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開発 2018.08.27

VRアトラクションは“ほぼネットゲーム”。VRコンテンツ開発のハシラスが語る「これからのVR」とは?【CEDEC2018】

2018年8月22日から24日にかけて開催された国内最大のゲーム開発者カンファレンス、CECEC2018。本カンファレンスでは、施設型VRコンテンツの開発を行う株式会社ハシラスの代表・安藤晃弘氏と、CTO・古林克臣氏によるセッション「ハシラスが考えるこれからのVR」が行われました。


(写真左:古林 克臣氏、写真右:安藤晃弘氏 )

これまでのハシラス

セッションの冒頭は、代表の安藤氏が登壇し、ハシラスが開発してきた体験型VR筐体の紹介が行われました。その中でもハシラスのコンテンツ制作の転換点にもなった代表作として、ソロモン・カーペットが挙げられています。ソロモン・カーペットは、2人同時に、絨毯の中はルームスケールVRとして歩き回れると同時に、絨毯自体はVR空間で飛んでいくことで、コンテンツとして迫力のある展開ができるというものです。

また、このソロモン・カーペットと同時に生まれたアイディアが形にしたものが、GOLDRUSH VR(ゴールドラッシュVR)です。5メートル四方の空間の中に4人で乗れるトロッコを配置し、遺跡を探検するVRコンテンツです。現実空間の5メートル四方を繰り返し使うことで、現実以上に広い空間を冒険したという実感を残すことができました。ルーム型(部屋型の体験スペースを使う)やフリーローム型(広い範囲を自由に歩ける)VRは没入感があるものの、空間の使用効率が悪いという点がコンテンツを広く展開する上での欠点となりがちですが、GOLDRUSH VRではこれを解決したものになっています。

ハシラスのこれからのコンテンツ、「オルタランド」

これまでのVRコンテンツにおいて

・大型可動筐体における主観の進化(3DoFから6DoF)
・ハンドコントローラーによるインタラクション
・フリーロームのマルチプレイ

といったトレンドが紹介されました。これまでの経緯を踏まえ、安藤氏はこれらのVRコンテンツの傾向を融合させたもの、つまりフリーロームで「歩いて探索」「ライドで移動」を組み合わせて、現実以上の広さで体験できるマルチプレイゲームが来ると予想を述べました。

そのような未来を見越して現在ハシラスが開発しているのが、「オルタランド」というコンテンツです。「オルタランド」はVRの中でコンテンツを選ぶと、別のVR世界の中に入ることができるというVR遊園地です。

例えば、現実では……

……このように決められた広さの空間です。しかし、体験している人にとっては……

このように、夜道を歩く肝試し体験をしたり、揺れるライドマシンに乗って移動をしたりと、様々な体験をすることが可能となります。

このコンテンツは、

・着脱やチュートリアルに時間がかかる
・常時スタッフの配置が必要
・リッチな体験をさせるにはコストがかかる

といった施設型VRコンテンツの課題を解決するものになるということです。

なおこの「オルタランド」は、今年の東京ゲームショウ(TGS2018)で披露される予定です。

ハシラスの開発環境

さて、このようなVRコンテンツは、どのような環境で開発されているのでしょうか? 続けてハシラスのCTO・古林氏が登壇し、開発環境やソフトウェアについて語りました。

まず、ハシラスの物理的な開発環境の紹介からスタート。検証空間の周りに開発PCを配置しているとのことです。

(オルタランドの開発環境)

ゲームエンジンという意味での開発環境について、ハシラスでは基本的にUnityを採用しています。社内にUnityエンジニアが多いのと同時に、VRM(VR向け3Dアバターファイルフォーマット)などエコシステムの充実や新デバイスの対応が出た時のゲームエンジンの対応がUnityが先行しているという点からです。

ただ、映像制作の現場ではUnreal Engine 4(UE4)が用いられるケースが増えてきており、その映像作品をVRコンテンツに落とし込むというケースではアセットがそのまま利用できるUE4が要求されるケースも発生しそうであり、ゲームエンジンの選定においては“悩ましい判断”とのことです。

