2024年7月19日、「Unity産業DXカンファレンス2024」が開催されました。ゲームエンジン「Unity」は、XRコンテンツの開発環境として広く使われています。昨今ではゲームのみならず、「リアルタイム3Dプラットフォーム」として、建築や製造、自動車など、様々な産業分野でも活用されています。
「Unity産業DXカンファレンス」では、Unityの活用事例が学べる講演に加え、複数の企業によるブース展示が行われていました。本記事では、XRコンテンツ開発者にとって参考になりそうな展示をご紹介します。
高解像度・性能で群を抜く「Varjo XR-4」
アスクのブースで紹介されていたのは、産業向けのXRヘッドセット「Varjo XR-4」を中心としたシステム案です。このXR-4は非常にスペックが高く、Apple「Vision Pro」レベルの高解像度で3Dモデルの閲覧や確認できるのがポイント。「人の目レベルの解像度」は伊達ではありません。
XR-4は、基本モデルは外部センサーが不要なので、設置も比較的ラク。製品の3Dモデルを細部まで見たり、操作可能なボタン類の動作状況を確認するには最適なXRヘッドセットです。3Dモデルの描写もリアルそのものなので、ヘッドセットの重さを忘れるくらいの現実感が得られました。
また、MR(Mixed Reality, 複合現実)モード時の精度の高さにも驚かされます。ヘッドセットをつけたまま外の様子が見れるパススルー、3DCGと現実の物体の重なる順番を正しく表現するオクルージョン、ともに高性能です。ユーザーの手の位置の認識も非常に正確でした。
ただし、極めて高い描画性能を持つだけあって、安定した動作をもたらすPC選びも重要です。アスクのブースでは、最大で3枚の「RTX 6000 Ada」世代のグラフィックスカードが搭載できる「Lenovo ThinkStation Pシリーズ」を用いたデモが行われていました。逆に、すでにハイスペックなワークステーションを持つ企業では、案外すんなり導入できるかもしれません。
遠くから現場作業者を支援する「NTT XR Real Support」、ARグラス対応も?
NTTコノキューのブースでは、遠隔作業支援ソリューション「NTT XR Real Support」が展示されていました。遠隔地のベテランスタッフが現場作業者に指示を出したり、手順を視覚的に表示することで業務を効率化する、というものです。
NTT XR Real Supportがもたらすものは、作業者がいつでも作業マニュアルを確認できる環境と、作業者に対する遠隔指示。すぐにマニュアルを参照できるUIや、オフィスにいる監督者が作業箇所をマーカーで示せる機能は直感的でわかりやすいつくりです。デジタル機器や日本語に不慣れな作業者でも、的確に作業を進めることができそうですね。
ブース内にはNTTコノキューデバイスの新型ARグラスも置かれていましたが、今回はモックのみの展示でした。しかし、NTT XR Real Supportは、このARグラスへの対応も考えていること。他のAR/MRデバイスよりも小型軽量ですし、現場スタッフにとっては非常に便利になるでしょう。
ホロラボは「スペックと問わずに使える企業向けソリューション」展示
リアルとバーチャルを繋ぐ、様々な企業向けソリューションを開発しているホロラボ。特に興味深かったのは、Webベースのデジタルツイン基盤システム「torinome」です。国交省のプロジェクト「PLATEAU」で提供されている都市の3Dモデルに、企業や自治体が持つデータを紐づけ、都市計画を俯瞰して見れる、というものです。
またブラウザでも動かせるように低容量化した大規模点群データや、高精度な都市空間を見て回れる広域「3D Gaussian Splatting」なども。デバイスのスペックが高くなくても、XR/3Dコンテンツを見てもらえるようなデータ・システム開発に取り組んでいるということが印象的でした。誰もがハイスペックな端末を持っているわけではない、というのは個人も企業も同じ。こうした配慮は、普及には欠かせないでしょう。
VRトレーニングの積木製作「足場組立・解体メタバーストレーニング」
