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業界動向 2023.02.03

「CES 2023 報告会 ~XR/メタバースの動向を読む~」イベントレポート(後編)

2023年1月5日から8日まで、米国・ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES 2023」。その報告会として、2023年1月19日に「CES 2023 報告会 ~XR/メタバースの動向を読む~」が開催されました。

フリージャーナリストの西田宗千佳氏と株式会社Shiftall(以下「Shiftall」) 代表取締役CEOの岩佐琢磨氏がゲストとして登壇。イベントを主催するMogura VR編集長の久保田瞬が司会を務めました。

第1部では西田氏と岩佐氏が現地の模様をレポート。第2部では三者のパネルディスカッションが行われました。その模様をフリーライター/編集者の高島おしゃむ氏に伝えていただきました。前編・中編・後編の全3回に分けてお届けします。

中編はこちら


(作成:株式会社Mogura、以下同じ)

前編・中編のあらすじ(作成:編集部)

第1部の前半にはフリージャーナリストの西田宗近氏が登壇し、「CES 2023」の出展傾向からみた技術トレンドを概観しました。後半にはShiftallの岩佐氏が登壇し、出展者/参加者から見た会場全体の盛り上がりと、分野ごとの注目エリアについて解説しました。

  • (西田氏)ハードウェア開発の基幹技術が出揃い、先行勢の新製品は同水準。新規勢の参入も続く。レンズ・カメラのほか、モーションキャプチャやボリュメトリックビデオなども普及が進む。透明ディスプレイや自動車センシング技術など、周辺分野も要注目。
  • (岩佐氏)「メタバース」はハイプサイクルで「幻滅期」入りしたと言われるが、会場の盛況をみるに成長は「むしろこれから」。「VR」を冠さないゲームや医療技術(Med Tech)など、多様な新製品を「実体験」できる出展が増えた。

「Metaverse of Things」ってどうなの?

第2部では今回のイベント登壇者3名によるパネルディスカッションが行われました。

久保田瞬(以下、久保田):初見で「なんだなんだ?」と笑ってしまいましたが、「Metaverse of Things(MoT)」についてどう思われますか?

西田宗千佳氏(以下、西田):(今年の出展傾向は)IoT(Internet of Things)など産業用途が多く、単に「メタバース」という言葉を使うとよくわからないので、いろいろなモノにメタバースが関係するという意味で「モノのメタバース(Metaverse of Things」と書いたのだと思います。CTAの真意はわかりませんが、「言葉の意味はわからんがすごい自信だ」というやつなので、この言葉自体をどうこうするわけではないと思います。

岩佐琢磨氏(以下、岩佐):僕なりの解釈ですが、講演を聞く限りでは「現実世界で触ったり操作したり感じたりしたものを、メタバースの中で触ったり、操作したり、感じたりできる」というニュアンスの話でした。ま、それはそうだなと(笑)。「デジタルツイン」に近い文脈で、言葉を少しひねったのだと感じました。

西田:今年のCTAの発表はネットで見られますが、例年にも増してふんわりとしており、情報の抽象度が高かったですね。プレス関係者の中では、2年間のコロナ禍で、メーカーや関係者にヒアリングする力が弱まったからじゃないかなと話しています。(オフライン開催が復活して)今年の情報を得られた来年からは、もう少しマシになると思います。

ハードウェア市場は激変しないが、多様化する

久保田:例年と比べてハードウェア市場は盛り上がるでしょうか?

西田:数は去年より増えると思います。昨年後半以降の盛り上がるポイントを、そのまま引き継いでいますから。『PICO 4』や『Meta Quest Pro』みたいに、新しいデザインになったHMDが増えるでしょうね。そういう意味では、(開発トレンドが)ひと世代変わった感は見えてきました。

ただ、それぞれが持つハードウェアの性能や機能……たとえばパンケーキレンズの特性や画質は、全部違います。スペックだけで見ても、HMDの良さはわかりません。重要なポイントは使ってみないと分からないし、作っている人がどんな設計をしたのかを言葉で読まないと(製品開発の)方向性は見えません。

岩佐:今年のハードウェア動向は、「劇的な進化がない年」だと思っています。これは予測ですが、過去のペースからして、多くの人が今年はQualcomm『Snapdragon XR2』の後継機が出ないのではないかと見ています。ほとんどのメーカーがスタンドアロンの方向を向いており、まともなHMDを作ろうとしても『XR2』しか事実上の選択肢がありません。

その一方で、「裾野が広がる1年」にはなるでしょうね。VR/メタバースの上でいろいろなものを見せるコンテンツが増えています。コンテンツメーカーも参入してくるでしょう。需要も増えて、デバイスのバリエーションも増える年になると思います。

ドル高・不況懸念の影響は?

