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業界動向 2019.11.18 sponsored

今までにない価値を作り続けたい――異色のテック×クリエイティブ集団の仕掛け人に訊く

2019年12月に開催される、国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi」。CEDEC等の開発者向けカンファレンスと同じく、XR Kaigiにも数多くのスポンサーが存在する。プラチナスポンサーとして名乗りを上げたNTTdocomoやKDDIをはじめ、マイクロソフトにOculus、HTCといった大手プレイヤーが居並ぶ中、ひとつ見慣れない社名とロゴがある。

株式会社ティーアンドエス(T&S)XR Kaigiではプラチナスポンサーとして真っ先に名乗りを上げた彼らは「AR Roppongi x Ingress」「Pokémon GO AR展望台」など、テクノロジー×アートを融合した最新の展示やプロダクトを生み出し続けている。

本記事では同社の代表取締役社長であり、社内クリエイティブチーム「THINK AND SENSE」のプロデューサーでもある稲葉繁樹氏にインタビュー。T&Sのそもそもの成り立ちやXRに取り組む理由、そして見据えている未来とは? その答えを訊いた。


写真右:稲葉繁樹/Shigeki Inaba
1981年生、福岡市出身。株式会社ティーアンドエス代表取締役社長、同社R&D部門であるTHINK AND SENSE部のプロデューサー。デジタルコンテンツや映像、広告、イベントなどの様々な分野において活躍。

写真左:松山周平/Shuhei Matsuyama
1991年生。ビジュアルアーティスト&プログラマー。株式会社ティーアンドエスではTHINK AND SENSE部の部長を務める。先端技術を活かした展示やアート、インタラクティブなパフォーマンスを得意としており、マイクロソフトのMRデバイス「HoloLens」を活用した「Pokémon GO AR展望台」「AR Roppongi x Ingress」などに携わる。クリエイティブレーベルnor所属。著書に「Visual Thinking with TouchDesigner」がある。

事業企画からデジタルやウェブの世界へ

――XR業界を見ている観点から言うと、T&Sさんは“不思議な企業”という印象があります。突如として現れて、実験的な取り組みや「ポケモンGO AR展望台」といった印象的な展示だったり、刺激的なプロダクトを世にどんどん送り出している。まずはT&Sさんの成り立ちについて教えていただけますか。

稲葉繁樹氏(以下、稲葉氏):

T&Sは会社自体は今年で32年目になるのですが、はじまりはシステムやソフトウェアの会社ではないんですよ。商業施設などを中心に「どうしたら地域やお客さんが盛り上がるのか」といったマスタープランを作る、事業企画の会社がスタートなんです。その仕事に付属する形で、次第にデジタルな、ネットに関することをやるようになって。iモードに関連する仕事やデジタル広告絡みをやってました。

それと会長(前社長)の趣味だったのもあって、グループ会社で家庭用ゲーム機、例えばセガサターンやプレイステーションのゲームを作っていて。その関係で所属していたエンジニアやデザイナーの方々が異動し、ウェブの部署ができたんです。

ちょうど1998年頃のオラクルが跋扈していた時代。「Linuxベースでフリー、かつセキュアで、もっと安く同じことができますよ」という触れ込みで、ウェブの仕事をスタートしました。僕が入社したのもその頃ですね。

――まちづくりやゲームといった個別の事業がまとまり、ウェブを中心に事業が動いていくようになったと。

稲葉氏:

次第にまちづくり系から「ウェブで新しい事業やサービスを作ってほしい」という相談が増えたので、業態を転換したわけですね。リアルからインターネットを主軸にした事業へと舵を切りました。NTTやYahoo!、サイバードといった主要なウェブ企業と仕事をしてきていて。楽天やソフトバンクグループとはそのころから付き合いがあります。

ウェブ企業の案件が落ち着いたあとは、それ以外の企業が「インターネットでビジネスをやりたい」と、クライアントになるケースが増えましたね。続いてWeb2.0がきて、スマホやアプリと、トレンドが移り変わっていきました。

――常にその時期のトレンドに、企業として携わっているというか。

稲葉氏:

そういった仕事をT&Sが続けてこれたのは、コアドメインが事業企画だったことが大きいですね。「未来に対してこうしましょう」という視点を持っている、その強みを活かせたんです。

T&S流、人との向き合い方とは?

