Home » 任天堂の“スイッチで組み立てるVR”、その経緯と歴史を振り返る


業界動向 2019.03.12

任天堂の“スイッチで組み立てるVR”、その経緯と歴史を振り返る

2019年3月7日、予想外のニュースが飛び込んできました。任天堂が「Nintendo Labo: VR Kit」という名称で、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)と組み合わせてVR体験ができるセットを発表した、というものです(当該ニュースはこちらダンボールを組み合わせて体験する「Nintendo Labo」シリーズとして、任天堂からついに新たなVRデバイスが登場することになります。

これまで任天堂はVRに対して否定的な見解を示すケースや、直近のVR関連への参入は考えていない旨を表明することが多く、この“不意打ち”は大きな驚きをもって迎えられました。

本記事では同社が「Nintendo Labo: VR Kit」に至るまでの経緯を、過去にMogura VR News / MoguLiveにて報道したニュース等をもとに振り返ります。

目次

1. 1995年:早すぎた先駆者「バーチャルボーイ」
2. 2014年:「方向性が異なる」と否定的見解
3. 2016年6月:VR元年も「ゲームの主流になる可能性が示されてから」
4. 2016年12月:Nintendo Switch関連特許でVR対応の可能性が示唆される
5. 2017年2月:君島達己前社長は「長時間問題なく遊べるなら、可能性はありうる」も、宮本茂氏は懸念
6. 2017年8月:VRモードに関するコードが発見される
7. 2019年3月:突如として発表された任天堂のVR

1995年:早すぎた先駆者「バーチャルボーイ」

任天堂はすでに一度、立体視を利用したゲーム機として「バーチャルボーイ」を1995年に発売しています。バーチャルボーイは、スタンドの上に置いたゴーグル型のデバイスを覗き込むと、立体視によるゲームを楽しむことができるというもの。グラフィックは赤と黒の2色だけで表現されていました。

家庭用ゲーム機として見た場合の販売台数こそ振るわなかったものの、任天堂は20年以上前から立体視を利用したゲーム体験に注目していたことが分かります。


(バーチャルボーイ。“あまりに早すぎた”と評されることが多いが、立体視という観点では、2011年に発売された携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」へと繋がったと言える)

また、2006年に発売した「Wii」では、腕の動きをゲーム内に反映するコントローラーとして「Wiiリモコン」が登場。Wii向けには身体の動きを認識するバランスWiiボードなども発売され、いわゆる「VRヘッドセット」ではないものの、ゲーム内に現実のオブジェクトを反映させたり、没入型の体験を生み出したりするためのデバイスが登場しています。


(右手に持っているのがWiiリモコン、左手に持っているのは拡張コントローラーの「ヌンチャク」。どちらも3軸のモーションセンサーを搭載しており、振って使用することができる)

2014年:「方向性が異なる」と否定的見解

ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が、PlayStation 4(PS4)向けVRデバイスの開発を明らかにした2014年。この時点の任天堂は慎重な姿勢を示しています。

英TIME紙の取材に応えた代表取締役 フェローの宮本茂氏は、「VRに技術としての関心はある」としつつも、「一人きりでの体験となるVRは、Wii Uで我々が追求してきたお茶の間にいるみんなで楽しめるエンターテイメントとは方向性が異なる」と発言しました(参考:TIME)。


(2014年当時は「Project Morpheus」として発表されたPlayStation VR。2016年発売)

2016年6月:VR元年も「ゲームの主流になる可能性が示されてから」

時は流れ2016年、PC向けにOculus RiftやHTC VIVEといったVRヘッドセットが多数登場し、さらにゲーム機向けにはPS4の周辺機器としてPlayStation VR(PSVR)が発売。次世代のゲーミングデバイスという位置付けでVRヘッドセットが注目された、いわゆる「VR元年」とされる年です。

一大ゲーム機メーカーである任天堂の動向にも焦点が当てられましたが、2016年6月、米国Nintendo of Americaの社長を務めていた“レジー”ことレジナルド・フィサメィ氏は、任天堂がVRに参入するのは「VRがゲームの主流になる可能性が示されてから」との見解を示しました(当該記事はこちら)。


(VRヘッドセットHTC VIVEとOculus Rift。PSVRと同じく2016年に発売された)

