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業界動向 2021.01.07

【全文書き起こし】XR Kaigi 2020基調講演「デジタルとフィジカルの融合した世界」への道をどうやって作るか?(後編)

2020年12月8日・9日・10日の3日間に渡り、国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi」が完全オンラインにて開催されました。初日の8日には、基調講演“XR作戦会議「デジタルとフィジカルの融合した世界」への道をどうやって作るか”が行われました。

cluster上の特設会場に、建築家の豊田啓介氏、クラスターCEOの加藤直人氏、本誌編集長の久保田瞬が登壇。新型コロナウイルスの感染拡大によって社会のデジタル化が急加速した2020年の情勢を背景に、「デジタルとフィジカルの融合した世界」のあり方と、XRの未来について語り合いました。

前編の記事はこちら

目次

1. バーチャル時代の“建築”とは?
2. 「人間中心のデザイン」によって、デジタルとフィジカルを使い分けていく
3. バーチャル空間での活動は「カッコイイ」という価値観を根づかせたい
4. オープンに共有し合うカルチャーを大事に

バーチャル時代の“建築”とは?

加藤:

僕が豊田さんと話すにあたって、ぜひ聞いてみたいというか、ディスカッションしてみたいと思っていたことがひとつあって。こうやってバーチャルの構造物がどんどん出来上がってきた時にすごく感じているのが、「建築というか構造物って必要なんだっけ?」という、リアルを模す意味をけっこう考えるようになったんですね。

 今いるこのホールって、実在していてもおかしくないホールじゃないですか。これって結局スキューモーフィズム(編注:新しいものの外見をなじみのある形にして理解を促進させること)だよなと。実際のUIが現実空間を模していることによって安心できるというか、受け入れられやすいみたいな、過渡期の体験なんじゃないか、みたいなことをけっこう考えるようになっていて。

 となると将来的には、たとえばアバターにしても、手が2本ついて足が2本ついている人体の形をしている必要もぜんぜんないわけで。僕とかすんくぼさんは完全に動物ですけれども(笑)。そうやってぜんぜん違うものになっていった時に、どこまで行き着くんだろうなと。そして、その時における建築という存在はどう捉えるべきなんだろうなというのを、豊田さんはどう考えていらっしゃるのか、聞いてみたいなと今日思っていたんです。

豊田:

おぉ、深い問いが。そうですね……。

 20世紀までの建築家って、人間みたいな物理エージェントと、建築や都市などの物理環境との二項対立だけを扱っていればよかった。ところが今は、自立走行エージェントみたいに実態を持っているノンヒューマンエージェントというか、そういういろんな人間以外のエージェントの視点でこの世界とどうやり取りするか、みたいなことを突然扱わなきゃいけなくなっていて。それを実空間の中でやるとなると彼らには物が見えないので、机とか壁とかドアをあらかじめデジタルなものにしておかないと、彼らも同じように物が見えているように挙動できない、みたいなことが起こるので。だから結局、建築側がデジタルツインを用意しなきゃいけない、みたいなことになっていく輪廻の中に、僕らがいて。

 左右でいくとデジタルとフィジカル、上下でいくとエージェントと環境からなる四象限の中のどこに主体を置くか。人間の視点以外のデジタルエージェントだったり、デジタル環境だったり、それぞれに身体性と視点を持っていて、その中で物理エージェントがどう動くかとか、デジタルエージェントがどう環境を認識するかみたいなことを、フラットに考えなきゃいけないじゃないですか。そういう環境になっているのが、すごく面白くなってきているなと思っていて。それの延長でVRChatとかclusterとかにすごく興味があるんです。


(豊田氏の考える四象限)

 僕らが環境をデザインするとなると、このホールの場合でもさっきおっしゃったように、いわゆる公会堂っぽく作るじゃないですか。でも僕ら建築家がデザインするのはもはや形だけではなくて、たとえばアバターもそうですし、運動感覚とかもデザインできちゃうわけですね。ジャンプした時にどう動くかとか、ある音が鳴った瞬間に身体の自由が剥奪されて、みんなが空中に浮かび上がっちゃうとか。これってすごいセンセーションなわけで。建築家が壁を作るとか窓を作るのと同じように、ある音が鳴った瞬間に全員が空中に吹っ飛ばされる、みたいな。そういうのがデザインの対象になってくると、すごく面白いなと。そこを扱える専門家がいないのが、すごくもったいないなと思っていて。それをこの(XRの)世界の人たちがやるのか、僕ら建築家がやるのか、まだぜんぜん分かんないですよね。

