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業界動向 2018.06.14

【レポート】世界展開を見据える台湾のVR/AR/MRスタートアップ(前編)

VR/AR/MR産業は2022年までに10兆円市場になるとも予測されており、世界的に年々拡大しています。各国の事情を見ると、その規模と拡大の方法はさまざまです。現在は欧米主導でハードウェアやプラットフォームが登場していますが、2022年には市場規模の半分がアジア圏になるとの予測もあり、アジア各国の動向に注目したいところです。

今回、前後編2回に分けて取り上げるのは台湾のVR/AR/MR事情です。6月5日から台湾・台北で開催された展示会COMPUTEX 2018と同時開催されたスタートアップの展示会Innovexでは、入り口そばに「XR EXPRESS TW」という大きなパビリオンが出現。そこでは台湾にゆかりのある15のスタートアップが展示を行い、終日賑わっていました。

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前編ではこの「XR EXPRESS TW」を中心にCOMPUTEXとInnovexでのスタートアップの展示を紹介します。

後編はこちら

VR/ARの展示がほとんどないCOMPUTEX

台湾といえば、ViveでおなじみのHTCやStarVRへの投資やMRヘッドセットを販売しているAcer、VR用のバックパック型PCを販売しているMSI、Zotacなど世界に知られるハードウェアメーカーのイメージがあります。

ハードウェアメーカーを中心に大きめの企業が集まるのはCOMPUTEXの展示会場ですが、残念ながらVR/ARの展示は数少なく、その大半をゲーミングPC関連の展示が占めていました(HTCは未出展)。唯一台湾メーカーで新製品の展示を行っていたのはPCメーカーのZotacです。2016年に発売したバックパックPC「VR GO」の次世代機「VR GO 2.0」を展示していました。

COMPUTEXでVR/ARの展示がほとんど見られなかったことに対して、スタートアップの展示会Innovexでは、展示が多く見られました。


フランスからはCES等にも出展している触覚デバイスの「GO TOUCH VR」が出展

多くの人が行き交うXR Express TWパビリオン

Innnovexで特に存在感を発揮していたのがXR(VR/AR/MRの総称)のスタートアップが集まっていた「XR EXPRESS TW」パビリオンです。

このブースは台湾政府内でイノベーションを進める国家発展委員会の支援を受けているアクセラレーターDIGI SPACEが運営。政府の支援を受けているとはいえブースに堅苦しさは一切なく、台湾にゆかりのあるスタートアップ15社が展示を行っていました。15社の内訳は以下の通り。

台湾に本拠地を置くスタートアップ:13社
(※うち桃園市にあるXRのインキュベーション施設・安東青創基地から3社、Taiwan XR Demo Dayの勝者5社、招待が5社)
シリコンバレー等で台湾人が立ち上げたスタートアップ:2社

空中にサインを書いてVRで簡単決済を可能「AirSig」

最初に紹介するのは「AirSig」です。こちらはコンテンツそのものではなく、VRヘッドセットを装着中に手やコントローラーの動きから3Dジェスチャを認識して入力を可能にするというもの。

この「Airsig」では、リモコンの軌跡からジェスチャを推測し、入力を行います。この技術では、「Tの字を書いたら雷が落ちる」など操作を拡張するものとしても使えます。

最も印象的だったのは、「決済」との連動。VR内で購入をする際に、現実の手元が見えない状態でヘッドセットをつけたままで個人認証を行うために、事前に記憶しておいた「コントローラーの動き」を使って認証を行うというもの。いわゆる電子サインのように記された軌跡で判定を行うのではなく、各個人によって異なるシンプルな「動き」そのものの情報を使うというもの。

Oculus TouchやHTC Viveのハンドコントローラー、一体型VRヘッドセットOcuus GoやGear VRなどのリモコン型コントローラー、Leap Motiionなどのセンサーデバイスにも対応しています。

