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テック 2023.09.27

CREALがライトフィールドディスプレイ技術の商用化を発表、メーカー数社が技術評価中

スイスのスタートアップCREALは、ライトフィールド技術の商用利用を2024年初頭までに開始します。同社によれば、すでに複数のOEMメーカーが技術評価中です。この技術は、現行のVR/ARに関する主流技術と比べて目の焦点位置を自然に調整できるため、眼精疲労やVR酔いが起きにくいとされており、各社が研究開発を進めていました。


(ライトフィールドディスプレイ技術による焦点位置の調整イメージ。距離の遠近に即してバーチャルオブジェクトの表示が調整され、なおかつ現実の被写体も自然に見える。提供:CREAL)

2017年に創業したCREALは、VR/ARデバイスを単独開発するのではなく、ARグラスに搭載可能な「ライトフィールドディスプレイ」技術の実用化を目指しています。2020年から2021年にかけて評価用ユニットを発表し、その後もディスプレイの小型化や性能向上、量産化対応などを進めてきました。資金調達額は累計1,800万ドル(約26億円)に達しています。

9月26日に公表したプレスリリースによれば、同社は約6年間に及ぶ試行錯誤の結果、商用レベルで量産可能なライトフィールドディスプレイ技術が実現したとのことです。共同創業者兼CEOのTomas Sluka氏は、自社技術のブレークスルーについて解説するとともに、「AR技術の未来を形にするために、この革新的なミッションにぜひ加わってください」と呼びかけています。

ライトフィールドディスプレイ技術とは

ライトフィールド技術とは、3次元空間における視覚情報を、空間を伝わる光線の情報として再現する技術です。CREALは、これを応用した超小型ディスプレイの開発技術を「ライトフィールドディスプレイ技術」と呼んでます。

2010年代から研究開発が進められており、GoogleやMeta、Appleなどが関連特許を取得しVR/ARデバイスの研究開発を行っています。日本では2018年に凸版印刷が要素技術を開発したほか、2022年にNHK技研がVRヘッドセットを開発しています。

一般的なVR/ARデバイスは、人の眼の付近にディスプレイを配置し、左右の目に視差のある映像を映し出すことで、立体感のあるバーチャルオブジェクトを表示しています。したがって対象との距離に合わせたピント調整が難しく、2メートル程度の焦点距離を保たないと、表示のずれや歪みが生じます。この事象は「焦点競合・輻輳調節競合(Vergence Accommodation Conflict、VAC)」と呼ばれ、眼精疲労やVR酔いの原因となることから、各社が様々な工夫を試みてきました。そのひとつがライトフィールド技術です。

例えば、NHK技研の研究では、接眼レンズの前面に小さなレンズを多数並べた「レンズアレイ」を配置し、ディスプレイには個々のレンズに対応する小さな被写体の映像を表示します。こうすることで、被写体との距離に応じて目の焦点距離が調整され、より現実に近い自然な見え方が実現できます。


(出所:NHK技術研究所

技術詳細は非公開ながら、CREALのライトフィールドディスプレイ技術も、被写体との焦点距離を調整でき、至近距離でもバーチャルオブジェクトを適切に表示できるとしています。


(ライトフィールドディスプレイ技術による焦点調整イメージ。提供:CREAL)

簡易貼付できる専用フィルムと光学モジュール群の量産化に成功

CREALによれば、同社はライトフィールド技術を搭載した部品群を小型化したほか、ARグラス用途の標準的なレンズにも適用できる「ホログラフィック・フィルム」を開発しました。これらの技術を量産可能なデザインで組み合わせることで、画質や処理能力、システム構成のトレードオフを避けながら、より自然で健康的な視覚体験が実現できるようになったとのことです。


(提供:CREAL)

同社が公表したスペックシートによれば、今回提供されるARレンズ向けの技術群は、片目で視野角36°、フレームレート160Hz、輝度2000nitsといった性能を有します。これにより、より高品質なバーチャルオブジェクトを表示でき、「日常的な用途からプロフェッショナルな用途まで、微細な精密作業から広範なコンテンツまで、どのような距離でも長時間の使用と快適な視覚体験を可能にします」としています。


(AR技術スタックの製品仕様(片目ごと)。出所:CREAL)

(参考)CREAL


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