできないのですが、VRだからこそ、全国にいる生徒と交流できることを実感できました。

もう1つは、夏頃に行われる「バーチャル体育祭」です。こちらはすべてバーチャルキャストさんを使って行われる行事で、いろいろな競技があります。私が1年生の時は、アーチェリーや大玉転がしに出場させていただきました。2年生の時は、ロボットみたいなのを操縦して戦わせたりもしましたね。

あとは「迷宮迷路」という、迷路を上から見てゴールまで指示する係と、実際に迷路を解いていく人に分かれて、2人組で協力しながらゴールを目指す、広大な面積を使用した競技もあります。そういう「VRだからこそできるな」と感じる教具もあって、本当に楽しかったです。

――すごいですね。修学旅行も体育大会もVRで行われるという、その事実がまず衝撃的でした(笑)。ちなみに、バーチャル体育祭は生徒全員が参加されるのでしょうか?

いえ、「参加したい種目がある人は申し込んでください」という感じですね。

――なるほど。修学旅行ではどちらに行きましたか?

私の場合は、まず日本国内では山口県長門市にバーチャルキャストさんで行って、Wanderではいろんな国を巡っていました。イタリアだったり、『ロミオとジュリエット』の舞台になった建物が実際にあるという観光名所だったり。本当にたくさんの場所をポンポンポンポンって、1日で見ていくような形でした。

――VR空間で学校行事を行うことで、自宅にいながらにして友達と思い出作りができるのは素敵ですね。ほかにおもしろかったVRアプリはありますか?

先ほども挙げた、VARKっていうカラオケアプリですね。実行委員でカラオケのイベントを開く際に、このVARKを使いました。大勢でカラオケに行く機会ってリアルでもそんなにないと思うんですけれども、5、6人くらいでカラオケのルームに入って、歌ったり、歌っているのを聞いたりして、本当に楽しかったです。

私自身、もう実行委員として1年半くらい活動しているんですけれども、本当に次から次へと新しいアプリを検証したり、イベントを開催したりしています。それでもまだまだたくさんのVRアプリがあるので、これからもVRを使って、思い出をいっぱい作っていこうと思っています。

生徒主体でイベント運営や初心者フォローを行う「実行委員」

――「実行委員」についてもう少し詳しくお聞きしたいのですが、普段はどのような活動をされているのでしょうか。

普段は週1回の定例ミーティングをZoom上で行なっています。委員はチームに分かれていて、VRChat班やRec Room班などそれぞれのアプリを検証する班や、大型イベントを開催するチーム、VR初心者をフォローするチームなどがあります。

各グループでミーティングを行い、最後に集まって、「来月開催するイベントはこれに決まりました」「今はこういうスケジュールで進んでいます」とお互いに報告をして、具体的な方針が決まったら、全員で当日運営などもしていく感じですね。

――イベント運営以外にも、VR初心者や後輩に向けた広報や自治的な活動を実行委員が担っているわけですね。

そうですね。私は去年の6月から12月まで実行委員長を務めていたほか、1月から3月にかけては、毎月行われたイベントをまとめるリーダーも務めさせていただきました。どのアプリを使うか、どこのワールドに行くかを短期間で決める必要があり、すごく忙しかったのですが、やっぱり「いろんな人にVRを経験してほしい」という気持ちがありますので。

1年半以上の活動を通して、「酔いやすいワールドや重いワールドは避ける」といった知見もたまり、実行委員のあいだでの連携も培われてきました。結果、VRを知ってもらえる機会も増えたと思っています。

多分、今年も新入生がたくさん入ってきたと思いますが、特にVRコースを選んだ生徒には、これからもVRの良さを伝えていきたいと考えています。最初は酔ってしまうかもしれませんが、徐々に慣れていって、交流も増えて、「イベントも楽しいんだよ」というのを知ってもらえるように、私もがんばっていきたいなと。

――「授業で使って終わり」ではなく、授業外でも「これを使ってどう遊ぶか」を生徒同士で積極的に提案し合うほど、普段からVRに接しているわけですね。リーダーを務めているというお話でしたが、リーダーになったきっかけなどはありましたか?

