米国のスタートアップMediView XRは、450万ドル(約4.9億円)の資金調達を行いました。マイクロソフトのMRデバイス「HoloLens」などを使った手術向けシステムで、複雑な医療行為を多くの施設で行えることを目指します。
手術のリアルタイムビジュアル化ツール
MediView XRは2017年4月、医師のJohn Black氏により設立されました。同社が手掛けるのは、医療向けの「リアルタイムかつ融合ホログラフィックビジュアル化(Real-Time, Fused Holographic Visualization / RTFHV)」システムです。執刀医はマイクロソフトのHoloLensなどのデバイスを通して、患者の体内における医療器具の位置等を正確に知ることができます。
このシステムについて、Black氏は「我々は、ARを用いてこれまでとは異なる手法で、悪性病変へのナビゲーションを行います」「ARにより、一種のGPSを使って人体の特定の箇所へガイドする、といったような内容です」と説明しました。
癌手術におけるARシステムのメリット
このシステムでは、執刀医は患者の体内の様子をダイレクトに確認、腫瘍を3Dデータでチェックできます。患者の周囲を移動し、腫瘍や臓器等をあらゆる角度から観察したり、表示された3Dデータを拡大・回転することも可能です。またジェスチャーや音声を用いハンズフリーで操作できるため、手術の手を止めずに利用できます。
世界で初めてこのシステムを利用したCleveland Clinicの医師Charles Martin III氏によれば、同システムの画像は「極めてクオリティが高い」とのこと。手術中に3次元画像で腫瘍を確認できることの意義を強調し、ホログラフィックビジュアル化により、医療行為が非常に効率化されると期待しています。
加えて同システムのメリットとして挙げられるのが、より安全な医療現場の実現です。というのは、XRイメージングでは、患者の体内を見るためにX線撮影を必要としないためです。こうして、放射線被曝量を著しく低減できます。
X線の代わりに用いるのが、CTやMRIの画像データ。これに医療器具の位置データを合わせ、手術中の様子を3Dイメージでリアルタイムに再現します。
RTFHVシステムのユニークな特長
またこのRTFHVシステムでは、手術器具の使用についてサポートも行います。医師が器具を手にすると、画面上のツールの先端から光線が発せられます。患者の体に器具を挿入すると光線は、器具がどのように人体と干渉するかのガイドとなります。正しく目的の場所に届いた際に知らせたり、事前に決めたものと異なる動きをした際に警告する機能もあります。
このように、手術計画の段階で細かい器具の使用方法まで確認できる点が、同システムの特長と言えます。
さらにMediView XRの技術の画期的な点は、超音波技術を用い、軟組織のような動き続ける対象物もホログラフィック画像でリアルタイムにトラッキングできることです。従来のシステムでは、骨を始めとする動きのない対象のみトラッキング、ビジュアル化を行っていました。患者の呼吸や動作に伴って動く組織まで追跡可能な点は、RTFHVシステム独特のものです。
実用化への期待
MediView XRは今回調達した資金を、システム開発の推進とFDA(米国市場で医療機器を販売する際の認証)取得に充てる方針です。FDAについては2021年中の取得を予定しています。既に5名の肝腫瘍患者に対してシステムを用いた手術を実施しており、2019年8月にさらに9名の患者で開始したということです。
今後の実用化にあたって、システムの最終的なコストはまだ確定していません。しかしCEOのBlack氏は次のように語り、既存の医療システムに対するアドバンテージに自信を見せています。
当社がこの技術に期待するのは、小規模な医療施設に対して、現在は行えない複雑な医療行為を可能にすることです。小規模な病院のいくつかは、この新しい技術を用いて患者の治療が可能になるでしょう。300万ドルする透視撮影装置を購入するよりも、はるかに安くすみます。
医療現場でのXR活用については、こちらの記事でも紹介しています。
(参考)VentureBeat