――精神性としてはずっと地続きで、一貫しているんですね。

稲葉氏:

企業としてはまさしくそうですね。採用の話にもつながるんですが、僕がT&Sの社長に就任した頃から、「20代や30代手前の若い人が、方向性を持ってやりたいことをやり、そのために必要なことを僕たちが叶える」ことが重要だと考えていて。

「今の日本にはチャンスが足りない」と言う人はたくさんいるのですが、それ以上に「強い方向性を持っている、理想やビジョンを語れるような人材」が少ない印象を受けます。これで突っ走ります! という勇気のある、ちょっと変な言い方だと「バカになれる」人はなかなかいないですね。T&Sではそういった人の方が輝くし、働きやすいようにありったけの力でサポートしています。

今回のXR Kaigiも共通するところがあって。Moguraの久保田くん(すんくぼ)から「XR業界をもっと盛り上げなきゃいけないと思っているんです。そのためにも、オフラインで場をつくっていかないと」って言われて、「確かにそうだね。じゃあやろう」と。XR Kaigiの中身も聞いていないのに即決した(笑)

――T&SさんはNTTdocomoやKDDIといった大手キャリアと並び、XR Kaigiにプラチナスポンサーとして参加されていますね。

稲葉:

完全にその心意気に協賛した、というのはありますね。こういうのは誰かがやる必要があるだろうから、その第一歩目として、まさに一番槍で一番前。だから僕らもガチなんです。そもそもこの取材もそうで、僕はメディアに出たくないんですよ(笑) 基本的にテレビ出演とかは全部断ってて。それだけXR Kaigiは大事だし、自分から突っ込んでる。他の人たちにも「俺たちもがんばろう」って思ってもらいたいし。

僕らはXR Kaigiでブースも出します。採用やプロダクト、開発姿勢についても触れているので、「T&Sの人との向き合い方」を見てもらえるとうれしいですね。

新しいXRのエンタメ表現を模索

――T&Sの人との向き合い方というと、ただの受託や制作ではなく、一緒に作り上げていく、というスタンスですよね。以前THINK AND SENSE部の松山氏(※こちらの記事参照)が話していました。

稲葉:

まさしく。これはT&Sの事業企画や事業開発の姿勢の現れです。もっと言うと、XR市場はこのまま技術ファーストで何かをする、という現状にとどまっていると、今後市場が伸びないと思っています。はじめは技術ファーストだけでも押し通れますが、一定のところまで来るともう伸びない。そのタイミングがちょうど今で、もうXR2.0くらいまできたんじゃないか、という状況だと。

ここから先は「何に対して、どんなインパクトを起こすのか」「どうやってお金を稼ぎ、経済を回すか」が大事。自分たちが事業企画や事業開発をずっとやってきたからこそ、そういった「インパクトを起こすストーリー」を創ることは重要視していますし、それを続けてきたことにT&Sの企業価値があると思っています。

――XRの初期はギークや技術ファーストなところから広がったわけですが、今後は価値の出し方を考え、方向性を変えていく時期だということですね。

稲葉氏:

まさに今がシフトチェンジの時だと思いますね。XR関連のエンタメもそうで、単一の技術や分野だけに閉じず、新しい価値を作ることが必要です。THINK AND SENSEに所属しているストリートダンサーでパフォーマーのToyotaka(田中豊隆)がやっている「JIKKEN」なんかもそうです。


(2019年6月に行われた第一回「JIKKEN」。詳しいレポートはこちらの記事から)

稲葉氏:

Toyotakaはダンスの世界大会で優勝するほどなんですが、なかなか苦労人で。そもそもエンタメ業界におけるダンスは、個人で名前を出していくのがすごく難しいんです。あるとしてもバレエダンサーの熊川哲也さんといったごく一部。ビジネスとしてはかなり大変です。

――「ダンサー個人」として興行をやって、大々的に名前が出る……という話はあまり聞かないですね。サポートミュージシャンやバックバンド以上に。

稲葉氏:

そこで海外に目を向けると、例えばシルク・ドゥ・ソレイユは、様々な個別のパフォーマーがテクノロジーと融合した場や表現を作っています。日本でも歌舞伎はコミックやアニメの版権を活用して、イマーシブシアターで公演している。同じようにテクノロジーと肉体、つまりXRとフィジカルを組み合わせることで、新しいエンターテインメントが作れるんじゃないかと。そうしたらダンサーやパフォーマーを取り巻く状況も変わるわけです。僕らはこの領域に興味を持っていますし、実際にいろいろと働きかけています。

