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テック 2019.07.17

VR関連デモ続々、触覚研究の最前線を探る「World Haptics Conference 2019」レポート

2019年7月9日から12日にかけて、触覚に関する国際学会「IEEE World Haptics Conference 2019が東京・御茶ノ水で開催されました。触覚に関する基礎研究をはじめ、センシング技術や触覚提示デバイスの開発、ソフトウェアの提案などが取り扱われます。本記事では、この国際学会を概観しつつ、いくつかの研究やデモをピックアップしてお届けします。

採択された論文著者の所属機関、最多はフェイスブック

2019年度のWorld Haptics Conference(WHC)の初日には、篠田裕之教授(東京大学)や鳴海拓志講師(東京大学)などが登壇する「Affective Haptics as a Direct Link to Emotion」といったワークショップや、稲見昌彦教授(東京大学)や山中俊治教授らが登壇するトークイベントが行われました。

午後にはオープニングイベントも行われ、採択された論文数や参加者の内訳が紹介されました。採択された論文著者の所属機関を見ると、フェイスブックがもっとも多く40名弱、次いで東京大学が20名弱という結果に。フェイスブックはFacebook Reality Labsという研究開発組織を持っており、現在はここに元Oculus Reseachチームも統合されています

日本開催のイベントだけあって、日本人が強い存在感を持っています。会場にも多くの日本人研究者・参加者が見られました。

2日目以降、学会は本格スタート

初日のチュートリアルなどを経て、2日目以降は本格的に学会が始まります。特に工学色のある国際学会では、次のようなプログラムが催されます。

・研究発表等を聞く……ステージ上での口頭発表やポスター発表
・デモ体験をする……スポンサー企業の展示、研究開発されたデバイスや体験の展示
・発表者・参加者と交流する……レセプションパーティやコーヒーブレイク

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

研究者と対面で話せる、ポスターによる研究発表

WHC2019では、午前中にステージでの口頭発表が行われました。アワードを受賞した研究は10分間(1日5件程度)、それ以外の研究は3分間(1日35件程度)の発表時間を与えられます。午後にはポスターやデモンストレーションを交えたインタラクティブセッションが行われました。

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(メインホールと口頭発表の様子)

ポスター発表は、研究内容を要約した1枚のポスターの前に研究者が立ち、来場者は好きな研究者のところに行って研究内容についてディスカッションをする時間です。

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(ポスター発表の様子。左図はアワードを受賞したフェイスブックの研究ポスター、AR/VR用のリストバンド型触覚デバイス「Tasbi」。圧迫と振動を用いて触覚提示を行うデバイスであり、ハンズフリーで1日中着けていられるとのこと。左図のようなブースが右図のように35件程度並ぶ)

全体的に見ると、新たな触覚提示デバイス、特にウェアラブルデバイスを開発する研究や、タッチパネルとの触覚インタラクションに関する研究が多い印象でした。

中でも異彩を放っていたのは、Facebook Reality Labsらが行った研究です。親密な関係にある2人において、相手の腕への触り方のみを手がかりに(視覚や言語によるコミュニケーションなく)、相手の感情や意図を判断できるかどうかを調べていました。完全とは言わないまでも、注意喚起や愛情表現、穏やかさの表現を理解できることを示唆しています。このように、デバイス製作に留まらない「人の性質」に関する研究も見られます。

投稿された論文は、後日IEEE Digital Libraryで公開されます。記事執筆現在はまだ公開されていませんが、例えばFacebook Reality Labsが関わった論文のいくつかは、こちらから読むことができます。

またWHC2019で行われた口頭発表の内容は、以下のTogetterにてまとめられています。

https://togetter.com/li/1375693

企業も研究も目白押し、回りきれないほどのデモ

工学系の学会の多くでは、開発したシステムやデバイスを体験できるデモ展示が設けられています。WHC2019においても、研究成果の展示を行う「ハンズオンデモ」、学会のスポンサー企業等が自社製品を展示する「産業部門の展示」、そしてデザイン系の領域を交えたプロダクトや体験展示の新部門「デザインショーケース」等が行われます。

(デモ展示のハイライト動画)

これらのデモは多数展示されており、VR関連に限定しても全てを紹介しきれないほど。以下、デモからいくつかピックアップして紹介します。

ハンズオンデモ:研究に関する展示

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“Wearable Suction Haptic Display with Spatiotemporal Stimulus Distribution on a Finger Pad”
Hikaru Nagano(神戸大), Kazuya Sase(東北学院大), Masashi Konyo(東北大), Satoshi Tadokoro(東北大)

指につけて指先に触覚を提示するデバイスがいくつかみられました。こちらは16本のチューブがそれぞれ空気を吸い上げることで、指先にものが触れた感覚を提示するもの。
1本のチューブに対して4個ずつ、計64個の小さな穴が指先に当てられています。小さな面積の場合、人は皮膚が吸い上げられている場合でも皮膚が押されたように感じてしまう錯覚を利用したシステムです。

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“Pneumatic actuated multi-mode ring-shaped soft haptic actuator for VR/AR application”
Aishwari Talhan, hwangil kim, Seokhee Jeon(韓国;慶熙大)

こちらは指先に触覚を提示するリング型のデバイス。柔らかな素材のリングを空気でリアルタイムに伸縮させ、木の板を触ったザラザラ感、金網を触った時のボコボコ感などを再現します。空気圧による制御ながら、250Hzの振動を提示することもできるそう。

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“ExtickTouch : A Novel Interactive Haptic Device for Getting Contact-Feeling of Virtual Objects”
Keishirou Kataoka(立命館大), Takuya Yamamoto(立命館大), Mai Otsuki(産総研), Fumihisa Shibata(立命館大), Asako Kimura(立命館大)