加藤:

めちゃくちゃ面白いですね。僕は日本がここから10年、20年かけて、バーチャル全盛期時代に100パーセント突入していくと思っているんですけど。いわゆる全世界で見た時に、(日本が)産油国になるためにはどうすればいいんだろう、みたいなことをけっこう考えるんです。日本が好きだというのもあるんですけど、国によっての特色みたいなものが、絶対に出てくるはずで。

 その観点で見た時に、日本ってアニメ大国ですし、漫画だったりのカルチャーがスゴイですよね。平安時代のオシャレな人たちはみんな、ラノベを書いていたわけです。ラノベって言い方をしていいのか分からないですけど(笑)。紙にイラストと文章を書いていたわけで。日本ってそういうカルチャーがあるじゃないですか。そんな中でけっこう重要だと思っているのが、クリエイターの存在というか。ワケの分からない……という言い方をしたらダメですけど、「こんな発想はアリなのか!?」という発想をする人たちというのが、日本にどれだけ生まれてくるかとか、その土壌は何が重要なのか、みたいなことをけっこう考えています。

 平安時代からのラノベみたいな観点で言うと、最近トーハクがバーチャル化するというので、トーハクに行ってきたんですけれど。社内のデザイナーだったりと議論しているのが、バーチャル空間ってじつは、紙の次の想像力を加速させるメディアなんじゃないか、みたいなことを言っていて。どういうことかと言うと、紙ってメディアとしては数千年の歴史がありますけれど、いちばんスゴかったのは、記録メディアである以上に、紙を折ったり破ったりちぎったり、あとは考えていることを映し出すといった観点で、人間の想像力をすごく加速させたと思っているんです。その次はディスプレイかと思いきや、ディスプレイは想像力を加速させているように思うんですけど、バーチャル空間自体ってちぎって破って、グニャグニャに曲げて、好き勝手できるわけですよね。想像力を映し出す紙の次、3次元の紙に相当しているんじゃないかなぁ、みたいなことを考えていて。この紙の上で遊ぶクリエイターは、日本はそういうものが生まれやすい土壌にあると思うので、日本における石油になるんじゃないかなと、最近考えています。

豊田:

僕も同じようなことを考えていて。建築家って3次元の、xyzの空間を扱う専門家だと思われているんですけど。でも実際にはコストとか構造とか法規とか、圧倒的に高次元の情報を扱っているわけです。でもその高次元情報を客観的に伝達する手段を、僕らは歴史的に持っていなかったので、設計図面という2次元の情報か、せめて模型という3次元情報にダウングレードしないと、他の人に伝えられなかっただけなんですよね。

 それが今突然コンピュータを使って、プログラミングかもしれないし、こういうバーチャル空間かもしれないし、動きとか動作とかいろんな高次元情報をパッケージングして客観的に伝える技術が、雨後のタケノコみたいに出てきている中で、建築の可能性とか伝えられるチャンネルが劇的に変わってきているんだと思っていて。

 それって結局、モノに宿っている情報の次元というのが無限大にあるんです。これまではモノというパッケージか否かという二項対立でしかなかったのが、突然情報が、全部じゃないにしてもある程度抽出して、情報だけ流通できるようになってきている。そのブレイクスルーがこの数年突然起きていて。情報だけ外部に共有できる可能性と、やっぱり情報だけでは無理なモノの強さとが両方、顕在化しているのがすごく面白くて。clusterみたいなものも、使っているうちにその境界が見えてきたり、曖昧になってきたりするじゃないですか。本当に僕らの価値観がどんどん劇的に変わってきているなというのを、すごく感じますね。

加藤:

clusterも、いちばん最初にやり始めたコンセプトはですね、「引きこもりを加速するぞ」というキャッチーなフレーズを言っていたんですけど、本質的にはまだインターネットに乗っかっていない体験みたいなものをインターネットに乗っけたいなというのが、最初のコンセプトだったんですね。