今回僕たちがXR Kaigiで新しいプロジェクトのブースを出すのも、XRへの投資や、新たな興行といったビジネスに取り組んでくれる人や企業を求めているからですし、「みんなも一緒に」と投げかけたいですね。

「すでにある価値」より「いままでにない価値」に対して答えていく

――XRの価値の出し方が変わること、あるいは新しい価値を作り出していくことのひとつとして、他のジャンルとの組み合わせを考えている、という形でしょうか。そういった価値を作り出すために、今後はどのような方針でいくべきだと考えていますか?

稲葉氏:

XRの話で言うと、とにかくやりたい人にどんどんやらせてあげた方が絶対にいいと思っています。世の中にはすぐキャリアとか実績で物事を見る人たちがいますが、XR産業は今の形が出来上がってからまだ数年。社会人歴や実績なんて関係ないはず。そもそも「実績」なんてのは後からついてくるもんです。まだ生まれて間もない領域で、最初にそれを判断して何になるんだ、っていうことですね。

「すでにある価値」より「いままでにない価値」に対して答えていく、作り出していくという姿勢が大切だと思います。これまでにない技術を使って何かをするわけですから。XRは年齢ではない意味での“若さ”や勢いが重要だと思っています。

「XRの先端技術で新しいことをやりたい」とか、「XRに関する大規模な開発者カンファレンスをやりたい」とか、まさしくそう。方向性と強い意志を持っている若い人に機会を提供し、そのうえで自分も一緒に頑張る。お金で云々じゃなく。

――長い目で見ると重要な、未来への投資というか。

稲葉氏:

自分は“投資”っていう言葉があんまり好きじゃなくて(笑)。お金を出しただけであれこれ事業に口出しすることや、お金を稼いで返すことで人を強く縛るのはちょっと違うな、と思っています。

投資家が「俺は金を出すからお前は頑張れ」じゃダメで。やる気がある人とお金を出す人が、一緒になって走ることがすごく重要なんです。「良いことをやりたい」という人に機会を与えて、一緒に走るところまでやるべきでしょう。そういった積み重ねで世の中は変わっていくんじゃないかと。

あくまでお金は社会的評価の話なんです。みんなお金に踊らされてすぎている。あくまでやりたくてやったことに対して、社会が評価した分の収入が入った、という結果論の話なんですよね。

今ある価値に疑問を抱き、人の意欲とチームの力で変革せよ

――稲葉さんにお話を伺っていると、うっかり陥ってしまいがちな考え方や人に流されてしまうことへの危惧を感じます。

稲葉氏:

僕は子どものころから「これはダメだからダメ」っていう理屈に納得できなかったんです。「誰が決めたんだよ」とか「今の仕組みや決まりでよしとするのか?」って。今までにない価値を作る、というのもそこから来ていたりしますね。今ある価値に満足せず納得せず、疑問を持って、よりよい価値にするにはどうするか、それだけを考えています。

そこには「人の意欲」が重要で、やりたい人とチームを組んだり、連帯して伴走することが大切だと思うんですよね。今のXRやデジタル業界は、企業ごとに結構バラバラな印象があって。そもそも企業じゃなく、個人レベルでもかなり分断されているように思います。

――今後の成長や発展のために、強い意志をもった人たちがまとまって、チームとして戦っていくべきだと。

稲葉氏:

今後のXR業界をさらに成長させるためには、この分断もそうですが、日本に蔓延している停滞感とか、より大きなものと戦う勇気が要ると思うんです。これを一人や二人で打破するのは難しいし、そもそも一筋縄ではいかないでしょう。僕は仲間作りが必要だと思っていますし、まさに今自分がそれをやっているんですよね。

たくさんの人と仲間になり、チームを組み、「そんなの無理だよ」とか「できっこない」というムードと戦っていく。みんなで取り組むということがお互いを結びつけ、困難を乗り越えて先に進む力になると思います。

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(インタビュー:水原由紀、文:灰塚鮎子・水原由紀、撮影:長谷川夏暉)


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