VR空間のオブジェクトに「触れる」ためのペン型デバイス。VR空間の球体を赤い棒で触ろうとすると、現実空間では赤い棒から白い棒が伸びて机に触れます。これによりユーザは物理的には机を触っているものの、VR空間では球体に触っている感覚を得ることができます。ウェアラブルデバイスによる触力覚提示では、バーチャルオブジェクトに触ろうとしても「突き抜け」てしまう問題が付きまといますが、このデバイスではそうした問題に対する解決法の一つを提示しています。


“Demo for Ultrasound Rendering of Tactile Interaction with Fluids”
Héctor Barreiro, Stephen Sinclair, Miguel Otaduy(スペイン;レイ・ファン・カルロス大)

超音波で空中に触覚提示を行い、煙を触っている感覚を体験できるシステム。写真の右側にある正方形の枠に収まった黒い小さなピースの配列が超音波スピーカーです。これ以外にも、超音波を用いて空中に触覚を提示する研究も複数件見られました。


“Pseudo-Haptic Feedback in a Projected Virtual Hand for Tactile Perception of Textures”
Yushi Sato, Naruki Tanabe, Kohei Morita, Takefumi Hiraki, Parinya Punpongsanon, Haruka Matsukura, Daisuke Iwai, Kosuke Sato(大阪大学)

これはバーチャルハンドを使っている体験者にPseudo Haptics(擬似触覚)を提示する手法の研究です。ユーザは手元のタブレットを指でなぞっているだけですが、バーチャルハンドが凸凹した板の上を通る際に映像をあえて揺らすことで、視覚から擬似触覚を与えようとしているもの。

擬似触覚とは、例えば視覚情報など、触覚以外の情報を使うことで、あたかも触覚が変化したかのように感じる現象です。パソコンの動作が遅くなった時、マウスポインタの動きが鈍ることでマウスが「重い」と感じるのがその一例です。

産業向けの展示&デザインショーケース

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日本メクトロン株式会社は、振動・温度・電気刺激を提示するモジュールを搭載した「3原触グローブ」を展示していました。手前の体験者は空き缶を持っていますが、3原触グローブを介して、奥のスタッフが持っている温かいコーヒー缶の熱を感じることができます。スタッフが缶を振れば、その中で液体が揺れる触感が体験者のグローブに伝わります。右図は鉛筆を指で転がした感触を伝えている様子。

JST(日本科学技術振興機構)のACCELのプロジェクト「触原色に立脚した身体性メディア技術の基盤構築と応用展開」の元、電通大などとの共同研究で生まれたプロダクトです。

こちらは株式会社タイカなどが制作した「HAPTICS OF WONDER -12触αGEL見本帖-」。写真にある通り、12種類の様々な物質の触感を再現したシリコンゲルが並んでいます。例えば上段の左端は鏡餅(表面が乾いて硬くなっている感触)、下段の右端は雪見だいふくや和菓子の求肥のような柔らかさ、その隣は人の唇の触感です。どれも触った瞬間(触覚情報だけで)「なるほど」と納得してしまう説得力がありました。

イクシー株式会社は、腕につけるVR向け力触覚提示デバイス「EXOS Wrist DK2」の展示。手首の前後・左右の二方向へ力を加えることで、バーチャル空間で使用した銃の反動や、バーチャル空間で把持したキューブの重さなどを再現することができます。

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展示の新部門として設置された「デザインショーケース」では、SIGGRAPH2019でも発表されるウェアラブル尻尾デバイス「Arque」(動画)(写真左)や、PlayStation VRのヒット作「Rez Infinite」の「シナスタジアスーツ」(写真右)などが展示されていました。

休憩時間も交流できる、夜はパーティも

最後に、発表を聞いたり展示を見たりする以外の学会の楽しみを紹介します。国際学会の参加費は数万円と比較的高額である場合が多いですが、一方でコーヒーブレイクやパーティなどが付いています。場合によっては朝食等が提供されることも。

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(二日目夜に行われたレセプションパーティの様子)

二日目の夜にはレセプションパーティが行われ、参加者同士が交流を深めていました。また初日の夜は東京大学の研究室を見学できるテクニカルツアーが、三日目の夜は明治記念館に移動してバンケットが行われました。

こうした交流イベントはもちろん、学会会場を歩いていると第一線で活躍している研究者に多く出会うことができます。

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会場内で見かけたGeneral Chair(総責任者)の御二方。電気通信大学の梶本裕之教授(研究室)と、東京大学の篠田裕之教授(研究室)。

学会に参加するメリット

以上で見たように、最新研究の発表を聞く、目の前で動いているデモを体験する、参加者と交流するなど、学会には様々なプログラムが用意されています。

発表された論文はインターネットを通じて読むことができる場合も多いですが、現地に行って網羅的に発表を見聞きすることで、研究分野の「流行り」や全体の課題意識が見えてきたり、分野における発想の引き出しが増えやすくなったりします。

VRに強く関係する国際学会には、例えば次のようなものがあります。VR専門ではIEEE VR(次回は2020年3月に米国で開催予定)、AR/MRを専門的に扱うISMAR(2019年10月に中国で開催予定)。他にも人とコンピュータの関わりを広く扱っているCHIUIST、またCGやインタラクティブ技術を扱うSIGGRAPH(2019年7月末に米国で開催予定)などでも多くのVRに関する研究が発表されています。

さらに国内学会でも、VR学会全国大会が2019年9月に東京大学で行われる予定です。本年度のVR学会全国大会は、このWHC2019のようにポスター発表に重点を置いた形式になるとのこと。こうした最新動向をチェックするために、足を運んでみてもよいかもしれません。


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