カナダで開催された講演会「TEDカンファレンス」にて、イベント史上初となる試みが行われました。講演者の傍らに、本人の動きと表情をリアルに表現するアバターが映し出されたのです。
講演者の動きと表情を忠実に再現
講演者は、ハリウッドのスタジオ、Digital Domain(デジタル・ドメイン)でソフトウェア研究開発部門のトップを務めるDoug Roble氏。およそ12分間のスピーチの間、DigiDougと呼ばれる同氏のアバターは、Roble氏の動きや表情全てをリアルタイムで忠実に再現しました。
講演のテーマは、実物そっくりのデジタルヒューマン開発です。「この15年間、我々は本物のように見える人間や生き物を映画の中で表現してきました(中略)しかしそれは本当に、本当に難しいものでした」Roble氏はこう述べた上で、近年の技術進歩によりリアルなデジタルヒューマンが可能になってきたことを説明します。
「しかし今は変わりました。過去5年間でコンピューターとビデオカードの処理速度は非常に速くなりました。そして機械学習、ディープラーニングといった手法も誕生しています」
「実際、これが我々のゴールです。もしDigiDougと一対一で会話すれば、そのリアリティから私が嘘をついていないことが分かるでしょう」
バーチャルヒューマンの作成手法
DigiDougの作成に当たり、Roble氏は自身の特徴を南カリフォルニア大学のVision and Graphics Labで記録。様々な光の状態のもとで、多数のカメラで表情を撮影しました。
ステージ上では、XsensのモーションキャプチャースーツとManus VRのグローブを着用し、DigiDougの動きを操作しました。同時に、頭に装着したFox VFX Labのカメラが表情を捕えます。このデータとデジタル・ドメインのアニメーションシステムを組み合わせて、豊かな感情表現を生み出します。
好きな姿でビデオ会議に
Roble氏によれば、デジタルヒューマンはVRを始めとする多くのフォーマットで動作が可能です。「DigiDougとVR内でコミュニケーションを取ることができます。それはびっくりするような完成度で、遠く離れていても同じ部屋で会話しているように感じるほどです。ビデオ会議で、自分を見せたい姿で映し出すことも可能です。これはとても良いメイクアップと言えます(中略)デジタルヒューマンを使うビデオ会議の中では、年を取ることがありませんから」
またRoble氏は、デジタルヒューマン技術のフレキシブルさも実演で説明しました。DigiDougをおとぎ話のキャラクターと交換。新たなアバターも、DigiDougと同じように豊かな表情を見せることを示したのです。
誰でも動画を細工できる懸念
このようにデジタルヒューマン技術の有効性をプレゼンしてきた上で、Roble氏はスピーチの締めくくりとして警鐘を鳴らしました。
「私は長い間、視覚効果についての研究を行ってきました。そのため、一手間かければ誰でもどのようにでも細工できると知っています」「この技術により、動画の操作が簡単に、誰にでもできるようになってしまいます。ちょうどPhotoshopで画像をいじれるように」
同氏が懸念するのは、人を騙す目的で、ある人物と同じ外見や声を作り出そうとするdeepfake(ディープフェイク)です。
「我々は今、非常にリアルなデジタルヒューマンとのコミュニケーションが可能になるターニングポイントにいます。その相手は実際の人間に操作されることも、機械に操作されることもあります。全ての新たな技術に言えるように、(デジタルヒューマン技術も)対処すべき重大かつ現実的な懸念点を持っています。しかし私は、SFでしか見たことのなかった物を現実化できることに、とてもワクワクしています」
実物にそっくりのアバター技術については、フェイスブックも取組を公表しています。また最近では実際の人間と見分けがつかないほどリアルなバーチャルインフルエンサーが活躍し、注目を集めています。
(参考)VRScout
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