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【XR Kaigi 2023】意思決定の迅速化と“正しい色”——パナソニック・Shiftallが語る、VR活用の現在と未来

国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi」が2023年も開催されました。「XR Kaigi 2023」の開催期間は過去最大規模の5日間。オンラインカンファレンス(12月18日〜22日)と、東京ポートシティ竹芝でのオフライン(12月20日〜22日)のハイブリッドで実施されています。

今回はその中から、12月21日に行われたセッション「製造業におけるVRを活用した生産性向上(Autodesk VRED利用事例ほか)」をレポート。登壇者は株式会社Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏、パナソニック株式会社事業開発センターの小塚雅之氏、オートデスク株式会社の佐々木秀成氏です。三者はBtoB領域におけるVRやオートデスク製品の活用事例の紹介、そして活用での課題をテーマに対談しました。

オートデスクのソフト、パナソニックのハード

岩佐琢磨氏(岩佐):
ShiftallはBtoCのVR機器を開発しており、主にソーシャルVR「VRChat」を楽しむユーザーに向けてハードウェアを展開しています。


岩佐:
パナソニックの小塚さんは、Shiftallと二社で共同開発を行ったVRヘッドセット「MeganeX」の主導メンバーです。また、BtoBの活用事例や現場のお話をしたいと思っていましたので、オートデスクの佐々木さんもお呼びいたしました。


岩佐:
BtoBのVRの活用事例において、オートデスクのソフトウェアは広く利用されています。Shiftallの「MeganeX」も、オートデスクの3Dビジュアライゼーションソフト「VRED」と組み合わせて使用する場面が頻繁にありますね。改めて、今日はビジネスの現場で、VRがどう活用されているのかを紐解いていきたいと思います。

業界にとらわれず柔軟にVR活用を模索する

岩佐:
まず、VRがよく使われているのは建築分野ですよね。

佐々木秀成氏(佐々木):
建築業をはじめ、製造業でもかなり導入されていますね。映像系でも「Maya」や「3ds Max」などの3DCGソフトウェアを用いたVRの利活用が進んでいます。今日ご紹介する「VRED」は、自動車業界では1番歴史が長く、シェアも上位の3Dビジュアライゼーションソフトです。自動車業界だけでなく、建築や映像でも活用できるということを提案したいと思います。

岩佐:
「その業界でもVR使ってるの?」という話は意外とありますよね。よくよく話を聞いてみると「確かにその部分なら使えるね」といったケースが多く、「コンピューターだから」とか「製造だから」とか、そういう業界の隔たりはあまりない気がします。

佐々木:
そうですね。いわゆるプラント業界の方が「XRデバイスとVRED、使えるね!」とおっしゃってくださることもあります。

岩佐:
どのような使い方をするのでしょう?

佐々木:
ひとつは、目の保護です(笑)、あとは、「現場が図面とズレてる、違う」ということが多々あるんです。入るはずの機材や設備が入らなかったり、そのために余計なコストがかかったり……。図面をXRデバイスで表示しながら、LiDARで現場の点群データを取ってアップデートしていき、意思決定の判断材料にするという使い方でこれを解決していくケースがありますね。

壁や床材の色や質感をノーコードで再現

佐々木:
また、建築業界ではビルを建てる前にかなり詳細なBIMデータを作成しますが、これにはマテリアル(壁や床材等の色や質感)のデータが入っていません。シンプルに、目で見て同じものを作るのが大変だからです。

(エックスライト社の非接触型の分光測色計「MetaVue」で素材の情報を取得する)

佐々木:
マテリアルを作る一番簡単な方法は「実際にあるものを置いて、それを測る」ことです。現実で素材を借り、測って「VRED」にアップロードすれば、マテリアルのデータをイチから作らなくて済みますし、測定するマテリアルは現実との差異はありません。どんなライトが当たると、どういう光を反射するのか……ということは建築パースを制作するうえで重要なのですが、それをワンクリックで再現できます。

例えば、床材が何の素材でできるかわからないときもあると思います。什器によって色を変えたほうがいいかもしれない。そんなときは、マテリアルを切り替える動作をクリック動作と結びつけることで、クリックするだけで色を変えることもできます。このときに、正しい色味の計算も同時にできます。

岩佐:
この話を打ち合わせで聞いたときに、これはWebとかソフトウェアでいう「ノーコード」に近いよね、という話をしていました。ソフトウェアエンジニアに頼まないと作ることができなかったアプリが、GUIで簡単に作れる時代になりました。CGも同じで、これまでは特別な能力を持った人に頼る必要がありましたが、VREDでは画面操作のみで作成できるんです。

佐々木:
とはいえ、建物のインテリアデザインや内装設計におけるVRの活用は、まだまだこれからです。本来はBIMデータに、マテリアルのデータが入らないといけないと思います。ただ、いまはマテリアルデータを作れる人がいないか、ニーズはあるが作る方法がわからないという状態ですから。テクノロジーが進化したことでさまざまな機器の値段が下がってきていますし、生産性や効率向上のためにやらない手はないと思います。

車体の色味やきらめきを精緻に再現

岩佐:
では、次の事例にいきましょう。こちらは……何でしょうか?

