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業界動向 2019.03.11

アバターによるコミュニケーション設計と課題解決、VTuberによる“バーチャルティッシュ配り”の舞台裏に迫る

2019年1月13日、バーチャルプロショッパーコミュニケーションズ(VPC)は、VTuberがティッシュを配布する「バーチャルティッシュ配り」を行いました。会場内に「バーチャルティッシュ配りユニット」を設置し、VTuberのイトッポイドさんがディスプレイから来場者に対してティッシュを配るというこの企画は大きな話題となりました。

今回、MoguLiveではVPCプロジェクトを進めているリアライズ・モバイル・コミュニケーションズ株式会社の関口 俊一郎氏、そして当日ティッシュを配っていたVTuber・イトッポイドさんにインタビュー。現場での感触や企画の狙い、そして今後についてうかがいました。

現場で感じた確かな手ごたえ


(写真左:VPC関口俊一郎氏、写真右:イトッポイド氏)

——まずは自己紹介をお願いします。

関口俊一郎氏(以下、関口):

VPCの関口です。システム提案やコンテンツ開発、企画も兼任しています。

イトッポイドさん(以下、イトッポイド):

イトッポイドです。自分はもともとフリーランスのWebコンテンツクリエイターとして働いていて、その後メーカーで開発や営業、店舗での販売員などを経験しました。で、ある日感情が無になって辞め、アバターの身体を獲得、VTuberやバーチャル販売員として活動しています。

——イトッポイドさんは「主人公レンズ」のプロデュースもされていますよね。

イトッポイド:

以前Moguraさんでも取り上げていただきました。

——今回のティッシュ配りですが、そもそものきっかけはどこからでしょうか?

イトッポイド:

最初にバーチャルプロショッパーりあさんを見て「面白そうだな」と思っていたら、VPCさんから「何かやらないか」というオファーを頂いて。やるならティッシュしかねえ! と思ってこうなりました。

関口:

私から一度連絡して、ちょっと様子はうかがいましたが(笑)無事ご快諾いただけた、という感じですね。


(ちなみにこのティッシュ配り用ユニットの通称はイトッポイド氏いわく「Vの棺桶」である。味わい深い)

——反響はいかがでしたか。

イトッポイド:

正直ここまで反響があるとは思っていませんでした。実は当日の朝まで配布する個数を知らされてなくて……「いくつ配ります?」って聞いてみたら「1100個配布します」って言われまして(苦笑)ちゃんと全部配れてホッとしました。

——(笑)無事3時間半ほどでさばききったとお聞きしています。

関口:

普通のサンプル配布だと1時間につき200から300個くらいですが、ほぼ同等のペースでお客様が手に取ってくれました。数字としてはなかなか良好です。既にいくつかの企業さんから引き合いも頂いています。

イトッポイド:

現場で1100個配り切った感想ですが、「3Dアバターを使って配布を行う」というのは運用にもマッチしていたと思います。物珍しさで人が来るほど大々的に打ち出していたわけでもないですし、これは十分通用するという手ごたえがありました。

はじめは“逆”だった

——そもそもの話になりますが、「バーチャルプロショッパー・ソリューション」を始めようと思ったきっかけを教えていただけますか?

関口:

弊社はシステム関連の業務を手がけていまして、その流れでVRもやっています。しかしVRを利用したサービスは継続運用がなかなか行われず、“一発だけ”で終わるケースが少なくありません。私たちはVRサービスを継続運用する方法のひとつとして、「VR×買い物」をコンセプトとしたサービスを考えていました。

はじめはアリババのVR/AR/MRショッピングサービスのようなものを考えていたのですが、バーチャル空間で買い物をする際、お客様が自身を投影する分身、いわゆるアバターが必要だということになりまして。「サービス利用者がアバターを使う」というところからスタートしています。

——現状の「バーチャルアバターが販売員になる」とは逆のところから。

関口:

その後2017年末からVTuberブームが始まり、あれよあれよという間にアニメやゲーム調の2D/3Dアバターが続々と見られるようになって。発想を転換し、「ものを売る」ということを「アバターに触れるためのコンテンツ」として考え直しました。「バーチャルプロショッパーりあ」のプロジェクトはそこから来ています。

(バーチャルプロショッパーのコンセプト動画)

買う側・売る側双方の課題解決、コミュニケーションのデザインにアバター活用

関口:

少し話はそれますが、実は私も販売員の経験がありまして……いわゆる“プロ販売員(プロショッパー)”は東京などの大都市圏よりも、郊外や地方での需要が高いんです。地方ではスタッフが足りず、例えば家電量販店で、洗濯機や冷蔵庫の担当者がテレビを案内するなんてことも多々あります。

——そもそも人不足だと。

関口:

皆さんもきちんと担当を持っているのですが、どうしても手が回らなくなりがちで。イベントを開催するとお客さんがたくさん来るので、そういう時にプロ販売員が派遣される、という仕組みになっています。

——バーチャル化すれば販売員側の移動が必要ないわけですし、合わせて移動コストも削減できると。人手不足を解消するのにはうってつけですね。

関口:

こうした機会損失を防ぐ意味合いもありますが、お客様や売上のためだけではなく、販売員側のためでもあると思っています。

イトッポイド:

