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テック 2016.11.25

【VRDC2016】VR人狼ゲームに学ぶ“ソーシャルVRづくりの秘訣”

現地時間2016年11月2日・3日に、アメリカはサンフランシスコにて「VRDC 2016」が行われました。

会場では世界各地のVR開発者が集い、企業によるデモの展示、パーティによる開発者・企業間の交流、そして開発に関する知見を共有するセッションが行われました。セッションの数は、2日間で40以上。

本記事ではその中で、『Social Animals: Werewolves Within and the Virtual Rabletop』と題されたセッションのレポートをお送りします。

登壇したのはUbisoftのスタジオ「Red Storm Entertainment」からジャスティン・アキッリ氏。内容は、UbiSoftがリリースするVR人狼ゲーム『Werewolves Within』と、ソーシャルプレゼンス(VRの中で「人と一緒にいる」という感じ)についてです。

なお、全セッションの動画は、こちらにて公開されています。(すべて英語)

人狼VRとは

『Werewolves Within』(公式サイト)と題されたこのゲームは、VR空間にて、オンラインマルチプレイで人狼ゲームを行うというもの。フランスの大手ゲームスタジオUbiSoftが手掛ける初のVRソーシャルゲームになります。

人狼とは、会話と身振りだけで行われる心理戦・情報戦的なテーブルゲーム。人狼役の人はバレないように市民のフリをしながら、市民の命を奪っていく一方、市民役の人は、人の発言・挙動だけを頼りに誰が人狼なのかを話し合いをもとに見つけていきます。

同作品は2016年春に、あらゆるプラットフォームに向けて11月8日に配信される予定と発表されましたが、発売は現在12月6日に延期とされています。

本記事では、講演で述べられた『Werewolves Within』を開発するにあたって考えたこと、気が付いたこと、そしてユーザーに試遊してもらう中で得た知見について、以下の流れで解説していきます。

1.ソーシャルVRとは何か

2.ソーシャルVRのデザイン

3.ユーザーの反応から得られた知見

1.ソーシャルVRとは何か

まずアキッリ氏はソーシャルVRについて、2つの文章を引用しました。

ひとつめはアメリカの科学技術雑誌「ポピュラーサイエンンス」による「VRは世界中の人々を繋ぎ、現実で一緒にいるのとまったく同じように、ひとつのデジタル世界を共有させることができる」というもの。

そしてもうひとつは、Oculusのチーフサイエンティストであるマイケル・エイブラッシュの「消費者向けVRは、人とコンピュータ・情報の関係を変容させる」、「私は、VRはかつてないソーシャルメディアになるだろうと予想している」などの発言。

アキッリ氏はこれらの発言に触れた後、「ソーシャルVRとは、他者と一緒にいることでプレゼンス(自分はまさにそこにいる、という感覚)が高まるバーチャルな世界のこと」と定義しました。

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2.ソーシャルVRのデザイン

続いてアキッリ氏は、『Werewolves Within』を例として、ソーシャルVRを開発していく上でポイントになりそうな事項を解説していきました。

会話を誘発するゲーム性

人狼ゲームでは、個々のプレイヤーはそれぞれ断片的な情報しか持っていません。人狼を見つけるには、あるいは市民を上手にだますには、情報の共有・情報の操作がカギとなってきます。

知らない人が突然同じ場所に集まって、いきなり会話を盛り上げるのはなかなかに難しいことですが、「人狼を見つけ出す」などという共通の目的、そのために「情報を皆で出し合わなければいけない」という状況が会話を誘発し、気付けば自然と話をするようになっているのです。

キャンプファイヤーを囲んでのゲームシーン。プロトタイプのテストプレイを行った際には、ゲーム終了後も(VRで)輪になったまま話し続ける様子も見られたそうです。

お馴染みの人間的なふるまい

『Werewolves Within』では、顔を寄せて隣の人とひそひそ話をする、立ち上がって喋る、相手を指さすなど、HMDやコントローラーを使って誰でも直感的にできる動作が実装されています。馴染みのある人間的な動作は、操作を覚える必要もなく、かつ見えているアバターが「本当に人間なのだ」と感じるのに一役買っています。

ひそひそ話は「プライベートチャット」という機能で、隣の人に向かって、他のプレイヤーには聞かれないように話しかけることができます。また立ち上がると「モノローグ」機能が起動し、他のプレイヤーの発言をすべて遮って、少しの間だけ全員に自分の言葉を聞かせることができます

目線と口の動き

目線は、言葉を用いないコミュニケーションの手段として重要なものです。この『Werewolves Within』では、プレイヤーの向いている方向をもとに、自動で目線が制御(描画)されるようになっています。またマイクから入力される音声をもとに、アバターの口元は人が喋っているように動きます。