佐々木:
自動車の外装、いわゆるカーペイントの塗板です。「御社の車、こんな色味でいかがでしょうか?」といった場面で用いる板ですが、 見る角度によって色が異なったり、「フレーク」、いわゆるラメのようなものが入っていたりもしますし、もともと色味ひとつとってもかなり複雑です。

佐々木:
このデータは、先ほどの「MetaVue」で色情報を測定し、「VRED」で車体に反映しています。車体上部は実測から作ったマテリアル、車体下部は私が目で見て再現したマテリアルです。

佐々木:
正直、雲泥の差があります。圧倒的に前者の方が優れている。CG的なアプローチでは、このようなマテリアルを作るのは非常に工数がかかってしまいますが、エックスライト社のハードウェアからデータを持ってきて、「VRED」に取り込むと見たままを再現できます。見る角度に応じて見せるデータやきらめき具合が変わるプログラムを組んで特殊なマテリアルデータを作らずとも、ワンクリックかつ30秒で正しいデータが出てくるというわけです。

岩佐:
これはだいぶ楽になりますね。

VRが迅速な意思決定を支援する

岩佐:
続いては、自動車業界の話を中心に、どのようにVRやXRを活用して意思決定をしていくのかという話をお聞かせいただけますか。

佐々木:
自動車業界では、VRを活用した意思決定が進んでます。弊社の「Alias」という製品の事例を紹介します。「Alias」は工業デザイン用のモデリングソフトウェアで、バーチャル空間で設計のレビューをすることもできます。

佐々木:
モデリングした後にデザイナーなどに確認をしてもらう必要がありますが、完成してからレビューするフローでは時間がかかってしまいます。「Alias」では、モデリングしている人とビューポートに入ってレビューする人が同時に作業を進められます。モデリングしている最中のものがレビューする人の視界にリアルタイムで反映されるため、意思決定が効率化されます。

岩佐:
「ここを少し変えましょうか」という話がタイムリーにできるわけですね。

佐々木:
はい。 他にもクラッシュテストの結果を「VRED」にアップロードして、断面を見たり、視点を変えてチェックしたり、といったこともできます。これまで特別な人しかアクセスできなかったデータを自由に見ることが可能になるわけですね。これを私たちは「データの民主化だ」と言っていますけれど、先ほどの岩佐さんのおっしゃった「ノーコード」であるとも言えます。

佐々木:
あとは……工場のレイアウトの検討でもVRのニーズは強いですね。例えば季節性の商品があるとしましょう。夏はアイスクリーム、冬はおでん、といったように。これは、商品ごとに工場が建つわけではなく、季節に応じて工場の生産設備やレイアウトを変更して製造しているんです。ただ、生産設備を移動させたり、新たに搬入したりするのはとても大変です。「壁にぶつかって入らない」「あの扉から通るはずだったのに、サイズが違ってうまく入れられない」といったトラブルが発生するんです。これも、VRであれば、搬入のシミュレーションに加え、効率的な導線の検証を同時に行うことができます。

岩佐:
こうしたユースケースでは、プログラミングや3Dモデリングの専門知識がなくてもどんどん使えるようになっていますね。となると、「どのように活用していくのか」はアイデア次第なのでしょうか?

佐々木:
かなりそうだと思っています。私どもも、色々なお客さんのところに出向いてご相談を受けますが、事情がそれぞれ違いますし、一概に「VRを使ったら儲かるよ!」とか、「VRを絶対使ったほうがいいよ!」とは言えないですね。

一方でVRが利益に反映されることもあります。迅速な意思決定により、レイアウトに間違いもないし、工場の納期も伸びずに済んだ……といった具合に、取引先からの信頼を得る一助にもなるでしょう。スピーディーな意思決定を行うためにVRを導入する。これが今後の活用の1つのヒントかなと思います。

VRヘッドセット普及を阻む2つの要因

岩佐:
続いては、パナソニックの小塚さんから製造業でVRを活用するにあたって求められるVRハードウェアの要件についてお話いただきたいと思います。

小塚雅之氏(以下、小塚):
まずは、VR市場についてお話します。コロナ禍で非接触の時代になるということで、2021年くらいからVRデバイスの販売が加速すると予想されていたのですが、部品の不足もあり、立ち上がりが鈍かったのが実情です。

