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業界動向 2023.06.06

学生たちのアイデアが光る! XR技術のアイデアソン「XR LearninG IDEATHON TOKYO」レポート

集英社XRとデロイト トーマツ コンサルティングが共同主催する職業体験イベント「XR LearninG IDEATHON TOKYO」の最終成果発表と表彰式が、4月28日にTONNEL TOKYOで行われました。バーチャルライターのけいろー氏による現地レポートをお届けします。

コンセプトは「XR技術×職業体験」。AR技術や広告業に興味のある大学生・大学院生を対象に、職業体験とアイデアソンを行うイベントです。

エントリーした学生たちは、最初の1週間でオンラインセミナーを受講。プロモーションなどを学んだら、翌週からは学生チームに協賛企業がメンターとして参加し、オンラインで企画・開発を実施。その後、メンターによる4日間のフィードバックを経て、最終日となる4月28日に成果発表のプレゼンテーションが行われました。

この日行われた成果発表では、各チームが開発したARプロダクトを実際に体験できました。専用アプリをインストールする必要はなく、会場内に設置されたQRコードを読み込むと、手元のスマートフォンでAR体験ができます。チームごとに異なる、個性豊かな“体験”を楽しめました。

参加した学生チームは、全部で4組。また、メンターとして各チームにジョインしたのは、スポーツビズ、電通デジタル、集英社、デロイト トーマツ コンサルティングの4社です。本記事では、その4チームのプレゼンテーションと、表彰の様子をレポートします。

電通デジタルチーム「羽ばたくARアニメーション」


(撮影:けいろー。以下同じ)

「みなさんは『電通デジタル』にどのようなイメージを持っていますか?」という問いかけからスタートした、電通デジタルチームによるプレゼンテーション。

このチームではまず、電通デジタルを「変化に富んだ多様性集団」として捉えて、企業そのものを認知してもらうための企画を考案。シチュエーションを「キャリア情報共有会」、ターゲットを「就活・転職を考えているZ世代」と想定し、ARプロダクトを開発しました。

電通デジタルチームの体験では、まず1つ目のQRコードを読み込み、雀卓にカメラを向けると、複数の卵が出現。カラフルな卵の上には、飛んでいる鳥たちの姿もあります。「青い鳥について行こう!!」という指示に従って、次のスポットに移動します。

移動先で別のQRコードを読み込み、赤いソファーにカメラを向けると、小さな動物たちが登場。鳥だけでなく、さまざまな種類の動物がソファーの上に乗って、同じ方向を向いていることがわかります。促されるまま、動物たちの視線の先に向かうと……?

最後のQRコードを読み込むと、ステージを見上げる動物たちと、大きな翼が出現! 翼のあいだに立ち、スクリーンショット操作で写真を撮影することもできます。

「羽」をモチーフにしたフォトジェニックなアートスポットは街中でもしばしば見かけますが、羽ばたくアニメーションはARならでは。審査員のみなさんも、一風変わった記念撮影を楽しんでいました。

ちなみに、一連のAR体験で登場したものにはそれぞれ意味するものがあるらしく、「卵=新入社員」「鳥の群れ=先輩社員」といった補足説明もありました。最後は今後の展望やARの改善点も自ら示すなど、プレゼン自体からも前向きな姿勢が見て取れました。

スポーツビズチーム「佐藤琢磨ミュージアム」

アスリートなどのマネジメント事業やサポート活動を行うスポーツビズの学生チームは、レーシングドライバーの佐藤琢磨選手をフィーチャー。

「10代後半から20代前半の若者に佐藤琢磨選手の魅力を伝える」ことをテーマに掲げて、ARプロダクトの企画・開発を実施。佐藤選手の魅力を伝えるための仮想空間を現実世界に具現化するべく、ミュージアムをAR空間にオープンしました。その名もずばり、「佐藤琢磨ミュージアム」。

AR体験では、会場に配置された複数のQRコードごとに異なる展示を配置。

佐藤選手のプロフィール情報だけでなく、彼がアジア人として初めて優勝を成し遂げた最高峰のレース「インディ500」のコースを上から見られたり、レーシングカーを会場に出現させたり、ミルク(編注1)をかぶる体験ができたりしました。

(編注1:インディアナポリス500マイルレース(通称「インディ500」)は、優勝者がミルクを浴びたり、一気飲みする風習があります。)

情報あり、立体物あり、フォトスポットありと、まさに「ミュージアム」のような構成になっています。

多才なAR体験も魅力の発表でしたが、同じくらい印象的だったのが、佐藤選手の魅力を伝えようとする学生さんたちの熱量の高さ。

「調べているうちに佐藤選手のことが大好きになってしまった」という、スポーツビズチームのみなさん。プレゼンでの説明のみならず、AR体験中の案内でも熱のこもった解説をされていて、「自分たちが好きな人のことを、AR体験を通して好きになってほしい!」というアツい思いの伝わる発表でした。

集英社チーム「みんなで読むと成長する物語=植物AR」

誰もが知る出版社であり、また世界的にも有名なキャラクターコンテンツも多数取り扱う、集英社

しかし今回、「集英社の知名度を上げる」というミッションを課せられた集英社チームは、同時に「自社のキャラクターとコンテンツを使ってはいけない」という制限も課せられたのだとか。その制限の下でどのように魅力を伝えればいいのかを探るべく、チームではまず、集英社の強みとコンテンツの分析から企画の検討をスタートします。

そこで行き着いたのが、作品を植物の「種」として捉える集英社の価値観。「ファンになってもらうためには“物語”の存在が不可欠」という考えから、「成長する植物」をモチーフとして、漫画や小説が作られるまでの流れを伝えるARプロダクトの開発に舵を切ったそうです。