 コロナでみなさん気づいたはずなんです。僕はコロナが起こるまで3年引きこもって、「引きこもりってツライんだぞ。引きこもりってけっこうスキルがいるんだぞ」みたいなことを言っていたのに、みんな笑って「そんなことないだろう」と言っていたんですけど。それがこのコロナで、緊急事態宣言で引きこもらざるを得なくなって、みんなに知っていただけて、僕は嬉しいです(笑)。「引きこもるのって大変。スキルのいることです」と。

 それってなんでかというと、体験とかがまだ、デジタル化されてインターネットに乗っかっていなくて、世界に流通していないからだと思っていて。ライブで集まる熱量だとか。今日のこれもそうですね。XR Kaigiのここにある熱量がそうだと思うんですけど。「熱量ってインターネットにどうやって乗っけるんだっけ」みたいなことを、みんながこのコロナでだいぶ考えるようになったのかなと。

「人間中心のデザイン」によって、デジタルとフィジカルを使い分けていく

すんくぼ:

ここでちょっとですね、未来のほうに視点を移していこうかなと思います。改めてになるんですけれども、そもそもお二人が考える「デジタルとフィジカルが融合した世界」というのは、どんな世界なんでしょうか? これは豊田さんから伺ってもいいですか。

豊田:

融合した世界。そうですね……今、話していたものが一通りそうだろうと思うんですけど。選択肢が広がるってことに尽きるんだと思うんです。

 たとえば、さっきまでの話を引きずっちゃうんですけど、「働く」というのが以前は、オフィスに朝、タイムカードを押して入るということから始まって、身体がオフィスを出るというところで終わっていた。それが今は、家にいながら70パーセントだけ仕事をして、10パーセントはカフェでチャットもチェックしながら、その横では夕飯のおかずを買っているかもしれない。そういう離散的なもの、自分の身体のいる場所と関係なく、やっていることとか所属とか価値提供が、自由自在に編集できるようになってきているじゃないですか。もう会社側とか社会も、それを認めないわけにはいかなくなっているし。

 そういうプラットフォームが、まだ今は脆弱ですけど、何かそういう「70パーセントの自分」とか「10パーセントの価値」みたいなものが自在に編集できて、いる場所とか所属しているところの割合もさじ加減で調整できる、みたいな。そういうものがすごく離散的、流動的に編集可能になっていく世界なのかなって、今年改めて感じました。

すんくぼ:

そうですね。今までは打ち合わせ中に仕事する人ってあまりいなかったと思うんですけど、今はもう、Zoomで自分が発言していない時はカタカタやっていたりしますもんね。加藤さんはいかがですか?

加藤:

2つあると思っていて。1つ、さっきの続きで言うと、僕は世の中の体験とかあり方みたいなものがどんどんと、ソリッドな状態からリキッドな状態になっていっているのかな、と考えているんですよ。

 分かりやすい例で言うと、ソーシャルって、ソリッドなソーシャルからリキッドなソーシャルになっているなと思っていて。「○○大学の○○学部に属する○○さん」みたいにソリッドに分かれたカテゴリでやり取りするよりは、ハッシュタグでつながる「僕は○○学生でもあるし、○○クラスタに属するオタクでもあるし」みたいな。裏の顔はこういうこともしているし、バイトはこういうことをしているし……と緩くつながって、境界が曖昧になっている流れというのが、いろんな各所で起こっていて。

 時間の使い方みたいな観点で言うと、打ち合わせ中に別の仕事をするってそうですよね。リキッドになっているなと思っていて。「この打ち合わせのこれにしか使えない」という時間の使い方ではなくなってきている。そんなふうにリキッドになっていっているんじゃないか、というのがまず1つ。

 もう1つ、僕がすごく思っているのは、デジタルとリアルがマージャーしていく体験ってどんなものだろうと考えた時に、オンラインとオフラインのマージャー(OMO)という概念は中国とかでも流行っていますけれども、あれの本質ってさっきもしゃべった「人間中心のデザイン」なんです。オンラインか、オフラインかみたいな二項対立じゃないわけですね。

 たとえばですけど、僕はコーヒーをすごくたくさん飲むし、缶コーヒーもたくさん飲むんですけど、「コーヒーを飲みたい」となった時に、サッと飲みたかったらオフラインのコンビニに行ってコーヒーを飲むわけです。けれども、もちろん家でガバガバ飲むので、何をするかというと、Amazonを使ってeコマースでコーヒーを買うわけですね。これってシチュエーションによってオンラインとオフラインを使い分けているし、これの中心は人間のシチュエーションになっているんだろうなと思っていて。