Unityを用いたコンテンツ実装については、8月21日に発表された「進撃の巨人」のアトラクションなどを例に、固定アニメーションはTimelineを用いて再生しつつ、インタラクティブなオブジェクトは個々で動かしたり、ネットワーク同期させているとのことです。

マルチプレイVRゲームはネットワークゲーム

ここで古林氏は、これまで開発してきたVRコンテンツの写真を見せ、これらに共通する要素は何かと問いかけました。それは、プレイヤーの側にある(身に着ける)クライアントマシンと、それとは別にあるサーバーマシンの存在。つまり、プレイヤー同士がVR空間で一緒にわいわいするマルチプレイVRゲームは、ネットワークゲームである(ことが多い)ということです。
ネットワークゲームであるということは、クライアント側の設計・開発だけでなくサーバー・クライアント間の通信や同期についての設計・開発も当然求められる訳で、シングルプレイコンテンツの開発よりも実装難度が数倍跳ね上がるとのことでした。

ネットワーク基盤としては、現在は自社で「HNet」というライブラリを開発し使用しており、1000個くらいのオブジェクトも安定して表示できてるそうです。

ソフトウェアとハードウェアは、主にUDPメッセージによる疎結合で連携をするようにしており、ソフトウェア担当チームとハードウェア担当チームとでプロトコルを決め、個別に開発したうえでマージしているとのこと。

ハシラスコンテンツのデバイス

ハシラスのコンテンツにおいて、ヘッドセットディスプレイはほぼHTC VIVEを使用しています。特にIPコンテンツにおいては、きれいに色を出さないとIPホルダーからの監修が通らないなど、グラフィック性能が求められるという事情があるようです。

ハードウェア構成として、GeForce搭載のWindowsPCを背負いハイエンドVRヘッドセットを付けるという組み合わせが意外と長く生き残ると古林氏は予想しているそうですが、スタンドアローン型のハードやインサイドアウト方式のトラッキングに関しての備えをしておく必要もあるとも述べました。

あらためて、VRアトラクションはネットワークゲーム

まとめとして、あらためて古林氏はVRアトラクションはネットゲームであると強調。店舗内のローカルマルチプレイが店舗間の空間共有、コンシューマー展開、そしてVRMMOへといった展開を考えると、ネットワーク・マルチプレイの技術が強く要求されているということです。これは店舗型VRに限らず、隣接領域のバーチャルYouTuber(VTuber)やARクラウドにも言えることであり、大規模スマートフォンゲームやネットワークゲームの開発のノウハウが重要であるとしました。

VR=「ヘッドセット周辺の技術やデバイスによる体感提示の技術」とばかり考えていると間違うのではないか、VR/AR/MRの社会実装においてはクライアントサイドとサーバーサイド両方の技術が必要ではないかと述べ、話をまとめました。

安藤氏が語るハシラスの立ち位置

セッションがひととおり終わり、数分間時間ができたところで再び安藤氏が登壇。

・ハシラスは大型筐体や店舗型VRばっかりやっているというイメージがあるが、継続的にR&D;をしていく上で、今(店舗型VRという)ビジネスが回る場所にいながらどんどん新しい発見をし、VRの先端を常に見ていたいということ。
・現状(Oculus GoやMirage Soloなど)インサイドアウトの一体型VR機器に食指が伸びないのは、それらの機器で表現できるのはこなれた体験であり先端の体験は作れないという点と、ネットワークマルチプレイをやるとなると(検証の結果、現状では)位置関係の同期が困難であるからという理由があること。

と、ハシラスが現在取るポジションや今後についてその想いを述べ、セッションを締めくくりました。

弊社がOculus GoやMirage Soloの波に乗っていなかった理由を人前で話したの初めてだったかも。
最先端の新しい体験を作りたい、IPコンテンツのグラ表現に耐えられるのはやっぱPC、マルチプレーはアウトサイドインがジャスティス、などなど。

— 安藤晃弘 (@tezumashi) 2018年8月22日


(なお、今年度CEDEC AWARDSのゲームデザイン部門では、ハシラスの開発チームもノミネートされていました)

(参考)ハシラスCEDEC 2018 「ハシラスが考えるこれからのVR」


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