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活用事例 2018.01.16

新機種Vive Pro開発秘話からVRヘッドセット工場の裏側まで HTCレイモンド・パオ氏インタビュー

ラスベガスで開催されたCES2018。HTCはHTC Vvieの上位機種Vive Proを電撃発表しました。CES本会場にはブースを構えませんでしたが、会場周辺のホテルに設けたブースを時間こそ短かったものの一般解放。Vive Proは海外メディアからも高い評価を得るなど大きな注目を集めました。

Mogura VRはラスベガスにてHTC社のVPでVR戦略の中心人物であるレイモンド・パオ氏にインタビューを行いました。

Vive Proは開発の大部分をエルゴノミクスに費やした

――Vive Proはいつ頃から開発を始めたのでしょうか。

レイモンド:
大体1年くらいです。2016年4月にHTC Viveを発売してから多くのフィードバックをもらってきました。Viveにはスクリーンドア効果(※)がある程度あることも分かっており、指摘をもらっていました。オーディオについても、(Viveの周辺機器である)デラックスオーディオストラップを出してからも、もっと良くできると思っていました。オーディオチームがその改良に取り組んできました。

スクリーンドア効果:ディスプレイに網目模様が見えてしまうこと

特に多くの時間は、(快適に体験するための)エルゴノミクスに費やしてきました。私たちは非常に多くの人にテストを繰り返しました。髪の有無、鼻の高低、アジア人・西洋人……本当にあらゆるパターンを試しました。エルゴノミクスは本当に大事です。

――解像度が上がっても要求するPCスペックが通常版のViveと同じなのは驚きでした。

レイモンド:
理論的には、解像度を上げたので要求スペックを上げなければいけません。それでも、検証を繰り返す中で、多くの人気VRゲームで違いがなかったのです。描画するためのバックエンドの処理で開発者たちがViveの解像度(1080×1200×2)に対する最適化を行っているからと考えられます。現時点でPCの要求性能を上げて、「新しいPCを買う必要がある」、「アップグレードをしなければいけない」などと皆さんにお願いすることは望ましくありません。現行のViveを使っている人はそのままケーブルを抜いて、Vive Proを接続しても同様にプレイすることができます。PCのアップグレードは全く必要ありません。

――ターゲット価格はどれくらいになりそうでしょうか。

レイモンド:
まだ議論を重ねているところです。代理店を通して明らかになると思います。Vive Proはもうまもなくローンチになります。価格も近々決定しなければいけないですね。

――Vive Proはトラッキング用のベースステーション2.0に対応という話がありました。Valveが開発中のKnucklesコントローラーへの対応はいかがでしょうか。

レイモンド:
Knucklesコントローラーはまだ非常に早い設計段階にあると考えています。まだ製品化のスケジュールも見えていませんから、現時点では何も言えないということになります。

ベースステーション2.0 プロトタイプ

――Valve社次第ということですね。

レイモンド:
一緒に動いてはいますが、まだ何かを言うにはかなり早すぎる段階です。

――コントローラーについてレイモンドさんはどう考えていますか。Vive ProではViveの通常コントローラーを使いますね。

レイモンド:
Knucklesコントローラーがあると、コンテンツに対してより直感的な操作ができます。もっと豊富なアクションもできますね。しかし、今のところコンテンツは今のコントローラーを前提にデザインされており、ユーザーはPlayStationやXboxでそれぞれコントローラーが変わらないように今のViveのコントローラーに慣れています。Knucklesコントローラーはより良い没入感の高いコントローラーですが、今のコントローラーも様々なケースに対応した良いコントローラーだと思っています。

HTC Viveコントローラー

Knucklesコントローラー プロトタイプ

VRヘッドセット工場の裏側は?

――現在、Viveのハードウェアのチームにはどれくらいの人がいるのでしょうか。

レイモンド:
ハードウェアチームには200から300人が所属しています。全てのViveはトラッカーも含め、自社の台湾の工場で組み立てています。

――VRヘッドセット工場はどんな感じなのでしょうか。スマートフォンとは違うのでしょうか。

レイモンド:
色々な工程を行うということに変わりはありません。まず、パーツの組み立て工程などのメカニカルな工程があります。製品が異なれば組み立てラインも異なります。これは当たり前のことですね(笑)次にテストの工程があります。テスト工程はスマートフォンとVRヘッドセットでは大いに異なります。VRはルームスケール大のテストルームが必要です。一方、スマートフォンは通信のチェックなどが主になります。SOP(標準作業指示書)も大きく異なっています。

――Viveの在庫が切れたという話はあまり聞かないので生産体制は気になるところです(笑)

レイモンド:
私たちは自分たちで工場を持っているので生産のテンポをコントロールできます。そして、20年間携帯電話を製造してきた私たちにとって、様々な国で製品を販売し、需要に合わせて在庫を持っておくことは難しいことではありません。

――リードタイムはどうなのでしょうか。スマホとは違うものでしょうか。

レイモンド:
組み立てにはそんなに長い時間がかかりません。リードタイムは主に部品の仕入れで生じています。部品を揃えるのが一番時間がかかるんです(笑)部品が揃えばあとはもう組み立てるだけで水が流れるように一気に作業が進んでいきます。1、2日で終わります。