 この考え方を当てはめると、デジタルとフィジカルも結局、人間を中心にシチュエーションによって使い分けられるという感じになってくるんだろうなと。それがあるべき姿なんだろうなと。リアルな空間、渋谷とかでもいいかもしれないですけど、渋谷で音楽コンサートをやっているという時に、当たり前のようにリアルの渋谷に行く人と、バーチャル渋谷に行く人が出てくる、みたいな。何も言わなくてもシチュエーションによって使い分けるというのが、あるべきというか来るべき未来なんじゃないかなと思うんです。みんなバーチャルかフィジカルかをあんまり意識しないという。僕もコーヒーを買うのに、Amazonで買うのとコンビニで買うのをあんまり意識したことないんですけど、シチュエーションによって選んでいるので。そういう世界が、融合した世界なんじゃないかな、みたいなことを考えていますね。

バーチャル空間での活動は「カッコイイ」という価値観を根づかせたい

すんくぼ:

ありがとうございます。今のお二人の回答で、僕がすごく印象的だなと思ったのは、技術とかの話をほぼしていなかったということで。どうしてもVRとかAR、MRって言っちゃうとテックの話になってしまったり、「何が見えているのか」という視覚の話にすごく寄ってしまったりするんですけど。でもお二人には「人としてどう行動するか」とか「どう認識するか」という、非常に本質のところを、お話しいただいたと思います。

 そういう意味ではですね、今後まさにそういった世の中になっていくんだろうなと思うんですけど、その担い手になる人たちが、今この声を聞いていらっしゃる方々だと思います。では、そのみなさんに向けて、その鍵となるものとかですね、どう取り組んでいったらいいのか、みたいなお話を聞ければと思います。加藤さんからお願いします。

加藤:

鍵で言うと、さっき言った産油国の話じゃないですけども、クリエイティブ活動みたいなものですね。たぶん日本人全体で、こういったVRだけじゃなくてARも含めたXRエンスージアストたちの熱量が、クリエイティブに落とし込まれていく流れが、すごく重要だと思っているんですよ。バーチャル空間ってひとりが作るものではなくて、もはや生活スタイルというか、カルチャーだと思っているので、全員が作っているという状態にならないといけないと思っているんですけど。

 けっこう鍵だなと思っていることのひとつは、さっきのスキューモーフィズムの話じゃないですけど、段階を経て変化していくと思っていて。ひとつあるのは「エモさ」というか、「好き」を大きく描くというところで。

 これも社内でこういう話をしていたんですけど、クリエイティブ活動で日本を代表するという観点で言うと、宮崎駿大先生がいるわけですけれども。(スタジオジブリの)鈴木(敏夫)プロデューサーの話の中ですごく面白いなと思ったのは、「宮崎駿監督の描く飛行機はめちゃくちゃデカい」と。現実のサイズとは違う。なぜデカく描くかというと、理由はひとつで。宮崎駿監督からすると飛行機はカッコイイものだから、カッコイイものは心にとって大きく映る。大きく映ったほうが気持ちがいいから、絵として出てくる飛行機はすごく大きなものになる。それがいちばん気持ちのいいサイズ感だ、みたいな話をしていて。

 結局バーチャル空間って、こうやって現実空間を模して作りがちだし、クリエイティブ活動をしがちなんですけど。そういう「好きだ」とか「私にとってはここが大好きだから大きく描きたい」とか「大きく作りたい」というエゴが、スキューモーフィズムの次の段階、現実を模すところの次の段階としてやってくるんじゃないか、みたいなことを思っていて。それが鍵になってくるのかなということを考えていました。

豊田:

僕はちょうど今、いろいろと立ち上げが重なっていて。先月末に建築情報学会というのを立ち上げたんですけど。建築と情報というつい二項対立になりがちなのを、その両方を知っている人をもっと育てないと、それこそclusterみたいな空間を実空間とシームレスに扱うとか、バーチャル空間での集まりを実空間の機能に上手く接続するみたいなことの、専門家が育たないので。その建築情報学会の中で「どうしたらいいですかね」みたいな議論をほぼ毎週、いろんな人を呼んで議論しているんですけど。昨日もやっぱり「それをやるのは難しいよね」という話になって。