そんな説明を経て行われたAR体験は、「種」からスタートした植物が徐々に成長する過程を追っていくもの。

芽吹いた苗がやがて大きな木となり、完成した作品が街に広がる様子を、会場内のQRコードを順々に読み込みながら追いかけます。

体験のなかでも印象的だったのが、「ARで表示された画面上にもQRコードが表示され、それをほかの人が読み込むとストーリーが展開する」という仕組み。

「スマホの画面上に表示された、現実世界には存在しないQRコードを読み取る」という多層的な構造と、「複数人でないと体験ができない」という点がおもしろく感じました。

デロイトチーム「体験型ARクイズ『イガイトデロイト!?』」

最後に登壇したデロイトチームが考案したのは、体験型ARクイズ「イガイトデロイト!?」。

DTCにXR専門チームがあると初めて知った学生たちは、その存在や実態が世に知られていないことに着目し、どうすれば技術系の学生に興味を持ってもらえるかを検討。

わかりやすく、没入感のあるARを活用し、「意外とデロイトっていいな」と思ってもらうための施策として、この「体験型ARクイズ」というプロダクトに至ったのだそうです。

完成したARプロダクトの体験に際しては、この会場を「XR企業が集まる就活イベント」と設定。デロイトチームのメンバーは「デロイトの新卒採用担当」、審査員は「XR業界に興味がある就活生」として、ある種のロールプレイングをすることになりました。

早速、1つ目のQRコードを読み込んでみると、画面上に第一問が出現。目の前に現れた問題文を読み、指示された方向にスマホを向けると、答えとキーワードが表示されます。

ちなみに第一問は、「新型コロナウイルスの流行によって売上が低迷している自動車販売会社に対して、あなたがコンサルタントならどのような施策を考えるか」という内容。

このようなクイズが全部で4つあります。

また、ただ単にクイズと答えを表示するだけではなく、最初の問題では周囲に車を、最後のシーンでは桜を咲かせるなど、ビジュアル面でも楽しめたのは好印象。

さらに、学生さんが自分自身をスキャンした3Dモデルをアバターとして配置させていたり、体験後には企業の採用ページを模したダミーサイトに飛べたりと、細かいところまで手が込んでいました。

結果発表と表彰式

全4チームのプレゼンテーションが終了し、あとは結果発表を待つのみ。審査員たちによる審査を経て、いよいよ結果が発表されます。

4位は、電通デジタルチーム

メンターの喜々津良氏からは、まず「電通デジタルチームは決まった課題がなく、何を作ればいいのかが一番難しかったのではないか」とコメント。しかしそんななかでも、コンセプトの明確な、ユーザー目線で伝わりやすいプロダクトを、役割分担をしながらチーム一丸となって完成させていたことが、評価ポイントとして挙げられていました。

3位は、スポーツビズチーム

スポーツビズチームは、逆に「佐藤琢磨選手の魅力を若者に伝える」というテーマが最初からはっきりしており、完成したプロダクトも期待通りの内容だったそう。ビジュアルをたっぷり使ったAR体験が評価点となったほか、メンターの鈴木朋彦氏からは「佐藤選手自身も喜んでいた」という話もありました。

2位は、集英社チーム

「キャラクターを使ってはいけない」という縛りがありながらも、メンターへのインタビューから「種を育てる」という企業メッセージに着目し、開発に取り組んだ集英社チーム。その結果として、メンターの稲生晋之氏から「集英社という企業自体の魅力のアピールに成功した」と賞賛されました。

また、何よりも良かったのは、集英社XRがまさに今取り組んでいるノンバーバル(*1)な手法によるコンテンツ制作を、学生たちが自ら考えて実践していたことだと指摘。「着眼点がすばらしい」「もう一度、集英社を受験したくなった」と絶賛し、会場では大きな拍手と笑い声があがっていました。

*1:言語を使わない、非言語の。

見事1位に輝いたのは、デロイトチーム

まずメンターの甲斐田晃史氏から挙げられた評価点は、限られたリソースのなかで、何をすれば最初に考えたものを形にして届けられるのかを取捨選択し、実践できたこと。少人数ながら完成度の高いARプロダクトを提供できた点も、高評価に繋がったようです。

表彰式では、学生さん一人ひとりからもこの約1ヶ月間を振り返って、「大変だったけれど楽しかった」「チームでの活動のなかでたくさんの学びを得られた」「この経験を就活に生かしたい」といった声が聞けました。

最後は、集英社XRでプロデューサーを務める稲葉繁樹氏が閉会挨拶で登壇。

このアイデアソンに参加した学生たちを労い、お茶目なトークで笑いを誘う一方で、「君たちのチームの中に“編集者”はいましたか?」と一言。「作品を磨き上げるには『減らす』ことが重要である」と助言し、学生たちも聴き入っていました。

また、「このようなイベントに飛び込んでくるみなさんの未来は明るいんじゃないか」と話しつつ、次のように語りました。

「XRなどの新しい技術や物事は、『常に追い続ける必要がある』という難しさがあります。残念ながらこの業界では、今日の価値が明日には古くなってしまう。だから、今日の価値は今日の価値として味わって、それをこれからの人生に役立てるには、努力し続けなければなりません。社会でおもしろいことをやっている人、やらせてもらえる人は、そうやって努力を続けている人だから。今回のイベントでみなさんが積み重ねた努力を、今後も意識して継続してもらえたらと思います」(稲葉氏)

各チームの表彰を以って、約1ヶ月間のアイデアソンは幕を閉じました。参加した学生さんたちはもちろんのこと、企業にとっても得るものの多い、貴重な場となっていたのではないでしょうか。今後の展開は未定とのことでしたが、第2回開催への期待が高まります。

公式サイト:https://xrlearning-event.com/

(執筆:けいろー、編集:笠井)


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