小塚:
次の予想では「2024年からVRデバイスの販売が加速する」と言われていますが、本当にそうなるかというと、正直疑問を抱いています。消費者向けのデバイスであるスマートフォンと違い、パソコンはほとんどBtoBで使われていますから、そちらでの普及がまず先決です。

また、高画質なパソコンやプロジェクターは増えていますが、VRデバイスは同等の画質を再現できるわけではありません。どうしても各社見せたいものや用途に応じて補整をかけるので、カラーマネジメントが適当だったりします。こうした画質や画の再現度の低さが、VR普及のひとつの阻害要因だと考えています。

もうひとつの阻害要因として、VRヘッドセットは「大きくて重い」という点が挙げられます。Varjo社のヘッドセットのように、超高解像度の製品はありますが、装着時の負担が大きいです。

これらの課題に対応すべく、パナソニックでは「軽量かつ、ハイエンドのPCモニターと同程度の画質のVRヘッドセット」を開発したいと思っています。

BtoCとBtoBで求められる「絵」は異なる

岩佐:
VRヘッドセットでみる画と、一般的なモニターの画はだいぶ違うんですよね。例えば、Questから「Virtual Desktop」で映し出された絵はコントラスト比が高められていて、階調がつぶれています。綺麗ですが、家電量販店のテレビの展示コーナーのような見え方です。家電量販店のテレビは、各メーカーが展示用のモードを用意してビビッド見せているんですが、これを家で見続けたら疲れる。「加工して出している絵」という感じが強いです。

小塚:
BtoCでは肌色の綺麗さや明るさは明確なセールスポイントになりますが、BtoBで求められる画質は異なりますね。業務で使うときには、素材の色や光の反射が忠実に表れているかということが重視されます。BtoBでは、業務で求められる画の見せ方をする必要があるということです。私たちはそれを目指してハードウェアの開発を進めています。

岩佐:
カメラも画質の違いがわかりやすいですね。キヤノンさんのカメラでエントリーモデルの「EOS Kiss」シリーズは、こってりした画で、素人でも綺麗に撮れるんですが、上位モデルの「EOS 1D」シリーズで撮ると、若干味気ないように見えます。ところが、それが実際の色なんですね。VRのヘッドセットも、BtoB向けとBtoC向けで中身も色も結構違います。余談ながら、皆さんも今後ヘッドセットを選ぶ際には、ぜひ見比べていただければと思います。

佐々木:
ソフトウェアも一緒ですね。ゲームで極力軽く、かつニッチな体験をしたいという要望に応えようとすると、現実の色味が犠牲になってしまうことがあります。ゲームであればビビッドでもいいかもしれませんが、ものづくりの現場で使うのであれば、現実との乖離は致命的になりえます。

今回ご紹介いただいた「VRED」は計算を端折らず、 目に見えないところもしっかり計算しています。例えば白色も、輝度のデータがあればそのまま計算します。「VRED」でレンダリングした絵をマスターデータとして導入している会社もあるほどです。

岩佐:
バーチャルスタジオとテレビ局、バーチャルスタジオと番組制作の関係に近い話ですね。

ヒトとAIが3D空間で協働する未来

岩佐:
それでは最後に、BtoB領域におけるVR・XRの今後の展望について、お二人のご意見をお聞かせください。

佐々木:
弊社の製品を導入している企業から、さまざまな要望が上がっています。例えば、先ほどお話した工場のレイアウトの事例では、画面ではいい感じに見えても、エアコンの吹き出し口がここにあるからこっちが超寒かったとか、レビュー時には気づけなかった課題が後々出てくることがあります。

AIのロジックが入っていて、CFD(流体解析)が裏で走っていて、ここの作業者ばっかり風当たりますよといった具合にアラートを出してくれる機能があるといいですよね。他には、車のデザインが過去のデザインに酷似していることを教えてくれたり……。人が作業に没頭していると気づかないことをAIに指摘してもらうと。

岩佐:
3D空間×AIは面白いと最近言われ始めていますよね。AIが3D空間に入って色々と考えるという。これは結構来そうな気がします。小塚さんはいかがでしょうか。

小塚:
6年ほどVRデバイスの開発に携わっていますが、やはり難しいというのが率直な感想です。BtoBをやるにしても、4〜5年はブラッシュアップしていかないといけません。長期的な視点で、ハードウェアの開発を続けていきたいと思います。

(了)

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