――部品の種類は異なりますよね。

レイモンド:
そうですね。スマートフォンにはプロセッサーが必要です。ディスプレイ、タッチペンなどが付属する場合もありますね。

――そう聞くとVRヘッドセットはよりシンプルなのでしょうか。

レイモンド:
それがそんなことはないんです(笑)ヘッドセットに関しては、Viveには非常に多くのセンサーを埋め込んでいるので、作業をするステーションはスマートフォンよりも多いですね。

中国とグローバル市場の見方とグーグルとの提携の今後について

――モバイル向けとしては、HTCは2017年11月にVive Focusを中国市場向けに発表しました。中国市場とそれ以外で戦略の違いはあるのでしょうか。

レイモンド:
状況によってそうなっているというのが正しいです。私たちは、元から中国とグローバル(それ以外)というように分けて考えているわけではありませんでした。PCに関しては、ViveはSteamのプラットフォームを使っていますが、Steamは中国でサービスを展開することができません。
Focusはモバイルを見据えたVRプラットフォームです。中国にはモバイルで大きなVRプラットフォームが存在せず散在しています。そのためにWaveという独自のプラットフォームを立ち上げました。
グローバル市場はモバイルプラットフォームを展開するにはあまり断片化していません。すでにOculusが2015年からサムスンとともにモバイルのプラットフォームを築いています。2年というのは非常に長い期間で彼らは900以上のアプリを配信しています。Gear VRは、3DoF(※)のヘッドセットですが、すでにユーザーに向けて十分なコンテンツがあります。そして、Gear VR自体も非常にいい製品だということは言っておかなければならないでしょう。ディスプレイの質など、多くの尊敬すべき点があります。

※3DoF:回転のみがVRで反映され、前後上下左右などの動きは反映されない

さらに、グーグルのDaydreamプラットフォームはその1〜2年後に登場しました。250のコンテンツを世界的に展開しています。
中国市場の状況を見て、中国ではプラットフォームを構築し、そのための製品を投入できる状態にあると考えました。より良く、有効なリソースの活用のためです。そのため私たちはFocusを中国に投入し、その他の国には投入しません。

一体型VRヘッドセットVive Focus

――Vive Proは中国でも展開するのですよね。

レイモンド:
アップグレード版のViveとしてVive Proを位置づけていますので、中国でも展開します。私たちは中国市場向けにViveportを展開していますが、Vive Proも対応します。

――Daydreamの話が出ましたが、グーグルとの提携を止めたのはなぜでしょうか。

レイモンド:
今の時点ではグーグルとの提携を止めたわけではありません。実際に、今回のCES2018でも私はグーグルと打ち合わせをしていますし、話を続けてはいます。2017年末に、グーグルとHTCは異なる考えを持っていましたので、Daydreamの一体型ヘッドセットは出さないことになったのです。私たちはまず中国市場に注力したいと思っていました。

――将来、何らかのグーグルと提携したVR/ARデバイスが出る可能性はあるということですね。

レイモンド:
もちろん、門戸を閉ざしたわけではありませんから(笑)ともに良い製品を出せる機会があれば出したいと思っています。

――Vive Focusに関して、6DoF(※)のヘッドセットと3DoFのコントローラーを組み合わせていますよね。自由に動き回れるのに手は動かせなくて完全なプレゼンス(実在感)を保てないのではないかと思いますが、どう考えていますか。

レイモンド:
6DoFのヘッドセットで6DoFのコントローラーというのは常に私達のゴールです。モバイルデバイスでは技術の進歩を待たなければならない部分もあります。6DoFのヘッドセットで3DoFのスティック型コントローラーは技術的にも確立されているものなので、製品化することができています。6DoFコントローラーの技術が成熟すればそちらに移るでしょう。さらに没入感のあるいい体験ができますから。

(※)6DoF:3DoFに対して、前後上下左右などの動きがVRに反映される。

ロケーションベースVRと年齢制限

――VRで盛り上がっている分野の一つにロケーションベースVRがあります。日本にはロケーションベースVR協会が立ち上がり議論を進めています。先日も7歳から13歳までの子供も保護者の同意などを条件にVR体験ができるというガイドラインを発表しました。

レイモンド:
良い取り組みだと思います。VRは新しい分野すぎるため、まだどの年齢が良くてどの年齢が悪いのか、という確固たる理論は存在しません。スマートフォンには全く年齢制限はありませんよね。より安全を重視するのであれば、年齢制限をすることになるでしょう。我々が台北で展開しているVR体験施設VIVELANDもお客さんの大部分は家族です。子どもたちが体験できないと親御さんたちが困ってしまいますからね(笑)
レイモンド:
ロケーションベースVRでは、HTCが作っている『Front Defense』というゲームの家庭配信版『Front Defense: Heros』がありますが、移動方法を中心に大きなアップデートを行いました。VRに最適な移動方法だと自信を持っています。3対3ないし4対4でのプレイもできるようになります。

――それは気になりますね!今回はありがとうございました。


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