久保田:デバイス自体の値段が上がる傾向にあります。2月に『PlayStation VR2』が発売されますが、初代と比べて倍ぐらいの価格です。去年の『Meta Quest Pro』もそうでしたが、日本国内では、ローエンドで手が出しやすい価格帯というより、性能・機能がプラスされたものが、しっかりしたお値段で出ていますね。

岩佐:そもそも、日本にいると何もかも高いです。1ドル150円の時代に、アメリカ人にとっての1,000ドルは1,000ドルでしかありませんが、日本人の感覚は15万円です。(価格意識に)1.3~1.5倍ほどの開きがあるところが非常に重たいです。かたや、電子部品を扱うメーカーはコロナ禍で大きな影響を受けました。ものすごいリスクヘッジをしないと、事業を継続できません。(小売価格が)全体的に高止まりになっているのはVRだけではなく、これは世界的な傾向で、もう1年ぐらいは落ち着かないのではないでしょうか。

西田:コンシューマー向けスタンドアロンのVRは、(メーカーが)非常に出しづらくなりましたね。単純にハードウェアの値段が高いだけでなく、ゲーム機と同じようにリスクを背負わないと出せなくなったんです。ハイエンドコンシューマーやBtoBを見ているところは、また別のリスクを抱えています。そうなると、(価格帯は)「少し高いけど……」というラインになってきてしまうのかなと。

2023年後半に向けて、絶対にリセッション(景気後退)が来ます。そうなると大型プロジェクトは大変になるので、「プラットフォームからの収入を考えて利益を薄くしてもいい」という収益モデルの商品は出しづらい。

高画質ARグラスや空間オーディオも

久保田:岩佐さんは「ARグラスは縮小気味だった」と話していましたが、今年は落ち着いていたんですね。

岩佐:AR専用のデバイスは、あまり新しいのはなかったなと見ています。

西田:そうですね、増えてはいないと思います。(ARの語義を)シースルーARまで拡大すれば、プレイヤーが増えたと「言えなくもない」レベルです。我々(業界関係者)が考えるような「ARグラス」が増えたかというと、そうではありません。単なるディスプレイならばもっと出てくると思いますが、そちらはもうそろそろ、「ARグラス」と呼ばなくてもいいのではないかなと。

久保田:昨年の『Meta Quest Pro』発売あたりから、「外の世界を高画質に」という特徴がやたらとフォーカスされてきました。

岩佐:何に使うんでしょうね(笑)。BtoBではたくさん用途があって、建設やインテリアなど、大きめのモノを作る業界では、何も装飾していないオブジェクトにMRで投影した素材を変更するといった用途が求められています。BtoCでは、「超高精細MRはいいね」というユースケースは、今のところあまり見つかっていないと僕は思っています。

西田:オクルージョンや合成のためにビデオパススルーのARを求めるニーズはさほどありませんね。安全性や体験の新しさを求めてパススルーの機能を搭載するのは、トレンドかなと思いますが。

久保田:音関連のデバイスはなかったですか?

西田:音響系のメーカーが、「複数人がいるなかで、自分のいる位置に合わせてステレオサウンドを聴かせる」といったものは出していました。HMDを被っていても、ヘッドフォンを付けずに音声を体験させたいときに有用かなと思いました。

岩佐:デルタ航空が昔やっていて、一部の空港で実装されているようですね。「CES 2020」で話題になった「テクノロジーから遠い業界がこんな活用をしています」といった展示は、一気になくなりました。

西田:その割には、大手メーカーがテクノロジーから離れたふんわり系のブースを作るという(笑)。商品が出しづらくなったので、ふんわり系に移行したのかもしれませんが。

「CES 2024」は行くべき!

今回の話を聞いて、現地に行った方がいいのかなと思っている人も多いと思います。最後に、ゲストのおふたりからメッセージを。

西田:答えはイエスです。予算と時間が許すなら、絶対に行くべきです。「CES」で何かが見つかるというのもポイントですが、(産業文化としての)「アメリカ」に毎年触れておくことは、すごく重要です。市場のトレンドも見えるし、会場でどこに人が集まっているのか、どんな格好をしているのか、どんなカメラを持っているのかを見るだけでも、いろいろなことがわかります。

それは、今のオンラインでは得づらいものです。「CES 2024」がリアルで開催されるなら、自分の頭の中の常識のリフレッシュのために行くべきだ、というのが僕の答えですね。

岩佐:僕も当然「行くべき」だと答えます。ただ、展示会を「観に行くだけ」なら、(参加)コストがあまりにも上がりすぎている印象です。事前の準備やアポイントなどを相当やった上で行くイベントになりつつあります。ただ、もしも僕が明日会社をクビになっても、たぶん自費で行くでしょうね。ここでしか会えない人がいっぱいいるからです。

海外の企業とやりとりをしていると、たいてい日本法人があって、その代表が出てきます。ところが現地に行くと、本社の偉い人が出てきて直接話してくれます。そこで「なんだ、日本法人はそんな面倒くさいことを言ってるのか。俺に言ってこい」と言われて、非常にいいパスが繋がることもあります。

もちろんトレンドを見るのも大事ですが、ビジネスミーティングの場としても重要です。そして何より日本人も結構キーマンが訪れています。(ラスベガスまでの)出張旅費を出してもらえる人はキーパーソンなので、普段ならなかなか会えない人にも会えたりします。ちょっと高いお金を払ってでも、僕は行く価値があるんじゃないかなと思います。

西田:(事前に)アポイントを取ると対応してくれる相手が定まります。現地アポは「ガチャ」ですね。場合によっては「SSR」を引いて、その会社の社長や製品のキーパーソンを引くこともあります。これは現地に行かないと引けません。ぜひチャレンジしてみてください。

久保田:本日はありがとうございました!

(執筆:高島おしゃむ、編集:笠井康平)


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