グーグルが5月に開催される国際情報ディスプレイ学会(SID)にて、高解像度な新型ディスプレイについて何らかの発表を行うことが明らかになりました。次世代・次々世代のVRヘッドセットの解像度は、現行世代を大きく引き離す可能性が高まっています。
グーグルは2017年のSIDで、片目20メガピクセルのディスプレイを大手有機EL(OLED)メーカーと協力して開発していることを発表。このディスプレイは、VR用に現在市販されているディスプレイと比較して10倍以上のピクセル数を実現すると予告されていました。
2018年のSIDでは、LGによるヘッドマウントディスプレイ向けの新型パネルに関する講演が予定されています。講演情報からは、この講演で発表されるディスプレイは、ピクセル数が18メガピクセル、サイズは4.3インチ、画素密度は1443ppi、リフレッシュレートは120Hzを実現するディスプレイであることが明らかになっています。最終的な解像度は不明ですが、有機ELの専門サイトであるOLED Infoによれば、解像度としては5500×3000程度を実現できる性能とされています。
現行のVRヘッドセットを遥かに超えるVRヘッドセットの実現
2018年現在、多くのVRヘッドセットの解像度は片目1K程度の解像度です。2017年末から2018年前半にかけて登場しているWindows MRヘッドセットのOdyssey(サムスン製、国内未発売)や、HTCのVive Proでも、片目の解像度は1440×1600ということを考えると、グーグルとLGのディスプレイはその数倍の解像度のVR体験を実現する可能性があります。
現行世代のVRヘッドセットとの比較
HTC Vive(2016) |
Vive Pro(2018) |
新ディスプレイ |
|
パネル |
AMOLED |
AMOLED |
OLED |
解像度 |
1080×1200×2枚 |
1440×1600×2枚 |
不明 |
サイズ |
3.6インチ |
3.5インチ |
4.3インチ |
画素密度 |
438ppi |
616ppi |
1443ppi |
リフレッシュレート |
90Hz |
90Hz |
120Hz |
高解像度VRを実現するために必要な技術も合わせて開発
ディスプレイが高解像度になったとしても、すぐにVRヘッドセットへの実用化ができるわけではありません。高解像度のディスプレイに描画を行うためには、プロセッサ側で高速な描画処理を行う必要があります。
Oculus RiftやHTC ViveなどのハイエンドなPC向けVRヘッドセットでは、すでに描画処理を行うためのグラフィックボードが必要となっています。また、Gear VRなどのスマートフォンを使うVRヘッドセットや今後登場する一体型VRヘッドセットには、VRの描画に特化したモバイル向けプロセッサが搭載されています。
今回グーグルから発表されることが予想される新型ディスプレイには、従来のVRヘッドセットよりも高解像度かつ高速な描画処理が求められます。数十倍の処理能力と転送量が求められるため、現行世代のプロセッサでそのまま実現することは容易ではなく、一般向けの製品化は非現実的です。
そこで、高解像度なVRの実現のために期待されているのが、フォービエイテッド・レンダリング(中心窩レンダリング)と呼ばれる描画技術です。フォービエイテッド・レンダリングは、視野の中心部を高解像度でレンダリングし、周辺視野は解像度を落として描画することで、描画負荷と転送量を大幅に減らすことができる技術です。フォービエイテッド・レンダリングに関しては、まだ導入したVRヘッドセットはなく、現在各社による開発が進められています。
フォービエイテッド・レンダリングの例(SMI社)。視線の中心を100%とし、周辺になるにつれ、60%、20%と解像度を下げて描画することで処理負荷を軽減する
高解像度のVRの実現のためには、目の動きを捕捉するためのアイトラッキングとフォービエイテッド・レンダリングが欠かせないと考えられています。
高解像度VR実現へ向けた競争の激化
グーグル以外にも、高解像度VRを実現するための技術開発に取り組んでいる企業があります。フィンランドのVarjo社は、フォービエイテッド・レンダリングを活用し、片目で70メガピクセル、両目で20Kの超高解像度を実現するVRヘッドセットを開発中です。
VRヘッドセットメーカーとして知られるOculus社も、2016年の時点で「2021年までに4K×4K(16メガピクセル)が実現するだろう」と発表を行っており、アイトラッキングと合わせて自社内での開発を進めていると推測されます。
現実を見ているのと同等の、“人の眼”レベルのVRは夢物語ではなく、実現する日もそう遠くはありません。
(参考)Road to VR