私が1年生の時に、学内と学外に向けた冊子の取材を近くのキャンパスでさせていただいたことがありまして。いつもお世話になっている、VRの実行委員の活動をまとめてくれている職員の方がいるのですが、その取材の場に来ていた先生から、「もしよかったら、副委員長とか委員長とか、やってみいひん?」お声がけいただいたのがきっかけです。

その時の私はまだ1年生で、当時の委員長もプログラミングの得意な2年生の方だったので、「私がなっても、その後をちゃんと引き継げるのかな……」とすごく不安だったのですが、「せっかくの機会なので、やらせてください!」と引き受けさせていただきました。

最初の半年は副委員長として、その後の半年間は委員長として、さらに委員長の途中から今年の3月いっぱいまでは、月次のイベントをまとめるリーダーもやらせていただいて、本当にすごく大変でした。今はその任期を終えたところなのですが、VRで学べたことは本当にたくさんあったように思います。VRを通して、いろんな人と話し合う機会や、自分をより成長させてくれる機会にもたくさん巡り合えたので、実行委員になってよかったなと。

去年の秋頃に体調を崩してしまい、委員長のお仕事を一時期お任せすることになってしまった時期がありまして。私がいない部分をみんなで協力してフォローくれたのですが、復帰したときに、代わりにお仕事をやってくれていた子から「いつもこんなに大変なことをやっていたんだね、すごいね」って言ってもらえて、すごく嬉しかったことを覚えています。

そこで、私が今までがんばってきたことは別に無駄なことじゃなく、ほかの人の役に立っていて、自分の成長にもつなげられていたんだな、と実感できました。委員長などのリーダー系の任期は一応終えましたが、残る1年も実行委員としてイベントを盛り上げていければな、と思います。

将来の夢は、動物園の飼育員

――実行委員としての経験が、人間関係の構築やご自身の成長にまでつながっていると。本当に素敵なお話をありがとうございます。3年生になってそろそろ進路を考え始めるタイミングかと思いますが、今後やっていきたいことはありますか?

私はずっと、小学生の頃から動物園の飼育員さんになりたいと思っていて。というのも、小学校でいじめを受けていたときに、家で飼っている桜文鳥という小鳥さんにすごく助けてもらったんです。「辛い時期に動物に助けてもらった」という体験があるので、今度は私が動物を助けたい、動物の世話をしてあげたいなと思っていて、動物の飼育員になるコースがある専門学校に入学したいと考えております。

N高に入るときも、入学前から「自分で好きな同好会が作れる」ということをパンフレット料で見て知っていたので、入学してすぐに自分で動物の同好会を設立しました。同好会って、同じ趣味を持っている人たちで集まってワイワイしながら活動するイメージもあると思うんですけれども、私は結構本気で、「本当に動物が好きな人と一緒に活動したい」と考えています。なので、「ちゃんと毎回の活動に参加できる人」といった複数のルールを決めたのですが、それでも今、一緒にやってくれる子がいて、ありがたく感じています。

1年生の9月には、実際に野生動物の保護団体で活動されている方々にアポを取って、講義をお願いしたこともありました。その団体さんには、去年の9月にもボランティア活動に参加させていただくなどして、お世話になっております。また、同好会のメンバーには動物が大好きな子が多いので、いろいろな動物園をまわりながら勉強することもあります。

今年の4月30日には、ニコニコ超会議に参加させていただくことも決まりました。結構な応募があっただろうブース出展したのですが、希望者が多かったなか、少人数で活動する私たちの同好会を選んでいただいたので、今まさに一生懸命に準備を進めている最中です(※取材は4月30日に実施)。

本当に動物が好きな子たちが集まって、熱心に活動に参加してくれているので、いろいろな発見もあり、私自身もすごく成長できている実感があります。この活動を活かして、専門学校への入学や、今後の就職にもつなげていけたらなと思っています。

――立派な活動だと思います。最近は動物園でもVR系のコンテンツをしばしば見かけますし、もしかしたら、VRの経験が外間さんの進む道で役に立つこともあるかもしれませんね。

そうですね。実行委員としての活動も最後まで続けるつもりです。すごく仲の良い子たちともVRで出会っているので、これからもVRでその子たちと遊んでいきたいですし、今年入ってくる新入生たちとも仲良くなりたいなと思っています。

――これからの活動も応援しております。ありがとうございました。

聞き手・編集:ゆりいか
執筆:けいろー


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