 結局やっぱりデジタル対フィジカルみたいな二項対立的なものが、教育とか社会には根強いので、両方が体験できるような小さいワークショップ的なものというか、そういうものを上手く設計して、まず体験値を増やす。経験しないと分かんないことをまずやってみたところで、つなぎ方を考えてもらう、みたいな。そういう場所を作っていくことをいっぱいやらないといけないよねという、そういう話は出ましたよね。

 もう1個今、僕らが作っているもので、「コモングラウンド」っていう、実空間とバーチャル空間をいかにつなげる新しい3D技術の仕様をいかに開発するかという、今度は企業向けというか産業向けの実装で、大阪でそのラボがオープンするんですけど。それをやっている上で企業に感じるのが、さっきも「遊び」とか「好き」って話が出ていましたけど、失敗を怖がりすぎちゃうというか、そういう感覚があまりにも強すぎて「やっぱりできない」と。

 でも遊びって、ポジティブな失敗なわけで。そういう遊びというものを、みんながどんどん「スゲェじゃん、仕事中に遊んでるじゃん」みたいな状態でできるようになって初めて、いろんなものの成功の度数が上がっていくんだろうなと、すごくそういうところでも感じるので。バーチャル側、リアル側という分け隔てなく、でも確実に今、専門性って分かれているので、お互いをつなぐようなちょっとしたポジティブな失敗体験というか遊びを、どんどんと場所として作っていくというのが大事なのかなと思います。

加藤:

教育観点で僕もひとつ思うのが、日本の未来は明るいなという観点で言うと、小学生がなりたい職業に「ゲームクリエイター」が入っていると。男の子のほうなんですけど。ああいうのはすごく良いなと思っていて。

 YouTuberとかも入っているんですけど、やっぱり動画のクリエイティブが、YouTubeからすごく加速したなと思っています。その観点で言うとバーチャル世界の発展に必要なのは、バーチャル空間で生きる人、バーチャル空間で生活する人、活動家みたいな人が「カッコイイ」という感覚なんじゃないかと、最近すごく考えるんですね。こうやってがんばっている人がカッコイイみたいな文化。NIKEがNIKEたる所以は「がんばっているアスリートはカッコイイ」というカルチャーを作ったからだ、みたいな。NIKEは靴なんていうコモディティ商品を売っているのになぜ世界一の企業になれたのか、みたいな話がありますけど。

 バーチャル空間での活動だったり、そういうクリエイター、作る人たちはカッコイイというカルチャーが、まずは日本の中で根づくか。そしてそれを世界に輸出していけるか。そういうことが重要なんじゃないかと考えています。それこそ小学生たちが、こうやってバーチャル空間上で、学校の先生は理解していないけど、バーチャル空間上のモノを作り、友達と新しいことをしているのがカッコイイみたいな。そういう文化が発展してくると、発展が相当に加速するんじゃないかな、みたいなことを考えますね。

豊田:

そうですね。その上でさらに、昔はそれをやろうとしてもやっぱり、ソニーとかパナソニックとか大企業に属していないとそんなゲームチェンジができなかったのが、今はこういうオープンなところで個人の動きとして集まって、それが元気玉みたいになって、というのが突然できるようになっているのが、すごく大きな変化だと思うんです。そういう流れは今後もすごく上手く作りたいと思いますし、そのためのプラットフォームとして、clusterみたいな場所というかシステムがあるのは、ものすごくデッカイことだと思うんです。

 それって使い方がまだまだこれから広がっていくというのを、まだ使い切れていないんだと思いますし、そこを加藤さんみたいな人と僕みたいな立場の人間が、もっと知見というか技術を共有する機会を作っていかなきゃいけないなというのは、本当に思います。

オープンに共有し合うカルチャーを大事に

すんくぼ:

ありがとうございます。じつはあと5分くらいでして。だんだん畳みかけていこうかなと思います。最後は、聞いてらっしゃるみなさんへのメッセージというところですが、昨年もこんな質問で締めくくったんですけれども、比較的デジタルサイドにいらっしゃる方々が、今回のXR Kaigiにみなさん集まってきています。そういったXRの担い手の方々にですね、まずはこれを今、意識してほしいということがお二人からありましたら、ぜひお聞かせいただければと思います。これは加藤さんから伺ってもいいですか。

加藤:

XRって狭義の上では技術でありますし、広義の上では生活スタイルみたいな話だと思うんですけど、狭義の意味でのXR技術がどういうところにアドバンテージがあるかというのは、けっこう議論が尽くされていると思っていて。コンピュータ技術を使って生活にデジタルがあふれていて、没入感もあって、という。こういうところで価値を出しやすいように、お金も流れやすいように、みたいな議論をだいぶしてきたかなと思うので。その次の段階が、さっきから言っている「人間中心のデザイン」なのかなと思っています。やっぱり技術ファーストではなく、ふだんの生活の中でじゃあどうやってこの技術だったりサービスだったりが使われていくべきなのかと。

 あるべき生活スタイルは、この会場にいるみなさんはだいたい認識が揃っていると思うんですよ。要はこういうデジタルな表現というのが、生活の中に溶け込んでいると。溶け込んでいて、物事をこうしたい、ああしたいというと、ポンと出てくる。そういう世界観だと思うんですよ。もっと言うと、理想のXRの体験って、僕は夢を見ている状態だと思っているんですけど。夢の中だと飛び回れるし、なんでもできるし、みたいな。理想のXR世界はもはや、今は夢なのかリアルに起きているのか分からないと。そんな感じの『インセプション』という映画がありましたけど、あんな感じの夢の中のような状態が、あるべき世界なんだろうというのは、おそらくここにいるみなさんは肌感として分かっているし、言語化もできていると思うんですよ。

 なので、そこに至るパスとして、現状の人間はこういうことを求めているし、生活の中でこういう技術が選択されるべきだと。その中でこうやって使ってもらおうとか、ここを便利にしていこうみたいなことを意識していくというのが、サービスを提供したり、モノを作る側の人には重要なんじゃないかと。クリエイター、表現者みたいな人はですね、さっき言ったように好きなものをデカく作るとかですね、そういうふうに物理空間を取っ払ってエゴを押し出すだけでいいと思うんですけど。そういうことが大事なのかなと考えています。

豊田:

そうですね、今の加藤さんの話で出てきた「人間中心」みたいな話って、すごく面白い。最終的に人間中心で、受益者としての人間の価値体験をより大きくするために、さっき四象限の話が出たんですけど。

 今、LGBTとか、男と女という二項対立の間にいろんな解像度が生まれたりしているじゃないですか。あのグラデーションになったのを、人間の外側に一回拡張して、ノンヒューマンエージェントとか環境の視点で物事を考えるとなった時に、「意外とこの街は歩きにくい」とか「生きにくい」みたいな視点を持った時に初めて、じゃあそこをどうするべきか、他のエージェントはどう感じているのか、みたいな視点が育つだろうと思うので。そこがたぶん、具体的な技術になってくるんだと思うんですね。だからそういうふうに、人間の視点を一回外に出してみることが、結局、自律走行の恩恵を受けるとか、アバターの使いやすさという具体的な恩恵を受けることにつながっていく気がするので。なんかそういう、一回人間の外に出てみるという視点は大事かなと。

 あとはさっきも言ったんですけど、都城のXRとかも一回オープンに、スキャンしたデータをネットに上げて、みんなに公開してみようとやったら、そうしたらみんながワラワラと集まってきてて、勝手に創作してグレードアップしていくじゃないですか。ああいう感じのカルチャーはいいなと思っていて。持っているものを出し惜しみせず出してくる、みたいな。お互いに投げ合うことで、僕らが自前で閉じて持っているよりも圧倒的に早く、いろんなものの技術とかが展開していく可能性がすごくあると思うので。お互いに投げ合う、出し合う、共有し合うみたいなカルチャーを、すごく大事にしてもらいたいなというのは思います。

すんくぼ:

ありがとうございます。お二人から素敵なメッセージをいただきました。

豊田&加藤:

ありがとうございました。

非常に盛り上がった基調講演後も実は3名で楽屋裏トークを繰り広げました。未公開となったその内容を、Mogura VRでは書き起こし掲載予定です。

基調講演の動画はこちら

https://www.youtube.com/watch?v=iGBhjz8HXfg


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