積木製作のブースで拝見した「足場組立・解体メタバーストレーニング」は、VR/MRで建築用足場の組み立てや、足場の上での移動や作業、コミュニケーションの練習が行えるトレーニングシステムです。最大6人で同時にトレーニングが可能。各工程で必要となるアクションが、わかりやすく区切られています。
建築用の足場は狭い場所ゆえに、資材や工具を運ぶには、何人かの職人の手を通じたリレーが必要です。では、もし途中で落としてしまったときはどうなるか? 危ない状況ならどうやって伝えるべきか? といったトレーニングができるとのこと。
パワポ感覚でARコンテンツが作れる、シリコンスタジオの「Meister AR Suite」
ゲーム関連のソリューション提供で知られるシリコンスタジオは、ARコンテンツ制作サービス「Meister AR Suite」を展示していました。ARでの作業手順ガイドを、「PowerPoint」のような感覚で作れるツールです。工場や倉庫に設置されている操作パネル、配電盤などに使えそうですね。
TOPPANは「Vision Pro」を活かしたメタバース×EC開発
TOPPANは「メタパ for Vision」を展示していました。これはTOPPANのメタバースショッピングモール「メタパ」をAppleの「Vision Pro」に対応させたもの。コントローラーのないVision Proでは、移動したい場所を「目で見て、指でタップする」UIを採用。椅子やソファに座りながらメタバースを見て回れるようになっています。
また、「メタパ for Vision」のアプリは最初俯瞰視点で始まるのですが、ここでミニチュアサイズの商品を「つまんで引き出す」ことで、原寸大スケールの3Dモデルに拡大され、目の前にあるかのようなサイズ感で商品を確認できます。新しいECのデザインですね。
ニコンの「鞄1つで運べる、ボリュメトリックビデオ撮影システム」
個人的に一番興味を抱いたのはニコンのブース。そこにあったのは、可搬型のボリュメトリックビデオシステム。なんと、バッグ1つに収まるサイズの機材で「ボリュメトリックビデオ」、つまり複数のカメラを使った3D撮影ができるというのです。
「ボリュメトリックビデオ撮影」と言えば、広いスペースに数十台から数百台のカメラシステムを組み合わせた、複雑で大掛かりなもの……という印象を持っていましたが、「最低限のシステム構成」での撮影を実現しています。
なお、このシステムは1セットあたりカメラ/三脚が2台、記録用のPCが1台に、ケーブルなどが付属。広い範囲で撮影したい、足元もしっかりと撮りたいといったオーダーに対しては、複数セット用意することで対処するそうです。2セット、カメラ4台を使った場合、4m x 4mほどのエリアを用いた撮影が可能だとか。
もちろんカメラの数に限りがありますから、大規模なスタジオで撮ったものと比較して劣るところもあるでしょう。しかし、「数が少なく、遠いスタジオまで来てもらわなくても、簡単なボリュメトリックビデオ撮影ができる」というメリットは大きいのではないでしょうか。
繰り返し災害を防ぐ、東芝エレベータのVRコンテンツ
ゲーム的な演出技術やエフェクトを活用し、学習効率を高めているVRコンテンツも見つけました。東芝エレベータの「据付xUnity事例(VR)」です。原因がはっきりしているにも関わらず、安全確認などを徹底しなかったために起きてしまう「繰り返し災害」を防ぐためのVRトレーニングです。
例として、エレベーターのユニットを搬入する際のトレーニングとしては、「クレーン車に輪止めをはめる」「アウトリガーを使って車の体勢を安定させる」といった、基礎的な意識付けから行います。様々なエフェクトやアイコンを使うことで、視覚的な「わかりやすさ」を提供している事例でした。
超小型軽量XRデバイス、パナソニック/Shiftallの「MeganeX superlight」
パナソニックのブースで展示されていたのは、軽量XRヘッドセット「MeganeX superlight」。Shiftallが開発に携わっています。片目あたり2.6K(両目5.2K)と解像度は高めながら、約200g(フェイスパッド・ヘッドバンド含まず)の超軽量デバイスを目指して開発中。いろいろな機能を削り、「とにかく軽い」に特化しています。
それだけに、細いバンド1本でも装着感は良好。重さもあまり感じることがなく、ビジネスでもコンシューマーでも、ピッタリハマる場所が見つかるXRヘッドセットになるのではないか、と感じました。
(了)