目線と口の動きを実装すると、「誰が喋っているのか・相手がどこを見ているのか(そして自分がどこを見ればいいか)」が明確になり、より人の注意を引き付けやすくなり、コミュニケーションがより自然なものになります。

ジェスチャーのポジション

アキッリ氏は人狼ジェスチャーを、3つのエリアに分類しました。感情表現は顔、指さしや腕を広げるなどのメジャージェスチャーは図の赤いエリア、その他の何気ない手の動きなどは黄色いエリアで行うというもの。メジャージェスチャーを用いることで、キャラクターはより活き活きしているように見えるとのこと。

円陣という並び方

この人狼ゲームでは、プレイヤーはキャンプファイヤーを囲む形、つまり円形で並びます。円形の並びは、「リーダーがいない、誰もが平等」という特徴があります。

人狼において全員に等しい条件を与えるという意味でも、席のシャッフル(毎回自動で行われる)と相性が良いという点でも、円形は適切な並びであると言えます。

また隣の人との間隔について、体を傾けたり、ジェスチャーをしても問題ない程度にはゆとりがある方が好ましいとのこと。

アバターのデザイン

『Werewolves Within』で用いられているアバターは、ジェスチャー・目線・表情・口の動きなどを介したコミュニケーションが重要となることを考え、現実の人間より顔や手、目や口が大きめに設定されています。さらに、手と表情をアバターに追加するだけで、ソーシャルプレゼンス(人と一緒にいる感じ)が一段と高まることも指摘されました。

それぞれのキャラクターは、お互いを識別できるように顔のつくりや装飾品などで差別化されています。

アバターを使うことで、我々は現実の身体的特徴をすべてなくし、VR空間で新しい身体を生みだすことができます。物理的な制約をすべて無くことによって、現実世界で人と会うよりも便利、あるいは快適だと感じる場合もあるのです。

3.ユーザーテストから得たデータ

アバターの評価

ユーザーによるアバターの評価はほぼ全員がスコアが(最大5で)4以上と、好成績でした。

アキッリ氏は「お互いの名前を知らないもの同士が集まると、プレイヤーたちはアバターの特徴で互いを認識していた」と報告しています。つまり、「おい、眼鏡(をかけている人)」、「金髪の人」といったアバターの特徴が、そのまま名前代わりに利用されていたのです。

またデジタルマスクは

ゲームの評価

ゲームの評価は、遊ぶ回数を増やすほど高まるということが分かりました。

下の図では、水色の棒グラフは3回プレイした後の評価、赤い棒グラフは6回プレイした後の評価です。人狼、市民、狂人などの役割についてより深く理解し、それぞれの勝利したときの感覚が強くなるほど、ゲームが楽しく感じられるようです。

ひそひそ話の使用率

他のプレイヤーに聞かれずに隣の人に話すことのできる「プライベートチャット」という機能はどれくらい使用されたのでしょうか。

テストプレイでは、アメリカ人が平均より多く内緒話をしたのに対し、フランス人はほとんどその機能を使わないという結果が得られました。これは何を意味しているのか、講演では問いかけのみ行われました。あらゆる行動データを収集できるソーシャルVRでは、収集できるデータも新しいものが集まってきます。

ゲームの機能の評価

感情表現(表情や手を使ったジェスチャーなど)、モノローグ(少しの間全員の話をさえぎって自分の話を聞かせることができる)、内緒話の3要素について、それは楽しいか、そして便利かというアンケートを取りました。

モノローグと内緒話に関しては「楽しいかつ便利だ」と答える人が多かった一方、感情表現については「楽しいが戦略としては使わない」(現状の実装クオリティでは使えない)といった人も見られました。内緒話やモノローグは、ゲームにとって便利なだけでなく、それ自体を楽しいと感じる人が多いことも特徴的です。

感情表現の評価

感情表現の中では、取り分け「指さし」を楽しい・便利だと感じる人が多かったようです。単純な感情表現より、それを通して情報や指示を他人に与える感情表現(たとえば動作を通して自分は誰が怪しいと考えているかを示す、など)は、楽しさ・便利さともに評価されていました。

『Werewolves Within』はOculus Touchの発売日12月6日にリリース予定です。

またUbiSoftはこれ以外にさまざまなVRゲームを配信予定です。人気SFシリーズ「Star Trek」の登場人物になる『Star Trek: Bridge Crew』は2016年11月26日、ワシになってパリを飛び回る『Eagle Flight』はOculus RiftとPSVR向けに既に配信中です。


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