「スカイリムVR」や「Beat Saber」など、VRゲームをプレイしてダイエットに成功した人があちこちで現れています。
「VRで50ポンド(22kg)減量した」というJob Stauffer氏もその一人です。ゲーム業界出身の同氏は、この体験を元にスタートアップOrpheus Self-Care Entertainmentを立ち上げました。プレイヤーの健康を改善するVRゲームを取り扱うパブリッシャーで、VRを通じて人々の健康管理・自己管理をサポートしたいと考えています。
VRで自分自身を健康に
ヘルスケア産業は巨大市場であり、その規模は全世界で4,000億ドル(約44兆円)とも推測されています。しかし、Stauffer氏のモチベーションの源泉は、この市場規模ではありません。同氏は、人々が自分自身を健康にできるよう、力づけたいと望んでいます。
”(社会を)変革するゲーム”という考え方への注目は、以前から高まりを見せています。しかしOrpheusは、VRを使ってユーザー自身の健康を高める、という目標に特化した初の企業だと言えます。
エクササイズに限定しないタイトル
同社がまず扱うのは、「RaveRunner」、「Microdose VR」、「SoundSelf」の3本のタイトルです。「RaveRunner」は高負荷のVRゲームです。Stauffer氏自身が減量に使った「Sound Boxing」と似ています。「Microdose VR」は、アート、音楽、ダンスを組み合わせたインタラクティブなヒーリングコンテンツです。そして「SoundSelf」は、瞑想へのVRガイドとなっています。
このように、3つのうちエクササイズゲームは1つだけです。これはOrpheusが単なるフィットネス企業ではなく、エンターテイメントによって人々を健康にする、あらゆる手段を見つけようとしているためです。
Stauffer氏は、「我々は優れたゲームデザインと高い没入感のコンテンツによって、人々が自分自身を健康に出来ることを望んでいます。自身の健康に気をつけることは、とても楽しいことだと考えています」と話しました。
この目標は、Stauffer氏自身のゲーム業界でのハードワークの経験を元に立てられたものです。同氏はゲーム業界で働く人々がストレスにさらされていることを問題視し、同時にそれは他の産業にも共通する課題だと考えました。
VRで「ランナーズハイ」に到達
Orpheusは”自己管理は楽しい”をテーマに掲げ、ワーキングだと思われないようなコンテンツの提供を目指しています。Stauffer氏によれば、問題は多くの人々が自己管理を難しく、時間のかかるものだと考えていること。そしてVRによってこの課題を解決したいとしています。
例えばVRリズムゲーム「Beat Saber」では、時間が経つのも忘れて剣を振るい、激しく動き続けることができます。Stauffer氏はこれが「ランナーズハイ」と言われるもので、「RaveRunner」のようなVRゲームでも同じゾーンに人々を持ってくることが出来ると考えています。
もちろん過去にも、VR以外でも「ダンスダンスレボリューション」など体を動かしてランナーズハイに導くゲームはありました。しかしランナーズハイの境地に至るまでには、VRよりも時間がかかります。Stauffer氏はこの原因を、プレイ環境がVR空間か、TV画面かの違いにあると指摘しています。
データに基づき効果を確認
さらにOrpheusは、単にStauffer氏の個人的な体験に基づいてビジネスを行うわけではありません。同社は外部の研究者と協力して、VRアプリの効果について研究を行っています。例えば開発途中のゲームについて、プレイヤーの身体への影響や、最大消費カロリーといったデータを検証。結果をゲームの設計に反映させる、といったプロセスを踏んでいます。
このようなデータはまた、製品のPRにも役立ちます。
(Orpheusの共同創立者・Chief Creative OfficerのJob Stauffer氏)
但し消費者の中には、VRヘッドセットを装着してトレーニングを行うことに抵抗を持つ人もいます。このことについてStauffer氏は、ジムの設備と何ら違いはないという意見です。「ベルトやプロテクターを装着するのと同じです。使い終わったら汗を拭き取る、それだけです」
ゲームの効果に関する研究の他にも、Orpheusはメンタルヘルスの専門家らと協力し、コンテンツの有効性を高めています。同社の扱うゲームは、今後米国内の病院などでも導入が検討されています。
VRで人々の健康管理をサポートする、という同社のミッションがどのように達成されるのか、期待が集まります。
(参考)Venture Beat