ブログメディアMacRumorsは、アップルがドイツのコンピュータービジョン企業SMI(SensoMotoric Instruments)社を買収したと報じました。
6月上旬に開催されたWWDCにてアップルはiOSへのAR機能の搭載とiMac等のVR開発への対応を発表しています。今後どのような展開につながるのか注目が集まります。
AR/VR分野での応用を進めていたSMI社
SMI社は、瞳の動きや瞼の開閉などをトラッキングする視線追跡技術を有しています。その技術の応用として、ARやVR分野に注力し、展開を進めていました。
ARでは、視線を追跡できるARスマートグラスのプロトタイプを発表していました。またVRに関しては、これまでもスマホ向けVRヘッドセットのGear VRやPC向けヘッドセットのHTC Viveに同社のトラッキングデバイスを搭載したプロトタイプを展示会などで披露しています。2016年当時は、プロトタイプはあくまでもサンプルであり、今後はヘッドセットへ組み込むOEMでの展開を考えていると述べていました。
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また、グラフィック技術のNVIDIAとの提携やVR向けの規格であるSteamVRを展開するValveとの提携もこれまで発表されていました。
VRの次世代機能と期待される視線追跡技術
視線追跡は現行のVR技術を大きく進展させ、VRヘッドセットの次世代機に搭載される機能として注目を集めています。その理由は大きく分けて3つあります。
「フォービエイデッド・レンダリング」によりVRコンテンツをより低負荷で
1つはパフォーマンスへの貢献です。「フォービエイデッド・レンダリング」と呼ばれる機能を使用することにより、高解像度で表示する領域をより狭くすることが可能になります。
人間は見ている視界の中心で解像度が最も細かく(1px/50-60 arc-seconds)、輪郭に向かうにつれて解像度は徐々に荒くなっていきます。そのため、視線追跡技術を利用して、視界の中心を高解像度で描画して、そのほかの部分を低解像度で描画する描画手法をフォービエイデッド・レンダリングと呼びます。
この機能により、従来より非常に高負荷になることが通例なVR向けのグラフィック処理が大幅に軽減されることが期待されています。ハイエンドのゲーミングPCで動かしていたリッチなVRコンテンツが一般的なPC、さらには一体型VRヘッドセットやモバイルVRヘッドセットで動作するかもしれません。
SMIはこれまでのデモでもこの「フォービエイデッド・レンダリング」に関するものが多くありました。
SMI社の視線追跡技術を「フォービエイデッド・レンダリング」に応用したデモの体験レポート
目の動きを認識して処理負荷を軽くする「フォービエイデッド・レンダリング」の実力は?
目を使ったより自然なコントロール
視線追跡技術の利用の2点目は、視線を使った操作が可能になるというものです。ARやVRのヘッドセットでは、首を振り、選択したい場所にポインタを合わせて選択といった操作(gaze操作)が多く利用されています。
しかし、人間は物を見るときに首を動かすだけでなく、眼球も動かして見たいものを見ています。より小さい首の動きで自然に見たいものを見ることができるようになります。
また、3点目としては目の動きや開閉には感情が現れるという点が挙げられます。VR内にいる他のプレイヤーのアバターと相対した際に瞬きをしていると人間らしさが増します。
視線追跡技術を巡る業界動向
視線追跡技術は実際に主要なヘッドセットメーカーが買収や開発を進めています。Oculus Riftを開発するOculus社は2016年末に視線追跡技術のThe Eye Tribe社を買収しました。また、同社のチーフ・サイエンティストであるマイケル・エイブラッシュ氏は将来のVRデバイスのあり方を語る際に、必ず「視線追跡の搭載」に言及しています。
また、PC向けヘッドセットHTC Viveに向けてはサードパーティとして中国の7invensum社がアタッチメントデバイス「aGlass」の予約販売を行っているほか、視線追跡技術を有するTobii社が開発者キットの提供を開始しています。
ヘッドセットと視線追跡が一体となったデバイスに関しては、日本に拠点を置くFOVE社が開発者向けのFOVE 0を発売しています。
SMI社はこのような視線追跡をめぐる業界動向の中で中心的な存在となっていただけに、今回のアップルによる買収が、今後どのような形でアップルの製品に組み込まれるのか、期待が高まります。