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Vision Pro 2023.07.01

空間コンピュータ「Apple Vison Pro」とは? 現時点で分かっている情報まとめ(2023年6月時点)

2023年6月6日、Appleから空間コンピュータ「Apple Vision Pro」が発表され、業界内外ともに、大きな注目を集めています。

しかし、そもそも、こうしたデバイスに馴染みのない人にとっては、「これって結局何なの?」「どうやって使うの?」「どういうところがすごいの?」など、多くの疑問が浮かぶことでしょう。

本記事では、「Apple Vision Pro」について現時点で公開されている情報をまとめてみました。

そもそも「Apple Vision Pro」とは何なのか?

Appleは、「Apple Vision Pro」を「空間コンピュータ」と呼んでいます。同種のデバイスとしては「パススルー機能を搭載したVRヘッドセット」が該当します。MetaのQuest Pro、Quest 3などがその例として挙げられますが、価格帯や性能などは大きく異なります。

発表によると、2024年初旬に米国で、同年後半には「さらに多くの国」で発売される予定とのこと。価格は3,499ドル(約48万円)です。

頭に装着して使うヘッドセット(※)になっています。

※ヘッドセット:頭に装着するゴーグルや眼鏡タイプのディスプレイのことを指します。Meta社から販売されているQuest 2をはじめとして、現在スタンダードになっている多くのVRデバイスは、このタイプです。

デバイスに何かつなげて使うのか?

「Apple Vision Pro」は、外部バッテリーと有線接続しての使用が多くなると思われます。

本体・バッテリーともにUSB Type-Cのコネクタがあり、専用のモバイルバッテリーの持続時間は最大2時間。バッテリーではなく、ACアダプターを使って電源接続した場合には一日通して使えるとのことです。

なお、おそらく内蔵バッテリーもあるとは思われますが、仕様などは公表されていません。

眼鏡をつけたまま使えるのか?

「Apple Vision Pro」は眼鏡をつけたままの装着はできないと発表されています。

ただし専用のアクセサリを使うことで、矯正視力の状態で使えるようになります。アクセサリはZEISS社製のレンズで、磁石によってレンズを本体に装着する形式になると発表されています。

発売時期はApple Vision Proと同時期、販売価格は未定とのことです。

「空間コンピュータ」とは?

Apple Vision Proは、「空間コンピュータ」と呼ばれています。この空間コンピュータというのは、これまでのコンピュータとは異なる全く新しいインターフェースを持つコンピュータとなります。

従来のコンピュータは、ずっと二次元のインターフェースでした。PC、スマホ……なんでも平面の画面(ディスプレイ)を介して、コンピュータとやりとりをするのが当たり前になっています。

この平面のインターフェースに対して、三次元の空間そのものをインターフェースにしてしまうのが空間コンピュータです。見る・聴くのではなく、「体験する」コンピュータとも言えます。

これは従来の技術で言えば、複合現実(いわゆるMR※)に相当します。

※MR:Mixed Realityの略。VR(Virtual Reality)は、デバイスで視界を覆い、立体的な映像を見せる技術。

外形上は既存のVRデバイスと似ていますし、要素技術の点から言っても、スペックの差こそあれ、既存のデバイスと根本的に違っているものではありません。

しかし、コンセプトは大きく異なっていると言うべきでしょう。その意味で、これまでのデバイスと並べて語ることは難しく、VRヘッドセットというよりは「新しいタイプのPC」「身につけるコンピュータ」として理解したほうが、おそらくAppleの意図には沿っているように思われます。

「Apple Vision Pro」はどんな見え方をするのか?

プレゼンでは、Apple Vision Proを被ると、現実の空間にアプリやコンテンツが浮かんでいるように表示される場面がありました。

ここで後景となる現実空間は、ヘッドセットに搭載されたカメラがキャプチャして表示しているものです。つまり、現実の景色が透明のガラス越しに見えているわけではなく、リアルタイムで撮影された映像がディスプレイに表示されている(ビデオシースルー方式(※))ということになります。

※ビデオシースルー方式:ビデオパススルーとも。現実の空間とCGを重ね合わせるディスプレイ方式を指します。この場合、撮影から表示までに遅延が生じるため、より低遅延を実現させたい場合は、光学シースルー方式が選択されることがあります。

なお、ヘッドセット右上についているつまみ(マジッククラウン)で、現実の風景の割合を調節できるとのこと。周囲の景色を完全に消して、コンテンツだけ表示させることもできます。

視野角(FoV)はどうなっているのか?

視野角(※)は、正確な値は公表されていないものの、Appleによれば「約90度」とのことです。
※視野角:ディスプレイが使用者の視界をどれだけカバーしているか示す言葉。ちなみに人間の平均的な視野角は、水平方向に210度、垂直方向に150度とされています。

瞳孔間距離(IPD)はどう調節するのか?

