Home » 大企業がメタバースで直面するリスクとは?「デジタル空間」業界団体の報告書を深掘り


メタバース最新動向 2022.11.30

大企業がメタバースで直面するリスクとは?「デジタル空間」業界団体の報告書を深掘り

11月16日、一般社団法人日本デジタル空間経済連盟(以下「日本デジタル空間経済連盟」または「連盟」)は、「デジタル空間の経済発展に向けた報告書」を報道メディア向けに公表しました。

「知的財産」「デジタル金融」「プラットフォーム」の3テーマについて「論点・課題」や「検討の方向性」をまとめました。

会員企業が「安心・安全なデジタル空間上での経済活動」を行うには、プラットフォーム利用規約の整備、国境を越えた相談窓口・調停機関の設置、現行法の通例解釈、会計実務慣行の定着、個人の人権保障・尊重、「倫理ガイドライン(仮称)」などが必要だと述べています。

多くの論点は、過去に他の省庁・業界団体が公表した資料に、先行する指摘があります。他方で、デジタル空間内の対人サービスを想定し、会計・税務や労働契約、人権啓発について論点提起するなど、独自の視点も盛り込まれています。

本記事では、「デジタル空間の経済発展に向けた報告書」の「概要版」「詳細版」を深掘りし、大企業がメタバースビジネスで直面しうるとされるリスクについて整理します。

知的財産保護の共通ルール・仲裁機関が必要か?


(出所:同上)

「知的財産」に関するワーキング(座長:上野達弘氏)は、世界的に影響力のあるアニメをはじめとした日本のコンテンツが、ビジネス発展に有効な資源と捉えられる一方で、第三者による模倣や二次利用により、権利者が知らないところで収益を上げられるといった問題を懸念しています。今回の報告書では、次の3つの論点を挙げています。

・1.デジタル空間内のコンテンツに関する論点
・2.現実の空間におけるコンテンツに関する論点
・3.他デジタル空間との間で生じる論点

1点目について報告書は、UGCやNFTのn次流通を主に想定し、(a)知的財産権や不正利用に関する現行法を踏まえたガイドライン整備や、(b)デジタル空間のサービス提供事業者(プラットフォーム、プラットフォーマー、運営者)による利用規約の調整、相談窓口の設置、(c)UGC投稿プラットフォームと同様に知的財産権を一括処理する機関(想定例:JASRAC)とクリエイターとの包括契約などの「検討の方向性」を論じています。

2点目については、現実の商品・建物をデジタル空間で再現したとき、実在する物理的財の権利保護や不正データ化の防止、実在する個人(有名人か一般人かを問わず)の肖像を無断でアバター化する「なりすまし」防止などの課題があると述べます。

これらの対策として、現行法・先行事例・法的責任などを整理したガイドラインの作成、プラットフォーマーによる利用規約の作成、「デジタルすかし」などの技術的手段を「検討の方向性」としています。

3点目については、国内法が適用されるデジタル空間内の知的財産権が、外国法が適用されるデジタル空間で侵害されたときであって、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められない場合に、違法行為の訴訟提起を海外の運営者と海外ユーザーのどちらにすべきかなど、慎重な検討が必要とします。

これらの対応として、現行法上の選択肢などをまとめたガイドラインの作成、国家・サービス主体を越えた統一的な利用規約の作成、運営者間の情報連携体制、共通の紛争解決機関の設置などを「検討の方向性」としています。

金融規制はデジタル資産に適用されるか?

「デジタル金融」に関するワーキング(座長:宿輪純一氏)は、金融機関または非金融機関(*1)が、デジタル空間(*2)やデジタル資産(*3)などを活用し、デジタル空間独自の金融商品・サービス(*4)を取り扱う際に、デジタル空間における本人確認や投資勧誘のあり方、デジタル資産のセキュリティ保護、会計・税務上の取扱い、金融規制に抵触しうる事業者・サービスの範囲などが「論点・課題」になるとしています。

*1:デジタル空間を利用する企業のほか、プラットフォーム運営事業者、暗号資産交換業者について言及されている。
*2:宣伝チャネル、販売チャネル(デジタル店舗)、DAO(自律分散型組織)などが言及されている。
*3:ゲーム等のコンテンツ、デジタルアイテム、デジタル空間上の土地、暗号資産、ICO(新規暗号資産公開)、NFT(非代替性トークン)、顧客情報が言及されている。
*4:証券、ローン、損害保険、資産運用アドバイス、法定通貨決済サービス、暗号資産決済サービス、エスクロー(取引保全)サービスなどが言及されている。


(出所:同上)