ベトナムに開発拠点を持ち70名以上が働くInnoviz社

VR/AR/MRのビジネス向けソリューションを提供するInnovizは、不動産や建築、医療などの各領域に対してオーダーメイドで産業用のコンテンツ制作を行っています。

最大の特長はその規模で、開発拠点のベトナムにいる開発チームを合わせるとすでに70名ほどのチームでHTC ViveやHoloLens、ARKitなど様々なデバイス/プラットフォームに向けてコンテンツの制作を行っています。UnityとUnreal Engine 4の両エンジンに対応し、グラフィッククオリティの高いコンテンツを実現していました。

※イスラエルのLiDARメーカー「Innoviz Technologies」とは別会社

フォークリフトの昇降をトレーニング「Pumpkin Studio」

同じく産業系の展示をしていたのが、VRシミュレーション/トレーニングシステムに主眼を置く「Pumpkin Studio」です。レースゲーム向けのハンドルコントローラーを使い、実際にハンドルを動かして、ペダルを踏みながらフォークリフトの訓練を行うというもの。すでにクライアントからの発注も順調ということでシミュレーターとしてサービス化を考えている、とのことでした。

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空間表示技術と位置ゲーを組み合わせた「Aligala」

GranDen社は、実空間に3Dモデルを表示しているかのように見せるARゲーム「Aligala」を展示していました。スマートフォンとこのデバイスを連動させるゲームの展開を計画しているとのこと。店舗などの特定のポイントにデバイスを設置し、ゲームのユーザーが近づくとキャラクターが現実空間に表示されてイベントが発生。展示されていたのは、Leap Motionで手の動きを読み取ってキャラクターとじゃんけん対決をするというものでした。

スマートフォンでキャラクターをスワイプするとそのままキャラクターが目の前に表示されるという「スマートフォンから飛び出すキャラクター」という発想は興味深いものでした。今後は店舗等への拡大と装置の小型化を進めていくとのこと。

モデルと操作をクロスプラットフォームに簡単に組み込む「VERA」

シリコンバレーに拠点を構えるConstruct Studioは、「VERA」と呼ばれるプラグインを展示していました。

ゲームなどをVRで制作する際に、開発者は各デバイス/プラットフォーム向けに操作方法などの設定をしなおす必要があります。たとえば、机の上にある缶を「掴む」という動作を考えてみても、HTC Viveでは手を伸ばしてコントローラーの「トリガーボタンを引く」ことで掴むことができますが、VRではなくiPadの画面上で操作する場合は「タップ」して掴むことになります。PCで操作している場合はマウスとキーボードで「掴む」ことになるでしょう。

「VERA」では、こうした各デバイス/プラットフォーム向けに特定の動作を3Dモデルに設定してしまう(テンプレートを作る)ことで一つ一つのプラットフォームに向けて複数パターンの設定を組み込んでいくプロセスの短縮を狙っています。ワークフローは200分から3分に短縮できるとのこと。VR/AR/PC/ゲーム機/モバイルといった各種プラットフォームに対応し、3DモデリングツールのMaya、ゲームエンジンのUnityに対応しています。

偏らない展示と成長の兆し

今回の15社のラインナップを見ていると、まずはVR/AR/MRに広範な範囲で取り組んでいるという印象があります。VRゲームに取り組んでいる会社は2,3社ありましたが、教育、治療といった応用領域、実写の360度生放送プラットフォーム構築、Unreal Engine 4向けのプラグイン開発などのミドルウェア/プラットフォーム領域に取り組んでいる企業が出展していました。

今回のパビリオン出展は初の試みです。台湾の有力なスタートアップの情報を発信し、世界で渡り合えるレベルに引き上げるために今回の「XR EXPRESS TW」は政府が支援する形で企画されました。

後編では、このパビリオンを企画したDIGI SPACEと台湾のXR業界組織TAVARを中心にこのパビリオンの狙いと台湾におけるVR/AR/MRスタートアップ育成のためのエコシステムを紹介します。


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