IPD(瞳孔間距離(※))は、マジッククラウンを長押しするだけで自動で調整可能とのことです。

※瞳孔間距離:両眼の瞳孔の距離のこと。人によって顔のかたちや大きさが異なるため、かなりの個人差があると言われています。そのため、VRデバイスを使う際にはIPDを適切に調節することが重要となります。

本当に立体的かつ綺麗に見えるのか?

Appleのプレゼンでは、Vision Proのアプリやコンテンツはかなり自然に、現実の景色に溶け込んだ見え方をしていました。アプリのウィンドウが机や床に影を落としているなど、実際にそこに浮かんでいるかのような表現になっています。

とはいえこれは、あくまでプレゼンのために用意された映像。「本当にここまで綺麗に見えるのか?」と気になる方も多いかと思います。

ディスプレイについては、詳細な仕様は公表されていませんが、Apple公式によると、「2つのmicro OLEDディスプレイに合計2,300万ピクセルを詰め込んでいる」「4Kテレビ以上の解像度」とのこと。

もちろんこれだけのディスプレイでも、実際に被ってみなければどのように見えるかは何とも言えないところがあるのですが、MoguLiveでは現地で体験したジャーナリストの西田宗千佳さんに体験記事を書いてもらっています。いくつか抜粋すると、

「後ろに映っている部屋が『自分が見ている風景』そのもの」
「解像度もしっかりしているし、発色も違和感がない。現実に比べるともちろん、多少色は浅いし解像感(※)も劣るかな……とは思うが、そのくらいだ。」

と語られています。詳細は下記記事をご覧ください。

※解像感:ハードウェアスペック上の解像度と対比して、実際に目にどう見えるかを指す言葉。

「Apple Vision Pro」はどうやって操作するのか?

プレゼンでは、目の前に現れたコンテンツを手で直接操作する場面が多く映っていました。

発表によると、「Apple Vision Pro」はリモコンやコントローラーを使わずに、両手や音声入力、視線での操作が可能とのことです。

公式では、「視線を向けるだけでアプリをブラウズできる」「項目をつまむようにタップして選択したり、手首を上下左右にさっと動かしてスクロールしたり、声で文字を入力することも可能」と述べられています。

ちなみに入力は、OS標準のバーチャルキーボードもあり、既存のMagic KeyboardやMagic Trackpadも設定して使うことができるようです。

Apple Vision Proはどうして手だけで操作できるのか?

ヘッドセットには、ハンドトラッキング用の各種カメラやセンサーが搭載されていると発表されています。これによって、手の動きを感知して、ディスプレイ上に反映させています。

なお、これまで出たVRデバイスにもハンドトラッキング機能は実装されています。Apple Vision Proの特長は、目線と組み合わせて操作するので手を高く上げる必要がないという点でしょう。体験レポによると、ひざの位置で十分反応するとのことです。

ちなみに、公式の開発者用ドキュメントではVision Proで使うハンドジェスチャーの種類について説明がされています。

「Apple Vision Pro」は具体的に何ができるのか?

プレゼンではApple TVのコンテンツを視聴したり、Apple Arcadesのゲームをプレイしたりといった、さまざまなコンテンツを楽しむ様子が発表されていました。MacBookの画面をApple Vision Pro上でディスプレイの外に出して拡大し、操作することまで、できるようです。

写真表示や映画鑑賞、ゲームプレイ、通話、メール……といったパソコンで可能なことは基本的にできると考えてよさそうです。これまでのVRデバイスと同様に、360度動画やゲームなどのVR体験も可能だとされています。

Vision Proで動作するアプリの正確な情報はほとんど明らかにされていませんが、プレゼンでは、KeynoteやPages、Numbersといったアプリが使用される場面が映っており、iCloudと同期できるとのこと。

一部UIに調整が必要なケースはあるかもしれませんが、iOS/iPadOS用のものがそのまま動くと期待して良さそうです。

空間オーディオの搭載

Vision Proには、「空間オーディオ」が採用されています。

ヘッドセット搭載のカメラが、現実の空間にある壁や家具の配置、さらには人の位置までマッピングしたうえで、ユーザーを取り巻くような没入感のあるサウンドを展開できるとのこと。

3Dビデオの撮影

Vision Proの特長のひとつに、3D撮影が可能なことが挙げられるでしょう。

日々の思い出を3D写真にして撮影できるだけでなく、空間オーディオ技術とあわせ、実際の音響まで含めて3Dビデオとして録画可能とのこと。特別な時間を鮮明に振り返ることができそうです。

そのほか、Apple Vision Proでできることについては下記記事で詳細に扱っています。こちらもあわせてご覧ください。

「visionOS」とは何なのか?

Apple Vision Pro専用のOSとして、「visionOS」が発表されました。これは、macOSやiOS、iPadOSの基盤を受け継いだOSで、開発者用にもドキュメントが公開されています。

https://developer.apple.com/visionos/

ちなみにVision Proには、Macbook Proなどに使われている「M2チップ」のほか、専用のチップセットである「R1チップ」を搭載。複数のカメラやセンサー、マイクからの入力を処理して、コンテンツが眼前に現れるかのような感覚を実現しているとのことです。

アプリはどのように開発できるのか?

開発者ドキュメントにも記載されているとおり、開発は「SwiftUI」「RealityKit」「ARKit」などが主です。これらを使うことで、3DコンテンツやVR/ARコンテンツはもちろん、2Dウィンドウから3Dオブジェクトが飛び出てくるような表現も実装可能になるとのこと。

さらに開発者向けには、Reality Composer Proなどの「Vision Pro」専用のツールが提供されるほか、ゲームエンジンとして広く使われているUnityとの連携が発表されています。

現在、開発環境(SDK)はXcodeに配布されています。

「EyeSight」とはどのような機能なのか?

プレゼンでは、ヘッドセットをつけたまま会話する様子がありましたが、デバイスに使用者の両目が表示されています。

しかし、思い出してみてください。さきほど、Vision Proはレンズ越しに現実の景色が見えているわけではない(ビデオパススルー方式のディスプレイ)と説明しました。もしそうだとすると、どうしてユーザーの顔が周囲から見えているのでしょうか。

これは「EyeSight(アイサイト)」と呼ばれる機能で、使う前にスキャンしたデータにもとづいてユーザーの両目を疑似的に表示しているものです。

「EyeSight」によって、誰かが近づくとデバイスがその人を認識して、相手を画面内で見えるようにしてくれます。

逆に、ユーザーが環境に入り込んでいたり、アプリを使用していたりする際は、その状態を周囲にも表示してくれます。

ヘッドセットを装着した状態は、使用者からすると「孤立感」、周囲からすると「違和感」が拭えないものになりがちですが、この機能によってその感覚が緩和され、いままでよりもずっと、ヘッドセットをつけたままスムーズなコミュニケーションができるようになりそうです。

「Persona」とはどのような機能なのか?

プレゼンでは、Vision Proを装着したままFaceTime通話をする場面もありました。通話の参加者を等身大で映して、空間オーディオにより通話相手を実際にその位置から話しかけてきているように再現できるとのことです。

しかし、ヘッドセットを装着してビデオ通話をする場合、自分の顔は相手にどう映るのでしょうか。

もちろんこれは、ヘッドセットをつけている状態で顔を見せても表情がよくわからないから意味がないのでは、という懸念ではありません。そうではなく、そもそもヘッドセットのカメラがいくら優れていたとしても、ユーザーの顔を直接映すことは本来できないはずだからです。

ヘッドセットを装着したままでも自然にビデオ通話できるようにするための機能が「Persona(ペルソナ)」です。

Apple Vision Proでは、距離センサーを活かして自分の顔を「スキャン」して、自分に似せた「Persona」を作ることができます。

PersonaはVision Proの視線認識と連動して、ユーザーの顔の表情だけでなく、身振り手振りまで、機械学習技術でリアルタイムに再現できるとのことです。

これにより、Vision ProユーザーはほかのMacBookやiPhone、iPadユーザーとも自然なかたちで通話することができます。

まとめ:Apple Vision Proはどんなデバイスか?

Apple Vision Proは、空間コンピュータというコンセプトのとおり、写真や映像といったコンテンツを楽しむだけでなく、実生活や仕事で使うことを想定しているように見えます。

価格は3,499ドル(約48万円)と高価であり、日本国内はもちろん国外での発売も半年以上先です。しかし、開発者用のドキュメントを公開したり、2023年夏に「Apple Vision Pro Developer Labs」が東京を含む各地にオープンしたりなど、Vision Pro用のアプリ・コンテンツを開発する人に向けてのサポートは厚い状況です。

そのほか、映像配信サービス「Disney+」との連携も発表されています。詳細はまだ明かされていませんが従来のコンテンツだけでなく、3Dを活用したコンテンツが配信される予定だとされています。これからどんなコンテンツが出てくるのか、期待のデバイスです。

MoguLiveでは今後も、「Apple Vision Pro」に関する最新情報をお届けします。

「Apple Vision Pro」公式サイトはこちら。
https://www.apple.com/apple-vision-pro/


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