販売員には「何かを欲しいと思っている人に説明する、提案する」ということにやりがいや魅力を感じている方が多くいますし、私自身もそうでした。しかし一人では一日に対応できるお客様の人数にも無理があるし、担当できるエリアにも限界があります。アバターを活用することで、そういった問題を一気に解決することもできるな、と。

加えて、「アバターを使って/通して何かをやる」という観点からみると、販売員という役割ロールは非常にやりやすいんです。自分自身の存在自体がバリュー・価値になっているタレントや芸能人でなくても、バーチャル販売員という役割は「商品のバリューをお客様に伝える」ことさえできれば成立する。タレントや芸能人とコミュニケーションをとる場合、「その人はどんなタレントや芸能人なのか」、つまり「どういう人なのか」といった事前知識が要ります。これはその人自身がコンテンツだからです。

しかし販売員の場合、コンテンツは「訴求する商品」ですし、「販売員である」という情報だけがあればいい。「私は◯◯です」をプレゼンするハードルがなくなるわけです。これはアバターを使う側からすると楽です。

——役割が最初から決まっているとコミュニケーションしやすい、ということですね。

イトッポイド:

今回私がエプロンをつけているのもそれですね(笑)


(ろくろを回すイトッポイド氏。今回は当日披露したエプロン姿でのインタビューとなった)

イトッポイド:

“行列のできるお店”なんかもそうだと思うんですが、人が寄っているところってもっと人が集まってくるんですよ。通常のティッシュ配りだと人と人が1対1で手渡しになりますが、今回のケースではディスプレイに移った私(アバター)と人が話している構図になります。すると自然にお客さんが来てくれる。

——先ほどおっしゃられていた通り、サンプル配布、という仕組みや運用とそもそもマッチしているんですね。

イトッポイド:

人と人の対面コミュニケーションではスタッフから会話を「拾いに行く」必要がありますが、アバターだと逆に「ディスプレイに向かってお客さんの方がいじりにくる」んです。例えていうなら小さい子どもに向かって話しかけていらっしゃるような感覚です。この構図ですと、お客さんの方から積極的に会話に付き合ってくれて、やり取りも深くできる。そしてそれを見た周りの人がさらに集まってくる……。アバターを通した方が、人間同士よりもコミュニケーションの方法をデザインしやすいんです。もちろん、アバターは自由に見た目を変更することが可能なので、外見からくるわかりやすいイメージを意図通りにデザインするのもやりやすいですね。「店員さん」とか「案内してくれる人」とか。

次の展開は……トラック!?

——ちなみに、今後の展開についてはいかがでしょうか。

関口:

アバターを使って販促ができることが証明できたので、将来的には外見から販売員であると分かるアバターをユニットとして複数用意し、現場に応じて人を派遣する、というスタイルを拡大していきたいですね。接客が多いところでの活用を広げたいと思っています。トライアル的に催事・イベントもやってみたいですね。

イトッポイド:

既にVPCさん用のアバターは複数制作済みです。ピクシブさんのVRoid Studioで作っているんですが、同じ服はテクスチャでパパッと作れるし、ロゴを追加したり、服を変えたり……といったことも簡単にできるのが強みですね。今回は「バーチャルプロショッパーアバター」、つまりは汎用的な販売員アバターということで、同じデザインで制作しています。いわゆる汎用機といいますか。テーマは「インフラとしてのアバター」「歴史を作るのはガンダムじゃなくてジムやザク」です。


(イトッポイド氏プロデュースによるバーチャルプロショッパーアバターたち)

——今後はより規模を大きくしていくと。汎用性のあるアバターを運用するのも、理にかなっているように思います。

関口:

ちなみに次回はトラックです。

——えっ。

イトッポイド:

タイトルは「爆走!バーチャル貨物トラック」です。大型ディスプレイを搭載した3.5トンのLEDビジョントラックに映像を流します。バーチャル販売員はディスプレイさえあれば基本的に展開可能なので。それにトラックであればいっぱい荷物が積めますし。

関口:

録画映像を流したまま走るのではなく、いくつかのチェックポイントで停止してリアルタイムに映像配信をしながらサンプル配布、という形を取ります。

——音声を流しっぱなしのアドトラックではなく、定期的にお客さんとコミュニケーションを取る形ですね。

イトッポイド:

次回は私だけではなく、既に引退されたレジェンド級の元プロ販売員の方も参加する予定です。3月14日に名古屋でやるのでぜひ見にきてください。詳しくは後ほどリリースする告知をお楽しみに!

——ありがとうございました。次回は配る個数を事前に告知してあげてくださいね。

3月14日、ホワイトデーに名古屋でイベント開催

2019年3月14日(木)、名古屋市で「爆走!バーチャル貨物トラック」が行われます。本イベントでは、ビジョントラックの巨大ディスプレイに映された「バーチャルプロショッパー」たちが、リアルタイムにコミュニケーションしながら各種試供品を配布します。

場所は名古屋市内のLachic前や矢場町交差点、サンシャイン栄などを予定。公式ハッシュタグは「#バーチャル貨物トラック」、詳細はVPCの公式Twitterをご確認ください。

(参考)バーチャルプロショッパー・ソリューションVPC公式Twitterイトッポイド 公式Twitter


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