2016年12月:Nintendo Switch関連特許でVR対応の可能性が示唆される

2016年10月20日、任天堂の次世代ハードウェアとして「Nintendo Switch」の正式名称やビジュアルが発表、これまで「NX」というコードネームで呼ばれていた製品名が明かされ、複数の対応ソフトなどがPVで示唆されたものの、VR対応については一切の情報がありませんでした。

しかし2016年12月、Nintendo Switchに関するとある特許が公開されます。この特許にはNintendo Switchの本体をゴーグル型のデバイスに差し込む内容が含まれていました。これ以後、VR対応の可能性に注目が集まるようになります(当該ニュースはこちら)。


(Nintendo Switchの関連特許資料より。詳細な言及が資料でなされており、これが「ヘッドマウントディスプレイ」であることが記述されていた)

その後2017年1月、Nintendo Switchの詳細が発表されたものの、VR対応に関する言及はありませんでした。一方で物体の感触やコップの中に水が入る様子を振動で再現する「HD振動」の搭載を鑑みると、触覚の面からVRを追及していたと考えることもできます。

また、手にコントローラーを持ってパンチを繰り出し、ゲーム内のキャラクターの手を動かす「ARMS」はVRヘッドセットこそ使わないものの、Wiiコントローラーをさらに進化させた体感型ゲームだったと言えるでしょう。

2017年2月:君島達己前社長は「長時間問題なく遊べるなら、可能性はありうる」も、宮本茂氏は懸念

Nintendo Switchの詳報発表後も、任天堂は公の場でのVRに対しては消極的な姿勢が続きます。君島達巳前社長は2017年2月、「VRで長時間、問題なくゲームプレイできるなら、SwitchがVRに対応するかもしれない」とほのめかしつつも、代表取締役 フェローの宮本茂氏は、「子供がVRで体験しているところを見ると心配になる」懸念を示しました。

2017年8月:VRモードに関するコードが発見される

こうした任天堂幹部らの発言から、「Nintendo SwitchはVR対応を行わないだろう」という見解が強まる中、2017年8月にはとある人物がSwitchシステムプログラムを解析し、VRモードに関するコードを発見します。

先述の特許情報を考慮すると、VR対応を検討していたことは間違いなさそうです。しかし2017年9月、Nintendo of Americaのレジナルド・フィサメィ社は、改めて「真に楽しむことができるVR体験は現在のところ登場していない」「任天堂は現在のところVRゲーム市場に積極的に参入することはない」といった見解を語りました。

再三に渡って任天堂がVRへの消極的な姿勢を示したことや、Nintendo SwitchはVRヘッドセットとして装着するには重すぎることから、「Ninendo Switchは開発途中でVR対応を断念したのではないか」という説が多勢を占めるようになりました。

2019年3月:そして発表された「任天堂のVR」

そして2019年3月7日、突如として「Nintendo Labo: VR Kit」が発表されました。

当初懸念されていた「重さ」に関しては、ゴーグルをヘッドバンドで頭に固定するのではなく、両脇に飛び出たコントローラーを手で持つことで直接支えることで解決しています。ダンボールを組み合わせることで、見た目もユニークに。「Nintendo Labo」シリーズらしく、誰かが遊んでいる様子を見ていても楽しさが伝わってくるデザインになっています。

市場から憂慮されていた子供への影響に関しても、専門医の監修を経て、対象年齢を7歳以上に設定するなど、任天堂の安全面への配慮が伺えます。

「Nintendo Labo: VR Kit」は、手や体を自由に動かすことで本格的なVRゲームを遊べるハイエンドVRデバイスとは一線を画し、ダンボールで作ったゴーグルやコントローラーを組み合わせた、比較的シンプルなVR体験を提供するものと考えられます。

さらに任天堂は2019年2月に、位置トラッキングを搭載し、画面から映像が飛び出すように見える眼鏡型デバイスの特許を出願していることも明らかになっています

今後、任天堂のVRへの取り組みが本格化するのかどうかは不明です。しかし、今回の「Nintendo Labo: VR Kit」で任天堂がVRへの一歩を踏み出したこと、そして同社がVR市場や「VRを体験する」という文化に与える影響は、注目すべきものとなるでしょう。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード