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業界動向 2018.12.21

VR向け3Dアバターの統一規格“VRM”普及を目的とした「VRMコンソーシアム」13社合同で設立

VRや3Dアバターに関連する企業13社は、VR向け3Dアバター用ファイルフォーマット“VRM”の策定と普及を目的とした一般社団法人「VRMコンソーシアム」を2019年2月に設立することを発表しました。本記事では、2018年12月20日にユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社で開催された、記者発表会の模様をお届けします。

「VRMコンソーシアム」は、3Dアバターのモデルデータを取り巻く環境に劇的な変化が起こっている現在の状況において、3Dアバターの規格を統一化し、誰でも簡単に創作・使用できる、プラットフォームを超えた自由なVR世界を実現することを理念として設立されます。

IVR、株式会社エクシヴィ、株式会社S-court、株式会社DUO、株式会社ドワンゴ、株式会社バーチャルキャスト、株式会社ミラティブ、株式会社Wright Flyer Live Entertainment、クラスター株式会社、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社、SHOWROOM株式会社、ピクシブ株式会社、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社という、賛同企業全13社がVRMコンソーシアムの発起人となっているほか、任天堂株式会社がオブザーバーとして参加しています。

前述したとおり、VRMコンソーシアムの設立は2019年2月に予定されており、現時点では設立準備会<https://vrm-c.github.io/>が立ち上げられています。準備会では設立に向けて発起人企業だけでなく、趣旨に賛同する会員を募集しているとのことです。

プラットフォームに依存しない統一規格により、3Dアバターの権利保護も可能に

記者発表会では、株式会社バーチャルキャストの取締役COOである石井洋平氏により、3Dアバター用フォーマット“VRM”の概要が説明されました。

VRMは株式会社ドワンゴによって2018年4月に提唱されましたが、石井氏によると提唱に至った背景には、2つの大きな流れがあるそうです。まず1つ目は、

3Dアバターを作成・活用するサービスが急増している点です。しかし従来のフォーマットでは各サービスで仕様の差があるため、どこでも共通に3Dアバターを自由に使えるようにするには、プラットフォームに依存しない標準フォーマットが必要であるとのこと。

そしてもう1つの大きな流れが、VTuberの登場です。2018年7月の時点でVTuberの数は約4500人、12月の時点では6000人も存在すると言われています。このようにVTuberの人数が飛躍的に増大しているなかで、「VTuberとは誰なのか」という問題が生まれていると、石井氏は指摘しました。

3Dアバターを1人の人格として考える場合、「その3Dモデルを使用できる権利を持つのは誰なのかという、新たな権利の問題が発生する」と石井氏。特定の人物のみがその3Dモデルを自身の分身として使用できるのか、それとも不特定多数の人に配布されて誰でも自由に使用できるのか、といった権利情報を3Dデータそのものに内包できることが、VRMの特徴となっています。


発表会場ではVRMの技術概要について、VRMの考案者でもある株式会社バーチャルキャスト取締役CTOの岩城進之介氏から、より詳しい解説が行われました。

VRMは、現在3Dの事実上の標準フォーマットとなっているglTF2.0をベースとして、そこに人型モデルを扱う上での制約と拡張を追加したものです。VRMではテクスチャやマテリアルなど、3Dモデルに必要なすべてのデータを1つのファイルとして扱うことが可能になっています。

またVRMにはタイトルや作者名といったメタ情報以外に、前述したようにアバターに特化したライセンス情報も内包できます。このライセンス情報は、モデルデータを使用して「人格を演じる」ことの許諾範囲や、暴力/性的表現を演じる許可、商用利用の許可、モデルデータの改変・再配布の規定などを設定可能とのことです。

なお、ゲームエンジンのUnityでは、VRMファイルを読み書きする標準実装が提供されていますが、VRM自体はプラットフォームに依存しておらず、他のエンジンや環境でも取り扱うことが可能です。VRMフォーマットとその標準実装は、すべて無料かつ自由に使用できるよう、オープンソースで公開されています。

VRMの意義とその可能性については、VRMコンソーシアムの発起人企業の1社でもある株式会社エクシヴィの代表取締役、「GOROman」の愛称でも知られる近藤義仁氏の言葉が最も分かりやすいでしょう。「現在のSNSで、ユーザー自身を表すアイコン画像のフォーマットはPNGやJPEGである」という近藤氏は、「誰でも3Dアバターを持てる時代にPNGやJPEGとなるのがVRMであり、VR時代のアバターフォーマットとして、世界を獲れる日本発のデファクトスタンダードになれる」と語っていました。

ちなみに、VRMのベースとなっている3Dフォーマットの“glTF”を策定しているクロノスグループからは、代表のニール・トレヴェット氏より「今後VRMコンソーシアムと密接に協力して、2つの標準の互換性とシナジーを最大化していきたい」とのメッセージが送られているとのことでした。

3Dアバターやライブ配信に影響力を持つ13社が、共同してVRMを推進

発表会場ではVRMによってもたらされる未来を、発起人13社のプロダクトで表現したイメージムービーが披露されました。

https://www.youtube.com/watch?v=gehxefOqAIM

これを受けて、VRコンソーシアムの発起人である13社の代表者から、事業の紹介やVRMに関する展開などの発表が行われました。

各社のサービスやアプリの中には、VRMに対応しているものがすでに多数存在しています。IVRの3Dアバター作成サービス「Vカツ」、株式会社バーチャルキャストのライブコミュニケーションサービス「バーチャルキャスト」、株式会社ミラティブのライブ配信プラットフォーム「Mirrative(ミラティブ)」、クラスター株式会社のバーチャルイベントプラットフォーム「cluster」、SHOWROOM株式会社のバーチャル配信アプリ「SHOWROOM V」、ピクシブ株式会社の3Dキャラメイカー「VRoid Studio」などです。






さらに、ドワンゴとS-courtが共同開発を行っている3Dキャラクター作成アプリ「カスタムキャスト」や、株式会社Wright Flyer Live EntertainmentのVTuber専用ライブ配信アプリ「REALITY」でも、VRMへの対応が進められています。


また、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社のリアルタイム3DCGコントロールシステム「R3」は、初音ミクをはじめとする同社のキャラクターのコンサートで使用されていますが、今後はVRMフォーマットのキャラクターによるパフォーマンスを、このシステムで実現できるのではと考えているとのことです。

一方、株式会社DUOの塚本大地氏は、同社がミライアカリをはじめとするVTuberのマネジメントとコンテンツ制作、そしてVTuber専用のライブ配信プラットフォーム「IRIAM(イリアム)」と、3つの業務を行っていることから、「マルチな視点でVRMについての情報を発信していきたい」とコメント。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社の大前広樹氏は、ビデオメッセージによる登壇で、Unityへの対応をはじめとするテクノロジーの提供や、“ユニティちゃん”のようにVRMで自由に利用できるキャラクターの公開といった形での協力を表明。さらに、ユニティ本社がglTFフォーマットを策定しているクロノスグループの正式なメンバーであることを活かして、「VRMを世界標準にするための橋渡しをしていきたい」と語っていました。

また今回、VRMコンソーシアムにオブザーバーとして参加する任天堂は、「今回に限らず、エンターテインメントにおける新しい動向や、最新情報を常に把握できるよう努めています」とのメッセージを寄せて、参加の意図を説明していました。

VRMコンソーシアムの今後の動きについて石井洋平氏は、「VRMコンソーシアムが掲げる3つのコミッティーや、会員制度についてはまだまだ検討中」であるとして、幅広い参加を呼びかけていくとのこと。


その上で、VTuberの登場は世界的にユニークな現象で、3Dアバターにどういう権利を持たせるかの議論は、日本が世界に先行していることから、「日本のアニメやゲームといった強力なIPを3Dモデルで扱う際に、その権利保護をVRMと共に発展させる国際標準化を実現したい」との抱負を語りました。

今回の発表会に集まった13社のメンバーを見ても、VRからライブ配信まで、VTuberをはじめとする3Dアバター関連に留まらず、ネットカルチャー全般にまで影響力を持つ企業やキーマンが、このVRMコンソーシアムに集結しています。3Dアバターの運用が一般にまで広く普及しつつある点で、日本が世界を大幅にリードしている現状を考えれば、VRMが世界のデファクト・スタンダードとなる可能性は、十分に高いものだと言えるでしょう。

VTuberの文化が今後さらに発展し、VRや3Dアバターが将来的に広く普及していく上で大きな役割を果たすものとして、VRMフォーマットの動向には大いに注目していきたいところです。


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