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医療・福祉 2019.01.18

CESで存在感を高めるデジタル・ヘルス、VRによる医療の再定義 – 起業家医師から見た医療×VRのいま

医療向けAR/VRは米国を中心に導入が進んでおり、活用範囲の規模と質の両面において進化を続けています。外科医等のトレーニング、手術のシミュレーション、リハビリ、疼痛や不安の軽減など、領域は拡大。AIとの組み合わせで医療機器として承認を得るなど、治療方法としての価値も高まっています。

本記事では医療向けAR/VRの今を、起業家医師の視点で切り取っていきます。

VRが医療を再定義する?

「手術、薬、医療処置はどんなに大きいストレスになろうと、必要であれば受けなければない」というのが医療機関受診の常識でした。しかし、ここ2~3年でVRが鎮痛薬や抗不安薬の代替として活用される事例が増えてきました。このレポートでは、「従来の医療の常識を再定義する」VRの可能性を開いたスタートアップ企業3社を取り上げています。

IrisVisionhttps://irisvision.com/)……黄斑変性や視神経損傷による弱視をVRで補強することで、患者の「見える」を実現するサービスを展開。

Floreohttps://floreotech.com/)……自閉症のソーシャルスキル・トレーニング向けツールとしてVRを活用。

Virtually Betterhttp://www.virtuallybetter.com/)……認知行動療法専門の心理士向けに、暴露療法のVRを提供。


(画像:弱視をVRで補強する。IrisVisionのYouTubeより引用)

治療手段としてのVRに期待が高まることは素晴らしいと思います。一方で「VRが従来の手段に取って変わる」「侵襲性(手術や医療処置で人体を切開する、薬剤を投与するといった、生体の恒常性を乱す外部刺激)が低いという理由でVRを常に優先するべき」といった極端なイメージを持つことは危険です。

筆者は、起業家医師として、

①AR VRが治療の選択肢の一つとして確立する
②医師をはじめとする医療提供側が、医療AR VRを含めた全ての治療法を十分に理解する
③全ての選択肢から個々人に最適な治療を組み合わせる

という医療を牽引していきたいと考えています。

(参考:DZone、2019年1月18日時点)

在宅医療を牽引する、遠隔医療用VRプラットフォーム

VRHealthAARP(American Association of Retired Persons、アメリカ退職者協会)の協力の下、開発した遠隔医療VRサービスに関するレポートです。患者がリアルタイムでデータを提供し、患者自身もデータにアクセスでき、医師や介護を担う家族はデータをモニタリング可能、というものです。アプリには脳の実行機能や記憶力、認知能力を刺激するプログラムも含まれています。

(画像:VRHealth公式Webサイトより)

患者本人に加えて医師等の医療提供者、そして介護を担う家族がリアルタイムなデータとデータに対するフィードバックを共有できる枠組みは、医療サービスの消費者(患者本人および家族)が能動的に医療に関わることを大きく後押しするでしょう。

AARPは1958年に設立され、メディケア(65歳以上を対象とする医療保険)の創設を牽引するなど、高齢者のQOL向上に実績と歴史を持つ組織です。遠隔医療用VRプラットフォームはAARPからの支援もあり、高齢者の在宅医療・介護の質を高め、普及率を高めるアクセルとなる可能性があると感じます。

(参考:mobihealthnews、2019年1月18日時点)

CESで存在感を高める、デジタル・ヘルス

1月に開催された世界最大規模のエレクトロニクス展示会「CES 2019」の 「医療における創造的破壊イノベーション」会議に関するレポートです。消費者技術協会(the Consumer Technology Association, CTA)による、デジタル・ヘルスケアのトレンドに関する発表によれば、注目すべき製品・サービスとして取り上げられたのは、

①デジタル治療薬
②AIと自動化
③AR/VR
④モビリティ
⑤遠隔患者モニタリング

この5つ。いずれもCES2019を代表する製品・サービスでした。CTAの調査によると、高齢者の54%が自分の健康管理に技術を使用すると回答しており、高齢者は技術の活用に前向きなようです。また、複数のデジタル・ヘルスケアに既に馴染みがあると答えており、そのうちの32%が緊急対応ソリューションに「精通している」と回答しています。高齢者の技術活用に対する前向きな姿勢は、医療AR/VR等のデジタル・ヘルスケアがもたらすメリットが具体的かつ明確になり、導入することに対する高齢者側の納得感と期待感を示していると感じます。「これは、使える!」という実感を背景とした高評価でしょう。

次に、「医療における創造的破壊イノベーション」会議が、CES史上初めて医師生涯教育(Continuing Medical Education ,CME)の単位取得対象になったという事実にも触れるべきでしょう。アメリカでは医師が臨床に携わるには州への登録が必要となっており、この登録更新にはCMEを受講して単位を取得する必要があります。CESで初となるCMEとして認証される会議が生まれたことは、医療提供側に対する「デジタル・ヘルスは、今後の医療で確実に活用されていく。熟知し活用せよ」という強いメッセージであると感じます。また、主に消費者向けのエレクトロニクスを扱うCESから新たな治療の選択肢やデジタル・ヘルスが発信されることの意義も大きい、と感じます。

つまり、これらの事象は治療という領域が医師等の医療提供側主体で決定される状況から、医療サービス消費者側(患者)の意向をより取り入れた方向へ変化していくという、今後の医療を示しているように思われるのです。「精神疾患、慢性疾患、オピオイド依存症などの問題に対処するための技術が次々と登場し、FDA認証を取得する製品も増える中、デジタル・ヘルスは今やCESの重要トピックである」というコメントからも、デジタル・ヘルス普及の要としてのCESの役割に期待が膨らみます。

(参考:TWICE、2019年1月18日時点)


BiPSEEは、ARとVRを活用し、子どもの医療の現場を豊かで楽しいものに変えていきたいと考えています。BiPSEEの視覚に対する安全性の配慮については、「BiPSEE安全性への配慮」をご参照ください。
 


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