報告書は、これらの論点を「金融規制に関する論点」と「会計に関する論点」に分けたうえで、今後は「税務」についても「デジタル空間における経済活動を活性化につながる解決策について議論を進める」としています。

「金融規制に関する論点」について報告書は、会員企業からみて、現状、金融機関はデジタル空間を宣伝の場として活用していて、今後ではメタバースを販売チャネルとして使うことが想定されます。

例えば、「アバター姿の顧客に対して、金融商品の勧誘から契約締結までやり切る」場合には、eKYC(電子本人確認)のUXが不便であるという欠点や、AMT/CFL対応(アンチ・マネーロンダリング及びテロ資金供与防止)、金融商品取引法の規制などが論点となります。

これらについて連盟は、「既存の規制だけで対応できない部分がありうるため、どういった問題があるのか、情報整理をして先んじて公表するところに意義がある」と説明しました。

また、「会計に関する論点」については、例えば、デジタル空間内の土地や暗号資産を購入した際、会計処理の実務慣行をどう作り上げるべきかが「論点・課題」となります。

連盟は、「公認会計士などの専門家が正確な情報を整理して発信することで、企業にとって、デジタル資産を取引する心理的なハードルが下がる」と考えているそうです。

個人の「データ主権」は保護されるか?


(出所:同上)

「プラットフォーム」に関するワーキング(座長:未記載)は、「デジタル空間における本人確認方法、個人情報の取扱い、消費者保護、広告規制、プラットフォーム上での活動の制限、プラットフォーム規制等に関する課題を取り扱う」としています。

プラットフォーム事業に関して大きな論点となるのは、利用者情報の取扱いです。個人の情報セキュリティだけでなく、公序良俗の維持や人権/人格権の保障にも関わるためです。

現行の個人情報保護法では、個人を識別・特定せず、識別符号(ID)を持たない情報は個人情報に該当せず、個人関連情報(パーソナルデータ)として取り扱われます。

そのため、この報告書は「匿名の利用者情報」や「アバター情報(ユーザの操作対象〈アバター〉が身に着けたりすることができるもの〈オブジェクト〉)のうち、〈ゲームやネット上で動かすキャラクター〉に関する情報)」が、同法の適用外となり、他の法律違反(例:プライバシー侵害など民法上の不法行為)として扱われる可能性があると指摘します。

また、「個人(一般人または著名人)」の肖像・声をもとにアバターを作成した場合、作成に用いた素材の知的財産権やモデルの肖像権・パブリシティ権、本人の信仰・人格などが侵害されたり、無形財産(アセット)であるアバターの情報漏洩や攻撃・改竄、「なりすまし」による錯誤や詐欺などが起きることも懸念されています。

加えて、これらの情報が電気通信事業法における「特定利用者情報」(または「利用者識別情報」)に該当する場合は、法人情報や匿名の利用者情報であっても、プラットフォーム事業者には追加の対応措置が求められます。

こうしたことから、「アバター情報」を始めとする「利用者情報」をどう捉えるのか、「情報セキュリティに関する「既存ビジネス」との違い/差分」などの議論が必要だとのこと。

労働者、消費者、国民の権利は保護されるか?

また、「デジタル空間」の「宣伝・販売チャネル」で労働したり、プレイヤーが「デジタル空間内通貨やアイテム等」を法定通貨に換金できるゲーム(Play to Earn)などが行われています。

参加費をとるeスポーツ大会や、有料のクレーンゲーム、ランダム商品販売(ガチャ)を提供する活動もあります。

報告書は、これらの事例は業務委託(または雇用)された「労働者」(または個人事業主)が「業務」として行う「仕事」に「近い概念の活動」だとして、民法や労働法、風営法、賭博法、景品表示法、独占禁止法などが適用されるのかを「論点・課題」としています。

さらに、暴行・痴漢といったユーザー同士のトラブル対応のほか、国家による監視、政治家・公務員による違法利用、宗教・政治活動、人権(差別・いじめ)などの対応策も必要で、「デジタル空間倫理ガイドライン(仮称)」の「整備等が必須である」としています。

連盟は、「現状はプラットフォーマーの方針に委ねられていますが、一定のガイドラインが整備されれば、これからビジネスに取り組む事業者が対応しやすい」と説明しました。

今回の報告書をもとに連盟が「今後、策定予定」とするガイドラインの内容は、「課題やニーズなど事業者の意見集約」に注力するのか、「政策提言、報告書の提出」に踏み込むのか。今後の動向に注目です。

報告書はこちらからダウンロード可能です。

参考:日本デジタル空間経済連盟


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード