Home » 「涙」で充電できるスマートコンタクトレンズ用の超薄型バッテリー、シンガポールの大学で開発


テック 2023.08.31

「涙」で充電できるスマートコンタクトレンズ用の超薄型バッテリー、シンガポールの大学で開発

NTUシンガポール(南洋理工大学)の研究チームが、人間の角膜とほぼ同じ薄さのフレキシブル・バッテリーを発明しました。涙に含まれる生理食塩水にふれると蓄電され、バッテリー寿命を延長します。学術雑誌「Nano Energy」に査読付き論文が掲載され、特許出願と製品開発が始まりました。

重金属を使わないフレキシブルバッテリー

スマートコンタクトレンズは、視力矯正や病気予防への応用が期待されるほか、人の眼に情報を表示するAR機能についても研究・開発が進んでいます。極小薄型ディスプレイやアイトラッキング(視線追跡)、「人体にとって安全かつ超小型のバッテリー」が大きな技術課題とされています。

Jeonghun Yun氏らNTUシンガポールの研究チームによれば、従来のスマートコンタクトレンズ用バッテリーには金属ワイヤーやリチウムイオン(重金属)が用いられており、人体にとって安全ではありませんでした。そこで研究チームは、人体に安全な成分で発電できる、薄さ0.5ミリのフレキシブル・バッテリーを発明しました。今後は放電量を高める研究をつづけながら、複数のコンタクトレンズ会社と製品化に取り組むとしています。

人体に自然な成分を反応させて発電

研究チームが開発したバッテリーには、グルコースオキシダーゼを主成分とするコーティングが施されています。グルコースオキシダーゼはハチミツの防腐成分としても知られ、人体にも自然に存在する酵素です。人の涙(生理食塩水)に含まれるナトリウムイオンなどと反応することで、電気が発生します。

研究チームが人工眼球と擬似涙液を用いた実験では、レンズからスマートフォンへのデータ送信に十分な電力が得られ、12時間の装着サイクルごとにバッテリー寿命が1時間延びたとのこと。従来通りの外部給電も可能で、200回まで蓄電・放電できたとしています(一般的なリチウムイオンバッテリーの寿命は300~500回)。

スマートコンタクトレンズの実用化が近づくか

研究チームによれば、同じ原理で人の汗を用いた研究例はありましたが、涙を用いた研究は今回が初めて。実用化に向けた要素部品の開発が期待されます。

AR機能を搭載したスマートコンタクトレンズは、米国Mojo Visionが製品化に挑みましたが、2023年1月に事業転換、開発を断念しています。なお、同社は医療グレードの固形マイクロ電池を採用していました。

(参考)VRScoutNTUシンガポールNano Energy視覚の科学

Mogura VRはVRScoutのパートナーメディアです。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード